やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第141話


「なるほどな。結局、睦月はどうしたいんだ?」

大体の予想はしていたけど、睦月からの相談内容は魔界に関することだった。
ルシファーさんは魔界に一旦帰ってきてもらって、母親にも顔を見せてほしいとか、色々言っていたとのことで、その中である程度魔界の統治に関することも含まれていたらしい。
そして俺がこう聞いたのにはいくつか理由がある。

一つは俺の思いが強いのもあるのだが、結局のところ結果はどうあれ親子なんだからもう少しでも仲良くできれば、ということ。
もう一つは睦月が本心でどうしたいのかを知りたかった。
本気で嫌がっていて、ということならば恐らくその場で断って全てを終わらせていたのではないか、というのが俺の見解だ。

しかし保留にして俺に相談を持ち掛けてくるということは、迷う気持ちが少なからずあるということなのだろう。
何が睦月を迷わせているのかはわからないが、絶対に行きたくないとかそういうことはなさそうだと俺は判断した。

「どうしたい、って言われると微妙なんだけどね。父も母もまず死なないわけだから。ただ、私に魔界を任せて隠居したい、みたいなことも言ってたから、どうするのがいいのかなって」
「それって完全に身内じゃないとダメなのか?歌舞伎とかみたいな世襲制とかじゃないんだろ?」
「んー……ルシファーがどうやって魔界を支配するに至ったのか知らないから何とも言えないんだけど……今の魔界にはそこまでの力を持ったやつがいないんだとか何とか」

難しい話になってきた。
正直睦月以外に任せるに足る相手がいれば、話は早いはずなんだ。
けど今聞いたことが事実なんだとしたら、睦月以外の誰かに任せるというのは魔界そのものの存続の危機ということになりかねない、ということなんだろう。

とは言えそれだって寿命とかないんだったら、ルシファーさんがずっとやってけば良くないか?と思うのはきっと、俺が魔界に関しての知識を全然持っていないからなんだろう。
もちろん、そうできないもしくはしたくない、って事情があるから、睦月にこんなことを頼んできたんだろうとは思うが。

「世襲制でないんだとしたら、出来ることって大分限られてはいるけど、必ずしも睦月が継がないといけないってことでもなさそうだな」
「まぁ、そうなんだけどね……たとえば何人か魔族を見繕って鍛えてやったりとか」
「それは俺も考えてた。だけど、そこまでの力を持たせるのに何年かかるんだろうな」
「それに力だけあっても、いわゆるカリスマ性だとか、大勢をまとめる資質みたいなものも必要になるからね」

聞いてる限りだと睦月が継ぐ以外に方法がない、そんな気がする。
他に何か方法……。

「なぁ、他に資質を持ってるやつがいないって言ってたけど」
「うん」
「それって、ルシファーさんと睦月以外に、ってことか?」
「どういうこと?」
「あんまり話題にしたいことじゃないかもしれないんだけどさ……お前の母親とかは?言い方悪かったら謝るけど、結果として死なない体になったんだろ?だったら、ルシファーさんの次くらいに適任なんじゃないかって思うんだけど」

自分で言ってみて少し嫌な考えだって思う。
だって、これまで頑ななまでに隠してきた母親の存在。
既に不老不死なんて運命を与えられて、この何万年を生きてきているんだから……ここから更に魔界の統治とか、重荷以外の何物でもないだろう。

「母……そうか、母だ」
「え?」

しかし俺の考えに反して睦月はこれだ、と言わんばかりの反応を見せる。
え、もしかして……。

「うん、それが一番良さそう。聞いた限りだと母は、生きがいみたいなのもなくただただ生きてきたって話だから。なら、生きがいを与えてやったらいい」
「え、マジかよ」
「じゃあ大輝は、私に魔界に行けって?それでいいなら、私行くけど」
「ば、そうじゃないっての!そんなん俺が認めるかよ。だけど……お前の母さんとやらはそれで納得するのかな」

正直会ったこともない相手を当てにするなんて、どうかしてると俺は思う。
もちろん睦月は親子だし……大分久しぶりみたいだけど、それで話が済むんだったらその方が平和なんだろう。
ただ、肝心の本人の意向というやつを、俺は聞いてないしそれは睦月にしてもルシファーさんにしても同様だ。

というかルシファーさんは、それなら自分がやる、って言いだす気がしなくもない。
何しろ死に別れるのを怖がって不老不死にしちゃったってくらいなんだから。
ん?待てよ……もしかして。

「母に頼んだらきっと、十中八九ルシファーがやるって言いだすに決まってるもん。大輝、いい案だよ。それしかない」
「いや……俺案外適当に思いつくまま言っただけなんだけどな。それもかなり無責任だなとか思いながら」
「会ったことないんだから仕方ないよ。でも、姫沢家の両親相手だったら大輝はそんなこと考えてもまず言わないでしょ?」
「そりゃそうだ。あの人たちは平和に暮らしていくべきなんだよ。これ以上の波乱とか、あの人たちには必要ない」

俺がそう言うと、睦月は満足そうに頷く。
他のみんなが起きだしてきたのは、その少し後だった。


「……で、やってきたわけだが、ここって神界だよな」
「うん、だけど必要なことだから」

俺と睦月とでやってきたのはそう、神界。
緑などの自然豊かな風景はもはやお馴染みで、以前あいが襲撃をかけた面影はもはやない。
睦月が必要だというのできてみたわけだが、正直何をするのか、と思ったがただ神に戻る必要がある、と言うだけのことだった。

「前に魔界に連れていかれた時、人間の姿のままだったからね。正直あの体で本気とか出せないから」
「本気ってお前……喧嘩しに行くんじゃないんだろ?」

その問いには答えず、睦月はついてきて、とだけ言って俺の手を引いた。
ちなみにみんなはお留守番をしている。
明日香たちはルシファーさんを見てみたい、なんて言っていたが睦月に反対されて仕方なく留守番をすることになった。

「オーディン様に会うのか?」
「違う。ソールのとこ」
「へ?母さん?なら連絡くらい取ってやるのに」
「じゃあ今から行くってだけ伝えておいて」

そう言われては俺も断る理由などはないので、とりあえず言われた通りの文面を母に送る。
するとスタンプで了解!とウィンクをした母のイラストが送信されてきて思わず笑みがこぼれた。
随分と使いこなす様になったものだ。


「久しぶり、ソール」
「スルーズ、それに大輝。今日はどうしたのですか?お茶でも淹れましょうか」
「いや、ちょっと急用なんだ。頼みたいことがある」

母に会うなり睦月は母に頭を下げ、母もさすがにこれは予想していなかったのか俺に会って喜ぶよりも驚きの表情で俺を見た。
母に頼みたいことって何だろうか。
まさか魔界と戦争とか、物騒なことには……。

「とりあえず頭を上げてもらえますか、スルーズ。そのままでは話しにくいでしょう」
「なぁ睦月、どういうことなんだ?」
「ソール、あんたは確か私の父に会ったことがある。そうだな?」
「は?」

母とルシファーさんに面識があるなんて話、俺は聞いたことがない。
いや、そもそもルシファーさんのこと自体知ったの昨日とかそのくらいなんだから仕方ないかもしれないが、何となく複雑な気分だ。

「スルーズの父、ですか?」
「そうだ。ルシファーという堕天使に覚えはないか?」
「ルシファー……ああ」

母もぼんやりしているし、割と物忘れとか激しそうに見えてちゃんと覚えていた様だ。
現段階ではまだどういう関係だったかまで聞かされていないが、何となく聞きたくない、というのは子ども心というやつなんだろうか。

「確か私に求愛してきた男の人の一人ですね。私に袖にされた後で無理やり私をモノにしようとして、見事に返り討ちに遭ってましたが」
「…………」

いつの話なんだろうか。
そりゃ、睦月の母に当たる人と出会う前なんだろうとは想像できるが、子どもの俺としてはやはり複雑である。
そしてそれは睦月にしても同様で、苦虫を噛み潰した様な顔をしている。

「あの方は確か天使だったはずですが、あの方がスルーズの?」
「……ああ、そうだ。不肖の父で恥ずかしい限りだけどな」
「そうでしたか。では、あの後良い人と巡り合えたのですね、良かった良かった」

そう言って母は笑う。
その笑顔は普段の感情の籠もらないニコニコしたのとは違って、心から嬉しいと言った感じに見える。

「あの時私に返り討ちに遭って、人間界まですっ飛んだと聞いたのですが、その後行方が知れないとの話だったので、その時はどうしたものかと思っていましたが」
「あの後人間界で、ボロボロになってるところを母に拾われたらしい。最初は人間なんて、とか思ってたらしいけど、次第に心を開いていった、とか本人は言っていたな」

人の親の話なんだけど、何となく聞いてて気恥ずかしい気持ちになってくる。
もちろん母は何も悪くないのだが、そんな出会いとか馴れ初めを親の口から語られるというのは睦月としてはどんな気分だったんだろうか。

「そうでしたか。それで、私に頼みというのは?」
「実はな、あの後父はソールの名を出す度に震えるくらいに脅威に感じているらしいんだ。で、私は今魔界を継いでほしいなんて話を持ち掛けられていて、正直迷惑してる。だってそうだろ?私には大輝やみんながいる。そんな中で魔界の王とかになっちゃったら、みんなと会う機会だって激減するに決まってるんだから」

睦月としては、俺たちと会う時間を大事にしたい、という考えがあって、今が楽しいということなんだろう。
そして俺だって、睦月にそんな魔界の王とかになってもらいたいなんて考えてはいない。
断固反対、という気持ちであることには違いない。

「これからちょっと話し合いに行くんだけど……もし嫌でなければ一緒にきてもらいたいんだ」
「母さん、俺からも頼むよ。睦月がいなくなったら俺だって悲しいし、他のみんなだってきっと悲しむ。俺はこれからもみんなと笑って会いたいし、母さんだってその中に含まれてるんだから」

少し卑怯かな、とか思いながらも俺は母に懇願する。
母はこう見えて超絶マイペースな神だが、息子に関してだけは異常とも言える愛情を見せる。
愛されているという実感が俺としてはくすぐったい感じはするし、周りから言わせると一線超えそうで怖い、という意見もあるが、母の愛情はそういう類のものではない……と思いたい。

いや、実際前科あるからな……おかげで俺は力を得た訳だけど、今考えたら他にやり様あったんじゃないのか、とかね。

「そうですか、話はわかりました。もちろん私が説得について行くということに関しては吝かではありません。ですが、一つ条件があります」
「条件?」
「わかった、何でも言ってくれ」

睦月としては多少の無茶を言われても叶えるつもりでいるのだろう。
俺としてもそれはどうにかして手伝ってでも叶えてやろう、という気持ちでいる。
しかし次に母が発した言葉は、睦月のそんな覚悟を一瞬で揺らがせる内容だった。

「今度、大輝を人間の姿のまま、つまり男性のままでここに連れてきてください。これが条件です」

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