狩龍人と巫女と異世界と

GARUD

4 封印解除方法とは

「ふぉっ……流石に……」

 眼の前の狩人さんかは放たれる殺気に私の身体に震えが奔る。
 おじいちゃんも汗を拭うように頬を布で拭いている。

「要件を言えよオルトロイ」
「このマハー・ヴァイロ国に魔の者が大侵攻中でな……正直手に負えんのじゃ」
「助けてくださいナツキ様って地面に額を擦り付けて嘆願すれば協力してやらンでもねぇぞ」
「くぬ……」

 私は渋々といった様子で膝を折るおじいちゃんの前に出た。

「狩人さんはなんでそんな意地悪言うの?」
「暴力痴幼女は黙ってろ」

 なんか強烈なパワーワードで罵られた気がするんですけど……

「だいたいだな……俺を封印していた側の人間になンで俺が協力しなきゃならないンだよ?」
「でも……仲良さそうだったじゃん」
「ンなもん、昔馴染みだからだろ。俺はな……俺を騙してアイツから全てを奪ったこの国が大嫌いなンだよ」
「アイツ?……奪った?」
「…………にかく、俺は協力する気がねぇンだよ。魔の者の侵攻だぁ?いい機会じゃねぇか」

 短くなったタバコを吸い込んで煙を吐く。

「滅べばいいンだよ。こンな国はよ」

 遠くを見るように呟く狩人さんにイラつきが再燃する。
 過去を懐かしむような優しい瞳で滅びろだなんて、きっと、絶対に思ってないはずなのに……なんでこんな事を言うのだろう

「何を不貞腐れてるのか分かんないけどさ、あんた……かっこ悪いよ?」
「……あぁン?」
「だってそうでしょ?そんな昔を懐かしむような顔して、楽しそうにおじいちゃんと話して、それでいてそんな仲良しのおじいちゃんが困っているのに滅べばいいだなんて!かっこ悪いんだよこのウジウジ野郎!」
「このクソ幼女が……ぽっと出のテメェが何を知ったような口を──「ぽっと出だからだよ!」

 私はツカツカと歩いて狩人さんとの距離を詰め、ガッと彼の胸を掴む。

「なんだか分かんないけどさ!助けられる力があるんでしょ?なら助けてあげなさいよ!そんでもって、その後で気に食わないなら滅ぼすなりなんなりすればいいじゃない!」

 狩人さんは私の啖呵に目を見開いて唖然とした表情で固まっている。

「とにかく!おじいちゃんのお願い聞くのよ!老人は労りなさい!いいわね!」
「お……おう……」

 カクカクと頷く狩人さん。

「ぶふっ……幼女に凄まれてたじろぐ姿なんて……今生では二度と見れないじゃろうな……ぶくくくく」
「ンめぇ!こらオルトロイ!笑ってんじゃねぇぞ!」
「ほら!やっぱり仲良いんじゃない」
「チッ……」

 一つ舌打ちしたあと、狩人さんはポケットを弄るが、どうやらタバコが尽きたのか、何も掴めずに諦めて頭の裏をバリバリと掻いた。

「オルトロイ!」
「ふぉっ?」
「取り敢えず今は助けてやる」
「おお。それは助かるのぉ」
「ンで、ヤバそうな場所はどこだ?」
「国境の城塞都市サイガじゃ」
「あぁ……二百数十年前に俺がぶち壊した都市か?復興させたのか?」
「国境の砦じゃぞ?復興させないとか頭おかしいじゃろ」

 うんうん。二人ともさっきまでの緊張した空気を微塵も感じないね。
 仲良さそうで実にいいよ!

「おい痴幼女」
「誰が痴幼女よ!」
「ンな呼び方なんてもんどうでもいいだろ。いいからこっち来い」

 狩人さんが面倒臭そうに手招きしている。
 なんだろう?

「何よ?」
「何?じゃねぇよ。封印解除してくンねーと戦えねぇんだよ」
「は?封印解除?」
「俺はな、巫女風凪に力を封じられてんだよ。解除すンには同じ巫女の力が必要なンだよ」

 常識だろ?と鼻を鳴らす狩人さん。
 そんな常識、取説にも書いてございませんでしたよ?

「巫女様、封印を解除するには巫女様のお力を彼奴の中に直接送る必要があります……」
「…………ちょっと、なんか嫌な予感がするからその続きは聞きたくないんですけど?」
「その方法は接吻に他なりませんッ!」
「やっぱりぃぃぃぃ?!」

 話しの流れからしてそんな予感がビシバシとしていたわよ!
 アレよね?お伽噺の定番にあるようなチュッとするとアレな封印が解けてハッピーエンドになる的なアレよねッ!

「おら、さっさとしろ。テメェが助けてやれって言ったンだろうが」
「いや……そりゃぁ言いましたけれども……」
「俺が無理やりヤッても効果はねぇんだ。お前の意思で俺に唇を差し出さねぇとな?」
「ッ~~~~」

 なにコイツ!ここぞとばかりに唇の端を吊り上げて!
 私!キキキ、キスなんてッ!リアルでもしたことないのよ!こんなゲームで初めてを体験するなんて──するなんて……いや……本番での予行演習と考えればどうだろう?

 チラッ

「…………」
「ンなに見てンだよ?あくしろよ」

 燃えるようなツンとした赤い髪、細い肉食獣のような釣り目に金色の瞳、スッと通った鼻に薄い唇。
 しっかりと見ればまぁ……美男子だ。

 細い身体にしっかりとした筋肉が詰まっているのはさっきのやり合いで把握している。

 性格は置いといて、見た目だけなら彼は間違いなくアニメで見るような英霊様みたいで私のド真ん中ストライクだった。

「し……しかたないなあ」
「巫女様……ヨダレ……なんでもないですはい」

 おじいちゃんが何か言おうとしたのを私は目で殺す。
 今の私はハンターなの。
 獲物を見つけて狩る。妖しい狩人なのよ。

「ンか少し怖えな……オルトロイ……こいつ、本当に巫女か?」
「そ、そうじゃよ?巫女召喚の陣で降臨されたんじゃし?多分?」
「そうです!私が巫女なんです!では!いざ!」
「ぅおい!顔を掴むな!引っ張るんじゃねぇよ!」
「あんたの背が高いのが悪い!えぇい!逃げるな!減るもんじゃないんだから大人しくしなさい!」

 何故か頭を下げまいと必死の抵抗をみせる狩人さんの首をロックして体重をかけながら身体を無理やり下げさせる。

「ぐおお!そりゃあ男のセリフだろ!なんでこんなに力が強えンだよ!」
「往生際が悪いわね!ほらッ!」
「ぅムッ~~~~」

 膝が折れ、高さがある程度合ったところで私は爪先立ちになり、狩人さんの唇を強引に奪い取った。

 ムチュ~~~

 ふふふ。予行演習がイケメンを無理やりとか萌える!

 って!何かが唇を押し拡げてる?!
 舌!舌が入って来てる?!

 口内に侵入してきた肉塊に驚き両目を見開いたのもつかの間、縦横無尽に口内を蹂躪する彼の舌に、私の背中がゾクッとした。

「あっ……」

 なんか変な声が出たッ!
 恥ずかしいッッッッ!
 でも……なんか……
 
「ッ…………ん…………」

 数分間に及ぶ行為の後、彼の顔がゆっくりと私から離れた。


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