魔神と勘違いされた最強プレイヤー~異世界でもやることは変わらない~

ぶらっくまる。

第019話 意外や意外

 敵方の魔人族を攫ってサンプルを集めるのは、選択肢の一つとして考えても良いとアレックスは考えていた。問題は、いつ、どこで、どうやってを知りたかった。

 待てど暮らせど、クノイチから返事が無いことに痺れを切らしたアレックスは、

「それじゃあ――」

 と、ブラックに必要なサンプル数を確認しようとしたとき。

 クノイチが、パンッと柏手を一度打った。

 お、何か閃いたのか?

 目を見開き、あっと言うように口を開けた様は、何ともアホっぽいが、それも可愛いとアレックスが思ったのは、お気に入り故だろうか……

「ハナに乗ればいいと思うの」

「え? ボクに!」

 まさか名前を呼ばれると思っていなかったハナは、素っ頓狂な声を上げた。

 そんな彼女――ハナ・シベリアン――は、アレックスの実家で飼っているシベリアンハスキーの、「ハナ」をイメージして創造した六人目の従者。

 ケモケモの種族選択券――霊獣族のフェンリル――を、アレックス――ハイヒューマン――のそれと交換して創造したは良いものの、役割はゆるキャラ的立ち位置で、取り合えず第六旅団の団長に据えていた。

 気力旺盛なアニエスとは対照的に、まったりモフモフ要員をイメージして創造したため、悠々自適な性格で愛犬の如くアレックスは可愛がっている。

 容姿は、白と水色を基調にした巫女装束が良く似合う白銀のフェアリーショートボブに、マリンブルーのぱっちりお目々の幼女に設定しており、口調はのんびりだったりする。

 そのため、今の反応から大分驚いていることが窺い知れた。

「それはつまり、クノイチとハナの二人であの深い森を抜けると言うのか?」

 きりっと勇ましい忍び装束のクノイチが、獣化したモフモフになったハナの背に乗っても、顔だけしか出ない姿を想像したアレックスは、何故か笑えた。

 そんな笑いを堪えているアレックスに、クノイチはコクコクと小さく頷く。

「それなら素早く行動できると思うが、大した数を集められないではないか。それなら、部隊展開させた方が早くないか?」

「だって、家ないから、部隊展開難しいでしょ?」

 クノイチは、何度か瞼を瞬かせたのち、コテンっと小首を傾げた。

「あ……ああ、そうだったな」

 重要なことを思い出し、アレックスは鼻頭を揉む。

 リバフロでは、兵舎の規模と数によって雇用できるNPC傭兵の上限が決められていた。

 それ故に、それなりの規模と数を建築していたが、それがリアルとなると、住める環境なのかが不明だった。しかも、一度召喚してしまうと今までのように回収できないため、慎重を期す必要がある。

 そんな問題があるため、今までのところ必要最低限のNPC傭兵しか召喚を行っておらず、クノイチの提案が妙案に思えてきた。

 が、アレックスとしてはあまりリスクを冒したくないのもまた事実。

「だが、それだと効率が悪い上に、クノイチ、お前に万が一があってからでは遅い」

「……だ、大丈夫。あたいに任せて」

 そこまで言うならちゃんと目を見て話せよ!

 何故か頬を染め、目を逸らしながらそう言ったクノイチのその様子があまりにも可愛らしく、アレックスは突っ込みを口にはせず、心の中だけに留めた。

 一方でハナは、

「えぇ~、ボクはあんまり危ないことしたくないよぉ~」

 と、三角の耳を折りたたみ、白銀の尻尾が揺れていたが、ゆっくりと足元に巻きつけるようにさせ、全く乗り気ではなさそうだった。

「念のため言っておくが、別にお前を信用していない訳じゃないぞ。ここはリバフロの常識が通用しないのだ。慎重に行動するのは、別に悪いことではないと俺は思う。どうだ、わかってくれないだろうか?」

「……わかった」

 その説明でなんとか理解を示してくれたクノイチに、アレックスはホッと一安心。現実世界となった今、好感度がどのような影響を及ぼすか未だ判明していない。変に不満を抱かせ、それを下げたくないのがアレックスの正直なところであった。

 結局、防衛対策を打ち合わせるにも敵戦力が不明な現状、斥侯を出すしかないのかもしれない。顔を伏せてしまったクノイチの様子を観察しながらアレックスは、そんなことを考えていると、ブラックが新たに提案してきた。

「陛下。それであれば、二日お時間をいただければ転移門を新しく設置できると思いますが、如何でしょうか?」

 その提案を聞き、アレックスは少し身を乗り出す。

「なるほど。それならば移動中の危険を回避できるな。しかしそれは、対にせねばならんと思うが、それは何とする」

 悪くない案だとアレックスは思ったが、クノイチの前例があるため、その先をきちんと考えているかを確認する必要があった。

「左様でございます。しからば、自分とシーザー、それとお手数をお掛けしますが、陛下にもお越しいただきまして、そこで部下を召喚していただければと存じます」

「ふむふむ、移動手段、人手としっかり考えているのだな。さすがだブラック! そのためなら俺もいくらでもおもむこうではないか。その案、進めてくれ」

「はっ、お褒めいただき恐縮です。会議が終わり次第、取り掛からせていただきます」

「うむうむ」

 恭しくお辞儀をしたブラックを見てアレックスは、

「これまた意外や意外。こいつは頭が切れるじゃないか!」

 と、内心では感心しきりだった。

 それだけではなく、アレックスに対する態度が、他の好感度が高い従者たちよりも洗練されており、彼を敬う印象を強く受けた。

 好感度の影響は、やはりリバフロと同じで、スキルの効果だけなのかもしれないと思ったが、その結論を出すにはまだ早いだろう。

 一先ず、ブラックがまともな性格であったことに、アレックスは安堵した。

 残るは、さっきから九尾をブンブンと振って猛烈アピールをしている、ふくれっ面のアニエスへの対処をどうするのかだが……

 正直勘弁してくれと思うアレックスだが、これも上位者の務めなのかもしれない。

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く