やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第146話


「あでで……」
「睦月、大丈夫か?」
「ん、何とか……」

いきなり出てきて妹、とか言われても正直頭が追い付かない。
かと言って、敵として討てるのかと言われると……妹という認識が頭にちらつく。
朋美や大輝にこいつを何とかしてもらうことも一瞬考えたが、それに関しては望みはないと言っていいだろう。

ソールに関しては流れが完全に変わってしまったこともあって、静観している様だ。
元々ソールも来る予定ではなかったし、計算外の希望ではあったが勝負はこれから、ということになるんだろうか。
いや、そもそも勝負をする意味は何なんだろう。

今更になって、そのことを疑問に思う。
戦って勝利したとして、私たちに何か得になることがあるのか?

「お姉ちゃん……何でそんなひどいことしようとするの?」
「……ひどいことを先にしてきたのは、お前の親父とおふくろだぞ。私はやり返しにきただけだ。お前が文句を言う筋の話じゃないんだよ。引っ込んでろクソガキ」
「今日初めて会うのに、そんな言い方することないじゃない」
「やかましい。今日初めて会う相手に暴力で応えたやつが言えたことか。邪魔するならお前ごとこの家吹き飛ばすぞ」
「おい、睦月……」
「どの道父も母も譲る気はないみたいだし、戦いは避けられないでしょ。だったらもう仕方ないよ。どっちが正しいかは、勝負で……」

私がそこまで言った時、イヴは父と母を庇う様に私に立ちはだかった。
一体何のつもりなんだか。
この三人にとって私は、共通の敵だとでも言いたいのか?

「……そういうつもりなら、別に構わないけどね。私はあんたらと縁切ったって言ったけど……訂正させてもらうわ。私は縁を切ったんじゃなくて、あんたらを捨てて出て行ったんだ。だから、私の敵になりえる相手は全力で潰させてもらう」
「お姉ちゃん、本当にそれでいいの?」
「どういう意味だ。私が出て行った後に出来たお前のことなんか特に何とも思ってはいないし、今更妹です、とか言われても私にどうしろって?」

私が言っていることが正しいとは思わない。
多分大輝が考えていることの方が正しい。
それはちゃんと理解している。

だけど、この三人は既に私がいなくてもちゃんと家族としてやってきているんだ。
何万年も留守にしてきて、つい最近まで存在ごと忘れていた私が家族ですから、って混ざるのはやっぱり違う。
もちろん出て行った理由に嘘はないし、今更それをなかったことにしようとも思えない。

そう思えるんであれば私は今尚こんな風にこだわったりはしてないはずなんだから。

「それにイヴ……お前は知らないかもしれないけど、私が出て行ったのはそこの二人のせいなんだぞ。事情をよく知りもしないでよくそこまで庇う気になるな」
「……どういうこと?」
「そこの二人に聞けばいいだろ。私の口から語りたいとは思わない。そして、これ以上あんたらの騒動に付き合う気もない。イヴほどの力を持ったやつがいるんだったら、魔界の統治くらい何とでもなるんだろうしな」
「……なるほど、それがいいかもしれませんね」
「ん?」

少し考え込む様にしていたソールが口を開き、得心した様に微笑む。
大輝もソールの考えていることが理解できたのか、そういうことか、なんて呟いていた。

「何?イヴに魔界を継がせるって話?」
「そうです。というか、スルーズが今から魔界を継いだとして、魔界の住人が納得するかは微妙ですが……今まで魔界で暮らしてきたイヴであれば、特に不満も出ないのでは?」
「……イヴはまだ世間を知らない。だから魔界を任せるのは……」
「なら世間を知るまであんたらがやったらいいじゃないか。どうせ時間は無限にあるんだから」
「…………」

まぁ、どうなったら世間を知ったってことになるのかわからないが、イヴはまだ自分の置かれた状況を理解しきれていない様だ。
中身がまだまだ子どもなのか、確かに世間を知らなそうな顔をしている。

「私が、魔界を?」
「まぁ、ゆくゆくはって話だけど。というかそれしかないだろ。私はもう神なんだ。それとも全神族を招集して魔界も神界の統治下に置いてほしいって話ならオーディンに相談するけど?」

とは言ったが正直そんなめんどくさいことはごめんだ。
反対する者の方が多いだろうし、そうなれば戦いは避けられなくなる。
あいの時でさえあの騒ぎだったんだ、今度はあれくらいじゃ済まないかもしれない。

「しかし……」
「腹くくれよ。私に任せるとかまだ言うんだったら、本当に神界の総力結集して魔界を支配しにくるぞ。それをイヴに託すなりあんたらが継続するなりすれば、話は丸く収まるんだ」
「しかしイヴの意志は……」
「それだって本人に確認しろよ。大体あんたら、イヴが可愛いとかそんな理由で鳥かご生活させてきたんだろ、どうせ。本人の意思確認は絶対必要だろ。そんなの神でも人間でも悪魔でも天使でも、変わらないことだぞ」
「あの……ちょっとだけ口挟んでいいですか」

もう少しで言いくるめられそうかな、と思ったところで今度は大輝が口を開く。
大輝も巻き込まれた側だし、言いたいことは沢山あるのだろう。
私としてはもう、大輝が何を言ってもいいと考えていた。

「俺、そこにいるソールの息子ですけど……実は最近まで母の存在を知らなくて、それで捨て子だと思って育ってきたんですね。けど、むつ……スルーズが神になって、それで成り行きとは言え俺たちは出会うことが出来て、その過程で仮だけど親って呼べる人間にも出会って、その後本当の母にも出会って……幸せなんです」

大輝がそう考えてくれている、というのが私としてはすごく嬉しい。
私のしてきたことが無駄じゃなかった、って思えるし何より大輝が幸せって言ってくれるのは、本当に何より喜ばしい。

「だけど、スルーズfがもしもこの魔界の王になっちゃうんだと、俺たち離れ離れになっちゃって……そりゃたまには会えるかもしれませんけど、そんなんじゃもう俺たち、足りないんです。お願いですから、俺たちを引き離さないでください」

そう言って大輝は頭を下げる。
普段そんな風なことを口にしないし、頭を下げるなんてこと……いや割と見かけるけど、こんなに真剣なのはあんまり見ない。
朋美も私と同じ様に感じたのか、感慨深そうに大輝を見ていた。

「……イヴ、お前はこの先、魔界の王をやってくれと言われたら引き受けてくれるのか?」
「私に務まるのかわからないけど……でもお父さんたちがそう言うんだったら、私頑張るよ?」
「そうか……いい子に育ったな……」
「あんたらが子煩悩なのは知ってたけど、いい加減子離れしろよ。あんたらのは子煩悩が過ぎて子どもを信用してないってレベルになってんだよ」
「お姉ちゃん、言い方がきついよ」
「うるさいな……お前がやるって言うんだったら別に私は反対しないし、寧ろ大歓迎だけどな。世間がどうのって話も、せいぜい好きにしてくれ。私たちはもう帰るから」
「ええ!?もう帰っちゃうの?もう少しゆっくりしていこうよ!」
「…………」

何でこんなぎくしゃくした家族に囲まれて私がゆっくりできる、なんて思えるのか。
どれだけ平和な思考してたらこんな発想になるんだか。
妹とか言われてもちっとも可愛いと思えないし……いや、見た目は可愛いんだと思うし、それこそ人間界にでも降りたら人気者になれるだろう。

だけどそれとこれとは別の話だし、何より私と同じ血が流れているのに対局過ぎて実感がわかない。
懐いてもらっても、きっとそれは変わらない。

「スルーズ、一個頼みたいことがあるんだが」
「断る。私は家族じゃないし、聞く義理もない。あんたらのことはあくまであんたらのこと。身内で何とかしろよ」
「睦月、それはさすがに冷たいよ……」
「そうだぞ、睦月……聞くだけでも聞いてやろうぜ」
「…………」

仲間にジトっとした目を向けられては、さすがに私もそれを無視することは出来ない。
仕方ないので私は、話だけでも聞いてやることにした。

「さっさと用件を言ってくれる?いい加減疲れてきてるから」
「イヴに、世界を見せてやってほしい」
「…………」

何となくの想像はついていたけどよりにもよってそれかよ。
この家族は一体、どこまで私に迷惑をかけたら気が済むというのだろうか。

「スルーズ、今まで家族らしいことをしてこられなかった、というのであればこれは一つのチャンスなのではないでしょうか」
「チャンス?何の?」

ソールの言うことが私にはよくわからない。
チャンスって言うのは、何か?
私が家族に戻るチャンス、ということか?

だとしたら何よりもいらないものなんだが。

「コネというのはあって損にはならないと思いますし、これからの魔界の王候補の面倒を見た、というのは神界においても功績としては決して小さくはないかと思います」
「ふむ……」

別に出世とかそういうのに興味はないが、オーディンやらは喜ぶだろう。
神界での立場は元々悪くない。
まぁ、良いわけでもないけど多少立場を良くする程度なら、今の生活を変えたりする必要もないだろう。

「具体的に、どうしたらいいんだ?イヴを人間界に連れていけ、とか言うんじゃないだろうな」

私の言葉にルシファーも母も俯き、歯を食いしばった様な表情を見せる。
おいおい、マジか……そんな悔しそうな顔するくらいなら世界を見せろ、なんて言わなきゃいいのに。
今からそんな調子で、将来どうするつもりでいるんだろうか。

「私、人間界に行ってもいいの?」

と本人は割と乗り気な様だ。
こうなったらもう……大輝に全部投げてしまおう。
女関係の仕事は全部大輝。

そんなわけで、イヴは翌日から人間界で生活をすることになった。

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