やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第14話

今週の週末デートは、私の念願と言う名の我儘が叶って我が姫沢家で敢行される。
ここまでくれば、あとは私がミスらない限り勝利は確定した様なものだと言えるだろう。
お泊りセットと勉強道具を持ってくる様に大輝にメールで伝えて、もちろん大輝は戸惑うだろうが、


勉強会という名目があれば必ず大輝は来てくれる。
何度も通っている道とは言ってもやはり、一緒にいられる時間が増えるというのは私としても心が躍る。


そして迎えたお泊りデート当日。
大輝が今週井原さんと良平くんのことで大変だったことは知っている。
男よりも歌が好き、みたいなオーラを出していた井原さんが面食いだったという話だ。


正直私や大輝が出る幕はないと思う。
だって、当事者同士での解決以外に解決に至る術はないと私は思っているからだ。
そして、更に正直なことを言うと、他人のことに構っているほど心の余裕はない。


放っておけないんだろうけど、疲れる生き方してるなぁって思う。
だけど、それが宇堂大輝という人間なのだ。




「……って訳なんだけど、どう思う?」
「ふむ……」


ほらね。
自分で何とかしたいって気持ちはあるけど自分の力量はある程度正確に把握していて、その上で対応しきれないから頼りになる彼女を頼っちゃおう、みたいな大輝はとっても可愛い。
私も初めて聞きました、みたいな態度を取らないといけないわけだからちょっとめんどいとか考えないわけでもないが、大輝のこの顔が見られるなら安いものだ。


「俺があれこれ口出す筋合いの話じゃないとは思ってるんだけどさ」
「まぁ、言う通りではあるね。だけど片や親友の話だもん、気になるよね」


大輝のことはちゃんとわかってるよ、と私はアピールして見せる。
ちゃんと聞いてあげてるって姿勢を見せないと、この子は暴走してやっぱ俺一人で何とかするわ、なんて言い出すから。


「そこなんだよ……あいつだって、あんなことになったら気にならないってことはないと思うんだけどな……」
「井原さんね……あの子、割と可愛いよね。大輝、ずっと見てたんでしょ?どうだったの?」


だけど、良平くんのことは良平くんが、井原さんのことは井原さんが何とかしないといけない、ということをあくまで自然に教えてしかも流れをちゃんと変えて目標を少しずつ逸らしてあげる。
こうしないと、延々私からしたらどうでもいい二人の話が続くことになってしまうからだ。


「確かに整った顔してるとは思うけど……そういう目で見てたわけじゃないからな?」
「私より可愛い?」
「んなわけあるか。大体好みじゃないし」


バカバカしい、とでも言いたそうな顔で大輝は否定する。
可愛いなぁ、という思いと今はまだ私だけを見てくれてる、という安心感からふと笑みが零れた。


「ならいいけどね。その事故のあと、よく見てたみたいだから」
「普通に観察してただけだよ。まぁ、俺とか桜井にも落ち度はあったと思うしさ」
「それは否定しないけどね。まぁ、一応言っておくとね……井原さんに限らず、私割と寛大だから浮気の一つくらいは甲斐性だと思って許すと思う」


さて、ここから徐々にまた、ハーレムに誘導する為にやっていかなければならないことが出てくる。
端的に言えば、大輝を結果として少し傷つけてしまうことになるであろうことを。
浮気を許す、と言われた大輝のあの信じられないものを見た、という様な顔。


まぁ、今までの私を見てきたら当然の反応だよね。


「あの……」
「でも、浮気なんかするくらいなら……」
「え?」
「……何でもない。それより、今日はありがとうね」


わざと含みを持たせて、大輝の注意が完全にこちらに向く様仕向ける。
まずは、良平くんと井原さんの話題から切り離すことに成功した。


「え?何だよ、言いかけてやめるとか……気になるだろ」
「いいの、気にしないで?それより、少しお願いがあるんだ」


さて、大輝のトラウマが一個できる。
だけど大輝はここで私のお願いを断らない。
そうできない様に事を運んでいる、というのもあるし、大輝の性格上今日の私の様子を見て、お願いを断ることができないことがわかっている。


「お願いって?」
「……何があっても、私のことちゃんと見てくれる?」
「は?何言ってんだお前、当たり前だろ」
「本当に?」
「どうしたんだお前、今日変だぞ」
「…………」


そう、変なのだ。
もちろん演技だが、ここでいつもと違う私を演出しておかないと、大輝は私のお願いを聞いてくれなくなってしまう。
どうせまたロクでもないこと考えてんだろ、なんて思われて。


「少しね、彼女らしいことしたくって」
「何だその抽象的なの……彼女らしいことって何?」
「束縛、とか」


束縛が彼女らしいってのも何となく違う気がするが、大輝はもうここでそんな疑念をどっかに捨てている。
そして私が言っている束縛というのは、大輝が考えている様な意味ではない。


「まぁ、春海はそういうのあんまりしてこなかったしな。別に少しと言わず、がっつりやってもらって構わないぞ?」


大輝は大輝で、器の大きい彼氏を演出したかったんだろうが、このセリフは自らゴリゴリ墓穴を掘っている行為になっているということに気づいていない。


「そんなこと言って、後悔しない?」
「別に男女で束縛とか、よくある話だろ?」
「そっか……へへ、言質取ったからね?」


毎回決まった流れではあるが、何となくニヤけそうになってしまう。
いやらしくニヤけてしまわない様に気を付けながら、私は大輝に近づいて大輝を抱き上げる。
本当、軽いなぁこの子……ちゃんと食べてるんだろうか。


所謂お姫様抱っこというやつを大輝にしてあげると、大輝は慌てた様な恥ずかしそうな顔をして私を見る。
そのまま頂きたくなっちゃうから、そんな扇情的な顔しないで……。


「あの、ちょっと……」
「暴れないでね、危ないから」


そんな気持ちを隠しながら私が大輝をベッドに放り投げると、むせながらもっと優しくしろ、みたいな顔をしていた。
そして用意していた紐で、大輝の両手をベッドの柵に固定する。


「な、なぁおい……冗談だよな……?」
「…………」
「お、おいって」
「冗談に、見える?」


ちょっとだけ狂人っぽくニヤリと笑って、大輝を見る。
ビクッとした大輝が小動物みたいで、非常に可愛い。


「これなら……大輝は安全だよね……?」


誰にも手を出させない……そんな意志を込めて言ったつもりだが、さすがの大輝もここまでくれば気づくはずだ。
貞操の危機であることが。


「おい、まさかとは思うが……」
「うん、大体想像通りじゃないかな」


大輝の意志など完全に無視して、私は大輝の唇に吸い付き、貪る。
やってることが完全に性犯罪なんだけど、こうしないといけないというのはご理解いただきたい。
私だってそう、不本意で……非常に不本意ではあるが、こうすることは必要なことなのだ。


決して!私の欲望の赴くままにしていることではない、ということだ!!


「ぷは……ま、待て春海、落ち着いて話し合わないか?これ以上はやばい」
「ダーメ。もう遅いもん。それに……必要なことなんだよ」


続けざまに私は大輝の唇から首筋、胸、腹と唇を這わせる。
当然、大輝の体の部分的な変化……進化と言ってもいいかもしれない。
気付いてはいる。


女性経験が私以外になく、まだ肉体関係にもない大輝が、もはや限界であることも。


「た、頼む春海!降りてくれ!俺、もう……」
「おっと、これ以上は……」


わざとらしく言って、私は大輝から降りる。
相変わらずの完璧なタイミングだ。


「…………」
「…………」


あまりのことに涙を流している大輝が、そこにはいた。
さて、私はこれから大輝を暴発させてしまってどうしよう、みたいな大輝からしたら珍しく、しおらしい少女を演じなければならない。
チッ、反省してまーす、みたいな態度を取ってはならない。


「世界は、何故争うのだろう……」


うん、賢者モードの人のお決まりのセリフだよね。
言いたくもなるよね、うんうん。


「えと……ほ、ほどくね……」


せめてこんにちはさせてから暴発させてあげたら、なんて考えたこともあるが、それだと大分ニュアンスが変わってしまう。
しかし、この状態にあっても大輝の若さが窺える濃密な匂い。
ここで毎度、私は狂わされそうになるが、今回は絶対にしくじれない。


「あの……お、お風呂、入ろうか。うん、そうしよう。そ、そのままって訳にもいかないでしょ?」
「…………」
「すぐ、用意してくるから、待っててね?」


暴走させられそうな大輝の匂いから逃れる為、私はバスルームに走る。
途中でママに会って、このことを知っていてもらうことも忘れない。
ママは私のしたことを聞いて、まぁ、とかダメじゃない、なんて言ってたけど、これも必要な流れだ。




「えっと……お風呂、湧いたから……入るよね?」
「…………」


お風呂が沸くのを待つ間、私はママと大輝の件について話し、そして風呂が沸いてから大輝に知らせに行った。
大輝はこの時気まずいからなのか、目も合わせてくれない。
わかっていても、何となく胸が痛むのを感じてしまう。


大輝は無言で替えの下着だけ持って、何となく内股加減でバスルームに向かって行った。
さて、ここまでは大丈夫。
上手く行っている。


大輝がお風呂に入っている時間はおよそ四十分ほど。
入る直前に一度声をかけなければならないが、それも問題ない。
そろそろママと話し終わる頃か。


「あ、あの大輝、パンツくらい、私が……」
「頼むから、来ないでくれ」
「…………」


うん……うん。
これもわかってるけど……刺さるなぁ……大輝……あんなに冷たい目ができる様になって……。
大輝としては、ささくれ立ってしまっている自分が私を傷つけない為に、と思ってやってるみたいだけど。


ちょっとだけ挫けそうな心を奮い立たせて、次の工程を確認する。
次はそう、桜井さんにメールをしなければ。
これも少しだけ心が痛む。


まぁ、結果として大輝がそこまで傷つくことにはならないんだけど……桜井さんを暴走させるためにはこれが絶対に欠かせない。
心を鬼にして、私は桜井さんに事の顛末をメールで送った。
内容としては一応、解決策を仰ぐ様なものではあるが、経験のない女子から明確な答えが返ってくるわけもなく、最初のメールよりも少し詳細な内容を語るに留まってしまう。


おっと、いけない。
そろそろ大輝が上がってくる時間だ。


その後私も入れ替わりで風呂に入って、浴槽のお湯を見つめて大輝のダシが……なんて思ったが、さすがに狂人的すぎるので飲んだりはしていない。
ここで飲まなかったら、次はいつになるかわからんぞ!と心の中で悪魔がささやいたが、私はそんなものに屈しなかった。
あとで大輝に褒めてもらいたいくらいだ。


そしてママも私のあとでお風呂に……まさかママ、大輝のダシが混ざったお湯飲んだりしてないよね?
それ、私のダシも入ってるから!


そして……やはり大輝にとって、暴発事件を桜井さんに知られたという事実は相当ショックだった様で、夕食後すぐに私の部屋に閉じこもってしまった。
変なことはしてないと思うけど、一応様子は見ておく必要があるだろう。


「……入るよ?」


返事がないのでそのままドアを開けて中に入る。
大輝は体育座りで自分の膝に顔を埋めて床を見つめていた。


「…………」


先ほどよりもいくらか顔色が元に戻っている様で、大輝の頭も落ち着いてきているんだということがわかる。
大輝の隣に座ると、大輝が一歩引いて間を開けるので、それを詰めてと繰り返し、ベッドサイドまで追い詰める。
大輝は怒りを感じたあと、自己嫌悪にも似た感情を抱く傾向があることを知っているので、ここで私は畳みかける必要があった。


「大輝、ごめん。私が軽率だった」
「……もういいよ。俺のこらえ性のなさが原因でもあったと思うし」


ね?
まぁ、大輝は何一つ悪くないんだけど。
落ち度があるとすれば、がっつり束縛してもいい、という軽率な発言くらいかな。


その後は大輝のご機嫌取りに翻弄されることになったわけだが、とりあえず流れとして必要なことだったものだし、ここは大輝に涙を呑んでもらおう。
あの暴発と報告だけはトリガーとしてどうしても必要な過程だったから、省いてしまうわけにはいかなかったのだ。
……暴発だけにね。


「ほら、とりあえずこっちきて横になって?」


始めはぽんぽん、とベッドの上で可愛らしく布団を叩く。
しかし、決めかねている大輝がもどかしいという様子を表現するために、段々叩く強さを上げていく。
仕方ない、という様子でベッドに上がる大輝を確認すれば、ミッションコンプリートだ。


軽くため息をついて、大輝がこちらに歩いてくる。
そしてベッドに上がって横になった瞬間。


「…………」


これでいい。
常人には判別がつかないほど精巧な狸寝入り。
私は唾液の分泌量までもコントロールして見せ、大輝は私が寝入ったと思い込んで呆れて、しかし私にちゃんと布団をかけてベッドを出た。


これで大輝をまだ男にすることなく、私は今回の重要ミッションを完遂した。
あとは週明けの……桜井さんの暴走を待つばかりだ。

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