『俺の妹は、こんなに手がかからない!』

黒猫

 第2話『妹の嘘と青春の涙』



「でも……どうやって、この家に来たの?」




「昨日、コスプレフェスに取り残されて泣いてたら、私のことを知っていると言う、マツリという人が、送る約束してたから家まで送ってあげるということでこちらに送ってもらいました。」


 知らない人に着いて行ったというのか……確か鈴音もマツリちゃんの話をしてたなぁ……こっちに越してきてできた友達だとか、マツリちゃんが鈴音と共犯かは、まだわからないけど、自分の代わりにあえてローレンシアさんをこの家に向かわせたとしか思えない、その鈴音の約束からしてやはりこれは計画的犯行としか思えない。




 何より、鈴音が他人になりすまし、不法滞在までさせているなんてことは、絶対にバレるようなことがあってはならない。


 ていうか、これは俺まで不法滞在に加担していることになるのか?




(嗚呼! 鈴音、なんてことをしてくれたんだ!)


(ローレンシアさん……本当に申し訳ない)




「あーっ、そうなんだー、なるほどねー。なんで、いなくなった妹と君が似ていることを知っているのか不思議だったんだよー。つまり妹の友達でも見間違えるくらいだから、兄の俺でも、妹の鈴音とローレンシアさんを見間違えてると思ったわけだね!……ところで、異世界からわざわざ日本のコスプレを観に来てたの?」




(悪いがこの話は変えさせてもらう。しかし、妹のフリをするような悪い子だったら完全に気付かなかったなぁ)




「そうですよ! 世界数多とは言え、アニメかつコスプレなんて文化はこの地球にしかありません!そして私の住んでた星、ヴァーフルでは、空前絶後の日本ブームなんですよね!!」


「あーっ そうなんだ……」


 なんなんだ? この熱量のギャップは、さっきと全然違う。


「それに、観光案内と言っても! 観るだけじゃなく、カバネヤマ観光は体験をメインにしているんです!」


「じゃぁ、コスプレをしていたの?」


 そんな気はしていた。つまり、異世界の住人がコスプレの会場を闊歩していても多少違いがあっても誰も不思議に思わないというわけか……




「あーそうです!今回は、コスプレックス2024の、「なりきり百鬼昼行コスプレツアー」だったんですよ!」


(ん? コスプレックス……)


「元ネタは、あの『〈異界珍道中〉誰でも今夜は百鬼夜行』でして、この私の着てる衣装も、百鬼夜行のおたすけヒロインガイドをしている、桃川千歳ももかわちとせさんのバスガイド服なのです!」


 何故かテンションの上がるローレンシアさんを見ていると自然に笑顔になってしまう。
 最近は、妹のこんな表情をみることがなかったからなのだろうか。


 その百鬼夜行のアニメは知らないけど……




「あっ、そうなんだ。じゃぁローレンシアさんはガイドだからピッタリのコスプレだよね!」




 ローレンシアさんが急に下を向いた……




「私は、ガイドになる前からバスガイドが好きだったんです」


「へーぇ、うちの母さんもバスガイドしてたんだ。」と言いつつローレンシアさんのテンションがすごく下がっているのを感じた……




「知ってます」




「えっ?」


 これは、今日何度目か……この世界がスローになるというか、止まりそうになるような感覚、ゴーッと頭の中で何かの音がなる……




 次の言葉が、何故かこわい。


 こう言うことがたまにある、最近は親父が再婚することになり俺たちと離れて暮らすと言ってきた時も。


 これは、嫌な傾向だ。




「私に、日本のことを教えてくれた人が、昔、バスガイドしてたから、コスプレするならバスガイドしかないって思ったんです!」




 デジャブか?……昨日も似たような話を似たような顔の妹から聞いた気がする。


(ん?なぜ?それで俺の母さんがバスガイドしてたって知ってる?)


 日本語を教えてくれた人が、バスガイドをしていたって……


(まさか、異世界で母さんが生きてる?)




「え? 母さんが生きてるってこと!?」




「さっき、気づいたんですけど、後ろの写真……あれは宮子みやこさんじゃないですか?」




 後ろを見なくても、そこには、母が亡くなる少し前に撮った、あの鈴音の入学式での写真があるのはなんとなくわかった。




 そう、母は神谷宮子であっている。






 そして、その鈴音が母の手を握っている写真を手に取った。


「そうか……鈴音は母さんに会いに行ったのか」


 心の声のつもりがこぼれたのは、いつぶりだろうか……少し安心したような……


((鈴音は大丈夫))




 急に、思い出が込み上げ、溢れだす想いに肩を震わせた。




 少し、みっともない……鈴音に似た少女がそこに居るのに、こぼれおちるその涙を止める術はなく。




 徐々に、息は荒く辛くなった。




 そんな時、ローレンシアさんは優しく俺の背中に手を当てた。なのに、俺はほっといてくれと言葉にならない声で、その手をふりはらった。




 自分をますます嫌にった……静かに膝からくずれる。


 今、辛いのは恐らく優しさを踏みにじったからだ……




 安心したから泣いているわけではない。鈴音と母が会ってしまったらもう帰ってこないかも知れないと思ったんだ。


 そうやっていつも、みんな俺から離れていく……




 それなら始めから優しくはしないでほしい。




 放っておいてほしい、文句を言われてもいい……




 こんなとき優しくされると……何故か涙が止まらなくなるのは知っていた。




 だから、嫌われていた方がよかった。前からそうやって心にもないことを願っている。どれだけ強く目を閉じてもこの涙は止まらない。




 涙でにじんだ視界にあらわれたのは、ローレンシアさんのはずだが、いつかの母のように優しい表情で両手を広げていた彼女の胸元に吸い込まれるように、気がついた時にはその腕に包まれていた。
 震える背中を手の先で優しくたたき始めたローレンシアさんは、まるで母のようだった。




 なぜ……俺は彼女の優しさを裏切ったのに、また、こんなに優しくされているのに、呼吸も楽になり、涙も止まってるのだろうか。








 この、やさしさをわすれることはないだろう……





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