庭には、
3話 もう、目の前まで
渚名一奈 高校一年生 彼は今、困り果てている。
目の前に広がる光景は例の荒廃した建物、緑色のタコみたいな生き物、そして150メートル程先にいるのは大きな銀色の空中歩行する虎だった。
「さっきまでいた場所?アレってさっきの虎!?」
俺が驚いたリアクションをとると
「そうだ、さっきのだ。
正確にはこっちが本体だがな。
そして、ここと向こうは一部リンクしている。主にフレンカーパー本体や、それらが接触した物が。
だがアイツらが向こうに影響を及ぼすのはこちらで起こした行動の多くても10%程度だ。まぁ1割も、と取るか、1割だけ、と取るかは自由だが。」と20代後半くらいのポニーテールの女が返した。
「じゃあ、こっちで道路を壊すと、その内10%分の道路が向こうで破壊されると?」
「あぁ、そして向こうで起こした行動もまた10%分の影響がこちらに。そういう相互関係になっている。」
「なるほど、じゃあ、あの虎がさっき見たのより3、4倍の大きさがあるのは、さっきの虎があの虎の10%分だったからですか?何だか色もついてるし。」
「相変わらず受け入れが早くて助かる。」
「で?あの恐竜みたいな化け物をどうするつもりなんです?」
「こうする。」
そう言って虎の方をキッと睨むと、虎も睨み返してきた。さらにこっちへ走ってきた。ドスンドスン。埃が舞い上がる。
「あの…。」
「…」
彼女の視線は変わらず虎を睨んでいた。
30メートルまで迫ってきたところで、
俺は終わりを覚悟して、目を思い切り閉じた。
…。…。
ゴスン!キーン
何か鈍い音が響き渡った。音の大きさで一瞬鼓膜が破れたかと思った。
「大丈夫だ、目を開けてみろ。」
彼女の声が聞こえたので、恐る恐る目を開けると。
あの巨大な虎が氷付けにされていた。距離にして10メートル程のところで停止していた。
あっっっぶねぇ
「心臓に悪い…。」
「後は」
今度は空中を睨み出した。何もない空気中を。
「えっ…。」
彼女の睨む先に、空中に大きく鋭い氷柱が現れた。それがすとん、と落ちて。いや、ズドン、と氷付けの虎の真ん中を貫いた。
虎は大きなアート作品のようになっていた。
「はぁ…。全く疲れるぜ。」
「大丈夫ですか?」
彼女は激しい運動をしたわけでもないのに、少し息が上がっていた。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと疲れるだけだから。休憩すればいいだけだから。」
「それならいいんですけど。」
「じゃあ、一件落着したことだし、帰ろう
か。」
彼女は喫茶店へと戻る。
俺も視界の端に小さな緑色のタコを見つけながら彼女の後へ続いた。
そして、店内へ入ると、彼女は一直線に俺がさっき寝ていたソファーに腰を降ろした。
俺が裏口の扉を閉めて、次にどこに足を進めればいいのか分からず突っ立っていると。
「ここ座れよ。」
ソファーに誘導されたので空いているスペースに座る。
「ここは何だか落ち着きますね。」
「そうだろ?リラックスできんだよ。ここは。」
「…。」
「私は笠井鈴未(かさい すずみ)、笠地蔵の
笠、井戸の井、音が出る鈴に、未来の未で、笠井。16歳だ。お前は?」
「…そういえば、名前も知りませんでしたね。渚カヲルの渚に、名前の名、数字の一に、奈良県の奈で、渚名一奈です。正真正銘の15歳です。」
「そうか、正真正銘の、とはよく分からないが意外と近い年齢だったな。」
「つっこまないですよ。」
「もし、ツッコミを入れてたら川を渡っていたかもな。」
「まさか、この部屋死体とか隠してないですよね?」
「私はそんな隠し事はしない。」
「否定するところがおかしいけど、それなら安心できます…。」
「…。」
「…。あの、あなたって人間ですよね?」
「さぁ、自分ではそのつもりだけど?もしかしたら哲学的ゾンビとかかも知れんが。」
笑えなかった、それより今、自分の周りで起きていることを知りたいという気持ちがあった。
そのせいで、反応が適当になってしまった。
「じゃあ、人類は氷を生み出せる身体に進化したんですか?ダーウィンもビックリですね。」
「今や、進化論自体、怪しいところがあるがな。別に、人類はそんな突然変異遂げたりしてないよ。あれは私が、私達が少し他と違うってだけ。」
「少し?かなりじゃないですか?」
「なんだお前、テンションが低くなってきてないか?」
「だって、意味が分からないですもん。もう、コレが夢じゃないことは分かってます。でも現実だとも思えないっていうか。最初は、なんか楽しかったんですけど、今は楽しむっていう思考ができなくて、何も知らないっていうのが怖くて、だからはやく現実に追い付かないと、と思って。」
「ふーん…そうか。
だがな、結論だけ言っておくと、そんなことは、きっと杞憂に終わる。なぜなら、ここで起こったことはお前の記憶には残らないからだ。
それでも、今のお前が、どうせ忘れる無駄な知識が欲しいというのなら話そう。この世界について。」
今は家に帰るよりも、うれしいことだった。
例え、記憶からなくなるとしても。
目の前に広がる光景は例の荒廃した建物、緑色のタコみたいな生き物、そして150メートル程先にいるのは大きな銀色の空中歩行する虎だった。
「さっきまでいた場所?アレってさっきの虎!?」
俺が驚いたリアクションをとると
「そうだ、さっきのだ。
正確にはこっちが本体だがな。
そして、ここと向こうは一部リンクしている。主にフレンカーパー本体や、それらが接触した物が。
だがアイツらが向こうに影響を及ぼすのはこちらで起こした行動の多くても10%程度だ。まぁ1割も、と取るか、1割だけ、と取るかは自由だが。」と20代後半くらいのポニーテールの女が返した。
「じゃあ、こっちで道路を壊すと、その内10%分の道路が向こうで破壊されると?」
「あぁ、そして向こうで起こした行動もまた10%分の影響がこちらに。そういう相互関係になっている。」
「なるほど、じゃあ、あの虎がさっき見たのより3、4倍の大きさがあるのは、さっきの虎があの虎の10%分だったからですか?何だか色もついてるし。」
「相変わらず受け入れが早くて助かる。」
「で?あの恐竜みたいな化け物をどうするつもりなんです?」
「こうする。」
そう言って虎の方をキッと睨むと、虎も睨み返してきた。さらにこっちへ走ってきた。ドスンドスン。埃が舞い上がる。
「あの…。」
「…」
彼女の視線は変わらず虎を睨んでいた。
30メートルまで迫ってきたところで、
俺は終わりを覚悟して、目を思い切り閉じた。
…。…。
ゴスン!キーン
何か鈍い音が響き渡った。音の大きさで一瞬鼓膜が破れたかと思った。
「大丈夫だ、目を開けてみろ。」
彼女の声が聞こえたので、恐る恐る目を開けると。
あの巨大な虎が氷付けにされていた。距離にして10メートル程のところで停止していた。
あっっっぶねぇ
「心臓に悪い…。」
「後は」
今度は空中を睨み出した。何もない空気中を。
「えっ…。」
彼女の睨む先に、空中に大きく鋭い氷柱が現れた。それがすとん、と落ちて。いや、ズドン、と氷付けの虎の真ん中を貫いた。
虎は大きなアート作品のようになっていた。
「はぁ…。全く疲れるぜ。」
「大丈夫ですか?」
彼女は激しい運動をしたわけでもないのに、少し息が上がっていた。
「大丈夫、大丈夫。ちょっと疲れるだけだから。休憩すればいいだけだから。」
「それならいいんですけど。」
「じゃあ、一件落着したことだし、帰ろう
か。」
彼女は喫茶店へと戻る。
俺も視界の端に小さな緑色のタコを見つけながら彼女の後へ続いた。
そして、店内へ入ると、彼女は一直線に俺がさっき寝ていたソファーに腰を降ろした。
俺が裏口の扉を閉めて、次にどこに足を進めればいいのか分からず突っ立っていると。
「ここ座れよ。」
ソファーに誘導されたので空いているスペースに座る。
「ここは何だか落ち着きますね。」
「そうだろ?リラックスできんだよ。ここは。」
「…。」
「私は笠井鈴未(かさい すずみ)、笠地蔵の
笠、井戸の井、音が出る鈴に、未来の未で、笠井。16歳だ。お前は?」
「…そういえば、名前も知りませんでしたね。渚カヲルの渚に、名前の名、数字の一に、奈良県の奈で、渚名一奈です。正真正銘の15歳です。」
「そうか、正真正銘の、とはよく分からないが意外と近い年齢だったな。」
「つっこまないですよ。」
「もし、ツッコミを入れてたら川を渡っていたかもな。」
「まさか、この部屋死体とか隠してないですよね?」
「私はそんな隠し事はしない。」
「否定するところがおかしいけど、それなら安心できます…。」
「…。」
「…。あの、あなたって人間ですよね?」
「さぁ、自分ではそのつもりだけど?もしかしたら哲学的ゾンビとかかも知れんが。」
笑えなかった、それより今、自分の周りで起きていることを知りたいという気持ちがあった。
そのせいで、反応が適当になってしまった。
「じゃあ、人類は氷を生み出せる身体に進化したんですか?ダーウィンもビックリですね。」
「今や、進化論自体、怪しいところがあるがな。別に、人類はそんな突然変異遂げたりしてないよ。あれは私が、私達が少し他と違うってだけ。」
「少し?かなりじゃないですか?」
「なんだお前、テンションが低くなってきてないか?」
「だって、意味が分からないですもん。もう、コレが夢じゃないことは分かってます。でも現実だとも思えないっていうか。最初は、なんか楽しかったんですけど、今は楽しむっていう思考ができなくて、何も知らないっていうのが怖くて、だからはやく現実に追い付かないと、と思って。」
「ふーん…そうか。
だがな、結論だけ言っておくと、そんなことは、きっと杞憂に終わる。なぜなら、ここで起こったことはお前の記憶には残らないからだ。
それでも、今のお前が、どうせ忘れる無駄な知識が欲しいというのなら話そう。この世界について。」
今は家に帰るよりも、うれしいことだった。
例え、記憶からなくなるとしても。
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