同志スターリンは美少女です!?

蛇に足

11話 交渉(熱弁)は水面下で







遡ること一ヶ月前。1938年2月。


ここ、フィンランド共和国首都のヘルシンキでは秘密裏にとある要人が来訪していた。それはソビエト連邦書記長のヨシフ・ヴイッサリオノビチ・スターリン、ヴャチェスラフ・ミハイロヴィチ・モロトフ、他外交官多数だ。


それはフィンランド政府も勿論知るところであり、今後の国の未来を左右する重大な会談になる。───────筈だった。


一方、ソビエト連邦側にとってはこの会談を楽観しており、領土の割譲が成されなくても別策があったので、既にカレリアの割譲はどうでもよかったのだ。それこそ『カレリア割譲してくれたらラッキー』程度には。まあ、そんなこともありソビエト連邦側のメンバーは皆楽しく談笑していた。それを不思議な目で見るフィンランド政府側だけども、それは当然と言える。少なくともフィンランドにとっては重大な会談なのだ。


しかし、とリュティは思う。


こうして改めてソビエト連邦の人員を見ていると如何にこの会談に本気で臨んでいるのかが分かった。それはモロトフが直々に出てきているのもそうだし、何より国家元首同士が外交交渉に出席する程だ。それに、スターリンはやはり誰が見ても美少女にしか見えない。


いや、騙されてはいけない。とリュティはそれを振り払う。あんな見た目をしているが、大粛清という名の身内殺しを平然と行った人物なのだ。


まあ、その時とは中身の違うスターリンなのだが、それを知るすべはリュティは勿論、スターリンの側近ですら知るところではないので、リュティが分からないのは当然と言えた。






そうしているうちにも会談は進む。


「まあ、はっきり言ってしまえば我が国は貴国のカレリア割譲を望んでいると言うことですよ。その対価を聞いているのです。何が宜しいですかな?」


いきなりざっくりと本題を突き刺してくるモロトフ。


「カレリア割譲は不可能です。貴国も勿論ご存知でしょうが、カレリア一帯は我が国の防衛の要なのです。それを割譲等、我が国の安全保障を脅かすどころか国家の存続すら危うくさせる。そんな場所を割譲は不可能です。」


と、フィンランド側の外交官がバッサリとそう切り捨てた。リュティは内心よく言ったと思うものの、スターリンとモロトフの顔色を窺っている。しかし、そこには怒りも落胆も感じ取れず、ただただ受け入れているとしか思えない表情をしていた。


「そうですか。やはり、不可能ですか。それならばそれで良いのです。元よりそちらの方は期待しておりませんでしたので。では、こちらが本命となりますが────我が国と同盟を結んで頂きたい────」


モロトフのその言葉を聞いた瞬間、フィンランド側の空気は凍り付いた。


それほどの衝撃だったのだ。何しろ、フィンランドとソ連はイデオロギー上、何より因果関係上で全く相容れない存在なのだ。それを同盟をしようと言っているのだ。もはや方針転換どころのレベルではない。それこそ、ソビエト連邦のイデオロギーが変わったのか?と思うレベルである。


「ど、同盟ですか・・・・・・また、それは突発的と言うか何と言うか・・・・」


「勿論、そちらが拒否されるのなら構いませんが、しかし、同盟を組んで利があるのはこちらだけでは無いのですよ。同盟締結に際しては我が国からの技術的援助を行いましょう。それから安全保障においても有事の際に我が国からの援軍を派遣しますが。」


「なっ!?」


「どうですか?そちらにとっても有益なのは事実。しかし、我が国と貴国の仲が悪いのもまた事実。しかし、我々としては是非とも貴国と同盟を結んで置きたい。レニングラードの防衛のために。それに、過去の事は清算しましょう。いつまでもいがみ合うより手をとる方がよっぽど良い。実はこれは同志スターリンが提案された事なのですよ。」


今度こそ卒倒しかける。まさかこの提案をあのスターリンがしたとは誰も思わなかったのだ。フィンランド側が驚愕に包まれているなか、スターリンが発言する。


「貴国が我が国を敵視しているのは知っている。しかし、我が国としては余りにも貴国に近いレニングラードを守りたい。そこでカレリアの割譲を望んだのだが、それを貴国が受け入れられないのはこちらも承知していた。それに、貴国としても我が国と事を荒げたくない。そこでの逆転の発想だ。同盟を結んでしまえばどちらの問題もスッキリと解決するのでは?とな。しかし、これには一つの問題がある。両国の確執だ。これは如何ともし難い。しかし、だからこそ、これからは友好の関係を築きたい。もう、いがみ合うのは終わりです。」


そのスターリンの言葉をを聞いてフィンランド政府メンバーは悩む。私情を取るか合理的に益を取るか。


そんな中、リュティが言う。


「私は、構わないと思います。確かに確執があるのは紛れもない事実。隠し様の無いことです。しかし、だからと言って両国の関係が修復不可能な訳では無いでしょう?イデオロギーが何だと言うんですか?そんなのは只の思想の違いです。対立する理由にはなりません。確かに歴史を鑑みるとそのほとんどは思想同士の対立で戦争も起きています。しかし、ここで両国が同盟することで世界にイデオロギーが袂を別つものではないと知らしめる事が出来ます。どうですか?」


リュティがそう言い、フィンランドの外交官も概ねの賛成をする。


「しかし、両国の国民感情が悪いのも事実。ここはそれを改善する期間として一ヶ月ほど期間を設けましょう。そして、正式に同盟を締結しましょう。」


スターリンがそう言い、両国は結局それで合意。この瞬間、ソビエト連邦-フィンランド共和国間の世界を驚愕させる同盟が決まった瞬間だった。







コメント

コメントを書く

「歴史」の人気作品

書籍化作品