やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第67話

「役割、決めようか」


私はノルンがついてくるものと思っていたから、正直ヒーラー的な立ち位置の人間は作る必要がないと思っていた。
補助的に立ち回れる遠距離武器使いのアーチャー、それからタンク役をこなせそうな人……愛美さんか和歌さんのどっちかになるかなとか思っていたが、ここで早くも計画を変えなければならない様なことをノルンは言い出す。


「えっと、私はついていけないよ?」
「はぁ?何でだよ」


ノルンがいるなら私も安心して戦えると思っていたし、正直人間を連れて冥界を歩くのに、神が私一人というのは何となく心細い気がする。
それだけに自然と語気も荒くなってしまう。


「いや、考えてもみてよ。相手はロキだよ?ラグナロクの時みたいな前科もあるしさ。これが冥界と神界とでの陽動じゃないって保証はないでしょ?」
「まぁ、ノルンの言うことはもっともじゃの。敵の動きに敏感な者がおらなくなってしまうのは、神界としても看過できん」
「…………」


マジかよ……ってことはヒーラーを別で立てないといけないってことになる。
性格上ヒーラーなんかできそうな人、いないんだけど……。
私の中でのイメージでは、ヒーラーは全員の状況を把握した上で回復や補助を行う役割を持つ、楽そうに見えて一番めんどくさい職業だと思っている。


そう考えるとうちのメンバーじゃ正直経験不足だ。
バランスよく編成するのであれば、アタッカーとタンク、アーチャーとヒーラー、となるが……。


「私、ヒーラーって言うのやろうか?」
「ん?桜子、大丈夫なの?多分思ってるより大変だよ?」
「私も前出て戦いたいけど……多分邪魔になっちゃうかなって思うから」
「その辺はどうにでもなると思うけど、敵と味方両方の動き見ながら補助したり回復させたりっていう作業が必要になるけど、出来そう?」


できそう、と言われてもその言葉を全面的に信用するのは危険だ。
最悪の場合私一人で全部をこなすくらいの覚悟が今回に関しては必要で、桜子にやらせる場合にはあくまで補助的な感じでやってもらうと考える方がいいだろう。
かと言って他にやりたがる人間もいないので、桜子にお願いすることにした。


「じゃあ、そうなると……ノルン、少しは役に立て。武器くらい出せるだろ」
「事情が事情なんだから仕方ないじゃん……。これ、使って」


文句を言いながらノルンが取り出したのは、一本の古い杖だった。
どっかの第一位さんが、能力開放してないときにでも突いてそうな杖に見えるのは気のせいか。


「これをかざして、回復、とかスピードアップ、とか心の中で念じたら効果は発動するから。だけど、神力消耗するから乱発は控えてね」
「ありがとう……でも、これ神力っていうのがない状態だと使えないってこと?」
「そうなるね。神力に反応する、私特製の武器だから」


ふむ、と唸って桜子は杖を受け取る。
大丈夫だろうか。
戦闘なんてものに馴染みのない人間にいきなり魔法で戦え、なんて無謀にもほどがある。


神器でないから扱い自体は簡単かもしれないが、果たしてどうなることやら。


「あと、これも持って行って。私は同行できないけど、さっきも言った通り神力の中和は必要になるはずだし、戦闘が絡むんだったら尚更必要になると思うから」


そう言ってノルンが取り出したのは、いくつかの小瓶だった。
紫色のその小瓶は、一見するとマニキュアか何かに見える。


「これで神力の中和と、ある程度の神力の補給ができる様になるよ。戦闘中に使おうとすると敵味方関係なく回復しちゃうから、ちゃんと休憩の時に使ってね」
「使うって……どうやって使うんだよ?ちゃんと説明しないとわからんだろ」
「ああ、そっか……って言っても簡単なんだけどね。この蓋を外して、掲げるだけでいいの」
「ふむ……」


桜子がその小瓶を受け取って眺める。
ある程度は理解できていると思いたいが、何しろ桜子だ。
どんな行動に出るかの予測がつかないのが一番の不安要素と言える。


「戦闘中は杖で回復とか補助をして、戦闘が終わった後で消耗が激しかったりする様ならその小瓶を使うイメージかな。もちろん臨機応変にしてもらう必要はあるけど」
「うん、わかった……と思う」


やや不安そうな顔で、桜子はその小瓶をポケットに入れた。
一応のヒーラーは決まったが、あとはタンクにアタッカーとシューター及びアーチャー。
もちろん銃なんてないし、弓矢で遠距離から攻撃及び支援してもらうイメージになるんだけど。


「私は弓がいいわ。望月、銃なんかないから諦めて剣になさい」
「まぁ、ないものは仕方ないですね」
「剣で思い出したけど、ありきたりに人斬り望月なんて異名もあったわね。あれ、自分で考えていたの?」
「ぶっ……」
「くっ……お、お嬢、もう勘弁してください、本当に……」


泣きそうな顔をしながら和歌さんが明日香に懇願している。
ああ、くそ、とか言いながら和歌さんはティルヴィングを手にした。
あの剣は確か一撃必殺型の剣だ。


刀身を持ち主の精神力で巨大化させて押しつぶしたりもできるし、もちろん切りつけることだって可能だ。
使い方の幅がそれなりに広い剣でもあるから、アタッカーとしてもタンクとしても使うことは出来るだろう。


「なぁ、釘バットとかねぇの?高校の時に何度か使ったことがあるから、あるならそっちの方がいいんだけど」
「…………」


愛美さんの物騒な発言に、沈黙が流れる。
使ったことがあるって、どういう用途で?
聞きたいが、聞いてはいけない気がする。


「ま、まぁあるもので選ばない?相手は神とか魔物なんだし」
「そんなもん出てくるの?じゃあさすがに釘バットじゃどうにもならねぇか」


私の言葉に愛美さんは釘バットスラッガーを諦めてくれた。
様になりすぎていて、ちょっとおっかないし大輝を助けた時に大輝が怯えるかもしれないから、納得してもらえて何よりだ。


「そういやオーディン、グングニル使ってないの?」
「ここ数百年使っておらんの。この杖で大体は何とかなるから」
「そっか、じゃあ借りてっていい?」
「ふむ……まぁいいじゃろ。持ってけ」


そう言ってオーディンが異空間を作り出してそこに手を突っ込む。
四次元ポケットか?
そしてそこから、オーディンの手に握られた身の丈に合わない大きさの槍が出てきた。


なるほど、体が小さいから扱いがめんどくさくなったとかそんな理由だろうと思った。


「愛美さん、これならどう?バットじゃないけど殴りにも使えるし……まぁ、基本は突くものだけど」
「槍か。面白いな、これがいいかも」


アタッカーよりはどっちかと言えばタンクに持たせるイメージになるが、それなら愛美さんにタンクをしてもらう感じで行くのがいいだろう。
私が先陣を切れば基本的にはそこまでの危険はないだろうし。
明日香はイチイバルを持ち、矢を番えずにイメトレをしている。


古武術的な何かをやっていた経験があるらしいと言うのは聞いたことがあったが、弓の持ち方、構え共に確かに様になっていた。
ならばアーチャーは明日香で決まりでいいだろう。
となると……あとは朋美か。


「私は、どうしたらいいの?」
「えっと……」


基本的に必要なロールは埋まってしまった。
こうなると予備枠というか……いや、フィニッシャー的なポジションでいてもらうのはどうだろう。


「朋美、魔法少女になってよ!」
「……は?」


頑張ってあの白いのの真似をしてみたつもりなんだが、朋美はまだ見たことないんだろうか。
物凄く冷ややかな目で見られて、私は少しだけ傷ついた。


「ミスティルテインか。なるほど、魔法というか……超常現象で戦わせるの?」
「まぁ、そうなる。主にとどめ役だね」
「とどめ……」


イマイチイメージが掴めていないのか、かつてヤドリギと呼ばれたその杖を手にした朋美は迷っている様だ。
精神力の消費が大きい攻撃ばかりにはなるが、一戦闘一回くらいで撃ってもらうイメージでいけば、何とかなるのではないかと思った。
武器での直接攻撃と違って何処から飛んでくるのか予測もしにくいし、威力には期待できると思うんだけど。


「役割的に、愛美さんが先頭に立って……ああ、私も立つけどね。基本的には愛美さんが槍を使って敵を集めて、パーティから注意を逸らすイメージかな。それから和歌さんは切り込み隊長。敵の注意が離れた隙を突いて攻撃してもらう感じ。明日香は朋美と似た感じの役割だけど、相手のかく乱をしてもらったりもできると思う。威力では朋美の攻撃に勝てないかもだけど。で、桜子はヒーラーとして最後尾もしくは真ん中かな」
「睦月とあたしとで、敵の隙を作りながらみんなを守る、ってことでいいのか?」
「そう。まぁ私はオールラウンダー的な感じになると思うけどね、実際には」


タンクは別名ディフェンダーでもあるし、その認識で間違いないと思う。
もちろん守りの要とは言っても人間の身であんまり無理はしないでもらいたいところだが。


「まぁ望月が切り込み隊長なのはいいと思うわ。とても似合っていると思うし」
「…………」


明日香の言葉に、また過去の黒歴史をほじくり返されるのではないか、と和歌さんが怯えていたがどうやら今回は免れた様でほっと胸を撫で下ろしていた。


「朋美には敵の様子を見て、ここ、っていうタイミングでとどめを刺してもらう感じだね。話に聞く限りじゃ、魔獣とかは群れで動いてることが多いみたいだし」
「私の弓だと一匹ずつしか対応できないものね」
「いや、そうでもない」


オーディンが、明日香に嫌われていることを忘れてないながらも口を挟んだ。


「その弓、イチイバルは一本の矢を打ち出せば十本に増える。精神力を使う攻撃にはなるが、汎用性はそれなりに高いんじゃよ」
「へぇ……」
「とは言ってもヤドリギの能力の方が、対複数には多大な効果を持つことに変わりはないから、朋美とやらがとどめを刺す、というので間違いはない」
「私に、できるかな……」
「全部が大輝の敵だと思うことで多分、朋美は戦えるよ。心配しなくても、私たちがちゃんと守るから」


不安そうな顔をしてはいるが、大輝の名前を出すことで朋美の顔にも少し、闘志が灯った様に見える。


「それから、これを持っていけ。こっちから行く時はわしがゲートを開いてやれるが、お前たちが戻ってくるときに必要になるから」
「……何だこれ?」


先ほどノルンが桜子に渡した小瓶とは違ったデザインの小瓶を渡された。
大きさも、先ほどのものより少し大きい様だ。


「それはさっきのノルンのと違って、飲むタイプの薬じゃ。呑むことで、一回だけゲートを開く力を得ることができる。二度は使えんし、失くしたら終わりじゃからちゃんと持っておくんじゃぞ」
「ふーん。ありがたくもらっておくよ。さっき探してたのってこれか?」
「そうじゃ。大分前に作って、何処にしまったのか忘れておっての」


そう言ってオーディンが何やら念仏……じゃなくて呪文の様なものを唱えて神力を集中させる。
その神力に反応したのか、杖が暗く輝きを宿した。


「時間が惜しいじゃろうし、そろそろ行くが良いぞ」


その杖がオーディンの前方に縦二メートルほど、横一メートルほどの扉を作り出して、その口を開ける。
縁取りの部分の黒いものには見覚えがある。
あの時、大輝が攫われた瞬間に見たのと同じだ。


自然と顔が強張ってくるのを感じる。


「禍々しいわね……何か電気みたいなのが走ってる様に見えるんだけど」
「ああ……あれは神力で作ってるけど属性としては闇のものだから、触らない様に気を付けてくぐってね。飛び込む感じにしたら触らなくて済むと思う」


ノルンが注意を促して、そのまま全員に神力を付与する。
部屋から転送された時の様に体が光に包まれたのを見て、みんな驚きを隠せない様だ。


「目安としては、六時間に一回程度中和した方がいいかな。もちろん消耗の度合いと相談にはなるから臨機応変にやる必要は出てくるけど」
「薬に使用限度はないのか?」
「限度はない。だけど使用期限はある。蓋を開けてからきっかり二日、あと一回使ってからすぐにまた使うってことは出来ないからね?再使用までに最低でも四時間はかかるから気を付けて」
「何だよ、連発できないとか……本当欠陥品だな」
「文句言わないでよ……まだ開発中のものなんだし」


そう言いながらも、ノルンは私に心配そうな顔を向ける。
まぁ、行く場所が場所だから、仕方ないとは思うけどそんな顔をしないでもらいたい。


「んな顔しなくても、ちゃんと大輝を連れて戻ってくるよ。こっちの守りは任せたからな」
「……うん、本当気を付けてよ?他のみんなは特に。桜子、ヒーラーが倒れたら基本終わりだと思ってね。優先的に薬を使うのはヒーラーでいいと思う」
「わかった、心がけるよ」


桜子が力強く頷いて、手を振ってゲートに飛び込む。
それに続いてみんなも続々とゲートに飛び込んで、私もゲートに飛び込むとすぐ後ろでそのゲートは閉じた。




「何だか神界とは随分と違った世界ね……空の色とか」
「まぁ、一日中こんなんらしいよ。私も初めて来るんだけどね」


明日香がそう評した冥界の空は、夕方から夜に変わる時間くらいの暗さ。
絶え間なく暗雲が立ち込めているせいでもあるのだが、その暗雲からは時折雷が落ちたりしている。
人間界ではまず見ることのない景色だろう。


「明かりみたいなの、ないのかな」


桜子がらしい意見を出してくれるが、明かりを出していると多分魔獣はその光に吸い寄せられてガンガン集まってくるのだろう。
無駄な消費は避けたいし、そう伝えるとなるほど、と言って桜子は辺りを見回していた。


「岩とか崖みたいなのが沢山あるな。ああいう影に潜んでたりするのかね、魔物とかってのは」
「その可能性は十分あるよね。あと、見えにくいかもしれないけどあそこに見える森。あの辺は近寄らない方がいいかもしれない。多分巣とかあるだろうし」


注意を促すつもりで言った一言だが、メンバーは軽く萎縮してしまっている様だ。
もちろん私が先頭に立って行くから心配はないと思うが、ここで何が起こるかは未知数だ。
用心するに越したことはないだろう。


「明日香は出来るだけ、手を出さないで状況を見てくれると助かるかな。私たちで討ち漏らす様なことがあれば、追撃するイメージで。朋美は明日香よりも更に状況を見る必要があるよ」
「なるほど、遠距離攻撃の使命って感じね。了解したわ」
「わ、私も多分、大丈夫……」
「大丈夫です、お嬢。私がお嬢には指一本触れさせませんから」


そう言って和歌さんも剣を構える。
なかなか堂に入った構えに見えた。
朋美は必要以上に緊張して見えるが、大丈夫だろうか。


「一応少しの傷くらいなら神力のおかげで瞬時に治るはずだけど、致命傷とかはそこまで早く治せないから、なるべく敵の攻撃は避けてもらう様にしてね。あと死んじゃったら生き返したりできないから」


私の言葉に場が凍るが、そういう危険もあるのだという認識は持ってもらいたかったので、私は敢えて口にした。
しすぎてもいけないとは思うが、ある程度の緊張感はやはり必要なのだ。


「桜子、どっちに大輝とロキいそう?」
「え?」


いきなり指名されて戸惑い気味の桜子。
何故桜子なのかって?
いや、勘で動いてそうなイメージあったから。


ぶっちゃけみんなも何で?って顔をしていて、桜子は更に戸惑いを隠せない様子だ。
しかし暗くなりつつあるこのムードを、桜子なら打破してくれそうな、そんな気もする。
そして、私の索敵能力では、気配そのものは感じてもそれがロキのものかどうかまで掴めない。


似た様な気配が多すぎるのだ。


「え、えっと……か、勘だからね?いなかったからって恨まないでよ?」
「うん、恨んだりしないから気負わずズバッと行こう」
「いっつもお前、こっちな気がする、とかやってんじゃん」
「そ、それって食べたいケーキが二つあった時とかの話じゃん!」
「大丈夫よ、ケーキも大輝くんも響きが似てるから」
「え!?そういうもの!?そして似てる?『き』しか合ってないけど!」


などと桜子に話を振ると、予想通り少し雰囲気が明るくなったのを感じる。
私の目論見通りに事が運びつつある様だ。


「じゃあ、こっち……」


桜子が指差そうとした方向とは逆の方から、僅かに一瞬だけ、神力を感じた。


「ああ、どうやら私たちを狙ってのお出ましの様だね」
「え?え?」


その数およそ数十匹。
禍々しいオーラを纏った魔獣が、群れをなしてこちらに迫ってきていた。


「じゃ、じゃあこっち……で……」
「そうだね、桜子お手柄」
「よくやったぞ、あとは下がってろ」
「う、うん」


そう言って朋美と和歌さん、愛美さんと明日香が武器を構える。
しかし四人を制して、私が立ちはだかって剣を抜いた。


「桜子、私が飛び出したらとりあえずみんなにバリアかけてね」
「え?……一人でやるの?」
「まぁね。一応こういう連中への立ち回りの見本、みんなは見てて」


言うなり魔獣の群れに向かっての一騎駆け。
みんながあっ!という顔をしていたが、まずは手本を見せておこう。
不意を突かれた魔獣が逃げ惑い、しかし逃げきれずに私の剣を受けて次々に倒れていく。


「行くぞオラァ!!」


ロキがわざわざ送り付けてきた挑戦状、受けて立ってやる。
そして私を敵に回して神界で生きる術などないということを、教えてやろうじゃないか。

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