狩龍人と巫女と異世界と

GARUD

9 二度目の○○

「ユナ、二度目の空はどんンな気分だ?」
「空はいいわね。空は」

 私はそう言ってククッと笑うナツキに膨れっ面を向ける。
 なぜ私が頬を膨らませているかと言えば……

 今朝、宿屋で目を覚ましたところまで遡る。

「おぅ。ようやく起きたかよ」
「ぅ……ん……」

 微睡みの中、薄目に開けたぼやけた視界に赤い髪がゆらりと映る。
 やや低めなイケボが耳を通り抜けるのを私は「夢か……」とつぶやき寝返りを打つ。

「まだ寝るのかよ」

 声と同時にスッと私の髪に何かが触れた。

「ん?」

 私は再び寝返りを打ち、髪を触る何かに眠気にボケる視線を向けた。

 燃えるような赤い髪と二つの金色の瞳が私の
細く開けた瞳を射抜く。

 同時に私は昨日の出来事を思い出す。

 新作のVRMMOゲーム専用のドライブに乗り込みアバターを作り込んだ事。

 ログインしたと思ったら変なおじいちゃん(失礼)に巫女様なんて呼ばれて崇められた事。

 岩に封印されていた国に牙を剥いた頭の悪そうな狩人(風評被害)を某英霊様とのロマンスを夢見て開放した事。

 そして開放されたちょい悪狩人さんが何故か空に浮かぶ剣をスノーボードのように操り、私を抱きあげて城塞都市まで飛行した事。
 もちろん初めての忠(笑)も忘れてはいない。
 軽い気持ちでチュッとするだけのつもりがペロペロチュッチュッと唾液の交換までさせられた驚きと身体の火照りは今でも鮮明に思い出せる。

 んでもってなんやかんやと魔の者を狩人ことナツキがあっさりと全滅させて現在

 安宿に一部屋借りるのがやっとの金しか持ち合わせていない私は苦渋の決断で二人で一つのベッドに寝たのだった。

 そして今、ベッドで横になっている私の眼の前にはその狩人さん。
 ナツキが私の目を金色に輝く両の瞳で貫いている。

 急に気恥ずかしくなった私は掛け布団をかぶり、顔の下半分を隠した。

「……おはよ」
「おそようだな。もう昼だぜ」
「え?お昼?」
「ああ。まぁ、異世界初日だったンだから寝込むのは仕方がない。起きたなら早速マハー・ヴァイロに戻るぞ」
「ん……ナツキ、心配してくれてありがと」

 私はお礼を言ってベッドから起き上がり、靴を履いてコンコンとつま先を詰める。

「いこっか」
「歩いてか?」
「?……歩かな無いの?」

 私が首を傾げると、ナツキはやれやれと肩を竦める。

「歩いてだと一週間はかかるぜ?」
「えッ?!」
「ちなみに、この世界の交通手段は馬車が主流なンだが、それでも三日だな」
「ええッ?!おかしくない?だってここに来た時なんて体感だけど一時間も掛かってなかったよ?」
「俺の飛剣を馬車と一緒にするンじゃねぇよ」

 フッと鼻で笑うナツキのドヤ顔にイラッとしたけれど、それ以上に今は移動手段が問題だった。

「じゃ、じゃあ飛剣出せばいいじゃない」
「封印状態の俺は飛剣召喚するほどのMPはない。昨日説明したはずだよな?」

 そうあっさりと言っては耳の穴をほじる。
 そう。私は聞いていた。聞いていたのだけれど……

「封印解除って……その……また?」
「それ以外だとお前の愛液を直接吸いだすとかしかないが?」
「ああああ?!ちょちょちょくせつッ?!」
「要はだ……空気に触れていない体液を直接俺の中に入れないとダメだってことだな」

 顔を真っ赤にしてあうあうとしている私の表情を口角を上げて楽しそうに見ながらそう言い放つ。

「ンで……どうする?」
「どどど、どうすりゅって」
「舌を絡ませた激しいのがいいのか……」

 一歩、ナツキが私に詰め寄り、それに合わせて私も一歩後退る。

「はたまた股を開いて俺に吸い取られたいのか……」

 再び一歩詰められた私もまた一歩、後ろへ下がり──背中が壁に触れた。

 ドンッ!

「どっちかしかねぇぞ」

 彼の腕が私の頭の横を通過して背面の壁を叩く。
 彼の腰から上くらいしかない私の身長に合わせてか、ナツキは少し腰を折った体勢で見上げる私を見下ろしている。

 輝くような金色の瞳が私を真っ直ぐに射抜く。

 その二対の瞳に、まるで心臓を鷲掴みにでもされたかのように、私の胸がドクンドクンと早鐘を打つ。

 その音色を聞かれていないか?気が付かれてはいないか?と狼狽えた私は思わず顔を伏せた。

 そもそも昨日は勢いでキスをした。

 理由は私自身が初めてで興味が大いにあったのと、相手のナツキはぶっちゃけイケメンで、好みの顔で、細マッチョだったからだ。

 あの時、私の躰にゾクリと奔った電流のような感覚……
 際限なく熱が上がり、腰がふにゃりとなり、お腹の下辺りがキュンとなって立って居られなくなる。

 それをまた感じるのだろうか?

 今考えただけでもお腹の下辺りがキュンとして、恐らくだけど私の顔は真っ赤なトマトのようになっているだろう。

 伏せた顔を少しだけ上げ、彼の顔をチラッと盗み見ると、野性的な彼の瞳がどこか優しげに輝いて見えて……

 そんな目で見られたら……

 私は……

 気が付けば私は……彼の首に手を回し、踵を上げてつま先立ちになり……

 再び重ねた……

 彼のくすぐったいくらいの鼻息が頬にかかり、私もまた同じような鼻息をしているのだろうか?と思って恥ずかしくなる。

 絡み合う口内の肉がお互いの液体と荒い息を交換すると同時に、私の脳内をビリリとした電流が奔る。


 その行為は数分間に及んだ……


 そして当然のように腰が抜けた私は、もやもやと蒸気を発して封印を解除されたナツキに抱かれ、城塞都市サイガの空へと舞い上がり、冒頭へと至るのでした。

 

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