私が、宇宙の女王になるわ!だから、貴方は私を守りなさい!

ちょこぱい

黒炎の女神





 妙な夢を見た。


 辺りは夜のような暗闇で、空を見上げると、無数のクレーターが肉眼でハッキリと確認出来るくらい近づいた、巨大な月が空に蓋をしている。


 月は真っ赤に染まり、まるで怒りに燃えているようだった。


 私は、月を見上げて泣いていた。




 「咲良!咲良!どうしたの⁉」


 目が覚めるとレイカとトラ吉が、心配そうに私の顔を覗いていた。


 「なにか怖い夢でも見たの?うなされてたよ」


 「トラ吉が寝る前にあんな話するから、咲良が怖い夢を見ちゃったじゃない!いい!今度から寝る前は 、一発芸でもして笑わせてからじゃないと寝かせないから」


 《動物虐待ニャ!お巡りさん!助けてニャ!助けてー》


 「トラ!大きな声だすんじゃない!」


 朝から猫とレイカの取っ組み合いが始まった。


 「今日は学校休みだから、昨日先生に言われたトラ吉の書類関係を済ましに行かない?」


 「なら早く行きましょ、動物病院少し遠いの、タクシーを呼ぶわね」


 身支度を素早く済ませると、タクシーに乗り込んだ。


 動物病院は寮から30分位の森の中にあった。外観はログハウスの平屋、診療所兼自宅なのだろうか、洗濯物が外に干してある。時刻は9時30分、調度、診療開始時間に到着出来た。受付を済ませ待合室に向かうと、一番乗りかと思いきや、シベリアンハスキーを連れた少年が扇子で顔を隠すように本を読んでいた。


 「こんにちわー」


 私とレイカが挨拶をすると、少年は声も出さず、やはり本を扇子のようにして顔を隠しながら会釈をした。飼主とは違い、大人しくお座りしているシベリアンハスキーは、私達を凝視している。まるで、テレビドラマで結婚の挨拶に来た彼氏を値踏みする父親のようで、今にも、帰れっ!って叱られそうな怖い顔をしている。


 そんな様子に臆することなく、レイカは声をかけた。


 「シベリアンハスキーですか?可愛いですね 、名前はなんて言うんですか?」


 暫しの沈黙の後に、声が聞こえた。


 「乱丸・らんまる」


 こちらに顔も向けず、本で顔を隠したままだが、答えてくれた。悪い人ではなさげだが、ちょっとこれ以上話しかけるのも気が引けたので、レイカの腕を取って、椅子に座らせた。


 レイカは、何が気に入らなかったにだろう?椅子に座ってからも、少年の方をずっと睨み付けている。しかも、私の腕に抱かれているトラ吉までも、シベリアンハスキーの乱丸君を睨み付けている。どうしちゃったのよ⁉二人とも!この緊迫した雰囲気に冷や汗が止まらない。


 診察室の扉が開き、シベリアンハスキーの乱丸君の名前が呼ばれると、少年と乱丸君は逃げるように診察室へと入った。


 「ちょっと!レイカ、トラちゃん!どうしたのよ、あの子に失礼じゃない」


 「あの子、どっかで会ったことある感じがするのよ、何処だったかなぁ……」


 「トラちゃんは、どうしたの?乱丸君と知り合いだったとか?」


 《違うニャ、あのシベリアンハスキーはボクと同じニャ》


 「食いしん坊ってこと?」


 《違うニャ!力の解放だけじゃなく能力まで持っているニャ》


 「エッ!本当なの⁉」


 《本当ニャ!でも、今のところ危害を加えそうな感じはしないニャ》


 「少年は知ってるのかな?知らないなら教えてあげた方が良いと思うんだ、なにか起きてからじゃ遅いと思うの」


 「私もそう思う、危険な目に合ってからじゃ遅いし、もし、話をして危害を加えそうな素振りを見せたら容赦しないわ」


「とりあえず、ここだと暴れられたら危険だから、外に連れ出しましょ」


 《十分に気を付けるニャ、昨日のネズミとは段違いに強いニャ》


 診察室のドアが開いた。


 少年は顔を隠す事をしなかった。


 あれ?この人を知ってると思った。でも、どうしても思い出せない。


 「ちょっと貴方の犬と貴方に話があるの、外にお願いできるかしら」


 大人しく、私達の後に着いてきてくれてる。少し動物病院から離れたところに、木々に囲まれた広いスペースがあるところで止まった。


 レイカが話を切り出そうとしたら、先に相手が口火を切った。


 「久しぶりじゃな、宝生、星月」


 「アーーー!、錬太郎!」


 封印というか思い出したくない記憶が甦ってくる。幼稚園から小学校まで一緒だった錬太郎から受けた 、悪戯の数々が甦ってきた。


 「錬太郎、会いたかった、あなたにされた嫌がらせの数々、今!ここで!精算させてもらいます」


 炎の玉を作り出し、グングン温度を上げていき小さな太陽が完成した。


 「待てっ!咲良!話し合おう!そんなの放ったらこの辺一帯消し飛ぶぞっ!」


 「うるさい!問答無用!」


 「消えてなくなれ!」


 ボーリング程の玉は、真昼の太陽のように白い輝きを放ちながら、錬太郎へ投げられた。


 錬太郎は近くにあった小枝を投げつけたが、玉の勢いは止まらず、小枝は小さな光の中に吸い込まれるように蒸発した 。


 迫り来る光の玉と錬太郎の間に、シベリアンハスキーの乱丸が割り込ん来た。乱丸は一回り大きくなると、口を大きく開け火の玉を呑み込んだ。


 《レン!どういうことだ!何故戦わないのだ‼》


 「……咲良とは戦えない」


 《何を言っているんだ、あの娘かなりヤバイ力を持っている、やらなければ殺されるぞ》


「それでも、俺は……咲良とは戦えない」


 「あははは、ワンちゃんボール遊びしたいの?」


 今度は 、同じサイズの光の玉を2つ作った。


 「上手に取らないとーぉ、錬太郎死んじゃうヨーォ」


 光の玉を連続で投げた。乱丸は、1つ目を呑み込むと、空かさず2つ目をキャッチし呑み込んだ。


 「キャァ、凄ーぃ、ナイスキャッチ、お腹空いてたんだねぇ、錬太郎ご飯あげてないのね、可哀想に、いっぱいあげるね」


 光の玉が無数に現れた。


 《レイカ‼どういうことニャ!いつもの咲良と性格も姿も違うニャ!》


 体は宙に浮かび、髪の色は黒に変わり、髪型がロングのツインテール、洋服は黒い炎に包まれた妖艶な衣装に変わっている。


 じっと、様子を見ていたレイカが口を開いた。


 「黒炎の女神」


 「咲良は、能力の力を上げるにつれて、性格がサディスティックになってしまうの」


 「まさか、その姿まで出すなんて思わなかったわ、ちょっとやり過ぎね」


 レイカは、咲良が纏う黒炎に触れない位置まで歩み寄った


 「咲良、もう止めなさい」


 「レイカ‼だってワンちゃんがお腹空かせてるんだよ!可哀想だよぉ」


 「よく見てみなさい、もうお腹いっぱいみたいよ」


 乱丸は、お腹が膨れ上がり今にも吐き出しそうなのを必死に我慢している。閉じている口の隙間からは逃げ場を探しいている炎が吹き出していた。


 「あははは、……もう1つ、口に入れたらどうなるんだろう、見てみたいなぁ、ウフフフ」


 今までよりも一回り大きな光の玉を作り出し、乱丸に近づいた。もう乱丸は動くことが出来なくなっている。


 「錬太郎!こうなったのは貴方が原因なのよ、咲良にどうすれば許してくれるか聞きなさい!それ以外方法はないの‼」


 「許してもらうって、どうしたら良いんだよ」


 「咲良に聞くのよ!早くしないと貴方の犬、火ダルマになるわよ」


 「……咲良!止めてくれ!なんでも言うことを聞くから許してくれ」


 「…………本当に、なんでも言うこと聞いてくれるの?」


 「ああ、俺の命に誓って!」


 「……じゃぁ、まず錬太郎の命を人質にするからね」


 そう言う、咲良は手のひらに小さな黒炎を出現させた。


 「これを飲んで……」


 「もし、約束を破ったら、この黒炎が錬太郎の命が尽きるまで、燃え続けるわ」


 「どうする?止めるなら今よ」


 「わかった!」


 錬太郎は咲良の手から黒炎を受け取ると、口を大きく開け、それを呑み込んだ。


 咲良はそれを見届けると、錬太郎に歩み寄よった、黒炎が二人を包み込み回りから見えなくなった。


 数分後、黒炎が霧散すると、咲良は元の姿に戻っていた。錬太郎の顔を見ると、顔が赤くなっている。咲良の方も頬がサクラ色になっていた。


 「全く、人騒がせな二人ね」


 幸いに乱丸の傷も大したことがなく、数分後には立って歩けるようになった。


 「ところで、なんで日本にいるの?」


 錬太郎は小学校を卒業すると親の都合で、アメリカに引っ越したのだ。意地悪ばかりされて嫌いだったが、腐れ縁の幼馴染みを空港までレイカと見送りに行ったのを覚えている。


 その時、錬太郎はうつむいて表情が分からなかった。私は、いつも意地悪な顔をしている錬太郎が、悲しんでいる表情を見て笑ってやろうと、錬太郎の顔を覗き込んだ瞬間、ファーストキスを奪われたのだ。


 私はその場で泣きじゃくり、レイカは錬太郎を追いかけ回すわで、大騒ぎの別れだった。


 そして今、目に前にいる錬太郎は、3年前は私のが高かった背が、今は私が見上げる位に大きくなり 、あの時とは比べ物にならないほど落ち着いた雰囲気からは、頼もしさと自信が感じられる。アメリカにいた3年間は、男の子を大きく成長させたようだ。


 「高校は、日本の高校に進学するって決めてたからな」


 「そうなんだ、で!どこの高校?」


 「星の坂高校、乱丸が飼えるからそこにした」


 「うそっ!私達もそこの高校なんだよ、ペットが飼える寮って珍しいよね、乱丸良かったね、そっかだから動物病院来てたんだね」


 「ああ、お前たちもだろ、ゴタゴタさせて悪かったよ、俺はもう寮に戻るからまたな」


 錬太郎と乱丸がタクシーに乗ろうとした時、私は大きな声で呼び止めた。


 「錬太郎!約束破ったらぁ、お仕置きだよ」


 「あ、ああ!」


 顔を真っ赤にして車に乗り込んだ錬太郎は、手を振る私に見向きもせず帰ってしまった。


 「咲良ぁぁ、どんな約束させたの?」


 レイカはニヤニヤしながら私の顔を覗き込んだが、今は恥ずかしくて言えない。


 「寮に帰ったら詳しく聞かせて貰いましょうねぇトラ吉さん」


 《夜は長いニャ、パンケーキでも食べながら聞かせてもらうニャ》


 トラちゃんの診察を終わらせると、私達も寮へ帰った。




 

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