やり直し女神と、ハーレムじゃないと生きられない彼の奮闘記

スカーレット

第8話

「むむっ……こっちの服だと……いやしかし……地味すぎるかな……だけどなぁ……」


鏡の前で服をあれこれ入れ替えて合わせて、どっかのカードマンの口癖を交えてあーでもないこーでもない、と一人ぶつぶつ言っているのはもちろん私だ。
何を隠そう、今日は大輝との交際が始まって以来初のデートの日だ。
気合いを入れない理由がないだろう。




『今日は大事な初デート。コーディネートは大事です。あなたが取る行動を次の内から選んでください』


A 力の女神には情熱の赤が似合う。だから、血の様に真っ赤なワンピース。
B 中学生らしい恰好というのを意識した方が、大輝はきっと喜んでくれる。運動したりということも視野に入れて、カーディガンとシャツ、短パンにハイソックス。
C 葉っぱ一枚あればいい。




今回は出番の早い伝令。
しかし私のセンスで選ぶとなると、割と戦闘を意識した格好になることが多い。
前回の大輝の告白の時には出てこなかったが、ヘンテコな格好にならない様にだけは注意したつもりだ。


そして今回。
これについては、Aを選ぶと大輝は事もあろうに目が痛い、あと一緒に歩くの恥ずかしい、なんて言いだして私から距離を取る様になる。
挙句デートそのものが台無しになってしまって、そこから疎遠になって……という結末が待っていた。


Cについては選ぶ勇気がなかった。
まず、電車に乗ることさえ許されないだろう。
仮に到着できたとして、そのまま色々歩き回るということがまず想像できない。


季節はまだ春になりかけなので少し寒いかな、と思いながらBを選択。
うん、今日も可愛い。


大輝は毎回意識しすぎて緊張してガチガチになってるし、そのせいで空回ることもわかっている。
だから、私はちゃんと嫌味にならない程度にリードしてあげないといけない。
まぁ、そうじゃなくても男を立てるタイプではあるつもりなんだけど。


それに大まかにだけど行くところは決めてあるし、大輝が暴走する心配はない。
そんなことを考えてふと時計を見ると、出発予定時刻が迫っていた。


「おっと、いけない……いざ出陣!」


正直なところ、大輝はよっぽどぶっ飛んだ服装でなければ、私がどんな格好で行こうと気にしない。
これなら可愛いかな、とか考えて選んで行ったことがないでもないが、その時でも大輝は服装を褒めてくれたことがなかった。
大輝に限ったことじゃないけど、基本的に男子って女の子の服装とかおしゃれに無頓着よね。


まぁ褒めてくれないとしても周りは割と見てたりするから、大輝が連れている女の子が恥ずかしい子なんて思われない様におしゃれしていくのが女の子だから。
今はこんな風に余裕がなくて朴念仁風味の大輝だけど、私がこれから女の子を喜ばせられる様なことを言える様育てていくんだけどね。
このデートに限っては、服装なんか見てる余裕がないってだけなんだけど。


だからさっきのあの伝令にしても、正直大輝が喜ぶなんていうのは嘘だろ、と心の中でノルンの作ったシステムに毒づいたりするのだ。


ママに行ってきますを言って、少し速足で駅に向かう。
気持ちが少し逸って速足が縮地になりそうになるが、心の中でブレーキをかけた。


大分余裕を持って、待ち合わせ場所には到着できたと思う。
十分弱くらい待って、大輝の匂いがしてくるのを感じた。
私くらいになると、大輝の匂いは百メートル離れててもわかるのだ。


周りの目を気にしてかキョロキョロと落ち着かない様子で、私の可愛い大輝がこちらに向かってくるのが見える。


「あ、やーっときた!女の子待たせるなんて、極刑ものの罪悪よね……!」


別に怒ってはいないが、大輝には女の子と付き合うに当たっての心構えを覚えてもらう必要がある。
私には、大輝を立派な男にする義務があるのだ。
まぁ、そうは言っても約束の五分前くらいなんだけどね。


「ご、ごめん……早いな、しかし。そんなに楽しみだったの?」
「はぁ?当たり前じゃん。大輝は楽しみじゃなかったって言うの?」


少し大輝に顔を寄せて、真面目な顔をしてみる。
大輝の匂いがする……正直たまりません。


「いや……実は楽しみにし過ぎて、出かける直前までガチガチになってた。少し遅くなったのもそのせいなんだわ。どうかご容赦を……」
「何それ、大輝も人並みに男の子してるんだねぇ」


たとえ女の子だったとしても、私はきっと……いや、性別変えたら解決するし、大した問題じゃないな。
私の言葉に大輝は照れて頭を掻いたりしている。


少し場所を移して、駅前の人が多い場所から距離を取る。
きっと、ガチガチになってたのってかはんs……いや、そんなことを言うために場所を変えたというわけでは、断じてない。
しかし、こうして歩いていると何だかデートなんだな、って気分になる。


毎回この気分になるし、それでも飽きもせずこういう気分を堪能できるのはとっても気分がいい。


「で、どうする?何処か行きたいところはあるのか?」


やや不安そうな顔をして、大輝が尋ねてくる。
相手を尊重しようという気持ちが見えるものの、ここで甘やかすのはどうも……。
それに私に任せてたら、大輝はいつの間にかいろんな意味で男になっちゃうかもしれないよ?


「ええ?いきなり人任せ?」


そんなことが言えるはずもないので、一応考えてよ、という意志だけは見せておく。
少し厳しい返しに見えるかもしれないが、こういう風にして導いてあげれば大輝はちゃんとできる子になっていく。


「だって俺、デートとか言われたってわかんねーし……」


まぁ、初デートだもんね。
私と違って何万回もしてるわけじゃないもんね。
このまま大輝に任せていても前に進まないのはわかっているので、少しずつヒントを与える。


「いつも通りでいいんだって。前からよく二人で遊んでたでしょ?」
「そんなもんかね?」
「そうだよ。……ははぁ、なるほど。もしかして、デートとかいう単語からエッチなことでも連想しちゃった?」
「ば、バカか!」


慌てて否定してはいるが、こればっかりは顔に書いてある。
まぁ、男の子だからね、仕方ないね。
その意志を汲んであげてもいいんだけど……今回はまだそういう段階じゃない。


「バカって酷いなぁ……私、大輝とだったらいいって思ってるよ?」


もちろんそういうことを今日はしないが、一応大輝とだったらそうしたいという気持ちがあることは匂わせておく。


「か、軽々しくそんなこと言うんじゃありましぇん」


それなりに長い期間私とつるんで遊んでた割に女慣れしてなくて、ついには噛んじゃう大輝、可愛い。
軽くチョップをしてくるその手も少し震えてたりして、本当に可愛い。


「嘘じゃないんだけどなぁ……」


ちょっと指を咥えて上目遣いになって見せると、大輝は明らかに狼狽した表情で私から目を逸らす。
こういう初々しい表情を見てしまうと、私の方も色々とやばいことになってくる。


「ま、まぁ何だ……そういうのはほら、もう少しお互いを知ってからな。だから、そのうちってことで……」
「やった!絶対だからね!」


少し大げさに喜んで見せる。
女に幻想持ってる大輝には、少しずつでも現実を知ってもらった方がいい。
女の子だって人間だし、大輝が思っている以上にエロいこと考えたりするんだよ、とかね。


もちろんそうなるときには無理やりなんて考えてないし、大輝が私とそうなるに当たっての大義名分を与えるつもりではいる。
まぁ、その時にならないとわからないんだけど。


お昼ご飯を食べよう、ということになって場所を物色していると、大輝が提案してくるのは毎回決まって小洒落たレストラン。
背伸びしたいのはわかるけど、自分のお財布なんかと相談するってことを覚えてもらった方がいい。
気持ちだけはすごく嬉しいから、もう少し大きくなったら一緒に行こうか、とは思うけど。




『初めてのデートに緊張している大輝くんは何とかしていいところを見せなければ、と考えている様です。あなたが取る行動を、次の内から選んでください』


A あら、わかってるじゃない、いいチョイスだわ。ここは華を持たせてあげよう。
B あーしチョコとショコラのダブルが食べたーい。というわけでアイスクリーム屋さんへ。
C正直食べられれば何でもいいし。どっかのバーガー屋さんでよし。何なら牛丼とかラーメンでも許す。




毎回とってもいいタイミングでこの伝令は来る。
しかもあのノルンが構築したシステムの割に学生デートとは何ぞや、というものを意外なことによくわかっているな、という内容だ。
だって、あいつ男性経験とか皆無だし……妄想がそのまま反映されてたりしないだろうな。


しかし、オートと言っていたし……だとしたら、悲しいことにノルン本人よりもノルンが作ったシステムの方が、人間の恋愛というものを理解している様に見える。
哀れなり、ノルン……。


「あのねぇ……そういうのは、社会人である程度お金自分で稼いでる人が行けばいいんだよ。私たちまだ中学生でしょ?しかもなりたての。ハンバーガーでいいじゃん」


夢や幻想をぶち壊す、みたいなのは某ヒーローさんだけでいい、なんて思っていた時期が私にもありました。
もちろん、男子は変なところで見栄を張ってカッコつけたがる、というのは理解しているつもりだ。
だが、ここでこうしておかないと、無理をすることが美学みたいな勘違いをしたまま交際が進んでしまうのだ。


「そ、そうだよな。ならまぁ……任せていいか?」


少しのがっかりと安心とが入り混じった様な表情になって、大輝は私に従う。
私の従属になるなら、世界の終わりまで生かしてやるぞ?


「仕方ないなぁ、大輝は。それにね」
「ん?」


ここでちょっといい彼女アピール。
これも一応、必要な流れ。


「大輝と一緒に食べるなら、どんなものでもいつもより一層美味しく感じるんだから」


君と一緒なら、私はたとえ野草を食べることになろうと満足だよ、という意思表示だ。
軽くウィンクをしながら言うと、大輝はまたも照れてそっぽを向いた。






『腹ごしらえが済んだら戦闘開始です。あなたが取る行動を次の内から選んでください』


A 男女の戦闘と言えば……ねぇ?大人の階段登ろうか……!!
B 普通に運動しておくのが無難かな?今の大輝なら何か思いつくかもしれない。
C 男女の間だろうが古来から戦闘と言えば決闘。くっころ展開になっても私は構わない。




うん。
近場のファーストフード店での食事の後のこの伝令も、もはやお決まりのものだね。


AとCは、過程こそ違えど結果はほとんど同じだ。
残念なことに、大輝は女を性欲処理の道具としてしか見なくなってしまう。


そして、黙って何人もの女に手を出して、最終的にその中の一人に惨殺されるという。
何故何人もの女に手を出してるのに死ぬのかというと、これはおそらくハーレムではないからだろう。
一人一人にお前だけだから、とか口八丁で近づいていく大輝は他の女の影など微塵も見せなかった。


かく言う私も大輝が殺された後になって、その事実を知ったという経緯がある。
AとCの違いは、事に至るその過程と、大輝を殺す相手の違いだけと言っていい。




「さて、どうしよっか。運動する?」


何気なく言ったつもりのこの一言に、大輝は顔を赤くする。
この言い方なら、やっぱりそういう意味に捉えるよね。


「あ、ああ、そうだな、ボーリングでもしに行くか?」
「ねぇ、今エッチなこと考えてなかった?」


まぁ、エッチなこと考えたのは私もなんだけどね、過去のやり直しの記憶から。
もちろん大輝もわかりやすい反応をしてくれるわけだが。


「バカ言え、何をこんな真昼間から……」


否定はしているが口ごもっちゃって後半が言葉になっていない。


「ふぅん?そう?本当に?……でも、嬉しいよ。私のこと、そういう対象として見てくれてるってことでしょ?」
「そ、そりゃ……彼女……だからな」


彼女、という単語を口に出すだけでこの有様だ。
そして、暗に考えてますよ、と白状しちゃってるところも可愛い。
そんな大輝には、ご褒美をあげよう。


「私もね、大輝のことをそういう目で見てるからね?」


最近少し膨らんできている胸を張って、大輝にサービス。
これで大輝の夜のオカズは決まりだね。


「そんなのぶっちゃけなくていいから!」


なんて言いながらも、決して胸から目を離さない正直さは本当に男の子だなと寧ろ感心する。


結局、ボーリングでもしようということになって、二人で近くのボーリング場へ。
道中大輝の手を握ると、強めに握り返してきてカップル感が少し強まっているのを感じる。


到着すると大輝は少し中を見回して、すぐに受付を発見した様だった。
やったことないはずだけど、俺がリードするんだ、という意志を見せているのは評価できる。


しかし、残念なことにその後の流れがわからない様で、ちょっと泣きそうな顔でこっちを見てきて、私はまたも胸キュンしかけてしまう。
さて、靴靴……とかわざとらしく呟きながら靴をレンタルしに行って、大輝がそれを見ていることを確認する。
すると大輝もなるほど、と財布を出して小銭をレンタル靴の機械に入れてサイズを選んでいた。
たださりげなくやってあげないと嫌味になるし、ここは加減が難しい。


男子って本当、変なところにプライド持ってるんだから……。
でも、それをきちんと理解して、そのプライドを守ってあげながらも支えてあげられる私って本当いい女!!
自画自賛ですが何か?


大丈夫だろうと思いながらも一応見ていると、大輝も靴を機械から取り出してそのままボールを選ぶ。
大輝は私の行動をちゃんと見て、流れを学ぶことができた。


「ごめん、初めてだったんだよね?」
「うん、まぁ……春海ってさりげなく気遣いできるよな。ありがとう」




『ここでのあなたの行動が、今後の大輝くんの意識を変えてしまいます。あなたが取る行動を、次の内から選んでください』


A どんなことでも私にかなうはずがない、というところを見せつける。
B こういう時くらい華を持たせてあげるのもいいかも?
C 半端な自信など粉みじんに打ち砕いてくれるわ。




またも引っ掛け問題が私を悩ませる。
いや、悩まないんだけどBを選びたくなるのが人情。
だが、一見良い答えに見えるBは罠だ。


華を持たせることで、大輝は男としての自信を着々とつけていく。
ここまではいい。
しかし、彼は何というか極端な性格なのだろう。


俺にできないことはない!!みたいな意味不明なことを考え出す。
どういう精神構造をしていたら、私にボーリングで勝った程度でそこまでに至るのかがわからないが、簡単に言えば調子に乗り出すのだ。
後に、私にも組手で勝てるんじゃないかという考えが頭を支配して、私に久しぶりに挑んでくるのだがその際に彼は全力でこい、とか言い出す。


その後は大体おわかりだろう。
Cにしても、私が調子に乗って全ゲーム全ストライクという、テレビ取材でも受けそうな結果をたたき出してその都度大輝を見る。
それも割と嫌味ったらしく。


そんなことをしたら大輝が自信を失って、というのはもう想像がつくと思う。
何事も加減が大事なのだ。


ある程度手加減をして、それでも二百を下回らない私のスコア。
しかし大輝の顔をその都度見る様なことはしない。
だって、大輝初めてだし百行くか行かないか、くらいで可愛いから……。


軽く打ちひしがれた様子の大輝を見て、良からぬことを考えてしまいそうになるのを必死に抑えてフォローに回る。


「ああほら、仕方ないって。初めてなんだから。力入っちゃっただけだって」


俯き加減で落ち込んだ様子の大輝が可愛くて、正直生きるのが辛い。


「何かカッコ悪いな、俺……」
「もう、バカなんだから。そんなこといちいち気にしてたら、何もできないからね?」
「そうは言うけどさ、春海はこんなカッコ悪い俺みたいなのが彼氏で、本当にいいのか?」
「大輝だからいいんだって。それに私がついてるんだから、すぐにカッコいい彼氏になれる。大丈夫大丈夫」


昔毒づいてゴリラとか言ってきた頃とはえらい違いだ。
本当に可愛くて仕方ない。
伝令とは別の、私個人の衝動を抑えるのが大変だ。


しかし、何度も経験しているとは言っても楽しい初デートだったことには違いない。
性的に食べてしまいたいという内なる欲望を抑え込みつつ、大輝を一人前の男に育て上げるというのは、私としては非情に大変なことではあるが、耐えれば耐えた分だけ、達成感があるのだ。


決して気は進まないが、この後のハーレム結成の為にも今よりももっと、いい男になってもらわなくては……!

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