やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記
第53話
「明日香……泣いたのか?泣くほど辛いなら言ってくれればいいのに」
「お嬢……大丈夫ですか?」
トイレから出ると、大輝くんと望月が外で私を待っていた。
二人は心の底から心配してくれているのだろう。
だけど私は、どうしても私なんか今日別に必要ないんじゃないか、という考えが拭いきれずにいる。
確かに私は昔から積極的な方ではなかったし、タイミングを逃してしまってさっきみたいに乗り遅れることも割とよくあった気がする。
そんな私があの時大輝くんを襲った時は、それこそ大冒険をしたなと今でも思うくらいだ。
しかし今の私は、色々考えすぎてあの時の様な勇気も出ないし、冒険もできない。
「だ、大丈夫よ。それよりトイレの前で待つなんて、ちょっと非常識じゃないかしら」
別に、デリケートな用事ではなかったからこんな風に言う必要はなかったはずなのに、先ほどの出来事がちらついて言葉の端々にトゲが出てしまう。
だって私は、小用の後きんつばを食べていただけなのだから。
「おいおい明日香……そんな言い方ないだろ。和歌さんはこれでも凄い心配してたんだから……」
「大輝!……いいんだ」
望月が少し険しい顔で大輝くんを止める。
大輝くんの言っていることは正しいと思う。
望月が面白半分で私のトイレを待つなんてことはあり得ないのだし、私の方こそ配慮が足りないことを言っているという自覚はあった。
「だけど……」
「お嬢、すみませんでした。仰る通り、私に配慮が足りなかった様です。以後気を付けますので……」
心底申し訳なさそうな顔をして、望月が頭を下げる。
望月は悪くないはずなのに。
「あ……」
「……早く戻って来いよ。もうすぐ夕飯だってさ」
少々納得いかない、という表情をした大輝くんだったが、望月と連れ立って応接間に戻って行き、私はまたも置いて行かれてしまった。
被害妄想も甚だしいと思う一方で、何で大輝くんは私にこんなにも厳しくするのか、という思いが芽生え始めている。
こんなにも疲弊してきている私の心を、もっと大事にしてくれてもいいのに、と。
身勝手極まりない言い分だというのは頭では理解できている。
感情が追い付かないというのはこういう時に用いる表現だったのかと、私は昔何かの漫画で読んだワンシーンを思い出していた。
大輝くんは、私にとっての王子様ではなかったのかもしれない、なんてありえないことまで考えてしまう。
「旨いだろ、大輝くん。ここの鰻は絶品なんだぜ」
「旨いですねぇ……正直なこと言っちゃうと俺、鰻って苦手だったんですけど……これならいくらでも食えますよ」
「おお、そうかそうか!!そこまで喜んでくれるなら頼んだ甲斐あったってもんだ!なぁ望月!!」
「ええ、いい食べっぷりだと思います」
応接間では既に食事が始まっていた。
大輝くんを中心にして、いつになく賑やかな食卓。
私も席につくと、望月は先ほどのことなどなかったかの様にいつも通り、私に箸を手渡してくる。
「冷めてしまってはもったいないですので、どうぞお熱いうちに」
「……ありがとう」
「あれ、お嬢……口元に何かついていますが」
「え?」
望月が失礼、と言って私の口元に触れる。
「あんこ……?」
「何だ明日香、お前便所でおやつ食ってたのか?……あだっ!」
父がデリカシー皆無の発言をして、母に頭をはたかれている。
まさかこの私が、口元にあんこなんて……。
便所菓子の痕跡を残してしまうなんて。
「そんなわけないでしょう、全く。あなたはそこの雑貨屋でデリカシーでも探して買ってきてください」
「そんなもん売ってるわけねぇだろ……」
そんな二人のやり取りを見て、大輝くんも望月も爆笑だ。
なのに私は、痕跡を残してしまったという事実に囚われてもう頭が真っ白になっていた。
トイレで一人泣きながらきんつばを食べていた、なんてことを大輝くんに知られたら、私はどう思われるんだろう。
母がそんなことを知ったら、私は大輝くんの前で公開処刑をされるのではないか。
そう考えるともう、頭の中は負のスパイラルだった。
様々なネガティブ思考が渦巻いて頭を満たしていく様だ。
「こ、この私が便所菓子?あり、ありえないわ。そうでしょう、大輝くん。ねぇ、望月」
「あ、明日香?便所菓子なんて言葉は聞いたことないぞ?」
「お嬢、どうしたんですか……顔色が……」
「ふ、ふざけるのも大概にしてほしいわね、この私が!宮本明日香が!便所できんつばなんて食べるなんてことがあるわけがない、ないわ……!」
「明日香、お前……めっちゃ目が泳いでるぞ……」
「!?」
語るに落ちるとはこのことか。
大輝くんの前で無様を晒した私はこれから、便所女として一生を過ごさなくてはならないのか。
意味不明な思考が渦巻いて、頭の中を徐々に支配して行く。
「明日香……あなたまさか本当にお手洗いで……?」
「え、冗談のつもりで言ったのにお前、本当に便所で菓子食ってたのか。まぁ確かにお前、あのきんつば好きだもんなぁ。だからって便所でまで食わなくても……いてぇ!!」
父の軽口にまたも母が頭をはたく。
今度は拳骨の様だ。
そんな光景すらももう、私には他人事にしか見えていなかった。
「あなたは……全く、本当にデリカシーのない……」
「ま、まぁほら……そういう気分の時あるよな。俺もたまに……えっと……そう、チョコ!チョコ持ってトイレ入って食べたりとか……」
今度は大輝くんが必死に、フォローにならないフォローをしようとしている。
だけど、大輝くんは自分が嘘の下手な人間だということを、まだ自覚していないのだろう。
「嘘つき……」
「え?」
私はもう限界だった。
この言い知れぬ孤独感と疎外感。
それら全てから逃げるという選択肢。
「ちょっと、明日香!?」
「お、おい!?」
「お嬢!?」
みんなが止めるのも構わず、私は応接間から飛び出していた。
何処をどう歩いたのか、走ったのか。
私は近所の公園にいた。
街灯の明かりで足元を見ると、靴は履いている様だった。
あんな状況にあってもまだ、靴を履いて出るくらいの冷静さを持っていたことに私は少しだけ驚いた。
携帯は置いてきてしまった様だが、財布は手元にある。
ということは、部屋にも一度寄ったのか。
何で携帯だけ置いてきたのだろう。
色々と意味不明だ。
睦月が色々イタズラしてる訳でもないのに、この状況。
大体睦月は私にいたずらなんてしない。
被害妄想もいいところだ。
あとで睦月に謝らなければ。
……いや、それこそ意味不明だ。
謝られた睦月が困惑するかもしれないし、やめておこう。
「はぁ……こんなとこにいたのか。お前、どうしたんだ?今日ずっと変だったけど」
今一番聞きたくて、でも一番聞きたくなかった声がする。
携帯置いてきたのに、何でわかったのだろうか。
そして他に追いかけてきた人間はいない様だ。
「……何でもないって言ったでしょ」
「……んなわけあるか。誰が見ても変だって。お前、俺と同じくらい顔に出るタイプなんだから」
「…………」
大輝くんみたいな人間ホワイトボードに言われるほど、私は顔に出ていたのだろうか。
そう考えると少しショックだった。
「ぐ、その顔やめろよ……俺だって傷つくことくらいあるんだぞ」
「……そんなことより、一人で来たの?」
「ん?ああ、まぁな。和歌さんも最初は追おうとしたんだけど、お母さんが俺一人で行ってくれって」
「…………」
あの母は全て見透かしているのだろう。
そう考えると腹立たしかった。
昔からそうだ。
何でもわかってます、というあの顔。
私と同じ顔をして、私のことなど全てお見通しだというあの顔。
あの母が褒められたりするのが、私は気に入らない。
私をがんじがらめにして縛り付けた過去。
母のせいで私は、こうなったと思っている。
こんなに意味不明に我儘に、傲慢に育ってしまったのはあの母のせいだと。
あの母のせいで私は社交性も面白みもない人間になってしまったのだと。
「なぁ明日香……何があったのかわからないけどさ……俺で良かったら、何でも話してくれよ。明日香の力になれないのは、彼氏として辛い」
「…………」
大輝くんの、これ以上ないほどの本音なんだろう。
嘘がある様にも思えない。
気を遣ってます、という感じが見え隠れしてしまうのも、睦月が言うところの大輝くんの可愛いところなのだろう。
だけど私は、そんな風に気を遣わせてしまっているというこの現状がもう納得できない。
私は完璧だったはずだ。
それが今日、一気に崩れてしまって便所菓子キャラになってしまっているのだ。
「私は……」
「うん。無理しなくていいからな」
私の隣に座って、大輝くんが私の頭を抱く。
大輝くんの匂いがする。
「私はお手洗いで、きんつばを……」
「う、うん……」
何だろう、大輝くんの体から振動が。
気になって大輝くんの顔を見上げると、明らかに笑いを堪えている様に見える。
「……そんなに、おかしいの?」
「あ、いや……ち、違うんだよ。そんなつまんないこと気にしてる明日香が滑稽で可愛いなと」
「滑稽!?」
この私が、滑稽?
つまらないこと?
トイレで泣きながらきんつばを食べていたということが?
「大輝くんはわかってない!!私が!!どんな思いで泣きながらトイレできんつばを食べていたと思っているの!?」
「お、落ち着け、俺が悪かったから……」
「何が悪いって思ってるの!?どうせ大輝くんだって、私のことを怪奇便所菓子とか思ってバカにしてるんでしょ!?」
「ぶふっ!……いやすまない……そ、そんなことは思ってないから……」
怪奇便所菓子がそんなにおかしかったのか、大輝くんはたまらず吹き出していた。
「何笑い堪えてんのよ!!笑いたければ笑えば!?そしてきんつばの包みの様にポイ捨てしたらいいのよ!!こんな惨めな女ぁ!!」
正直、自分でも何を言っているのかわからなかった。
きんつばの包みの様にポイ捨てって何だ?
怪奇便所菓子って、そんな妖怪聞いたこともない。
しかし言いながら私はまたも涙を流していた。
そして一度流れると、もう溢れて止まらない。
あんな意味不明なことを叫んだ挙句に泣き出す様なめんどくさい女、大輝くんはどう思うんだろう。
「明日香……ごめん。俺が悪かったな」
「何がよ……」
「いや……理由はわからないけど、明日香はずっと苦しかったんだよな?」
「……本当、わかってない」
「いや……理由は確かにわからないけど……苦しんでたのは明白だろ」
「…………」
「お母さん、心配してたぞ」
「……嘘よ。あの人はそんな風に私を気遣ったりなんか……」
「ふむ……」
唸って、大輝くんは考え込む。
大輝くんに考えさせるのは危険だって日中思ったはずなのに、私は何をしているんだろう。
「今日って、金曜だっけ?」
「……そうだけど、それが何?」
私には大輝くんが何を考えているのか、全くわからない。
しかし私が答えると、大輝くんは何かを思いついた様だった。
「そうか……なら」
抱きしめていた手を離して、大輝くんがいたずらっぽく笑う。
何でこのタイミングで、私の好きな顔をするんだろう。
あざとさ満点すぎる。
「確かめてみるか?」
「……何を?それに確かめるって……」
「まぁ何だ、いいからついてこいよ」
そう言って大輝くんは立ち上がり、私に手を差し伸べた。
何を考えているのかわからないが、私は大輝くんの手を取り、大輝くんに任せてみることにした。
たまには自棄を起こして、ハチャメチャしてみるのも、いいかもしれないと。
「お嬢……大丈夫ですか?」
トイレから出ると、大輝くんと望月が外で私を待っていた。
二人は心の底から心配してくれているのだろう。
だけど私は、どうしても私なんか今日別に必要ないんじゃないか、という考えが拭いきれずにいる。
確かに私は昔から積極的な方ではなかったし、タイミングを逃してしまってさっきみたいに乗り遅れることも割とよくあった気がする。
そんな私があの時大輝くんを襲った時は、それこそ大冒険をしたなと今でも思うくらいだ。
しかし今の私は、色々考えすぎてあの時の様な勇気も出ないし、冒険もできない。
「だ、大丈夫よ。それよりトイレの前で待つなんて、ちょっと非常識じゃないかしら」
別に、デリケートな用事ではなかったからこんな風に言う必要はなかったはずなのに、先ほどの出来事がちらついて言葉の端々にトゲが出てしまう。
だって私は、小用の後きんつばを食べていただけなのだから。
「おいおい明日香……そんな言い方ないだろ。和歌さんはこれでも凄い心配してたんだから……」
「大輝!……いいんだ」
望月が少し険しい顔で大輝くんを止める。
大輝くんの言っていることは正しいと思う。
望月が面白半分で私のトイレを待つなんてことはあり得ないのだし、私の方こそ配慮が足りないことを言っているという自覚はあった。
「だけど……」
「お嬢、すみませんでした。仰る通り、私に配慮が足りなかった様です。以後気を付けますので……」
心底申し訳なさそうな顔をして、望月が頭を下げる。
望月は悪くないはずなのに。
「あ……」
「……早く戻って来いよ。もうすぐ夕飯だってさ」
少々納得いかない、という表情をした大輝くんだったが、望月と連れ立って応接間に戻って行き、私はまたも置いて行かれてしまった。
被害妄想も甚だしいと思う一方で、何で大輝くんは私にこんなにも厳しくするのか、という思いが芽生え始めている。
こんなにも疲弊してきている私の心を、もっと大事にしてくれてもいいのに、と。
身勝手極まりない言い分だというのは頭では理解できている。
感情が追い付かないというのはこういう時に用いる表現だったのかと、私は昔何かの漫画で読んだワンシーンを思い出していた。
大輝くんは、私にとっての王子様ではなかったのかもしれない、なんてありえないことまで考えてしまう。
「旨いだろ、大輝くん。ここの鰻は絶品なんだぜ」
「旨いですねぇ……正直なこと言っちゃうと俺、鰻って苦手だったんですけど……これならいくらでも食えますよ」
「おお、そうかそうか!!そこまで喜んでくれるなら頼んだ甲斐あったってもんだ!なぁ望月!!」
「ええ、いい食べっぷりだと思います」
応接間では既に食事が始まっていた。
大輝くんを中心にして、いつになく賑やかな食卓。
私も席につくと、望月は先ほどのことなどなかったかの様にいつも通り、私に箸を手渡してくる。
「冷めてしまってはもったいないですので、どうぞお熱いうちに」
「……ありがとう」
「あれ、お嬢……口元に何かついていますが」
「え?」
望月が失礼、と言って私の口元に触れる。
「あんこ……?」
「何だ明日香、お前便所でおやつ食ってたのか?……あだっ!」
父がデリカシー皆無の発言をして、母に頭をはたかれている。
まさかこの私が、口元にあんこなんて……。
便所菓子の痕跡を残してしまうなんて。
「そんなわけないでしょう、全く。あなたはそこの雑貨屋でデリカシーでも探して買ってきてください」
「そんなもん売ってるわけねぇだろ……」
そんな二人のやり取りを見て、大輝くんも望月も爆笑だ。
なのに私は、痕跡を残してしまったという事実に囚われてもう頭が真っ白になっていた。
トイレで一人泣きながらきんつばを食べていた、なんてことを大輝くんに知られたら、私はどう思われるんだろう。
母がそんなことを知ったら、私は大輝くんの前で公開処刑をされるのではないか。
そう考えるともう、頭の中は負のスパイラルだった。
様々なネガティブ思考が渦巻いて頭を満たしていく様だ。
「こ、この私が便所菓子?あり、ありえないわ。そうでしょう、大輝くん。ねぇ、望月」
「あ、明日香?便所菓子なんて言葉は聞いたことないぞ?」
「お嬢、どうしたんですか……顔色が……」
「ふ、ふざけるのも大概にしてほしいわね、この私が!宮本明日香が!便所できんつばなんて食べるなんてことがあるわけがない、ないわ……!」
「明日香、お前……めっちゃ目が泳いでるぞ……」
「!?」
語るに落ちるとはこのことか。
大輝くんの前で無様を晒した私はこれから、便所女として一生を過ごさなくてはならないのか。
意味不明な思考が渦巻いて、頭の中を徐々に支配して行く。
「明日香……あなたまさか本当にお手洗いで……?」
「え、冗談のつもりで言ったのにお前、本当に便所で菓子食ってたのか。まぁ確かにお前、あのきんつば好きだもんなぁ。だからって便所でまで食わなくても……いてぇ!!」
父の軽口にまたも母が頭をはたく。
今度は拳骨の様だ。
そんな光景すらももう、私には他人事にしか見えていなかった。
「あなたは……全く、本当にデリカシーのない……」
「ま、まぁほら……そういう気分の時あるよな。俺もたまに……えっと……そう、チョコ!チョコ持ってトイレ入って食べたりとか……」
今度は大輝くんが必死に、フォローにならないフォローをしようとしている。
だけど、大輝くんは自分が嘘の下手な人間だということを、まだ自覚していないのだろう。
「嘘つき……」
「え?」
私はもう限界だった。
この言い知れぬ孤独感と疎外感。
それら全てから逃げるという選択肢。
「ちょっと、明日香!?」
「お、おい!?」
「お嬢!?」
みんなが止めるのも構わず、私は応接間から飛び出していた。
何処をどう歩いたのか、走ったのか。
私は近所の公園にいた。
街灯の明かりで足元を見ると、靴は履いている様だった。
あんな状況にあってもまだ、靴を履いて出るくらいの冷静さを持っていたことに私は少しだけ驚いた。
携帯は置いてきてしまった様だが、財布は手元にある。
ということは、部屋にも一度寄ったのか。
何で携帯だけ置いてきたのだろう。
色々と意味不明だ。
睦月が色々イタズラしてる訳でもないのに、この状況。
大体睦月は私にいたずらなんてしない。
被害妄想もいいところだ。
あとで睦月に謝らなければ。
……いや、それこそ意味不明だ。
謝られた睦月が困惑するかもしれないし、やめておこう。
「はぁ……こんなとこにいたのか。お前、どうしたんだ?今日ずっと変だったけど」
今一番聞きたくて、でも一番聞きたくなかった声がする。
携帯置いてきたのに、何でわかったのだろうか。
そして他に追いかけてきた人間はいない様だ。
「……何でもないって言ったでしょ」
「……んなわけあるか。誰が見ても変だって。お前、俺と同じくらい顔に出るタイプなんだから」
「…………」
大輝くんみたいな人間ホワイトボードに言われるほど、私は顔に出ていたのだろうか。
そう考えると少しショックだった。
「ぐ、その顔やめろよ……俺だって傷つくことくらいあるんだぞ」
「……そんなことより、一人で来たの?」
「ん?ああ、まぁな。和歌さんも最初は追おうとしたんだけど、お母さんが俺一人で行ってくれって」
「…………」
あの母は全て見透かしているのだろう。
そう考えると腹立たしかった。
昔からそうだ。
何でもわかってます、というあの顔。
私と同じ顔をして、私のことなど全てお見通しだというあの顔。
あの母が褒められたりするのが、私は気に入らない。
私をがんじがらめにして縛り付けた過去。
母のせいで私は、こうなったと思っている。
こんなに意味不明に我儘に、傲慢に育ってしまったのはあの母のせいだと。
あの母のせいで私は社交性も面白みもない人間になってしまったのだと。
「なぁ明日香……何があったのかわからないけどさ……俺で良かったら、何でも話してくれよ。明日香の力になれないのは、彼氏として辛い」
「…………」
大輝くんの、これ以上ないほどの本音なんだろう。
嘘がある様にも思えない。
気を遣ってます、という感じが見え隠れしてしまうのも、睦月が言うところの大輝くんの可愛いところなのだろう。
だけど私は、そんな風に気を遣わせてしまっているというこの現状がもう納得できない。
私は完璧だったはずだ。
それが今日、一気に崩れてしまって便所菓子キャラになってしまっているのだ。
「私は……」
「うん。無理しなくていいからな」
私の隣に座って、大輝くんが私の頭を抱く。
大輝くんの匂いがする。
「私はお手洗いで、きんつばを……」
「う、うん……」
何だろう、大輝くんの体から振動が。
気になって大輝くんの顔を見上げると、明らかに笑いを堪えている様に見える。
「……そんなに、おかしいの?」
「あ、いや……ち、違うんだよ。そんなつまんないこと気にしてる明日香が滑稽で可愛いなと」
「滑稽!?」
この私が、滑稽?
つまらないこと?
トイレで泣きながらきんつばを食べていたということが?
「大輝くんはわかってない!!私が!!どんな思いで泣きながらトイレできんつばを食べていたと思っているの!?」
「お、落ち着け、俺が悪かったから……」
「何が悪いって思ってるの!?どうせ大輝くんだって、私のことを怪奇便所菓子とか思ってバカにしてるんでしょ!?」
「ぶふっ!……いやすまない……そ、そんなことは思ってないから……」
怪奇便所菓子がそんなにおかしかったのか、大輝くんはたまらず吹き出していた。
「何笑い堪えてんのよ!!笑いたければ笑えば!?そしてきんつばの包みの様にポイ捨てしたらいいのよ!!こんな惨めな女ぁ!!」
正直、自分でも何を言っているのかわからなかった。
きんつばの包みの様にポイ捨てって何だ?
怪奇便所菓子って、そんな妖怪聞いたこともない。
しかし言いながら私はまたも涙を流していた。
そして一度流れると、もう溢れて止まらない。
あんな意味不明なことを叫んだ挙句に泣き出す様なめんどくさい女、大輝くんはどう思うんだろう。
「明日香……ごめん。俺が悪かったな」
「何がよ……」
「いや……理由はわからないけど、明日香はずっと苦しかったんだよな?」
「……本当、わかってない」
「いや……理由は確かにわからないけど……苦しんでたのは明白だろ」
「…………」
「お母さん、心配してたぞ」
「……嘘よ。あの人はそんな風に私を気遣ったりなんか……」
「ふむ……」
唸って、大輝くんは考え込む。
大輝くんに考えさせるのは危険だって日中思ったはずなのに、私は何をしているんだろう。
「今日って、金曜だっけ?」
「……そうだけど、それが何?」
私には大輝くんが何を考えているのか、全くわからない。
しかし私が答えると、大輝くんは何かを思いついた様だった。
「そうか……なら」
抱きしめていた手を離して、大輝くんがいたずらっぽく笑う。
何でこのタイミングで、私の好きな顔をするんだろう。
あざとさ満点すぎる。
「確かめてみるか?」
「……何を?それに確かめるって……」
「まぁ何だ、いいからついてこいよ」
そう言って大輝くんは立ち上がり、私に手を差し伸べた。
何を考えているのかわからないが、私は大輝くんの手を取り、大輝くんに任せてみることにした。
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