庭には、

古宮半月

9話 束の間の再会

目を覚ますと、いつも通りの見馴れた天井。

時計は9時の少し手前くらいを指していた。

大きく欠伸をしてから、階段を降りてリビングへ朝食を食べに行く。 
母は、いつもの席でコーヒーを飲みながらテレビを見ている。

「……。」

「真奈は、友達とパーティーらしいけど、一奈は?」

と、母に聞かれるが、

「…うーん。…別に何もない。」

特に冬休み中の予定はない。
ちなみに真奈は、俺の妹のこと。

「そう。じゃあ、醤油が足りなかったから買ってきてくれる?」

「えー……。」

「どうせ、部活もしてないんだから、身体を動かしなさい。ずっと部屋に籠ってると寿命縮むよ。」

「……はいはい。後で行ってくるよ。」



テレビに映るニュースでは、「巨大なナナフシ現る 新種発見か!」などと報道がされている。
まぁ、昨日の蟲のことだろう。
被害があまり出なくて良かった。


用意してくれていた食パンを食べ終えて自分の部屋に戻って外出用の服に着替える。
紫色のミサンガは腕につけたままだ。




「ヒトナ、今年はどうだった?」

そう、聞いてくるのはモノクロの幾何学模様の施された浴衣を着た地縛霊のお菊。

こいつの服はレパートリー豊かだな。

「ん?あぁ、そういえば今日は大晦日だったな。2018年も終わりか。特に目立った思い出は……。ない、とは言い切れないかな。」

「へぇ、珍しいじゃない。」

「まぁな。高校生活も見てたアニメ程ではないが普通に楽しいし、でも欲を言えば来年こそ彼女が欲しいなぁ。」

「今から来年のこと言ってたって鬼が笑うだけよ。心の優しい私は笑ったりしないであげるけど。フフッ。」

「嘲笑うな。俺の人生計画を嘲笑うな。お前のどこが心の優しい女の子なんだよ。」

「けど、家でニートしてたって出会いはないわよ。マミマミからお使い頼まれてるんでしょ?そこで美少女と出会えるかもよ?」

「残念ながらそんな甘くないんだよ、世の中ってのは。まぁ、買い物には行くけど。」

後、母のことをマミマミと呼ぶのはやめてほしい。
なんかこっちが恥ずかしいから。



そんなこんなで、俺は町の中央にあるデパートに行くことになった。

家から自転車で20分。
遠いと思えば遠いし、近いと思えば近い。

俺は今でこそ帰宅部だが、中学の頃はバドミントン部に入っていてそれなりに体力はあった。
そして、その体力は落ちてはいるが今も少し残ってる。
それに加え普段、自転車通学なのもあって自転車はあまり疲れないし、風を感じられるので結構好きだ。

風を感じながら20分、町で一番大きいデパートに着いた。

「えっと、確か醤油と卵と豆電球だったな。」

何故買うものが増えてるかというと、家を出ようとしたときに母が追加注文してきたからだ。まったく注文の多い母親だ。

「それにしても、今日は人が多いな。大晦日だから買う物が多いのかな。いや、もっと前から準備しとけよ。今日が混むのわかってたろ。」

と、母に遠回しな文句を呟いていると。

数メートル先からこっちに歩いてくる一人の少女を見つけた。
店内なのにフードを深くかぶり。
片手に買い物袋を提げた少女。

「……!」

つい凝視してしまっていたらしく、通りすぎるときに目があってしまった。
が、勿論、向こうは俺のことは覚えていない。

「……?」

それは、見知らぬ人と目が合うのは気まずいだろう。
彼女はすぐに目を逸らしてしまった。


「そっか。意外と近いところに居たんだ…。」

その発言だけ聞けばかなりの不審者だろうが、俺はそう呟くことで改めて確認した。

彼女はアンデレウェルト(向こう)での記憶は無くして、普通に安全な生活を送っているのだろう。
これでいいんだ。



それから、醤油と卵を買って、デパートから出た。
豆電球はどうしたかって?  買い忘れた。



デパートから出て、自転車に乗り家に帰ろうとしたところ、デパートの前の交差点に、なにやら人だかりが出来ていた。

皆、交差点の真ん中に向かってスマホを向けている。
野次馬というやつか……。
また、フレンカーパーの影響がこっちに現れているのだろうか?

そして、人だかりで気付かなかった、皆がスマホのカメラを向けているモノに。
野次馬のせいで交差点の信号は機能せず、車の運転手が降りてきて、怒鳴り散らしている。
ソレは、その怒鳴り散らしている人の上空に浮いていた。



焦げ茶色でナメクジの擬人化みたいなやつがフヨフヨと空中に漂っている。
細い身体に手足があって、顔(?)の部分には赤く丸い目が5つ付いている。
大きさは2,3歳の子供くらいだろうか。

その赤目ナメクジが空中を自由に飛んでいる。

「あの時の虎みたいだな……。」

「大きさは少し小さいタイプの奴だがな。」

「はい。しかし、どんな攻撃をしてくるか……って、笠井さん、いつから居たんですか!?」

「よう、今日も寒いな。」

「よう、じゃないですよ。何してるんですか?」

「いや~、偶然通りがかったらお前を見つけたもんだから、彼女とデートかなと思って近くに来てみれば、フレンカーパーの騒ぎが、ちょうど起こってな。」

「はぁ……。相変わらず呑気な人だ。あの赤目ナメクジどうするんですか?」

「そりゃ、倒さねぇとな。私の2番目の目的である、人類を救うためにな。」

そう言って笠井さんは徐に道に止まる一台の車の前に立った。

「あの、何してるんですか?」

「早く行くぞ。」

笠井さんは車のドアを開け、その中に入ってしまった。

「ちょっと!待って下さい!」

慌てて後を追う。
車内に入ろうとすると、車のドアの向こうは
アンデレウェルト(向こう側)だった。

「よし、さっさとアイツぶっ飛ばすぞ!」


「ドアなら、なんでもいいんですね……。」

冷たい風がポニーテールを揺らす。

準備体操をして、身体を温めておく。



前方には、全身が古錆びた鉄のような焦げ茶色の怪人が空中に浮いていた。

身長は大人の二倍くらいある。

その柔らかそうな硬そうな身体に乗っかっている、ロケットのような頭には5つの目が紅く光っていた。
























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