命集めの乱闘〈コスモコレクトロワイアル〉

風宮 詩音

第11話 天使の怒りと記憶の狭間

港のコンテナ迷路の奥の奥で起こった爆発はそれを起こした人間の先にいる少年を焼き尽くすことも吹き飛ばすこともしなかった。爆発に巻き込まれた少年は重症といえば重症だが死に至るほどではなかった。理由は簡単。突如燃え盛る炎と巻き上がる黒煙を何かが中から吹き飛ばしたからだ。


「・・・。は、はぁぁぁぁぁ!?」


少年は気絶しているためこの声を発したのは爆発を起こした張本人である脱獄犯、霧崎きりざき 浩二こうじのものだった。彼は爆破を失敗したことはなかった。ただの一度も。しかし7月の初めに爆破とは全く関係のないところで人を殺してしまい刑務所へ。脱獄したと思ったら剣に意識を奪われまた1人殺してしまい刑務所へ。またまた脱獄して今までの失態を取り戻そうとした矢先に爆破を失敗。しかし今回のは絶対に誰かが邪魔してる、そう考えた瞬間晴れていく黒煙の中に1つの小さな人影があるのに気づく。


徐々に晴れていく黒煙から出てきたのは


茶色いフード付きのマントを羽織った小さな人間。


背中には美しい絹のような黄緑色の羽がある。


フードから風によってチラチラ見える瞳は血のように紅く、怒りの炎が燃えていた。


同じく風によってマントからチラチラ見える足はとても細く雪のように白かった。



その人間が霧崎を睨むと先ほどから吹いている爆風とは何か根本的に違うような風が一層強くなる。


フードが風によって後ろに下がる。その瞬間、輝く雪よりも綺麗な銀色の長い髪があらわになる。女の子、霧崎はそう思いたかったがこの神々しさ。思わずきいてしまう。


「その姿、て、天使か何かかぁ?」と。


霧崎の言葉に幼児体型の天使のような生き物はこう返す。


「天使なんてそんな大したもんじゃないさ。ただの魔術師じゃ。お主もそうなんじゃろ?しかも自分の力を過信しすぎてはいない。ちゃんと頭を使い戦略をたてていた。自身の力を過信しすぎていない者は強くなれる。じゃがな。忘れるな!わしの弟子はすぐにお主を超える。そして借りを返す。自身の力でな。」


幼児と思ってなめていた霧崎は幼女魔術師の気迫に押され体はもちろん口も動かせなくなっていた。声自体は幼いもののそこにこもった感情と何か重いものを背負ったことのあるような喋り方に、霧崎は恐怖すら覚えた。


こいつは根っから強い人間であり、何か硬い壁に当たりそれをぶち破ってさらに強くなった人間だ。


こんな奴にかなうわけがない。


「ではな」と幼女魔術師の魔術であろう黄緑色の風が弟子と言っていた少年を包み込むとそのまま西の空に消えていった。


霧崎は怯え、恐れ警察が迷路を突破するまで動くことができなかった。霧崎 浩二はまたもや刑務所へ送られた。3度目ともなれば牢屋は頑丈、警備も万全。さらに霧崎の精神状態も相まって逃げ出すことは不可能だろう。




※※※


脱獄者によってボロボロにされた少年。桐真きりま蒼太そうたとその師匠。リーシャ・アルバスはゆっくりと我が家に帰る途中だった。飛行の魔術と蒼太を運ぶための魔術を維持しながら新たに外傷回復の魔術を使う。ベテラン魔術師でも気を抜くと全ての魔術が強制停止してしまうくらい難易度が高い。しかし今はそうするしかないのだ。


リーシャの額に汗がにじむ。そこに風が当たりどんどん体温を奪っていく。


(あと少し、もう少しで家に着く……。そこまでもってくれ…。)


心の中で願いつつ、しかし気を抜けば全ての魔術が止まるのでそればかり考えているわけにはいかなかった。




※※※


なんとか3つの魔術を家に着くまで維持することができた。


あらかた外傷も治った弟子をベットに寝かせると、なにやら弟子の息が荒くなっている。まるでこの前、悪夢にうなされていたときように。しかしこれが悪夢なのか、はたまた傷口から何か菌でも入って病気になってしまったのか。リーシャはこの手のことには詳しくないので全くわからなかった。ただただうなされる弟子にあらゆる回復系の魔術を使用しながら濡れたタオルを額に置いたり、汗で湿った服を取り替え体を拭くくらいしかできなかった。


そんな生活をしながら5日がたった。蒼太はだいぶ落ち着いてきたようだった。そしてその少年が寝ているベットの横に置かれた大きめの椅子でリーシャは寝ていた。5日間ほとんど寝ずに看病していた疲れからか昼を過ぎても起きる気配はなかった。



※※※


暗い所を進む。進んで進んで進み続ける。しかし一向に出口どころか何も見えない。



何か絶対にやらなくちゃいけないことがあった気がするがもう思い出せない。


自分にとって絶対に許せない相手が1人。


とても大事な人が2人いた気がする。


しかしそれももう思い出せない。


自分がどこにいたのか。


何をしていたのか。


誰といたのか。


自分には何か能力ちからがあった気がする。


何か、いや。


絶対に忘れてはいけないことを忘れてしまったような気がする。


しかし思い出せない。


自分以外の音も聞こえない。


先も見えない。


絶望。


前にもした気がする。


けどやっぱり。


思い出せない。



「俺は一体。誰なんだ……。」

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