私が、宇宙の女王になるわ!だから、貴方は私を守りなさい!
それぞれの気持ち
「初めまして、クロノスと申します」
頭を僅かに傾け微笑んだ。
光の玉から産まれたティアそっくりのそれは、自分の事を「クロノス」と名乗った。
「・・私にそっくり」
ティアは鏡に映った自分を見ているような不思議な感覚になった。どこか違うところがないか、頭から足まで見て、自分と比べてみるが違うところは見つからなかった。
「なんで私の姿に似せてるの?」
ティアは、《それ》が自分の姿を真似てふざけているのだと思った。
クロノスは静かにティアへ笑みを向けると、ティアの周りをゆっくり飛び始めた。ティアの身体を調べているようだった。
「ウフフフ、貴女は勘違いをしているようですね、私が貴女に似せて姿を作ったのではありません、私の姿に似せて作られたのが、貴女なのです」
クロノスは眉を細めて軽蔑の表情をティアへ向けた。
「私の本当の身体は、アギスとの戦いで滅んでしまいました、しかし、私の魂は宝具に移されたことで生き延びることが出来ました」
クロノスは何かを差し出すように両腕を前に伸ばすと、空間に映像が映し出された。
その映像は、信じられないような熾烈な戦いの様子が映し出されていた。大きな山々が一瞬で消し飛び、海が引き裂かれ、異常なくらい地球に接近した真っ赤な月が空を覆う薄暗い世界で、絵本のなかに登場する生き物達の群れが、大地を埋め尽くす荒波となって、何かと戦っていた。
その荒波の中には、クロノスも大勢の仲間と一緒に戦っていた。次々と倒される仲間に悲しむ時間など与えてくれないほど、戦闘は激烈を極めクロノスも次第に傷ついて身体が疲労と怪我で立っているのもやっとになる頃には、周りにいた大勢の仲間は一人も生きている者はいなかった。月からは新たな敵の大軍が空を蝕む波となりクロノスに迫っている。
屍のなかに立ち尽くす、傷だらけのクロノスは膝を落として、空を見上げた。残っている最後の力を、水を汲み取るように広げた手の内に集めると。
「侵略者どもめ・・・・」
空から閃光が走った。
閃光は矢になり、クロノスの胸を貫いた。
膝から折り曲がるように、クロノスの身体は後ろへと傾いていった。そこに、倒れかけたクロノスの体を受け止めた者がいた。
「クロッ!」
クロノスの閉じかけた瞳が僅かに開いた。
「・・セ・・・ルフィー・・」
ゴホッ!大きく咳き込むと大量の血を吐き出した。
「すまない、遅くなった!待ってろ、今、治療する」
少年はそう言ったが、既にクロノスの身体は治療出来るレベルではなかった。クロノスもその事が分かっていたので、少年の手を握ると首を降った。
「・・フィ、ワ・・タシ、ガンバッタ・・ヨ」
震える手をやっと持ち上げて、少年の頬にそっと触れると少年の綺麗な顔に血が着いた、少年は手を掴みまだ少しある温もりを確かめていた。
「ああ、よく頑張った、後のことは俺に任せろ」
「・・ウン、セ・フィ、ワタシ・・ア」
少年の頬を触っていた手が力なく落ちた。
「ッ!ゴードンッ!!早くこいッ!」
辛うじて生き残っていたクロノスの配下、ティターン族のゴードンはセルフィーの元へ走った!
「クロノス様ッ!」巨人ゴードンは、地面に膝と手を付き大粒の涙を流した。セルフィーに力なく抱かれている方は、紛れもない我等が王クロノスだった。顔を上げたその目は怒りに震え、大地が揺れるほどの雄叫びを上げると、敵に突進しようとした。
また閃光が走った!
クロノスを仕留めた光の矢が、今度は巨人ゴードンへ。
しかし、今度は光の矢がゴードンの分厚い胸板を貫通することはなかった。ゴードンの突進を抑え、もう片方の手のひらで矢を弾いたセルフィーは、ゴードンを落ち着かせるために体を麻痺させた。
「ゴードン時間がない!落ち着いて聞くんだッ!クロの体はもうダメだ、だが魂は俺がまだ体に縛り付けてる、それも、もって1時間が精一杯だ、だから、魂を違う器に移す必要がある」
「ウォォォォ、セルフィー殿、どうしたらいいんですッ!教えてください!」
「 今からお前をアルバトスの所に飛ばす、アルバトスにこの鎌とクロを渡して、魂を鎌に移して貰え!奴が嫌だと騒いだら、俺の名前を出して『あの時の借りを返せ』と言うんだ!」
セルフィーはゴードンにクロノスを渡すと、ゴードンの足元に時空間が発生し、巨体が地面にゆっくり沈みだした。
「お前が行くまでの時間を稼ぐ!頼んだぞ!」
セルフィーは、上空を真っ黒に覆う敵の大軍に単騎突入した。
「セルフィー殿ォォォォォォ!」
セルフィーの小さな体は直ぐに敵の大軍に囲まれ見えなくなった。
――――――――――
映像はここで途切れた。
「・・・・セルフィー」
クロノスは映像を包み込むように抱き締めると頬を流れる涙がスクリーンに落ちて弾けた。クロノスは自分の肉体が死んだ後の出来事を今、ティアの体を通して、やっと見ることが出来たのだ。
「ゴードン・・・本当に長い間、ご苦労様でした」
《ハ、ハイッ!クロノス様ッ!ウォォォォ》
その泣き崩れるような声の主は、咲良とスピーカー越しに話していた老人だった。
かつての屈強な巨体見る影見なく、もはや自分の足で立つことが出来ないくらいに消耗しきっていた。従者に支えられた老人ゴードンとティターン族は、鎌を守り続け、長い年月をかけ自らの力で魂の移植装置を完成させた。その影には、あの戦争を生き残り人間社会で苛まれ続けながらも、懸命に生きてきたティターン族達の結束力とプライドがあったからだ。
―――――― 精神世界
ティアの体が透けてきていた。クロノスの魂がティアの魂と入れ替わってきているので、体がティアを認識出来なくなってきているのだ。
「・・・私は消えちゃうの?」
透ける顔から不安の色が見えた。
「・・・・・」目を閉じうつ向いたクロノスは無言で頷いた。その顔は、肉体を手に入れた喜びとはかけ離れた悲痛な表情に見えた。
「・・下にいる人達とお話出来る時間ある?」
「・・ええ、あるわ」そう言うと、クロノスの体はまた無数の光の粒となった。
ティアは意識を取り戻した。透き通っていない肌の感触を確かめて、現実に戻ったのが分かった。下では、すでにガラスの壁が取り除かれ咲良がティアのお母さんを支えながら、降りてくるティアを待っていた。
爪先からゆっくりと降り立ったティアは、ルナに駆け寄り飛び付いた。
「・・今日の晩御飯はハンバーグがいいなぁ」
ルナの胸に顔を埋めて表情を隠した。
「・・じゃ、帰りにお店寄って・・帰りましょ」
「・・・・うん」
「咲良お姉ちゃん、遊園地はまた今度連れていって」
咲良は嗚咽を漏らしながら、首を横に振り続けた。
ティアの綺麗な髪を何度も何度も丁寧に撫でるルナの目からは、いくつもの涙が落ちた。
――――――
その様子を見ていた、クロノスの中にティアの記憶や感情が入ってくる。
「・・私は」
魂の移植装置の稼働音が弱くなる。
《なりません!クロノス様ッ!これがもう最後のチャンスなんです!」ゴードンの声が響く。
「・・ゴードン、あの娘、私の器にしては大きすぎるようです」
「クロノス様ぁぁぁぁぁッ!」
――――――
『・・ティア聞こえますか』
「・・うん、もう良いよ」
『いえ、貴女の器は私には小さいみたいなので止めにしました、解放してあげます』
今度はクロノスの体が透けてきていた。
『・・今回はさらに長い眠りになりそうね』
クロノスの体が眩い光に包まれた。
その時だった!研究施設のドームの屋根を突き抜けて人間の姿をした子供が飛び込んできた。
《今回は間に合ったぞ、クロ》
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