命集めの乱闘〈コスモコレクトロワイアル〉

風宮 詩音

第17話 鬼畜ゲームと奇妙な来客者



午前9時、焼いたトーストは とうに冷めホットココアはアイスココアとなっていた。異様な格好で山を登り初めて早1時間と30分。ここまでですでに3回落下。通常の人間ならとっくに死んでいるだろう。今の特殊な状態だとしてももう残機はゼロ。


しかしながらその男、その異質な装備からかここまで1度も死んではいなかった。


特殊な方法だからか、いやならばなおさらなぜ疲労を見せない。


きっとこんな登り方で山を登っているのは世界中にいる彼らだけだろう。


そして少年の心の中はイライラで埋め尽くされてゆく。



つまるところこれはゲーム。ただし多くのバーチャルやバーチャルじゃない動画投稿者が通ってきた道。異様というか変態としかいいようのない格好で、明らかに用途を間違えた登山道具で。ただただ上を目指し上ってゆく。セーブポイントはいっさいなし。落ちたらそこからリスタート。絶対にこちらのやる気体力精神力集中力その他色々を奪いにきていると思うほどの操作性の悪さ。


壺とハンマー。


大半の人はこれでわかるだろう。


少年、桐真きりま蒼太そうたは早朝に稽古を済ませ、朝食もろくに食べず床の上にノートパソコンを置き寝転んで鬼畜ゲーをやっていた。


現在登っているのは雪山。上半身裸で所持品壺とハンマーだけで来ていい場所では絶対ないだろう。しかし男はためらうことなく腕の力だけ進んでゆく。男の見る先にあるのは小さい子が「とうきょうたわー!!」といいそうな赤と白の塔。


(後……少し…これで終わる………。)


塔にハンマーを引っ掛け上へ、上へ。まもなく塔のてっぺん。


(よし、一旦落ち着こう。落ち着いてハンマーを下n「キィィ~~ンコォォ~~ン」


「ふひゃぁぁ!!」


思考が一瞬止まる。動きが止まる。冷や汗が背中にどばっと出てくる。


そして、ゆっくりマウスから手を離す。


「大丈夫、何も起きてない。……畜生めい……。まさかこんなところでフラグ回収する羽目になるとは……。」


昨日蒼太は、スリ師も驚くほど自然な流れで1つのフラグを建ててしまっていた。


「まあ、ひとまず特になにも起こらずよk「キィィ~~ンコォォ~~ン」」


住人に用があるお客が鳴らすピンポンが1回であるはずがないことを忘れていた蒼太は盛大に「ふぎゃぁぁぁあ!!」と悲鳴をあげていた。


※※※


ドクドク、ドクドクという鼓動の音が身体の芯から響いてくる。背中を濡らす冷や汗は己の魔術により生まれた低温空間によって体温を奪ってゆく。立ち上がると酸素が足りないと脳みそは立ちくらみという形の悲鳴を上げる。若干ふらつく足で玄関へとフラフラ向かう。


「はぁーい…。どなたですかぁ?」
朝から1日分くらいの驚きからの疲れを体験した故の気の抜けた返事。扉を開ける手には力がこもっていない。扉の前のふわふわとしていてどこか幼げな顔だが確かな大人っぽさをかもし出しているお客さんははてなと首を傾げている。


「え……と、リーシャさんなら今出かけてますよ?」
その言葉はリーシャさんが我が家と住宅街の小道をつなぐ唯一の入り口であるザ・路地裏の入り口にとても強い結界を張っている故、来客者が限られていることを知っているからだった。その結界はマップ探索系ゲームの序盤によくある【この先には行かない方が良さそうだ】という感じに近寄った生物に感じさせるものだ。もちろん全方位囲ってあるが入り口だけは特に分厚く結界が張られている。


「あ、あなたが最近リーちゃんのところに住み始めたって子ね~。」
リーシャさんをちゃん付けで呼ぶあたり相当親しい人のようだ。見た目に反さずおっとりゆったりとした話し方でニコニコしていてリーシャさんとは色々と正反対な感じだった。女性はそのまま続けて。


「私はシャーリー・ヘルム。シャーリーでもシャーちゃんでもいいよ?」


またまた外国の名前。なのに明らかに日本人の顔で日本語はペラペラ。リーシャさんといいシャーリーさんといいいったい何者なんだろう。


「じゃ、じゃあシャーさんでいいですか?えっと俺は桐真 蒼太です。」
桐真蒼太は決して優等生ではないが明らかに年上の女性をちゃん付けするようなヤンチャな少年ではない。リーシャさんに関しては本人が年上と言っていたので一応さん付けしている。


「ふ~ん蒼太くんね。でもでも控えめな坊やね~。まあ嫌いじゃないよ?こちら側の世界の新しいお友達ができてとっても嬉しいんだから。」


話し方、抑揚、言葉遣い、声。大人の魅力というか母性を感じるというか、話していてドキドキしつつもどこか包み込まれるような安心感がある人だった。


「それでえーと、今日はリーちゃんじゃなくて君に用がある……というか用がある人を案内してきたの。」
…………え?自分に来客!?と蒼太は驚愕とともに若干恐怖を覚えた。なぜなら今自分のことを知っているのはリーシャさん、シャーさん。あとはリプテダイトの人間とそもそもの元凶、霧崎きりざき浩二こうじのみだ。しかしやつは再び刑務所の中だろうし、リプテダイトもこちら側の人間なら奴らがなにをしたか知っているためそう易々と通さないだろう。ならば一体……と考え込む蒼太の前に現れたのはシャーさんに隠れるようにこちらをみる少女だった。蒼太が卒業した近所の中学校の制服、リボンの色からたぶん3年生だろう。


少女は何か覚悟を決めたような感じで口を開く。


「桐真 雪乃ゆのです……。」
まだ幼さが残る中学3年生にしては小さい体から発せられる声は予想の通り幼く可愛らしい。がしかしその少女の名字は偶然なのか、少し前にリーシャさんとした自分は一人暮らしだったのかという話を思い出す。だが少なくともリーシャさんが隠すことだからそれだけの理由があるのだろう。忘れたはずの人を訪ねるなんて矛盾を嫌うこの世界が許すだろうか。頭の中では様々な情報が流れている。しかし続く言葉によって全ての情報は動きを止め、そして一つの確信へと変わっていった。


少女の言葉。つまりそれは。


「あなたは……私の兄ですか?」
というとてもとてもシンプルで、しかし思いを伝えるには十分で、その場の空気を凍てつかせるには十分すぎる言葉だった。

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