やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第25話

時間はあっという間に過ぎて、今日大輝の学校は卒業式だ。
ちなみに私の学校は昨日が卒業式だったから、今日は既に春休みということになる。
昼過ぎから大輝や朋美、その他のお友達と朋美の壮行会をやろうと誘われているが、それまではすることもなく、暇だった。


実はあの大輝とタコ坊主のバトルにおいて、一つだけ気になることがあって、私はそれを確認するべく神界に行くつもりでいる。


「ママ、私ちょっと昼寝するね。お昼ご飯は今日、大輝たちと食べるから私の分はいいや」
「あら、そうなのね。春休みだからって、あんまり寝てばっかりいると太っちゃうわよ?」
「大輝の受験が落ち着いて、疲れが出たのかもね。気を付けるよ」


家の掃除をしているママに挨拶をして自室に戻って、昼寝という名の里帰りの準備をする。
あの件について誰か知っているやつがいればいいんだけど……いや、見ていたとしても知ってるとは限らないから、割と急ぐ必要はあるな。




「ん?スルーズか。どうかしたのか?」


今度は久しぶりでも何でもなく、どうかしたのか、ときたもんだ。
私がいること自体は、ヘイムダルの中でもはやそこまで珍しくなくなっているのかもしれない。
そしてヘイムダルは安定の掃除のおじさんっぷり。


愛用の箒で相変わらずサッササッサやっている。


「まぁ、ちょっと確認したいことがね」
「そうなのか、だがノルンは今出かけているみたいだぞ」
「え?マジ?」


あの引きこもり部隊筆頭みたいなノルンが?
一体どんな用事で……。


「いや、果てしなく意外そうな顔をしている様だが、ただの食材の買出しだぞ。少し珍しいものが手に入りそうだとか言ってたか」
「あれ、そういうのって普段あんたがやってなかった?」
「そうなんだが……実際に自分の目で見て選びたい、だそうだ」
「へぇ……まぁいいや、ヴァルハラ入ってていいでしょ?」
「まだオーディン様もお昼寝の時間ではないからな、大丈夫だろう」


箒での掃き掃除を続けながら、左手でヴァルハラの入口を指す。
ふとあの兜の下がレレレのおじさんみたいな顔だったら面白いな、なんて考えて吹き出しそうになる。
実際あの鎧の下を見たことあるのはオーディンとノルンだけだって話で、私は見たことがない。


どうでもいいが、あの鎧年中着てるみたいだけど……剣道部とかの防具の匂いみたいになったりしないのかな。
ノルン辺りが、やだー!ヘイムダルくっさーい!とか言ってたら笑えるんだが。




「やぁ、スルーズ。久しぶりだね」
「うげ……」
「うげって……」


思わずうめき声が漏れる。
ロキのやつがエントランスでニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべてこちらを見ていたからだ。


「そういやここに滞在してんだっけ?お前もノルンを見習って出かければいいのに」
「まぁ今日は何て言うか……用事がちょっとね」


何ともはっきりしない態度だ。
先日私が脅したからか?


「で、今日は何の悪だくみなわけ?」


こういう言い方をすると、ロキは何故か喜ぶ節がある。
本気で気持ち悪いと思うのだが、ついついやってしまう。


「いや、悪だくみなんてそんな……それより、最近どうだい?何か変化とか」
「変化ね……変化って言うかまぁ、一個気になることはあるんだけどさ。それがどうかしたのか?」
「ふむ……ならやっぱり……」
「やっぱり?何のことを言ってるんだ?」
「あ、いや」


まずい、という顔をしながらも隠そうという様子ではない。
こいつは何か知っているんだ、と直感した。
まぁ、わざとそういう方向に仕向ける為に、お茶目なミスしちゃう私☆みたいなのを演出したとも考えられるけど……。


「おいロキ、何を隠している?内容によっては……」


先日の様に、私がオーラを出して威嚇すると、ロキは慌てた様な素振りを見せた。
話そうという意志はある様だ。


「まぁ、落ち着いてくれよ。別に隠していたってわけじゃないんだ。ただ……」
「聞かれなかったから黙ってました、とか言ったらぶん殴るけど、大丈夫?」
「……はは、敵わないね」


苦笑してロキがエントランスの椅子に腰かける。
私が座っていいって言ってないのに、何勝手に座ってんのこいつ。


「座らないか?」


もう一個空いている椅子を見て、ロキが言う。
もちろん言われなくても座るけど。
何ならあんたが椅子になれ。


「君の知りたいことは、大体わかっているよ。ただその前に色々話しておきたいんだけど、いいかな?」
「色々ね……あんまりいい予感はしないけど、聞かせてもらおうか」


私もとりあえず椅子にかけて、ロキが話し出すのを待つ。
しかし、こいつ一体何を知ってるんだろう。
何でも知ってます、とか言うつもりならこの場で全部吐き出させてやってもいいんだけど。


「じゃあ早速……実を言うと僕は、君の大事な大輝と、桜井朋美の父親のバトルを見ていたんだけど……何でだと思う?」


ニヤケ顔全開の、状況を楽しむかの様なこのロキの顔。
ああ……ぶん殴りたい。
落ち着け私……今こいつを殴っても何の解決にもならないじゃないか。


「やけに持って回った言い方をするんだな。話したいなら話せばいいじゃないか」


軽く深呼吸をして、お前の策略に乗ってやるよ、という余裕を見せる。
こう見えて私は寛大なんだ。
その寛大はちょっとしたことですぐに消えてなくなるんだけどな。


「じゃあ、そうさせてもらおうかな。聞いたらきっと、君は興味を持たざるを得なくなるんだから。僕はね、ちょっと前に一つの情報を仕入れていたんだよ。情報提供者については話すことができないけど、かなりの信憑性を持った話でね」
「何だそりゃ。黙ってなきゃいけない様な裏ルートだってことか?相変わらずなんだな、お前」
「まぁ、そういうことでいいよ。今回重要なのはそこじゃないからさ。知ってるかい?桜井朋美の父親が錬金術師だったって話」
「は?錬金術師?この現代にか?」


正直、突拍子もない話だった。
だって、錬金術師って……ラグナロク終わって大体が絶滅して、今錬金術師を名乗るやつなんて超常現象の類とは無関係なのばっかりなんだから。
まぁ、逆に言えばラグナロク前後まではちゃんとした、本物の錬金術師がいたっていう話ではあるんだけど……ん?


「おい、それって……」
「気づいたかな。厳密には、あの人物が錬金術師なんじゃなくて、あの肉体に宿っているのがその錬金術師の魂だって話なんだけど。彼はね、ラグナロク前に生きていた錬金術師なんだ。それも、かなりの実力を持っていたほどの人間でね」
「だけど、誰かに憑依って神でも私特有の能力のはずだ。お前だってもちろんできないし、あのオーディンでさえできなかったんだぞ?」
「そうだね、君の言う通り僕もその他の神々も、君以外は誰一人、そんな能力を持ってないし、試みたところで上手く行かない。ところが、彼はその理論を完成させていたみたいなんだ。君と同じものかどうかはわからないが、理屈で言えばおそらく同種のものになるだろう」
「とてもじゃないが、信じられない様な話だな。あの親父が錬金術師だって言うんだったら、この時代に来た目的は?色々わからないことだらけじゃないか」
「まぁ、色々あるっぽいんだけどね……まず、これも驚く様な話かもしれないが、桜井朋美はホムンクルスだ」
「ホムンクルス……って、所謂人造人間だよな?朋美が?いや、おかしいだろ。だって、朋美はもう十五年生きてるんだぞ?ホムンクルスって普通、生きられても数年って言われてるじゃないか」
「気持ちはわかる。だから聞いておいてもらいたいんだ。実は、あの錬金術師にとって、桜井朋美は自身の最高傑作だった。ついでに言っておくと、彼の奥さんもホムンクルスだよ」
「…………」


何て言うか、突拍子もなさすぎて頭がついていかない。
錬金術師の父親と、ホムンクルスの親子?
何だそれ、ちょっと面白いラノベの一本でも書けそうな話だぞ。


「最高傑作と言うだけあって、自我の割合だとか寿命、思考、行動原理に至るまで、従来のホムンクルスとは違う部分が多々ある。そして、彼は自らの魂を何かに封印して現代で他の人間の体に宿るわけなんだけど……桜井朋美の母に朋美を受精させて、その瞬間に朋美の母を体ごと封印したという話らしい」
「……まぁ、普通に考えて何万年も人間の肉体がもつわけないからな。それで、現代で朋美を生ませたってことか。生まれてもすぐ死んじゃうんじゃ困るだろうし、丈夫にする為に受精卵に魔法だか研究成果だかをかけたってことなんだろうな」
「そうなるね。で、現代でって言う理由はまず一つに平和な時代であることを望んだから。これは、桜井朋美が順調に育ってもらわないと困る理由があるからなんだけどね。そして何万年もの間、桜井朋美の母の体が見つからなかったのも理由があるらしいけど、僕はそこまで聞かされていないからわからないんだけどね、申し訳ないが」


まぁ、それがわかったところで今もう既にこの現代で生きているんだし、どうしようということもない。
本人に真っ向から聞いたとしても、私がただの女子中学生だと思われてる以上ははぐらかされて終わるんだろうし。


「で、その桜井朋美なんだけど……当然ながら自分が人間であることを疑っている様子はない。父親が人間として育てたからなんだろうけどね。ただ、その桜井朋美の体内には、通常では感知できない様な魔力が内包されているんだ。そのくせ量は膨大っていう厄介なものがね」
「魔力って……何の為に?膨大って言うからには、安全な代物じゃないってことか?」
「実は、その何の為に、っていうのを探りたくて、僕は大輝と父親のバトルを見ていたんだ。ああいうのって大抵、精神が著しく不安定になったりすると発動することがあるだろ?状況としてはぴったりじゃないか。そして、そうなった場合に父親がどういう動きをするのか。それが見られれば、魔力を埋め込まれた原因なんかもわかるんじゃないかと思ってね。ただ残念なことにそれは結果としてはわからずじまいなんだけど」


確かにそれは少し気になる。
大輝に朋美をちゃんと迎えに来い、なんて言うくらいだから朋美を殺してしまう類のものではないと思うが、安全だとは思えない。


「魔力が仮に暴走したり、ってことがあった場合の被害については想像もつかない。でかいだけで全く無害、ってことも可能性としてはゼロじゃない。まぁ、ないとは思うけどね」


そんなドッキリみたいなことがあったら、それはそれで平和でいいんだけどな。
だけどあのタコ坊主がそんな平和な仕掛けをしているとも思えないし、用心しておくに越したことはないわけだ。
しかし、あの朋美父の強さの秘密はわかったが……まさかこんな秘密が隠されていたなんて。


「ちなみに、朋美と母親はあとどれくらい生きられるんだ?」
「ああ、説明していなかったね。さっき言った様に、従来のホムンクルスと違って割と長生きなんだけど、彼の理論上では普通の人間と同じ。つまり、病気や事故なんかの要因が絡まなければ一般人と変わらないだけの長さ生きていられるみたいだね」
「そうか、それを聞いてひとまずは安心した。まさか迎えに来いっていうのが死体の引き取りに来いって意味だったら、なんて一瞬考えてしまったから」


などと呑気なことを言ってはいるが、仮に朋美が短命だった場合に懸念されるのは、それに伴って大輝が死んでしまう危険性だ。
今までの運命から言って、私と少なくとももう一人以上は繋がっていなければ大輝が死んでしまう。
そして朋美との関係がたとえば死によって切れた場合、その後で大輝が死ぬということは十分に考えられた。


死は基本的に突発的なものだし、朋美がいつ死んでしまうかわからない状況では手の打ち様がない。
そういう意味では、まだ今回は救いがある方だと思った。


「他に聞きたいことはあるかな?」
「いや……ああ、そうだノルンは、出かけてるんだっけ?」


ここまで色々聞いてしまった後でノルンに何か用事があるのかと言われると微妙ではあるが、一応挨拶くらいはしておいてもいいか。


「そうだね、けどもうすぐ戻ってくると思うよ。……おっと、噂をすれば、ってやつだね。彼女も僕のことは快く思っていないんだった」


そう言ってロキは席を立つ。
何だかいつにも増してニヤニヤしてて気持ちが悪い。


「じゃあ、僕は伝えることも伝えたし、そろそろ失礼しようかな。君は信じないかもしれないけど、こう見えて僕は君たちを応援しているんだ。本当だよ?だから是非是非頑張ってくれ」


うわ、マジで気持ち悪い。
そして今日一番信じられないセリフな気がする。
ロキが自分の部屋に引きこもったのを確認すると、その後すぐノルンが帰ってきて、両手に抱えた食材の多さがノルンの体格に見合わな過ぎて笑ってしまう。


「おいおい、前見えてるの?危ないから半分持ってやるよ」
「あ、スルーズ?ありがとう、つい夢中になっていっぱい持ってきちゃった」


私が半分荷物を引き受けてやると、ノルンはぴょこぴょこしながらエントランスの隅に荷物を置いて、ここに置いといて、と私にも指示した。
もしかしてノルンってエントランスで生活してんの?


「今、お茶入れるから待ってて」
「ああ、そんなに時間ないしお構いなく。あんたが飲みたいなら別に構わないけど」


そう言うとノルンはお茶を持ってすぐに現れる。
考えてみれば人間界でやるのに比べたら、力でちゃちゃっとやっちゃえばいいだけだから、時間かからないんだよな。


「で、何か用事だったんでしょ?ロキとも話してたみたいだけど」
「ああ、まぁ大体はそれで解決しちゃったって言うか……あ、でも聞いておきたいことがあるんだ」
「ふむふむ、言ってみそ?」


本当好きだな、こいつ……。
今もう流行ってないって教えてやるべきなんだろうか。


「えっと、朋美のこと。ロキとかから聞いてないか?」
「何で私がロキと仲良しこよししてないといけないのかな?何が気になるのかわからないけど……」


ノルンでも知らないことがあるのか、まぁそりゃそうだよな。
たとえば男のこととか。
経験皆無のこのお子ちゃま女神は割と知らないことだらけなはずだ。


「途中から声に出てたから。そういうのはもう少し周りに配慮してやってもらっていい?」
「ああ、ごめん。当然わざとだから。んじゃまぁ、簡単に説明するんだけど」


私はノルンに、朋美の父親の正体を明かし、朋美やその母がホムンクルスであることなどを簡単に伝える。
聞いているうちに、何それすごい、みたいな顔になってるノルンだったが、聞き終えてなるほど、という顔をした。


「話は大体わかった。ロキの情報網ってのが気になるところだけどね、私としては。あれだけ人望ないやつが、何処からこんな話を仕入れてくるのか、って」
「まぁ、気持ちはわかるけどあいつはまず尻尾出さないだろ。必要がなければずっととぼけてるつもりだろうし」
「まぁ、ロキについては別にいいや。朋美に関してはここまで聞いちゃって何だけど、私個人の見解としてはここでこれ以上できることはもうないんじゃない?ってところかな。だって、もう明日には朋美は長崎に行っちゃうんでしょ?」
「そうだな……明日でお別れか……ワープで会いにきたよ!とかやれたら楽なんだけど朋美は私の素性知らないしね。さすがにそういうわけにもいかないから少し寂しくなるな」
「ありゃ……スルーズからそんなおセンチな言葉が出てくるなんて。何か悪いものでも食べたの?」
「バカにしてんの?私にだって何かに愛着を持ったりっていう感情はあるっつーの」


私だって一応心もあるし、脳みそもあるんだ。
ただの戦闘狂みたいに言われるのは極めて心外だし、まぁ人間界での生活も長いから……少し染まってきてる部分は否定できないかもしれない。


しかし、随分と神界に長居してしまった気がする。
そろそろ時間としてはちょうどいいくらいかもしれない、と思ってノルンに時間を聞くと、やはり人間界に戻っていなければならない時間になっていた。


「慌ただしくて悪い、また来るよ。お茶、ご馳走様」
「うん、また来てね。私で出来ることならちゃんと協力するから」


親友に別れを告げて私は人間界に戻る。
今後はまた色々動きもありそうだし、頼りにしているよ。


そして翌日。神界から戻って、朋美の壮行会を楽しんだ次の日。
とは言っても時刻はまだ早朝で、電車の始発なんかが走り始める様な時間だ。
事前に桜井家が早朝に出発すると聞いていたので、私と大輝、野口さんに井原さん、良平くんはこの時間に地下鉄の駅の改札前に待機していた。


「え、み、みんな……?」


今日の主役の朋美がお出ましだ。
何で、という顔で私たちを見て、大輝がカッコつけてサムズアップとかしてたけど、完全に無視されている。
あれ、朋美って大輝のこと嫌いになっちゃった?


そして放置された大輝はタコ坊主と話している様だった。
約束のこととか言われてるけど……さすがに大輝だってそんなすぐに朋美のこと忘れて、なんてことはないだろう。
そんな二人が拳を突き合わせているのを見て、野口さんが目を輝かせている。


井原さんと野口さんが朋美と三人で抱き合っているのを見て、何となく感慨深い気持ちになる。
この光景はもう、しばらく見ることがないのだと。
しかし、ここでちゃんと大輝には一度朋美にお別れしてもらった方がいい、と私は判断して大輝を朋美のところへ行かせた。


「朋美、俺は必ずお前を迎えに行くから。だから、待っててくれ」


そう言って差し伸べた手を、朋美が漸く握り返す。
目尻に光るものが見えた気がする。


「俺……絶対行くから。死んでも……それこそ這いずってでも」
「死んだらさすがに困る……」


私も困るけど、私が何としても死なせない。
その為に今までだって色々してきたんだから。
その後タコ坊主が茹でダコ状態で水を差したが、朋美のお母さんがそれを宥めている様だ。


「やだな……泣くつもりじゃなかったのに」


そう言った朋美の目に、涙が浮かんでいるのが見える。
やはり先ほど大輝をシカトしたのは、これを隠す為だったのか。
でも、泣かなかったらそれはそれでちょっと薄情に見える気がする。


朋美が大輝にキスを別れのしようとして、タコ坊主の前だからか大輝がそれを避けたり、タコ坊主に脅迫されて大輝が覚悟を決めてキスを受け、その後私にもキスをくれたが、とうとう別れの時間が迫った様だった。




「大輝、春海……桜子に圭織に田所くん」


荷物を手にして、朋美が私たちを見る。
良平くん、おまけみたいだな……まぁ、朋美からしたらモブみたいなもんか。
そして示し合わせてたわけでもないけど、全員が右手の親指を立てる。


「またね!!」


そう言って朋美を始めとする桜井家が地下鉄のホームに消えて行った。
朋美のあの涙を見て、私は必ずまた大輝と朋美を引き合わせてみせると心の中で密かに誓った。




その日の晩……日中にしっかり大輝にお仕置きをして、大輝は夕方に帰って行った。
そして夕飯を食べて少し自室で食休み、なんて思って転がっていた時に、急遽異変は起こった。
まず、体が怠い。


神力を発動させてさっと治してしまおうと思ったが、何となく嫌な予感がして力を込めるのを一瞬待つことにする。
何か確証があるわけではないが、何となく躊躇われたのだ。
虫の知らせみたいな感じか?




『緊急ミッション発動!!デデーン!!』




その嫌な予感は的中してしまった様だ。
緊急という言葉に、普段ならまずありえない鳥肌が立つ様な感覚を覚える。
ノルンのあの呑気な声が、私には何となく死刑宣告の様に聞こえた。




『大輝の死亡フラグを【完全に】除去せよ!!』




……何これ、ていうかこれだけ?
あれ?でも確か朋美との心のつながりによってハーレム崩壊は回避できたはずだし、それによって大輝の死亡フラグはなくなったはずじゃ……。
まさか朋美の心が離れた?……いやそれはないはずだ……そんな風には全く見えなかった。
しかし、何の意味もなくこんな伝令が来るなんて考えにくい。


ノルン本人はふざけたやつではあるが、このシステム自体の出来は割とガチだ。
じゃあ、一見ハッピーエンドに見えたあの死亡フラグ回避は一時的なものだった、ということか?
あの大輝が必死に体を張って迎えた結末が不完全だったなんて、大輝らしいっちゃらしいけど……その結果彼が死んじゃうんじゃ意味がない。


そういえばハーレムが成立しても、朋美の転居騒動で大輝の死亡フラグはまた復活したっけ。
ということはつまり……大輝の死亡フラグは現状あくまで【一時的】にしか回避できていない?


だからこのままだとまた死亡フラグは復活してしまう。
そしてわざわざ【完全に】と入れてきたのであれば、このミッションを達成することで一時的だったものを永続的に排除できる、ということになるのか。
とは言っても何すれば良いのやら、皆目見当もつかないんだけど。


ハーレムができれば、大輝は死なないんじゃなかったのかよ……。


しかし、もしも……もしもだ。
今感じているこの倦怠感が、この伝令に関連したものなんだとしたら……。


ここでそれを治してしまうことで、大輝の死を回避できないってこともありえる。
そうなると、もうどうなるのかなんてわからないし、最悪やり直しなんてこともありえるんだろう。
さすがにそれはもう嫌だな……。


ここは何とか我慢しておくのが無難かもしれない。
無闇に動いて全てが台無しになるのだけは避けたいし、ノルンにまず相談しに行くのが先決だ。
もしかしたら根本的な解決には至らないかもしれないけど、それでも何かしら聞けることはあるかもしれないし……。

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