やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第68話

最初の魔獣の襲来から既に七時間。
あれから何度となく魔獣も魔物も襲ってきたし、みんなの戦闘経験も徐々に蓄積して行っていることと思う。
だけどそれに比例して溜まっていく疲労もある。


「そろそろ一回、休憩しよっか」


ロキが魔獣を放ってきたと思われる場所の特定が、思ったよりも難しい。
方向としては間違っていない様に思えるのだが、あいつの狡猾さは私の上を行く様だった。
私の休憩宣言にみんなの顔が少しだけ明るくなるのを感じる。


やはり疲れは隠せないのか、適当な岩陰に敵がいないことを確認すると皆一様に座り込んでため息をついた。
ノルンの言っていた中和の時間はとうに過ぎているので、みんなに何かしらの変化があるかもと注意深く見ていたがひとまずそれがないことが確認できて安堵する。


「桜子、ノルンから預かった瓶出して」
「あ、うん、そうだよね」


桜子がポケットから取り出した小瓶の蓋を開け、天にかざすと紫の瓶から紫の光がキラキラと全員に降り注ぐ。
確かに効果は本物の様だ。
消耗した神力が補給されていく様な、そんな感覚を覚える。


「みんな、頑張ってるね」
「睦月から見てそう見えるんだったら、私たちとしても歯を食いしばって戦ってきた甲斐あったな」


和歌さんが疲れ半分の笑顔で答え、みんなも頷く。
時間は惜しいが、焦って事を仕損じるのも問題だ。
ここは思い切ってみんなに仮眠でも取ってもらった方がいいだろうか。


二日という期限の間で救出できればいい、というものではあるが目的地がまだ掴めていない以上、呑気にはしていられない。
しかし適度な休息がなければ多分、みんなはバテてしまう。
なので私は一つの提案をすることにした。


「ちょっとこの辺散策してくるから、みんなは交代で仮眠してて」
「え?」
「いや、気持ちはありがたいが……」


予想はしていたが、やはり反対意見も出てくる様だ。
もちろん大輝の身に危険が迫っているかもしれないという現状で何を、と思うかもしれないが、気を張り詰めたままで何時間も通して動けるほど、人間は強くできてはいない。


「私と違って生身でこっちにきてるし、神力があると言っても普段やらないことをやってるわけだからね。少しでも休んで本番に備えてほしいの。一応前衛と後衛とでバランスよく交代してもらえれば大丈夫だと思うから」
「どれくらいの時間、離れるの?」


朋美が不安そうな顔で私を見た。
これまでの戦闘で朋美のポテンシャルについてはある程度把握できたが、攻撃のタイミングが上手く掴めていない様に思える。
なので私が傍から離れるということに対する、不安や恐怖みたいなものを感じているのかもしれない。


「あんまりのんびりもしてられないからね。遅くても三時間で戻るよ。その間に、適宜休憩取っておいてくれる?休憩も作戦においては重要な仕事の一つだから」
「…………」


何となくまだ不安の残る朋美の肩をそっと愛美さんが抱きしめて、一緒に休もう、と囁きかけていたのを見て、私は周囲の気配を探る。
みんなには焦りを感じさせない為にああ言ったが、目的地がわかっていない現状でのんびりはしていられない。
動けるメンバーが私だけなのだから、今は私が動くのが得策だろう。


――考えろ……私がロキならどういうところに大輝を連れ込むのか。
遮蔽物があるところが望ましい。
一目でわかりにくい場所。


しかし冥界に建物は見当たらない。
だとしたら、天然もしくは加工して作られた洞窟……?
私はみんなから離れていてかつ少し開けた場所に出ることにした。


あまりやったことはないが、風の流れを読んでみることにする。
無風だと思っていたこの冥界は、実は少しだが風が吹いたりしている。
その風が遮られるだけなら、洞窟なんかはそこにないということになる。


「みんなの負担を少しでも減らさないといけないよね」


そう呟いて、私は集中し続けた。




「お待たせ、みんな」


きっちり三時間で、私はみんなの元へ戻る。
私の顔を見て明るくなったみんなの顔から、ここでみんなが感じていた不安を察することができた。


「何か、わかったのか?」


愛美さんがおずおずと尋ねてくる。
普段なら少し焦らしたりするところだが、今の彼女たちに冗談が通じる保証はないので、私は正直に言うことにした。


「場所、特定できたよ。あそこで間違いないと思う。目印もつけてきたから、行けるならすぐ行こう」


私がそう言うと、みんなの顔が一気に明るくなるのがわかる。
漸く見つめた手掛かりだ、みんなで乗り込んで一網打尽にしてやろう。


「不安にさせてごめんね。ここからは全員で行けるから。準備はいい?」
「当たり前じゃない。もう少し戻るのが遅かったら、その辺の魔物とっ捕まえて戦闘の訓練でもしようかって話してたくらいなんだから」


朋美なりの強がりなのかもしれないが、やる気と生気が戻っている様で少し安心した。
これならこの先の戦いもある程度の希望は持てるかもしれない。


「どうやって、場所を割り出したの?」
「ああ……風の流れを読んでみた」


私の言葉に、みんながぽかんとする。
確かに日常でやる様なことではないし、漫画とかで達人がやったりする様なことだ。
それに私だってできるかどうか微妙だったわけだから。


「何だか睦月ちゃんカッコいいなぁ。私は睦月ちゃんのことだから、てっきり大輝くんの匂いで、とか言うのかと思ってたよ」
「それはそれで面白いんだけどな。でもまぁ、あたしたちがヘタレたせいで世話かけちゃったみたいで、悪いな」
「そんなの気にしないで?人間なんだから疲れないわけがないんだし。それよりちゃんと寝られた?」


私の問いかけにみんなが親指を立てて応え、私たちは出発の準備をする。
この地点からおよそ二キロ程度の場所に、その洞窟はあった。


「こんな開けたところを、一人で?」


洞窟までの道中で、明日香が驚いた様な顔をして私を見た。
人間一人で歩くには確かにちょっとおっかない場所ではあるかもしれない。
魔獣やらからしたら格好の的になるわけだし。


「うん。襲ってくる魔物もいたけど、そんなに数も多くなかったし。力技で何とでもなったから」


これも事実だ。
襲ってきた魔物は私に踏みつぶされるか首をもがれるかして、絶命していった。
野生のものもいたみたいだが、ロキのものも混ざっていたし、そのおかげもあって洞窟は発見できたんだけど。


そして私たちはその洞窟の前まできた。
幸いなことに襲ってくる魔物などもおらず、無駄な消耗を避けることは出来たみたいだ。


「……ここなの?」
「何か本当に洞窟なのね……」


朋美と明日香がその洞窟を見てマジかよ、と言いたげな声を上げる。
他のメンバーも、本格的な洞窟を目の前にして言葉が出ない様だった。


「何でここだと思ったの?」
「ちょっとだけ入ってみたんだけど……壁見て。綺麗になってない?天然の洞窟だったら、もっとごつごつしてると思うんだよ」


桜子の疑問に、私が先に入って壁を見る様に言うと、みんなも入ってきて壁を眺める。
薄暗いが、ところどころぼんやりと天然の明かりの様なものが灯っている様に見えた。
神界にはない素材だ。持ち帰ってみようかな。


「なるほど、明らかに加工されているというわけね」


明日香が壁を手で触りながら感心している様だ。
そして少し進むと、地下へ続く階段の様なものがある。
これはもう、確定と言ってもいいだろう。


「陣形はどうする?あんまり階段も広くないみたいだけど」


外での戦闘においては、役割に慣れてもらう為にと愛美さんに先頭を歩いてもらっていたが、愛美さんの指摘の通り、ここはそこまで広くない。
狭い場所でいきなり襲われないとも限らないので、私が先頭に立って、愛美さんに背後を任せるべく最後尾を歩いてもらうことにした。


「ねぇ、ロキってもしかして親切な人なの?」


階段を下りながら、桜子が呑気なことを言い出す。


「……その心は?」


思わず、そんなわけねぇだろ!!と怒鳴りつけてしまいそうになるのをぐっと堪えて、私は聞き返す。
堪えていたにも関わらず嫌悪感が前面に出てしまっていたのか、桜子が少したじろいだ。


「いや……だって、こんな風に通りやすい階段にしてくれてたりとか……」
「ああ、そういうことね……バカにしてるだけだと思う。来れるもんなら来てみろ、とかそんな感じなんだと思うよ。あれがいいやつだったら、世の中の人間全員神様に格上げできるね」
「そ、そこまで……?本当に嫌いなのね」
「あれに愛情向けられるやつがいるんだとしたら、そいつの精神はもう崩壊してるんじゃないかって私は思うかな」
「…………」


私のあまりの剣幕に、みんな引いてしまった。
おかしな空気になってしまったがどうしよう……そう思ったところであの嫌な神力を感じた。


「お、何かそこ明るくね?」
「……みんな、そこで止まって」
「どうしたの?」


みんなには感じないのだろうか……人間って不便だな。
しかし私が止まる様に言ったことで異常事態であることは伝わった様で、誰も逆らったりせずに階段を降り切った部屋の入口手前で一行は止まった。
そして私が指さした方を見ると、愛美さんが言った様に明るく、やや広めの部屋の様な開けた場所になっていて、ロキの神力で作られた魔獣が地面からせりあがってくるのが見える。


やけに明るいと思ったんだよなぁ……。


「……うわ、何あれ……」


桜子と朋美が、その魔獣を見て嫌悪感を露わにした。
何しろその魔獣の顔は、まさしくロキそのものだったのだから仕方ない。
大分前に流行った人面犬を彷彿とさせるその姿に、他のみんなも気味が悪い、という顔をしていた。


「……わかったでしょ、あのクソが悪趣味だって言う理由」
「そうだね……確かに人の嫌がることが大好きって言うのがわかる気がする」


後ろからは襲ってこないだけ、まだマシなのかもしれないが……あれを相手にするのは正直気持ち悪い。
そんな私の考えが伝わったのか、みんなは武器を構えて一歩前に出ようとした。


「……悪いんだけど、今回はみんなで戦おうか」


私が観念してそう言って飛び出すと、みんなも堰を切った様に飛び出し、部屋の中は乱戦状態になった。

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