命集めの乱闘〈コスモコレクトロワイアル〉

風宮 詩音

第22話 命の証と導かれし傍観者

………絶対おかしい。なんかわからないけど絶対におかしい。


とりあえずおっちゃんからおつりもらって一旦路地裏へ戻る。


入り口は人1人通れるかどうかほどしかない。しかし徐々に広くなってゆきどうしてこんなに曲がってしまったのかと思うほど左にカーブしたところを抜けると最終的に玄関前は大型トラック2台分ほどの幅になっている。


師匠曰わく〝この結界は本来の能力+ある程度ならその範囲そのものに干渉する魔術の影響を和らげることができる〟らしい。


一旦ここでこの変な感じの正体を突き止める。


そうやって待った3分くらいの時間は妙に長く感じた。


ふと強い光を感じ上を見る。


路地裏の中の空は普段は薄い暗い青色だが強い光を防いでいるため青色が際立っていた。


そして蒼太は見つけてしまう。



「あ″ぁ″ぁ″ぁ″ぁ″ぁ″!!そういや、穴空いてるんだったあぁ!」


そのまま視界は揺れてゆき結界の中の薄暗い世界もろとも白く染まっていく。



※※※


八百屋で違和感を感じた蒼太の行動は速かった。


路地裏よりもちょっと強い結界が張ってある家の中へ駆け込む。


居間の戸棚からリーシャさん特製、結界の能力を宿した御守りを取り出す。


命結晶コスモクリスタルは魔術とか魔法とかそんな特殊な力を受けないという特性を活かして作ったらしい。


「これさえ持ってればきっとなんとかなるよな」


握りしめた御守りの角が少し手に食い込んでいたがそんなことは気にせず急いで外にでる。


路地裏からでると強い風が吹き付ける。


少し砂が混ざっている気がしてとっさに目を閉じ手を目に当てる。


風が吹き止み目を開けると大通りの方から悲鳴のようなものが聞こえる。




8月31日。ほとんどの学校の夏休み最終日。学生たちの決戦の日にして8月最後の日曜日。時刻はもうすぐ11時といったところ。住宅街と店類の並ぶ場所との間にある大通りの横断歩道前には友達と昼食をとる店を探していたであろう学生やお昼の買い物のため外に出てきた人々がいた。しかし一切の笑い声どころか話し声もしない。皆何が起きたのかわかってないような顔で固まっている。


その先にあるのは街頭にぶつかり止まっている大きなトラック。


そして赤くて小さな1つの結晶。


状況から察するに交通事故、1人死亡で間違いないだろう。



そんな中中学生くらいの少年が1人、8月の太陽がジリジリと焼き温度が高くなっているであろうアスファルトに膝と肘をつき泣き叫んでいる。


「亡くなった人の家族…か。」


気の毒だなと考えた時ふと違和感に気づく。



周囲に一切の音がない。単に誰も声をだせない、少年の声は遠いから聞こえない。なんてものじゃない。


蝉の声風の音、車の走る音や人の足音。普段意識してないような音が意識の外にあるのではなくどれだけ意識しても聞こえてこない。



そうこうしているうちに世界は音だけでなく速度も失ってゆく。



※※※



やがて世界を包んだ白くまばゆい光はゆっくりと消えていき無意識に閉じていた目をあけた頃には何事もない夏の休日の風景が広がっていた。



そう。文字通り何事もない。



驚く人々も事故のせいで進行方向が狂い街灯にぶつかった大きなトラックも赤い結晶も泣き崩れる少年も。




真剣な表情で当たりを見回す少年を避けるように人々は行き交う。



1つの簡単な仮説がたつ。


それを確かめるべくスマホを取り出し時間を確認する。



鞄に手を伸ばしたせいで斜め後ろを向いていたその瞬間。



背後からトラック特有のクラクションとあまり大きくないものがトラックにぶつかり道路を転がったような音が聞こえる。


振り返るとき横目で見えたのは道路に転がる小学生くらいの少女。




そしてその奥の歩道で絶望する、中学生くらいの少年。




※※※




「ループしてる……」


ボソッと放った言葉はちょうど隣を通るところだったおばさんに聞こえてしまい、なに言ってんだコイツという視線を向けられてしまう。


苦笑いしながら歩道の横断歩道に近いほうに移動する。


あの子が事故にあって死ぬのがループのトリガーだとするなら話は簡単。事故を防ぐだけ。


楽勝楽勝と、青になったばかりの信号を横目に横断歩道を渡りその先からくるであろう少女を探す。そんでもって止めさえすればいい。それだけの簡単なお仕事。






そう思っていた。いやそうとしか考えられないだろう普通は。



目の前の道路は決して狭くなく大通りに対して垂直にある。そんな道路の奥の奥。スーパーの裏。関係者用、主に商品を運んでくるトラック用の出入り口がある。そこから1台の大きなトラックが出てくる。そこに小柄故に不幸にもトラックの運転手の死角に潜り込んでしまった少女が1人。ぶつかり倒れた少女の姿は小さな衝撃など気づいてない様子のトラックの下へ。



トラック下から赤い液体が流れ出る。異変に気づいた運転手が座席から降りる頃、トラックの下が一瞬輝く。


それは小さな光の粒。


それは何百とある赤い粒。


それは人の最期。




赤い粒はやがて1つに集まり、形を作る。


赤い結晶。


それは人の命が終わった証。


ゆっくりと光を失ってゆく。



それはほんの少し前まで確かに命があった証。





白くかすみゆく視界の中、聞こえてくるのは少年の泣き叫ぶ声。



幾度となく聞いた気がする。








そんな、絶望の音だった。

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