私が、宇宙の女王になるわ!だから、貴方は私を守りなさい!
結局、みんなバカなのよ(仮)
魂の再移植は一度きりだ。
魂は再移植後の移植では、大事な部分を削られる。
大事な部分とはーーーー。
命《生命の源》だ。
命が抜けた魂は、黄身の無い白身みたいなものだ。そんなものを移植しても、どうなるかなんて誰にでも分かる。
そして、クロノスは再移植を拒んだ。
――――――
セルフィーは着地の姿勢から体を起こすと、鋭い目付きでティアを睨み付けた。
「大馬鹿ヤロぉぉぉぉ!」
ティアは初めて会った自分と同じくらいの年齢の男の子に怒鳴られ、体が強張った。
だがそれは、ティアに言った言葉ではなく、ティアの中にいるクロノスに投げ掛けた言葉。
「ゴードンッ!移植はどれくらい進んでいたんだ?」
《セルフィー殿!貴方から頂いたチャンスを私はッ!私はッ!・・無駄にしてしまいました・・・ぅぅぅ》
「泣くのは後にしろ!、どれくらい進んでいたか教えてくれ」
《・・・48%です》
セルフィーは目を瞑り、何かを考えている。
(48%なら、いけるかもしれない、しかし、それをクロが受け入れればの話だが・・それにあの娘がなんと答えるかだ)
「君がティアだろ」
セルフィーの視線は、真っ直ぐティアを見てる。
名前を呼ばれ、ルナの背に隠れて怯える顔を向けたティアは小さく頷く。
「そして、あの錬太郎の幼馴染みの咲良と、ティアの母親のルナ」
同じように名前を呼ばれた咲良とルナは、その言葉と声から、警戒感を緩めざるを得なかった。
ゆっくりとティアに歩み寄る。
「少しティアと話をさせて欲しい」
ルナの背に隠れたティアに手を差し伸べる。
口を挟んではいけない状況を察する咲良。
ティアはどうしたら良いのか分からず、助けの視線を母親に向ける、ルナは「大丈夫」と言って、ティアの背中を押した。
セルフィーはティアの手を握り、話し始めた。
「ゴードン達が、君やお母さんにしたした事を許してやって欲しい、勿論、後でボクがしっかりお仕置きをする、彼らは、君が大好きなお母さんを助けたかったのと同じように、クロノスを助けたかったんだ」
「・・うん」
「ティア、君はあの世界でクロノスに会って、彼女をどう思った?」
ティアは難しい質問にうつ向いてしまった。
セルフィーはティアの心に語りかけた。
「もし君が真っ白で何もない、聞こえない、自分の声すら聞こえない世界にひとりぼっちで、ずっと居なくちゃならないとしたら・・」
ティアは研究所のあの部屋を思い出した。
何もない真っ白な部屋。
ひとりぼっち。
あの時は、外の世界や人間の感情などない人形だった。
だけど、今は・・ひとりぼっちは・・・・
「・・・・イヤぁ」
強い決意をした瞳をセルフィーに向けた。
「ありがとう、一緒にクロを助けよう」
セルフィーはティアを抱き締めると、ティアの精神世界へ入った。
―――――――――
辺りは真っ白な空間。
上も下も分からない。
もしかしたら、空間などなくて、すぐ目の前に白い壁があるのかもしれない。
そんな世界で、他者は唯一の空間認識をさせてくれる。
この前とは状況が違う精神世界。
前は、クロノスとティアという2つの魂が1つの精神世界にあったので、空間が作られてしまっていたが、クロノスの魂が鎌に戻り始めたので、精神世界が空間のない元の姿を取り戻してきていた。
彷徨うティアに誰かが手を握った。
「油断するな、君の中だが迷えば、君だって帰れなくなる」
遠く?という認識も曖昧に、目の前に光の玉が見えた。
だんだん大きくなる光の玉。どっちが近付いてきてるかさえ分からない。
それは、ティアには見覚えがあるものだった。
「・・クロさん」
「ああ・・見つけたぞ、クロ」
光の繭でクロノスは眠っていた。
繭から伸びる光の糸はどんどん巻き取られ、繭は少しずつ小さくなり始めていく。
「時間がない、ボクが繭を切り開く一瞬の間に、クロを取り出してくれ」
「・・やってみる」
セルフィーは手を広げ、何か言葉を口走る。
その手には天地開闢の剣『エア』が握られていた。
そして、抜刀の構えから横一文字に『エア』を振り抜く。
『エア』の切先は繭に当たっていないにも関わらず、スパッ!っと繭が切り開かれた。
「今だッ!」
ティアは声よりも先に繭の中に上半身を突っ込み、繭の中で漂っていたクロノスの体に両腕を回し抱きしめ、力一杯そこから引き抜いた。
ティアに抱きかかえられ、意識なくグッタリしているクロノスに、セルフィーが近づく。
そっと、セルフィーにクロノスを渡す。
優しく抱き締めるセルフィー。
「クロ・・・・」
セルフィーは、クロノスの片手を握ると自分の頬に当てた。あの時、クロノスが言えなかった最後の言葉の続きを聞くために。
ーーすると
セルフィーが握るクロノスの手が僅かに動いた。
「セ、、フィー、、ダイ、、キ、ダヨ」
「・・ボクもだ、もう心配ない、何処にも行くな」
「エ、ヘ、、ヘヘ、、ワカッ、タ」
もう一度、今度はクロノスの小さな体を強く優しく抱き締める。
「セル、苦しいよぉ」
「肉体じゃないのに、そんなわけあるか」
「あは、それじゃぁ!これならどう?」
クロノスはセルフィーの首に腕を回すと、キスをした。
「・・エヘヘヘ」
いつまで、このイチャイチャを見せられるのもイライラしてきたティアはーー
「おっほんッ!」
「セルフィーさん、そろそろ、クロさんに説明してあげてください!」
「ああ、そうだな、クロ、話しづらいから、ちょっと離れてくれるか」
「イヤ」
セルフィーの首に回した腕を離そうとしないクロノス。
「は!な!れ!ろーーーッ!」
「何処にも行くなって!いっ!たーーーッ!」
《ブチッ!!!》ティアの導火線が切れた。
「二人ともいい加減にしてーーーーーッ!」
「「!!!!!!」」
―――――――
申し訳なさそうに、正座の姿勢をとる二人。
「じゃ、こういう事ね―――」
先程、セルフィーから今後の事について説明されたことを振り返るクロノス。
ティアの体に移ってしまった48%の魂が鎌に戻ると再移植の際に命が削られてしまうが、ティアの体からの移植ならそれは回避することが出来るので、48%の部分はティアの方に残してもらう。多少、ティアにも何らかの影響が出てしまうが、それはティアも覚悟の上での承諾だった。その影響の一番大きいものが、器に二つの魂が存在する事で起こる人格の入れ替えだ。簡単に言うと多重人格になるということを意味する。
そして、エブリの実が成る2年後に、残りの52%と一緒に再度、移植を行う。
これがセルフィーの提案だ。
クロノスはティアの前に立った。
「決断してくれて、ありがとう、短い間だけどよろしくお願いね・・ティア」
「こちらこそ、よろしくお願いします、クロさん」
可愛らしい笑顔のティアと優しい笑顔のクロノス、まるで仲の良い双子の姉妹を見ているようだった。
―――――― 現実世界
ティアは目覚めると、ルナと咲良に自分の中にクロノスがいる事などを説明した。
最初は混乱していた二人だが、「2年後には元に戻るなら、問題ないでしょ」なんて言って笑っていた。
ゴードン達は、セルフィーにこっぴどく叱られ、研究所は閉鎖になり、まだ実験体としてして育てられていた子供達は、ティターン族が責任をもって育てることになった。
少しすると、レイカ達もやって来た。
咲良はレイカに駆け寄り、今までの経緯を話すと、レイカは「解決したなら、良かったじゃない」と咲良を優しく抱き締めた。
そして、咲良は改めてレイカ達をを紹介するためにティアとルナに声をかけ話をしていると、その場にいたセルフィーが何故か顔を隠しながら後退りする。
最初に乱丸が反応した。
《・・・懐かしい匂いがする》
ミーシャが怪しい目付きで、それを追う。
「どこかで・・・・」
それに気づいたティアが声をかけた。
「セルフィーさん!クロさんが何か話したいそうだよ」
《「!!」》
乱丸が飛び掛かった
ミーシャも飛び掛かった。
その勢いでセルフィーの上着から何か紙切れのような物が何枚か落ちたのを、持ち主は気付かなかった。
《セルフィー!来てたのかよ》
興奮気味に、かつての飼い主に甘える乱丸と。
「お前!生きてたんだなッ!良かった良かった」
大昔の戦友との再会に喜ぶミーシャ。
その側で、ティアはセルフィーが落とした物を拾い上げると、驚きの表情をして、それを後ろ手に隠したが、ティアが見たものは当然、クロノスも見ることになる。
「クロさん!落ち着いてぇぇぇッ!」
ティアの表情が変わり、不敵な笑みを浮かべるクロノスに入れ替わった。
「・・・セル、ちょっとこっちに来て」
その手には召喚された、アマダスの大鎌が握られていた。
咲良とレイカは、クロノスが投げ捨てたそれを拾い上げると、それは写真だった。
咲良とレイカの『パン○ラ・ブ○チラ』写真その他、多数の隠し撮り。
セルフィーに修行を受けさせてもらう為に、錬太郎が撮って渡した物だ。
写真をビリビリに破く咲良とレイカ。
「ち・違うッ!それは違うんだッ!」
軽蔑の眼差しを向ける二人。
「「・・・・・クロさん、殺しちゃって下さい」」
「セル、早くこっちに来て」
目が据わっているクロノス。
片手で振り回す大鎌によって、空気を切り裂く音が次第に大きくなる。
緊急離脱しようとしたセルフィーだが。
逃げ出す姿勢のまま動かなくなってしまった。
クロノスは時の女神。
セルフィーのいる空間だけ時間を止めた。
ゆっくり近付くクロノス。
セルフィーから漂う香水の匂いに、頬が痙攣する。
「・・女の匂いがする、それも、どういうことかゆっくり聞かせてもらうから、セル」
そういうと、ルナの方に向き直り
「お母さん、夕飯までには帰るからッ!」っと可愛らしいティアの顔で言った後、セルフィーの首根っこを掴んだクロノスは、何処かへ飛び去ってしまった。
「本当に、男ってバカ」
呆れ顔のレイカだった。
「アハハ・・・だねぇ、でも・・何故だか、嫌いになれないんだぁ、錬太郎も、あの人も」
「・・結局、あたし達も、バカってことね」
「うんッ!」
咲良とレイカは、二人が飛び去った空を、しばらく眺めていた。
―――――― 数日後
「ルナさんから今週の土・日曜、行けるって連絡きたよ」
咲良達は、寮の食堂に集まっていた。
「じゃぁ、その日で予約取っておくわね」
「ミーシャも行くーーッ!」
《旨い物あるところか?》
《動物は入れるのかニャ?》
  「えーと、大人がルナさん、高校生が3人、子供が2人、動物が2匹・・・」
「錬太郎!行かないの?」
テーブルの端で不貞腐れている錬太郎は、咲良の呼び掛けに、顔だけ向ける。
あの後、錬太郎だけ置いて帰ってしまったことを、未だにねにもっていた。咲良はルナさんを家まで送り届け、レイカは国連軍のイエガー将軍に事情を説明しなければならなく、他のミーシャや犬猫は、お腹が減ったと騒いだのでひと足先に帰らせていた。
誰も錬太郎に気付かなかった。
そして、トボトボ帰ってきた、その後ろには、あのサイクロプスの少年がいた。
本当であれば、ゴードン達が引き取る子供だが、錬太郎から離そうとすると噛み付いて、手に負えないので、錬太郎が寮まで連れてきた。
寮母さんに事情を説明すると、数ヵ月は置いても構わないが、早く引き取り先を探すように言われた。しかし、そんなに簡単に見つかるわけもなく。そんな時、ルナがその話を聞き付け、「私が引き取るわ」と言ってきた。
その顔合わせも兼ねた旅行なのだ。
「錬太郎が来ないと、その子も来ないでしょ」
全く聞く耳をもたない錬太郎。
そこまで傷付くなんて思わなかった咲良とレイカは少し反省の表情を見せた。
仕方ないので、二人は錬太郎が興味を持ちそうな事を話し始めた。
「今回泊まる旅館は、混浴があるらしくて、男子は変態セルフィーさんがいるけど、クロさんがいるから大丈夫よね」
「温泉なんて久しぶりぃ、混浴は恥ずかしいけどねぇ」
「大丈夫よ、咲良、少しは成長したじゃない」
「・・うん、でもレイカやミーシャのスタイルには完敗だよぉ」
ここまで話したところで、錬太郎の様子を横目で確認すると、突然立ち上がった錬太郎。
真剣な顔で、咲良とレイカのところに来ると、「俺も行く」とだけ言って部屋へ戻って行った。
「まったく、分かりやすいエロ河童ね」
「アハハハハハ、錬太郎らしい」
――――――――
そして、旅行の日がきた。
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