命集めの乱闘〈コスモコレクトロワイアル〉

風宮 詩音

第12話 異世の弟子とこの世の師匠

闇はただ暗いのとは違う。
自分の体ははっきり見える。
ただそれ以外は何も見えない。


自分の足音、声は聞こえる。
ただそれしか聞こえない。
自分が出した音しか聞こえない。


前も後ろも右も左も上も下も、わからない。
自分は本当に進んでいるのか。
その場で足踏みをしているだけなのか。
それも、わからない。


何もわからない。
何も覚えていない。
何も思い出せない。


ただ心の奥底に何かがある気がする。
それを目指してなんとなく、足を動かす。
どこを目指しているのかもわからずに。



ふと、体を見る。目立った外傷はないがどうも体の内側が所々痛い。
ただそれも少しずつ弱くなっていってる気がする。そのまま身体中を触ってみると、気付いた。


外傷がないと思っていた体には所々、包帯が巻かれていた。頭、腕、胸に足。その中でも足の包帯からは薬草の匂いがする。鼻にくる強い匂い。なぜ今まで気づかなかったのだろう。


足に薬草、さらには包帯。打撲でもしたのだろうか。でもいつ?なぜ?どうやって手当てをした?覚えてない。思い出せない。


頭の中にいくつもの疑問が浮かび上がる。解決することなんてできない。すぐに考えるのを止めようとした。しかしそれは強制的に止めさせられてしまった。なぜなら背中に奇妙な何かを感じる。まるで暖かいタオルで拭かれて行くような感じ。それは背中から胸、腹、腕と上半身の包帯を巻いていない所全てに広がる。しかし体を見ても特に何も変なことは起こっていない。ただ、気のせいかもしれないが体、というか服…にあった何か気持ち悪い感じのものも取れた気がする。まるで、汗で湿った服を綺麗なものに取り替えたように。




ここまでのこと、まるで誰かに看病されているよう。その誰、が思い出せないのだが。何か思い出すヒントでもあればいいのに。そしてヒントをちゃんと理解できる頭脳が欲しい。そう現在鼻のあたりで最近どこかで嗅いだ料理の匂いがする。


「お腹は……、すかないか。」


痛くもかゆくもない。感覚という感覚がほとんどないと、まるで死んでしまったのかと思ってしまう。恐ろしいものを見た時の恐怖もなかなかのものだが、何も感じないというのもなかなか怖い。それでもおかしくならず普通でいられるのはおかしくなるのに必要な感覚もほとんどないからだろう。


(ん?)


ズボンのポケットに何か違和感を感じる。


(これは何か思い出すヒントかもしれないな。)


そう思いポケットに手を突っ込んでみる。


そこに入っていたものは……。


「チョコレートの包み紙とポケットティッシュ……だと…。」


ティッシュは使え…るだろう。しかし。こんな鏡に使えそうで使えないような銀の紙、


(あぁぁ。ただのごみだぁぁ。)


自分の歪んだ顔が見える。アルファベットでチョコレートと書かれた小さな紙を少年は綺麗に綺麗に伸ばしていた。


(アルファベットが読めるってことはあれか、思い出的な記憶だけを失った感じかな。思い出的な記憶って単語を覚えているあたりそれで確定かな〜。でも、どうやって思い出的な記憶って言葉を覚えたのかを思い出せないんだよな〜。)




次に胸ポケットに違和感を感じ、探ってみる。入っていたのは、


「赤い、サングラスぅ!?」


またしても使えなさそうなものが……。と落ち込むのもほどほどに。とりあえずかけてみる。その姿を鏡代わりの銀紙で見る。銀紙の中の少年の顔はとても小さく目は赤い。おかしな顔だったがなぜか懐かしいような感じがする。何か思い出せそうだけど出てこない。もどかしい。すごくもどかしい。


「あー。くそっ!こんな時いい感じの魔術があればぁ〜。……ん?魔術?魔術…魔術。魔術ってなんだっけ? だ、大丈夫だ。まだ完全に忘れきってない。まだ思い出せる。」


必死に頭の中で奥へ、奥へと逃げてしまうそれを追いかける。



魔術。それは時として法をも超える。無限の可能性の具現化。



ふと頭の中に響いた声は自分のものによく似ているがどこか、少女のような声も混ざっていたような気がする。


「た、確か鏡を通して連絡を取る魔術があったはず。…ってあれ。なんでおぼえてるんだ…。ま、まあいいや。とりあえず術式を思い出さないと。」



なぜか思い出した魔術。これはきっと奇跡かなんかなんだろう。しかしそれ以上の奇跡はいくら願っても起きることはなかった。


「じゅ、術式がなんだ!そんなもの俺がここで新しく作ってやる。」


「えーと。か、鏡によってつながれ?つなげ?うん!これだ!でも……あ、じゃあ  鏡よつなげ。  おぉ〜いい感じ!あとは…」



※※※


何時間?たったのだろうか。それとももう1日たったのだろうか。眠くもならないこの世界。体内時計は完全に狂ってしまったようだった。しかし自分で作った術式には愛着がわき成功する気しかしなかった。


「んじゃ。やりますか!」


銀紙を前に掲げ唱え始める。


「鏡よつなげ。この世と異世ことよ。思いを乗せた魔の力。力は引かれ引かれあい。次元さえも超えるだろう。」


少し間をおいて、思いっきり息を吸う。そして、叫ぶ。


接続鏡コネクトミラー!!」



銀紙はうんともすんとも言わない。それでも少年は念じ続ける。



それに答えたのか、はたまた反応までの時間のかかる魔術なのかはわからない。しかし銀紙は綺麗な水色に光った。そしてその中に小さな人影が見える。


影がはっきりする頃にはまだ誰だか思い出せないのに涙が止まらなくなっていた。


「お、お主この術はまだ教えてなかったはず。一体どうやって。と、というかなんで泣いているんじゃ?」


思い出せない。誰だか全く思い出せないのに懐かしくて悲しくてどこか愛おしかった。


「お、俺は一体誰、なんだ?」


「記憶喪失…か。ダメージと疲労、のせい…じゃな。ならその鏡を額に当てるんじゃ。今からありったけの魔力とお主に関する記憶を送ってやる!このわし、お主の師匠にしてゆ、唯一の家族であるこのリーシャ・アルバスがな!」


少女の声はとても幼いのにおばあちゃんみたいな喋り方で、しかしそれが最高に安心させる喋り方だった。

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