命集めの乱闘〈コスモコレクトロワイアル〉

風宮 詩音

第13話 銀紙魔術と道標

1ヶ月も経たないうちに2回も記憶喪失を体験するなんてきっともう一生ないだろう。不完全ながら記憶を取り戻した少年。桐真きりま蒼太そうたは鏡に見立て先ほど魔術にてこの不可思議な空間と現実の世界をつないだチョコレートを包んでいた銀紙の中で息を整えているシルバーロングヘアーロリータ、リーシャ・アルバスを眺めていた。


「だ、大丈夫ですか?リーシャさん。」


リーシャ・アルバスはまだ呼吸が荒れているようだった。



「も、もう大丈夫じゃ。だが、魔術を介して魔力を送りつつ記憶を選別して共有するなんてしたことがないから…ちょっと、慣れてないだけじゃ。ゼーゼー。フー。しかもお主の体ではなく精神に直接送ることになるなんて……。ゼーゼーゼーゼー。」


リーシャさんはさらに息を整えてからこう言う。


「どうやらお主の精神だけちょっと厄介な空間に飛んで行ってしまったみたいじゃな。」


「は、はあ…。それで、どうやって戻ればいいんですか?」
この世界苦痛と言える苦痛がないのだが逆にそれが苦痛となり始めていた。とりあえず早く帰りたい。


「うむ。今から強制的にそこの壁を破って精神を引き戻す魔術を実行する。しかし、魔力の消費が激しかったからその回復とあとは初めてやる魔術だから、魔導書を見ながらじゃないとできなくてな。ちょっと時間はかかるがちゃんと脱出できるはずじゃ。それまで……なんか、適当に暇つぶししててくれ。」


「じ、じゃあ…修行でもしてますね。」


と、この何もない空間を見回す。


しかしそのせいで蒼太は気づくことができなかった。一瞬目を離したすきに接続鏡コネクトミラーの映像が少し乱れたことに。


※※※



「よし。それじゃあそろそろ始めるぞ。」


体内時計(この空間に来てから多分狂ってる)で20分くらい待たされた気がする
(というか20分で新しい魔術一個使えるようにするって結構すごいな)
と、師匠への尊敬の言葉はそれくらいにしておこう。


「では、………ん?おい、通信鏡シグナルミラーの映像がなんだか乱れてきているぞ?」


「…シグナルミラー?なんですかそれ?」


「何って、この魔術の名じゃよ?」


なるほど本当はシグナルミラーっていうのか。
「へー、そうだったんですか〜。」


「お主…まさか知らなかったのか…。と、ということは……。あぁ、おかしいと思っていたんじゃ。まだ教えてない術式を一見完璧に実行するなんて。」


「え?どういうことですか?」


「お主、この魔術を簡易術式インスタントスペルで実行したな。」


「インスタントスペル?つまりどういうことですか?」


「はぁー、いいか。魔術には1番それを効率よく実行できるとされている術式がある。それを知った上で自分が使いやすいように術式を変えていくのは全然問題ないんじゃが、それを知らずにいきなり変な術式で実行すると魔術が途中で崩壊してしまうんじゃよ。」



・・・。
「つまり…もうこの術式は崩壊しちゃうってことですか?」


「うむ。そういうことじゃ。理解が早くて助かるわい。」


「じゃ、じゃあもう一度魔術を発動しますね〜。」


「……ぁない…。」
魔術が崩壊し始めているからだろう。声も聞き取りにくくなってきた。


「なんて言ったんですか?」


「……!ついに音声まで荒れ始めたか。ええい。手短にすませるぞ。簡易術式インスタントスペルにもう一度はない。一度その術式で発動した魔術が崩壊してしまえばもう一度同じ術式で魔術を発動することはできないんじゃ。」
幸いにも蒼太の声は師匠に届いたようだった。


「え、じゃあどうするんですか?」
きき返す間にもどんどん映像が乱れてゆく。


「もう、すぐに魔術を実行する。汎用性の高い呪い除去の魔術だから多分効果があるはずじゃ。」
どんどん見えなく、聞こえなくなっていく。


「迷い路に光あれ。光は道標みちしるべ。彷徨いし悪魔を退ける。迷える旅人の希望となる。魔のわざわい打ち消す天使の祝福となれ。」


天使の道標エンジェルガイド


言い終わったのが先か映像と音声が消え異世とこの世を繋いでいた鏡がただの銀紙に戻ったのが先か。


蒼太にはなんとなくわかっていた。この何もない空間が、通常通りの文字通りの何もない空間がそれを示していた。いつまでたっても変化はない。あとコンマ数秒足りなかった。


絶望は三たび少年を襲った。



体内時計が狂ってしまったこの世界では何時間経ったかなんて全くわからなかった。今やただの包み紙となってしまった銀紙は地面に落ちていた。少年はショックとか絶望とか、そんなもののせいで体どころか思考も動かなくなってしまった。


「俺は、このまま、ずっと、この何もない世界に、1人…なのか。」


ようやく思考が動き始めてきたと思ったらとてつもない恐怖に襲われた。このまま1人で一生何も考えず何も食べず、何も感じず。生きながら自分から死ぬこともできずに腐っていくのか。どんどんネガティヴなっていく。


この文字通り何もない世界に取り残されるなんて……。


なんで俺が……。


もっとリーシャさんの手伝いしとくんだった。


頭の中に色々な声、場面が蘇る。


あぁ。あの鏡の魔術の術式、しっかり教わっておけばよかった。



結局はそれが原因、それさえなければきっと今頃元の世界に帰ることができていたはず。そもそもこの世界は一体…。


とりあえず、ここから出るにはリーシャさんの力が絶対必要。
しかしリーシャさんと連絡を取る術はない。
先ほどの術式はもう使えない……。


………………!


「あの術式が使えないならまた最初から作ればいいじゃないか!」


その言葉を発した瞬間蒼太は飛び起き銀紙を手に取った。


「さてと…と、ん?」


銀紙に小さな黄色と白の中間のような色の円が描かれていた。


「これ…魔方陣!?色的には光属性か。光属性……!」


『今から強制的にそこの壁を破って精神を引き戻す魔術を実行する。』


『エンジェルガイド』


ふとリーシャさんの言葉が脳裏に浮かぶ。


(あの魔術、エンジェルって言ってたしなんか術式に光って言葉が何回も出てたような……、まさか…。)



鏡の魔術が崩壊する寸前にエンジェルガイドは発動していた。
しかし、こちらの世界に影響を及ぼす寸前で鏡の魔術が崩壊。


(魔術が中途半端にに発動してるのか?)
まるで銀紙に魔術が封印されてるみたいだった。


(ならこれをどうにかすればこの魔術発動できるんじゃないか?なら、手当たり次第やっていくか。)



※※※



間に合わなかった。あと少し早ければ、何度そう思ったか。普段からもっと色々な魔術を練習しておけばよかった。
余計な話などしてる時間はなかった、さっさとこっちに引き戻してからいくらでも話せるじゃないか。
判断を誤った。あいつがあれを知っていたことにもっと疑念を抱くべきだった。そうすれば……全てそれが原因だ。
簡易インスタント術式スペルだということに気づければ。



悔やんでも悔やみきれない。


「全部、わしのせい…。わしはまた、家族を失うのか?あいつは、わしの事を信じてくれた。あいつは、万策尽きたわしを助けてくれた。なのに、わしはあいつを……蒼太の事を助けられなかった!!」


壁に拳を強く叩きつける。その拳は自分への怒りに満ちていた。


「わしは…わしには……。あいつを、助ける力すらないのか!!」


叫びながら目から熱い液体が流れ出てきたことに気づく。


「ああ、こんな風に泣いたのは、久しぶりじゃな…。あぁぁぁぁ!!うう…。」
涙が抑えられなくてしばらく大きく声を上げて泣いた。


その姿は本当の子どものようだった。


※※※


発動!


解きはなて!


エンジェルガイド!


いくつものそれっぽい単語を試したがどれも失敗。銀紙の中の魔方陣はうんともすんとも言わない。


「解きはなつ……解く…かい……放つ………ほう……。あっ!もしかして。」


少年は大きく息を吸いそして、



解放!



ただそれだけを叫んだ。


その瞬間、この何もない世界を純白の光が包んだ。


※※※


未だ止まらない涙を無視してリーシャは弟子の顔をただ見ていた。
もう何もする気にはなれなかった。
半分放心状態でただただ弟子の顔を見続けることしかできなかった。


ぴくっ、ぴくぴくっ。


あまりのショックに最初は幻覚を見ているのかとも思った。それは先ほどと同じくらいの衝撃を与えるには十分だった。


弟子の、蒼太のまぶたが、動いた。



そしてゆっくりと開いていった。


リーシャはそのまま抱擁しようかとも思ったが、自分が泣いていることを思い出し急いで後ろを向く。とりあえず涙を止めよう、と。


「ん、んんん〜。あれ、リーシャさんどうして後ろを向いているんですか?」


その声はなんというか頭は起きているけど体がちゃんと起きてないから結果寝ぼけているような声だった。


その声はついさっき聞いたばかりなのにとても懐かしかった。


その声は何者にも変えられない安堵に変わった。


その声を聞くたび涙はどんどん出てくる。


「べ、別になんでもない…。」
と言ったつもりだったが、泣いているせいでしっかり伝わったかはわからなかった。


「あれ?泣いているんですか?」
き、気づかれた…。


「べ、別に泣いてなんかないぞ!」


必死に言うが全く説得力がない。蒼太が怪我でまだ動けないのが幸いだった。


ギィィィ。


ん?ベットの軋む音?


「ん、いてて。あっちだと全然痛くなかったのに…。」


…………え!?


起き上がった!?
自分が泣いていることも忘れ振り返る。
「お、おま…え。まだ…傷はちゃんと治ってないぞ!まだ動いてはダメじゃンフ。」


一瞬何が起こったかわからなかった。振り返った途端、身体を柔らかく所々硬く何よりも暖かい物が包んだ。


抱擁。


一体いつぶりだっただろう。久しぶりの抱擁だからだけじゃない。先ほどのことがあったからだろう。涙は止まるどころかさらに溢れ出てくる。


「やっぱり…泣いてるじゃないですか。」


小さい体を弟子の体温が包んでいく。色々な感情がこみ上げてきてもう思考はほとんど動いていなかった。


「ごめん、ごめんよ。わしがもっと早く気付いていれば……。わしはまた家族を失うのかと……思って、怖くて怖くて。判断が遅れて、ごめん。」



「俺は、そう簡単にはいなくはなりませんよ。未来を蘇らせないといけないし、それに師匠は俺がいないとダメみたいなんでね。俺はずっとリーシャさんの隣にいます。ずっと弟子であり家族ですよ。」


こいつは立派になったな。


「まったく、泣かせおる。頼もしい限りじゃな。」


後に蒼太は言った。「この時のリーシャさんは泣いてこそいたけど今まで見たことないような笑顔だった」と。


「悪魔になった人の力、あんまりなめないでくださいよ?リーシャさんが助けてと言えば例え悪魔の王様だって敵にします!だからリーシャさんもなんでも1人でやろうとしないでくださいよ?人のこと言えないですけど。」




最初はただの弟子だったのに、蒼太の言葉が何より嬉しかった。家族を失い、家も失い、老いていくという常識すら失い。300年もの時を過ごし。期待を胸にこの島に来てから10年。これほどずっと一緒にいたいと思った人間は他にいない。


「も、もちろん!ただわしのことばっかで未来に嫌われても知らんぞ?」
胸が高鳴る。心臓の鼓動が早い。しかしそれを精一杯隠して意地悪そうに笑って見せた。

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