保存料たっぷりの生活

聖 聖冬

無添加の世界⑤

「ははははははっ! 防戦一方では私は倒せんぞ、貴様の攻撃が当たるとも思えんがなー!」

出会ってからずっと分身を繰り返しては、周りをぐるぐる回る変態に囲まれ、時々来る一撃を、手に持つ倭刀とは別の倭刀を腰からぶら下げた少女は受け続けていた。

「うざいっての! 回んな変態、あと笑い方きもっ。引くわー、絶対モテないっしょ」

倭刀を構えて回る変態を貶しながらも、この幻術の打開策を考え続けているが、そもそも魔法なんだから見分けなんかつかないっしょ。と結論が出る。
素早い突きと切り返しで目の前の5体を斬り、その隙を突いてきた本体を後ろ蹴りで迎え撃つ。

「だから一撃が軽過ぎだっての、そんなんじゃ埒明かないからとっとと斬られてくんない?」

「おやおやそんな事言うなよお姉さん、これでも全力の一撃を……」

「羅刹剣、骸剣。傀儡……斬雨」

左の腰に差してあった2振り目の倭刀を引き抜きながら斬撃を飛ばし、全方向に隙間無く雨の様な攻撃を降らせる。
さすがに幻術が通用しない程の攻撃は避けきれず、男は腹に突き刺さった斬撃に連れられ、遙か遠くまで吹き飛ばされる。

「羅刹剣。斬羅星!」

黒い刀身の羅刹剣を突き出して追撃を仕掛けるが、霧散した男の黒いマントに包まれ、爆発と共にマントも爆ぜる。
地面に剣を突き刺して杖代わりにして何とか立っているが、少しでも風が吹けば倒れてしまいそうな程弱々しい。

少し動いた変態に隙を見せない為に、黒で染められた羅刹剣を左手で前に突き出し、まだやれると言う意志を表示する。
所々焼け焦げた体でも立っているどころか、まだ動ける意地がある事に男は圧倒されるが、所詮それは虚勢に過ぎなかった。

「そんなにして倒れないなんて、君何か訳ありナワケー?」

「訳が無いやつなんて居ないっしょ、それに意地だけはその辺の男よりあるつもりだっての」

「分かるよー、女だと色々差別化される世の中だもんねー。辛かったよ……」

「お前に私の何が分かんだっての!」

少女は地面を斬りながら赤で線を引き、途中で膝を折って崩れ落ちる。

「ありゃーこれはもう勝負あったかな、じゃあ遠慮なく……」

「おい、嫁入り前の体に何してんだ」

声と共に遠くに飛び退いた男は笑顔こそ崩さなかったが、明らかに普通ではない汗を額に滲ませる。
あー悔しいなー、ここは引くっきゃないよねー。と最後まで軽口を叩いて姿を消すと、他の追撃者はいつの間にか姿を消していて、傭兵ギルドの全員が最低でも軽傷を負ってフランチェスカの元に集っていた。

「1番重体なのは美波か……悪いが運んでくれユーリ、急いで本拠地に戻る」

「待てよフランチェスカ! なんであいつらは大人しく引いたんだ、なんで追われてるのか、なんで俺を……」

「それ以上喋りたかったら口を閉じろ、引くことを最優先する。頼んだラジャイオン」

消えたひとつの気配が残した馬に跨り、フランチェスカが牽引して馬を手繰る。

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