魔神と勘違いされた最強プレイヤー~異世界でもやることは変わらない~

ぶらっくまる。

第007話 従者召喚

 アレックスは、ログアウトができず、フレンドプレイヤーが全員未ログインという異様な事態に巻き込まれた。再現が禁止されている知覚が備わっていることで、夢だろうとかとも思った。それでも胸の内は、異世界転移であってほしいと願っていた。

 そして、周辺環境の変化と突然の襲撃――

 そんな非常事態を知らせに来るのは、アレックスの中では、側近のようなNPC従者しか考えられなかった。が、七人いるはずのNPC従者は、誰一人としてアレックスの元に駆け付けることがなかった。

 タスク管理を一年以上変更しなかった偶然が重なり、Fランク傭兵のジャンがその役目を果たした。しかも、その出会いが印象的すぎたせいもあり、すっぱりとNPC従者のことを頭から消し去っていた。

 ガサラムが言った、「七人の神の子セブンチルドレン」の言葉によって、NPC従者のことを思い出したアレックスは、首を傾げながら真面目な顔でに呟いた。

「ん? で、その従者たちは何処にいるんだ?」

「命令でどっかに行ってるんじゃないです?」

 ガサラムの一言で、従者たちが近くにいないことをアレックスは納得した。

「ああ、ふつうに考えればそうだよな」

 が、

「……って、マジかよ!」

 そのことは、アレックスを動揺させた。

 NPC従者だけに限られるが、鉱山での鉱物採取、森林での木材採取や農園での食糧採取といったタスク設定をしておけば、放置プレーができる。プレイヤーが帯同した場合よりも効率が半分以下と著しく低下するものの、多忙なプレイヤーにとっては親切設計だったりする。

 その他にも、リバフロは、建国や戦争ストラテジーの要素が盛り込まれていたため、タスク設定を遠隔操作できるスマートフォンアプリとの連携がなされている。

 そのため、万が一拠点が攻められても採取タスクをキャンセルし、拠点防衛へ向かわせることも可能。

 つまり、プレイヤーはこぞってそのアプリを使用し、NPC従者に遠隔地での活動をさせるのが古参プレイヤーの常識だったりする。

 当然、アレックスもその例には漏れない。

 メニューの情報タブで他の拠点を選択できなかったことから、転移した拠点は、帝都のみと思われる。NPC従者の中には、他の拠点での生産活動に従事している者もいるのだった。

「従者無しとか、既に詰みゲーじゃねえか! あっ……」

 NPC従者消滅の可能性が頭をよぎり、ガサラム然り、ソフィアといった頼もしいNPC傭兵を前にしても、それでは全然足りないというようにアレックスは慌ててタスク管理項目を確認した。

「ああーよかった。イベント参加キャラは、強制収容だった」

 その事実に気付いたアレックスは、ホッと胸を撫でおろす。

 連日の残業で貧労困憊だったアレックスは睡眠を優先し、NPC従者を再召喚せずにログアウトしようとしたことが幸いした。

「い、イベントってなんだ?」

「ガサラム上将軍、私たちが除け者にされている戦争のことですよ」

「ああ、性懲りもなく大将たちに歯向かってくる別の使徒たちとのアレか。だがな、俺はぁ姉ちゃんと違って、帝都防衛の任があるから、除け者とはちと違うな」

「ね、姉ちゃん!」

 飲み屋の姉ちゃんばりにガサラムに言われたソフィアは素っ頓狂な声をあげた。

「べ、別に除け者なんかにはしてないぞ。ソフィアには秘書という立派な役目があるではないか」

 ここ最近の戦争イベントでは、直轄旅団の第二、第三連隊を参加させていないことを非難されたと思い、アレックスはフォローするつもりで言ったが、それがソフィアには気に食わなかった。

「な、何を仰いますか! わ、私は本来騎士なんですよ。なにゆえ、ギルドの受付嬢の真似事みたいなことしないといけないんですか! ま、まぁ、陛下と毎日顔を合わせられるからいいんですけど……でも、やっぱり! できることなら、私も前線で肩を並べて戦いとうございます!」

 翡翠色の瞳に滲むものをたたえてソフィアは、アレックスに掴みかかるような勢いで迫った。それを手を引いて仰け反るようにしてアレックスは後退る。

「近い近い!」

 見た目がクールビューティーだからなんとなく秘書にしたが、こんなに暑苦しい性格だとは思わなかった。

「それは、今後の働き次第で考慮してやる」
「本当ですね! しかと、聞きましたよ」

「ああ、だから今は落ち着いてくれ」
「はっ!」

 全く……と、皇帝らしく威厳を出した方がいいのかと考えていたが、その必要はないのかもなと、ガサラムやソフィアの反応を見てアレックスはそう思った。それどころか、外に出てから押し黙っているクロードのムッツリ顔を見てしまうと、偉ぶるだけ無駄なんだろうなと感じ、苦笑い。

「それじゃあまあ、一先ず召喚してみるか」

 頭を切り替えてアレックスがそう宣言すると、自然とスペースが生まれた。

 それを確認し、アレックスは意味もなく両腕を前にかざした。

 ふつうなら一番目の従者であるアニエスを召喚するべきだろうが、襲ってきた魔人族のことがあるから、同じ魔人族が良いだろう。

「来い、イザベル」

 言下、アレックスの目の前に紫色の魔法陣が展開され、地面から生えるように一人の女性が姿を現した。

 その女性は、イザベル・デーモン

 羊のように外側に巻かれた二本の角、背中からカラスのような漆黒の翼が生えていた。その翼に邪魔にならない程度まで伸ばした黒髪ストレートが映える色白の肌。

 エラがスッキリした小顔の目尻が少し上がっており、ミスリルのように煌くその白銀の瞳が気の強さを表している。そんな彼女は、控えめに言っても美女。

 そんな美しいイザベルに跪かれ、その谷間に自然と視線が誘導されたアレックスは、顔を赤く染めた。

 いつ見ても、これは堪らん! と、胸元が大胆に開いた漆黒のドレスから零れ落ちんばかりの果実を目にし、アレックスは内心で歓喜したとか、しないとか……

 NPC従者召喚に成功して安堵したアレックスは、現状の理解度をイザベルに確認したが、運営開催のイベント戦争で勝利したところまでしか記憶がないと言うので、かいつまんで説明した。

「つまり、我らは、リバティ・オブ・フロンティアとは別の世界に強制転移をされたということなのか?」

 なるほどと、アレックスの言葉を理解し、平然と聞き返しているイザベルであったが、その他のNPC傭兵たちは、転移したことは理解できても、異世界とは思ってもみなかったようだ。

 それぞれが目を見開いたり、叫んだりと愉快な展開になっており、その様子を横目で見たアレックスは、すぐにイザベルの確認に頷いた。

「んー、まあ、そうだな」

「そうか……しかし、は相も変わらず冷静だな」

「そうか?」

 NPC従者に限っては、外見から性格の設定までプレイヤーの好みにできるため、ソフィアやクロードのときとは違い、全く違和感がない。

 それ故に、いつも通りのイザベルを相手に安心していた。

「そうだとも。異世界への転移など神の所業ではないか。まあ、我が君以外が言ったのなら到底信じぬがな」

「なるほど……言い得て妙だな」

 今回の現象を、「神の所業」と表現したイザベルのことを、上手いとアレックスは感心した。

 リバフロでの魔法は、初級、中級、上級、伝説級、幻想級と神話級魔法の六種類に大別される。それを細かく分けると九種類で神話級には、大陸格と世界格という二種類があった。

 最強と謳われるアレックスであっても大陸格の魔法までは覚えているが、世界格の魔法は覚えていない。より正確に言うのであれば、覚えられない。それは、ゲームの中に設定として存在しているだけで、実装の予定もないとされていた。

 その世界格魔法は、ネタに走った魔法も含まれていたが、その中に異世界転移も確かに明記されていた。予定も何も実装など不可能な魔法ばかりだった。

「原因はこれからゆっくりと調べようじゃないか。先ずは、そこの襲撃者たちを確認してくれないか? おい、ガサラム」

「あいよ、大将。おい、大将とイザベル上将軍の元へアレを」

 確認すべきことは山積みだが、それを一つずつ崩していくべくアレックスは、早速、先の襲撃者をイザベルに確認してもらうことにした。

「ふむふむ……」

 ガサラムの命令で帝都防衛師団の兵士たちが魔人族の亡骸を運んできた。それをイザベルは注意深く確認していくが、五分ほど経過しても頷くばかりで特に発言をしなかった。

「どうだ、何かわかるか?」

「我が君よ、こやつらは……」

「うむ、どうだ?」

 しゃがみ込んでまで念入りに確認していたイザベルがおもむろに立ち上がり、アレックスに向き直ってから真剣なまなざしを向けたことで、アレックスは期待に胸が高鳴る。

「魔人族とは言えないな。死後数十分しか経っていないにも拘らず、魔力が全く角に残っておらん。もはや、小鬼などモンスターの類と変わらんな」

 あっさりと否定され、アレックスはがっかりした。

「それは本当か?」

「本当だとも。我が君は、我を疑うのか?」

「いやいや、そんなことはないぞ。ただ、あまりにもゴブリンと比べるには可哀そうじゃないか?」

 イザベルがモンスターとは言うものの、アレックスには角が生えた人間にしか見えなかった。それはあまりにもリアルで、胃の奥から込み上げてくる衝動を必死に堪える必要があるほどに。

 そんな状態であった故、アレックスには気付けなかった。

「ふうむ、そうではあるが……それが本当かどうか、に聞くのが一番手っ取り早いだろう」

「は? 一体それはどういう意味だ?」

 意味深なイザベルの発言に疑問符を浮かべたアレックスが問う。

 すると、鬱蒼うっそうたる森の方へ視線を向けたイザベルが、

「……なあ、そこの二人よ」

 と、誰かに言い放つと同時に威圧スキルを行使したのだった。

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