やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第142話


最初、ソールが何を言っているのかわからなかった。
男のまま連れて来いってことは、大輝と何かしたいことがある、ということなのだろう。
正直その条件を突きつけられるまでは、何でもどんなことでも叶えてやろう、なんて思っていた。
 
ところが、その話を聞いてからはさすがに私としてもそのまま鵜呑みにしてオッケー!とか言える雰囲気ではなくなってしまった。

「何だ、そんなことか。なら別に……」
「ちょっと黙ってて。勝手に引き受けないで」
「え」

大輝が危うく了承しそうになって、私は慌てて止める。
私は予感したのだ。
大輝を男のまま連れて来い、という条件。

これはきっと、ソールに大輝が食われるであろうことを。
親子なのに?と思うかもしれない。
しかしソールの大輝に向ける愛情はもはや常軌を逸している。

そう、それはもはや息子に向けるものではなく一人の男に向ける視線だということ。
それに私を始めとするハーレムメンバーの全員が気づいている。
だからこそ、危うい。

そして本人は楽観している様だが、大輝がここにくれば既成事実が作られて、かつてのヴァナヘイムで横行していた近親間での淫行などが成立してしまう。
そんなことになったらきっと大輝は立ち直れないのではないだろうか。
朋美辺りも大ダメージを受けるに違いない。

私もハーレム結成者として、そんな事態にさせることだけは避けなければならない。

「答えは出ましたか?」
「悪い、ソール。やっぱ私たちだけで行く。大輝を男のまま連れてくるなんて危険な真似、させられない」
「はぁ?睦月お前、何言ってんだよ」
「何もクソも、危険だってこと大輝はわかってないみたいだね」
「危険って……」
「じゃあ大輝は、それでソールと親子であんなことするあんちくしょうになっちゃってもいいんだ?親子だよ?わかってる?」
「お前、それはさすがに……」

やはり大輝は自分の立場というものがわかっていないらしい。
いいところ、愛されてんな俺、みたいなバカみたいな楽観をしているのだろう。
こんな風に考えているのだから、現実を見せてやるというのは悪いことではない気もするが、さすがにこればっかりはシャレで済まない。

それに親子関係だって今は良好なのに、爛れたものになってしまうかもしれない。
そう考えると大輝を安全な立ち位置に持っていく為にそんな条件を飲んでやるわけには行かないのだ。

「大輝、あなたも気づいているのではないですか?」
「え、何が?」
「毎回女神の姿でこちらに来るのは……私があなたを男性として狙っているからだ、と」
「は!?そ、そんなわけないだろ!?お、俺が女神の姿で来るのは……単独で来るときはそうじゃないとこっちに来られないからであって……」
「ふふ、大輝は嘘が下手ですね。しかし、スルーズの言ったことは大半当たっていますよ。私は、あなたと結ばれたい願望を持っていますから」
「…………」

ソールの言葉に大輝が青ざめた顔をする。
何もこんな時にそんなことぶっちゃけなくてもいいだろうに。
まぁ、何処まで本気で言ってるのかわからないけど……概ね全部と言っていいんだろうな。

そして大輝の嘘が下手であることは、ソールにもバレバレだった様だ。
まぁ、ソールに見抜かれるくらいだから相当なものなんだろうなと思う。

「大輝、よく聞きなさい。私はスルーズが了承したら、間違いなくあなたを襲います。それは先の神界襲撃の際に思い知っているのでは?」
「…………」

何かを思い出したのか、大輝が青い顔を更に青くしていた。
一体何があったって言うんだ?
私も知らない様なことがあるというのだろうか。

「ねぇ大輝、まさか既に何かあったの?」
「は、はぁ?そ、そんなこと……」
「スルーズ実はですね……」
「ま、待った!!そ、それについてはもう俺、忘れたから!さ、さぁ行こうぜ睦月!魔界で待ってる人が……」
「まぁまぁ落ち着いて座りなよ、大輝。ソールの話をちゃんと聞いてからでも遅くないから」

立ち上がろうとした大輝を力づくで座らせて、その肩を片手で抑え込むと、観念したのか大輝は黙り込んだ。
ソールはその様子をニコニコしながら見つめている。

「で?何があったの?まさかもうヤったとか」
「そ、それはない!風呂に入ったのだって女神の姿だったんだから、セーフだろ!?」
「そんなことを聞いてるんじゃないんだよ、大輝。大輝が答えてくれないなら、ソールから聞くしかないなぁ」

私がそう言うと、ソールは笑みを崩さないままで大輝に近寄る。
そして。

「こうしました」

動けない大輝に思い切りベロチュー。
衝撃的な構図に思わず私も固まってしまったが、なるほどこれは確かに隠したがるわけだわ、と納得した。

「納得しましたか?」
「……まぁ、油断してた私たちも悪いから、今回は何も言わないでおくよ」
「む、睦月聞いてくれ、これは……」
「いいって言ってんだろぉ!?」

バン!!とテーブルを叩くと大輝は覚えた顔をして黙り込んだ。
正直、ああやりやがったこいつら、とは思った。
だけど私は朋美じゃない。

あそこまで感情をむき出しにしてまで嫉妬なんて、多分これからも出来ないんだろうな。

「……それで、何?ここから先に進むつもりでいるわけ?親子なのに?継母とかでもないのに?」
「愛さえあればそんなのは些末なことですよ」
「ってソールは言ってるけど?大輝はそれでいいんだ?」
「い、いやさすがに困る。俺は普通に親子でいたいんだし……」
「だったら二人で行くしかないでしょ。それくらいわかるよね?」
「……はい」

すっかりとしょぼくれた様子の大輝を伴い、私はソールの小屋を出た。
ソールはやや残念そうだったが、そんな一線を超えさせてしまうわけにはいかない。

「いつまでそんな顔してんの?」
「いや、もう少し言い方あったかなとか……それに睦月の前であんなことしてくるなんて思わなかったから……」

私だって想定外だったっての。
この件についてはあとでもう少しだけ追及してやろう。
しかし今は目の前のことを片付けなければ。


「……ピンク色の空……?どういう仕組みなんだ?」
「んー……瘴気とかかな。冥界とはまたちょっと違った感じでしょ」

魔界に到着して、大輝はまず空の色に驚いていた。
私は正直このショッキングピンクの空があまり好きではない。
目がチカチカするし、元々淡い感じのピンクなら好きなんだけど、それとは随分かけ離れている。

少し見方を変えれば、人間界の夕暮れの空に……見えないな、やっぱ。
下品なピンクの空でしかない。
こんな所が私の故郷って紹介しないといけないのは、本当に業腹だ。

「ほら、こっち。あんまりフラフラしてると魔物に襲われるからね」
「え、そんなのいんの?」
「龍とかもいるよ。大輝の好きなゲームで出てくる様な生物は大体いるかも」
「おいおいマジかよ、ちょっと見てみたい」

そんなの後でいくらでも見せてあげるから、と目をキラキラさせて辺りを見回す大輝を説得し、私は母と父の暮らす宮殿を目指す。
魔物なんかを相手に命がけの喧嘩をしまくって鍛えてきた幼少期と違い、今の私を襲う様な頭の悪い魔物はおそらくそういないはずだが、万一ということもある。
もちろん戦闘になれば負けることはないはずだが、今は何より時間が惜しいのだ。

「ほら、あそこ見て。城が見えるでしょ」
「……お前、王女様なの?」
「まぁ、あのバカ親父の思惑通りに進むんであればそうなるかもね。私にはそのつもりはないし、大体それを断りに行くんでしょうが」
「……そうでした」

思わぬファンタジー世界にワクワクが抑えられないと言った様子の大輝だが、私がこの魔界の支配者になっちゃうかもしれない、ということを思い出して漸く冷静になった様だ。

「あー、ほら。あそこ龍が飛んでるよ」
「うお!!マジだ!!すっげぇ……迫力が違うな……」

とても楽しそうで何よりだ。
私からしたら、一回あれの炎で大やけどしたことがあって、今度会ったら丸焼きにでもしてやろうか、くらいに思っていただけに大輝の喜び様を見ると何だか引いてしまう。
けどまぁ、正直なことを言うと連れてきて良かったかも、とも思う。

こんなに喜んでもらえるんだったら連れてきた甲斐はあったというものだろう。
子どもとかが喜んでるのと同じ感覚なんだろうか。
今度玲央も連れて来ようかな。

って何感傷に浸ってるんだ、私は。
こんなとこもう二度とこない、くらいの気持ちで来たはずなのに……どうも大輝が絡むと甘くなるな。

「さて、到着っと。つーかあいついるのかな。また黙って人間界に行ってたりとかないだろうな」
「んー……そればっかりは俺には何とも言えないな。いなかったらどうするんだ?出直すのか?」
「いや、それならそれでもう母に直接話を持ち掛けるよ。いちいち構ってらんないよ、あんなの」
「あんなのって……」

また大輝は複雑そうな顔をする。
親子が必ずしも良好な関係を築いているなんてのは幻想だし、正直十組の親子がいれば十通りの親子の形があるんだってことはさすがにそろそろ理解してもらいたいところだ。

「スルーズ様、お帰りなさいませ」
「……ああ、あんたまだいたんだ?」

門番の……何だっけこいつ。
顔は覚えてるだけど名前が出てこない。

「ベリアルでございます、お忘れですか」
「お忘れですね。そんなことより、父はいるの?」
「それは残念……ルシファー様は今お出かけになられていますが。そして私にも寿命はございませんので、以前より変わらずこのお屋敷をお守りさせていただいております」

丁寧に挨拶をするベリアルに大輝も挨拶をする。
女神の姿ではあるが、別にそれはいいだろう。

「あ、俺は宇堂大輝です」
「あなたが……ルシファー様から聞き及んでおります。どうぞ中へ」

そうだった、こいつベリアルだった。
ただの白髪のおっさんにしか見えないのに、こいつも結構強いんだよなぁ……。
昔よくいたずらしてとっちめられたっけ。

しかしまぁよくあんなクソ親父に仕える気になったもんだと未だに思う。
そしてベリアルは何となく大輝と挨拶を交わしただけで人柄を見抜いた臭い。
気に入ったかどうかはわからないが、とりあえず門前払いだけは避けられた様だ。

もっとも私がいるのにそんなことしたら、この場でベリアルとのバトルになっていたことは間違いないけどね。

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