『俺の妹は、こんなに手がかからない!』

黒猫

 第4話『俺の妹は、こんなに手がかからない!』

「ねーねーってば、聞いてるっ?」






(はっ!)




 俺は、さっき何か言われていたのか……




「さっきは、ごめん!」




「もーぉお風呂場で目なんか閉じてるからだよーあぶないでしょ」




(あれ!? あんまり気にしてない?)




「じゃなくて……なんで入ってきてるの?」




「だって、お兄ちゃん先に入るって言ったからっ! 私が後に入ってるんじゃないっ!」




「そ、そういう場合は、俺が上がってから! 鈴音がその後に入るの!」




「えーっなんで? 私、鈴音だよー?」




「いやっ、鈴音でもダメなの!」




 ローレンシアさんのいた世界では、家族の混浴が普通なのかな……?






「私、ひとりは……さみしいの……だからお願いっ」






(えっ……)




 普通なら、これは理解できないだんだろうが……その台詞は前にも聞き覚えがある。


 あれは、3年前…… まだ鈴音が甘えん坊だった頃、それまで母さんと風呂に入っていた鈴音が、母さんがいなくなって寂しいからと言う理由で、昔みたいに一緒に入ろうとお願いしてきたことがあった。
 そう言われると、断るとこもできず。初めは抵抗もあったが、学校の話を聞いたりして、1年くらいは一緒に入っていた。


 鈴音が、中2の頃に、もう一人で入れるから大丈夫と言ってきた。
 何故か最初は嫌われたような喪失感があったが、それからの鈴音は、自分でなんでもできてしまうような超しっかり者に変わったんだよなぁ。




 これは、恥ずかしがってる俺がおかしいのか?




 ローレンシアさんも故郷を離れて寂しいから、甘えてきてるのかも知れない。




 あの時、優しかったしなぁ……




「わかったよ。じゃぁ、ちゃんとタオル巻いて」




「いいけど、ちょっと待ってね!」




 目をつぶっていると、カチャカチャ音がしていた、おそらくシャンプーで髪か、ボディソープで体を洗っていると思われるが、彼女は、なんて堂々としているんだ。


 よく考えて、みたら風呂入るの2日ぶりだもんなぁ。






(しかし……長い)






「別に、タオル巻かなくても良くない?」




「ダメだからっ!」




「めっ、めいれいですかぁ?」




「命令だよ!」




「それまで、ずっと体育座りしてるの?」




「鈴音がいいって言うまでな!」




「さーて、それがいつまで耐えられるのかなぁ、の・ぼ・せ・ちゃ・う・ぞっ!」






 俺の知ってるローレンシアさんとは何かが違う……


 その挑発どこで覚えたんだ? アニメか?




「お前は、あ・く・ま・か?」




「もーお、私と、もめたら消されるんですよ! その覚悟なできてるっていうなら! もっ、揉んでもいいのよ」


 悪魔か?の疑問系を直ちに撤回する、ローレンシアさんは悪魔に違いない……


 俺の口角よ!こんな時は下がってろ!




 あっ、あれ? 音がしなくなった。やっと洗いおわったのかな?




「いま……タオルまいてるからっみないでねっ」




(なんでヒソヒソ話口調だよ!)






「見ないよ」




「おまたせっ!」




 悪いが、ローレンシアさんの「おまたせ」は、あまり信用してない。




( 俺は悪くない。 俺は悪くない。 俺は悪くない。 )






 ゆっくり薄目程度を意識してまぶたを開き……まつげに視界は遮られてるが、目の前に、いたいけな鈴音を凌ぐであろう女体があらわになってしまっているのがわかった。






 おそらく俺は、今日死ぬ運命である。




 初対面の少女に何度か抱きつかれ、ファーストキスをされ、おそらく胸であろう部位パーツを触り……今、眼前に女体てんしが現れているではないか……


 もう、思い残すことはない。




 例え、このまま、のぼせて死ぬことになろうとも、兄として、この体育座りをやめることはできないようだ。




 しかし、少し安心している……風呂椅子に座ったローレンシアさんは、左手で寄せるように上手く両乳房の中心を隠しており、右手で股を押さえているのだ……




 これは水着の女性を見るのとなんら大差はないじゃないか……


 なっ、ない……のかな?




「いやっ! タオル巻けてねーぇじゃねーか!」




 と言いつつも、自分の中では、見てはいけないところは隠してあると言う理由で、どのような名画や彫刻にも劣らない芸術作品を鑑賞しているかのような優雅な気分を味わっている。




 その光景に、また息を飲んだ。




 そのきゃしゃな手からはみ出す乳房の膨らみや、すらりと細いしなやかなライン、水に濡れて艶めく美肌に、自分から見せときながら、すごく恥ずかしそうな顔をしている。




 そんなローレンシアさんはたまらなく、たまらない。


 さっきは悪魔だと思ったが、本当は天使なのかも知れない……天使であれ、それが見えると言うことは、もう俺は長くはない。


 それでもいい。いい冥土の土産ができた……






「お兄ちゃんが! タオル巻けって命令したんじゃん! 髪がベタつくからじゃないの?」




(えっ?)






 俺は、どこを見ていたのか? 目のやり場に困っていたはずが、ローレンシアが長い髪をまとめて、タオルを頭に巻いていたことには全く気づかなかった!


 それにすら気付かない、この俺が悪いのか?


 それすら気付かせない、天使の体が悪いのか?




「えっ、タオルってそう言う意味じゃないから!」




 平常心を保とうとしているが、今、完全に俺はにやけているだろう。




「ほ、ほんとは、お兄ちゃんになら全部見られてもいいんだからねっ?」




((いや変態か!? 挑発ワナだろ……))




 見られてもいいなら!最初から隠してないだろっ!騙されるな俺!




「あーっ、今、想像してたでしょーっ!」




「いや! なんでそうなる!?」




「顔に書いてありましたぁーお兄ちゃんのえっち!」




(グサッ)




「責任取ってよねっ!」




「せっ責任? いやっ、見てないからさ!」




「頭では想像してるんでしょ! は・だ・か!」




(グサ! グサッ!)




 ダメだ。ローレンシアさんの言葉が、この胸に突き刺さるようなこの感覚は、それが図星だからか?それともあの契約の影響か? ただ、不思議と嫌な気はしていない。


 おそらく、今、ローレンシアさんには変なスイッチが入ってしまっている。


 どさくさ紛れに、細目でローレンシアさんのたまらない体を拝見させて頂いているが、左太ももに伝わる心臓の鼓動が、さっきより早くかなり強くなっている。
 はやくこの場を切り抜けないと、この心臓がどうにかなって死ぬ!


 しかし、こんなニヤついた顔では、なにも説得はできない。


 まぶたを閉じるか閉じないかでこれほど葛藤することになろうとは……




(もうちょっと見ていたい……)




「やっ、やっぱり! 年頃の妹が、こんなことしちゃダメだよ!」




「えーっ、じゃぁなんで、年頃の妹の部屋に急に入ったのはいいの?」


「いやっ、そ、それはお前を心配してだなぁ」




「心配? そ・れ・な・らー、私も妹としてお兄ちゃんの女への免疫力が心配なのよねーっ」


「なんでだよ!」


「悪い女に騙されないか私は心配してるの! だから私が花婿修行させてあげる!」




(はっ?)




 はなむこ?まだ!17歳なんですけど?
 秘密あのの契約書を交わしてから、この兄弟ごっこにスゴい乗り気なんだよなぁ……
 目を閉じていても、その声でローレンシアさんが、無邪気な笑顔をしていることがわかる。






「わかったよ。鈴音のアドバイスは聞くからさ。もう、体洗ったんなら、先に上がってくれない?」




「2人で入ったら水なくなっちゃうもんね……」




 おっ、お婆ちゃんへの配慮できてる。やっぱり、ローレンシアさんは、人の気持ちを考えられる子なんだよね?




「明日からは、お婆ちゃんに先に入ってもらおっ!」




 いやっ!配慮しつつも、混浴希望!?




 もう、なんて言えばいいのか……






「あーっ、うーん、鈴音は寂しいんだよね?」




「そう言ってるのに! 変な目で見てきてるのは、お兄ちゃんなんだからねっ!」




 そうなのか? 誘惑してなかったのか? まさかの俺の勘違いか!?




「えっ、あぁ、はい。」




「まぁー今日のところはこれくらいにしといてやろうかー!」


 なんだ?今の絶対アニメかなんかの台詞だろ。棒読みだったぞ! やっぱり、ローレンシアさんは、アニメへの憧れが強すぎる……




「もう、わかったから早く上がってくれない?」


(わかってないけどな!)




「わかったよ! お兄ちゃん鼻血出てるもんねっ!」


(てか鼻血出てたのかよ!)




ガラガラガラ……ガラガラ ガシャ






(って鼻血、嘘かよ!)




「嘘じゃん!」




「もうちょっと待っててねー!」


 脱衣所とは、すりガラスの間仕切りがあるが、そのぼやけて見えるシルエットを見るくらいがちょうどいい。




 いや、妹にも見えないし、超いいと言うべきか……






 俺は、まだ暫く、風呂から上がることはできないようだ……








 ……拝啓 鈴音様、いかがお過ごしでしょうか? 兄はなんとか元気でやっています。
 全く月日は流れていないというのに、もう子供から大人に成長したような気がしています。
 今は、花婿修行しているので、一皮剥けた兄として鈴音を迎えられるように頑張って……ってなんか違うか?


 さっきから俺は、下ネタを言っているみたいじゃないか……




(もう、考えるな……)


 考えるな、感じろ


(いや、ダメだ……)






 俺は、ダメな兄だ。






 やけに体がほてってしまった。お婆ちゃんに風呂から上がったことを伝え、2階に上がるのだが、足がふらついて体が重い。




「お兄ちゃんっ! ちょっとぉー」


 また、鈴音の声……最近は鈴音に必要とされることがなかった。だから、喋りかけられて悪い気はしない。
 それに、流石の俺も色々と言っておきたいことがある。


「後で」


 部屋を開けると、


「入って」


 下着姿の妹がいた……


「きてっ」


 そっこう閉めた。




「なにしてんだよ!」




「ちょっと後で来てって言ったのに! お兄ちゃんがノックもせずに入ってきたんじゃん! えっち!」




(えっ?)




 嘘だろ? 確かにそう言われた気がする……なのに何故俺は鈴音の部屋を開けたんだ? 目の前にあるのは鈴音の部屋の扉だが、この疑いの眼差しは見えないはずの自分に向いている。


 鈴音は背を向けていた。


 化粧台の前で両膝を立てて足を開ろげるように座っていた。


 その膝の上に肘をつきドライヤーで髪を乾かしていた……




 ドライヤーの音で、あまり聞こえなかったと言えば誤魔化せるのか……言い訳を考えてしまっている……




「ちよっと聞いてる?」




「えっ、あっ、ごめんね……」




「もう入っていいってば」


「あっ服着た?」




「とうぜんよっ! ていうかいつまで妹の部屋の前で立ってるのよ!」




(いやっもう立ってないわ!)




 あれっ……やっぱり、おかしいのは俺の方なのか?


 さっき、ローレンシアはエロい事を言っていない。なのにエロい方に解釈してしまっている。




 そんな気がする……




 注意したいことはあったが、それが俺のせいかも知れないと思うと、注意する気にはなれなかった。




 案の定、ローレンシアはあられもない下着姿だった……


「ちょっマジやめ」


「ちがうってば! 寝巻き用にどれ着ていいのかわからないのーっ」


「さっき服着たって言ってたじゃん!」


「じゃあ、まだ着てないって言ったら! 入ってきてくれたの?」


「いやっ」


「じゃあ! まさか私に下着で生活がして欲しいの?」


「違うから……」


「もーう、見たんだからいいじゃーん。減るもんでもあるまいし」




 それは、女の子の言う台詞じゃない……さっきから挑発してるように聞こえるのは、俺の耳が悪いからなのか?
 兄弟なら妹の下着姿に、これほど慌てる必要もないんだよ。確かに、服を着てないと言われていたら開けてないし、どの服を着ていいかわからないのも、わからなくもない……やはり俺が過剰反応してるだけなのか?




「ちがうよ、そんなの。 シワになってもいい古そうなシャツとジャージでいいと思うよ」






 それから服を着たローレンシアさんは明日からの学校の事を聞いてきただけだった。


 まだ入学して間もないために、あまり問題はなさそうだった。


 それと、いくつかルールを決めた。


 1つ 授業をサボらないこと。


 2つ 鈴音の印象が悪くなるような問題は起こさないこと。


 3つ 男女交際の禁止。


 4つ 遊びに行くときは、行き先を伝えること。




 それが初日に約束したルールだったかな。当然、混浴は兄弟とはいえ刺激が強すぎると断ったけど、あれは俺を試しただけだとか、からかうように笑われた……






 あとは、もう寝るだけ……






 あれだけ不安要素のあったローレンシアさんも、お婆ちゃんと3人で食事をする時は、いい妹を演じてくれていた……


 あれなら、明日の学校も大丈夫そうではあるけど……入学早々、学校をサボって、髪が水色になってるのがどうかと思う……




 今日は、色々ありすぎて寝れそうにないパターンだ。


 鈴音が居なくなったと知ってから、想像を越える早さで状況が変わって行った、もう幻聴まで聞こえている。


 お兄ちゃん、お兄ちゃんって鈴音の声が……




((ゾクッ))




「お兄ちゃん」


(いやっ…)




「寂しくて寝られないの!」


(いつの間に?)


「いつから居たの?」




「なんかさぁ、お兄ちゃん目を開けて口をパクパクしてたよ? あははっ」






 こう言う事である……






 おそらく、ローレンシアさんに下心はない。




 御国柄を越えた、御世界柄と言うべきか……その壮大なスケールの違いが、大いなるありがた迷惑になっているのだと思う。




 いくら俺が、青春に興味や期待もないひねくれ者だとしても、思春期真っ只中なのは事実、それを言い訳にはしたくないが、そのフィルターが情報を歪めてしまっているのかも知れない。


 この男としての誤りを、兄として謝る。




「あぁ、俺も寝れないんだけど……横で寝てもいいよ」




 こうして、普通に受け入れればいいだけだ。




「ありがとっ」






 ほら、そう言って布団に入って来たら、抱きついてくると思ったけど、抱きついてこない。


 俺の考えすぎじゃないか……




「お兄ちゃん」




「なに?」


「私、寝るときはブラはしない派なんだけど? 鈴音さんはしてましたか?」




「知らないよ、そんなの……」


(ってノーブラなのかよ!?)




 そう言われると反射的に……今、俺の真横で自らの片腕を枕にして横になっているローレンシアさんの胸元に目がいってしまった。


 豆電球の薄明かりと、肩までかかった掛け布団で陰になっているとはいえ、浅い呼吸さえ聞こえるほどの距離しか離れていないわけだ。
 よりによってその長袖シャツの首元には4㎝ほどの小さなV字の切れ込みがある。おそらくボタンが付いていたのかも知れないが、寄せられたシャツの襟はすごくたわんでいた。
 こんなことになるのなら古そうなシャツを寝巻きにしろなんて言うんじゃなかった……


 すぐ目を反らしたため、ローレンシアさんは気付いてないようだが、左手を胸の下に入れ、横になっているために寄せられてさらに限りなく球体に近付いた豊満な胸の上部がはっきりと見えてしまった。




 日常生活における無防備ノーガードこそ、最大の誘惑である。




 話を聞いていると、急に片膝を曲げたローレンシアさんの不意打ちがあった。追い打ちというべきか、向かい合わせになっていたために、勢いで俺の太ももを割って股間にすり上がってきた膝を足を咄嗟に足を交差させなんとか太ももで挟んで止めた。




 あと数cmで、またしても危ないところだ……




(余計な事は考えるな……)




「ちょっ、トイレ行ってくるわ」




 どうやら俺は、これから、ローレンシアさんの無意識の挑発に耐えねばならぬようだ……


 天敵ライバルは自分自身である。




 部屋に戻ると、ローレンシアさんは仰向けになり既に寝ていた。


 その寝顔は、少し微笑んでいるようだった、当然寝ていたため少しは胸にも目がいったが、シャツもたわんでなかったため、安心して寝れそうだ。




 早く寝なければ明日も、忙しいだろう……




「おっ、お兄ちゃん、私もトイレ……」




「うん……そうかぁ」




「怖いから着いてきてぇ」






「すっ鈴音……」










 ちなみに、俺の妹は!こんなに手がかからない!










 今日(審判の日)は長く……長い青春の始まりになることを、この時の俺はまだわかっていなかった。








 序章『俺の妹は、こんなに手がかからない!』ー完ー



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