命集めの乱闘〈コスモコレクトロワイアル〉

風宮 詩音

第9話 いくつもの衝撃とチーズの溶け具合

8月4日


あの大規模な爆破が起こってから2回目の朝。昨日は暗くなるまで、とはいかないけど持ってきたとりあえず結晶を詰められるであろう袋達いっぱいにはとってきた。その数ざっと2000個。リーシャさんの魔術がなかったら全部持ち帰るのだけで1日たつところだった。それでも結構重かった。そんなの苦労を知るよしもないテレビでは野菜の高騰がどうとか話している。


「メディアは完全にあちら側じゃな。この感じじゃきっと警察や自衛隊も動けないじゃろうな。」
お皿に盛り付けられたスクランブルエッグとウインナーを小さな手に乗せて運んできたのはリーシャ・アルバス。椅子に座って農家のインタビュー映像を見ている少年、桐真きりま蒼太そうたの師匠にして唯一の家族。蒼太はとある目的のため、古の禁忌魔術の贄となった。正確には人間という肩書きだが。人間であることを捨てたと言っても別になんら変わらない。氷属性の魔術が得意だったり、握力が前の4倍になったり空が飛べるくらいだ。………訂正。よくよく考えたら今まで当たり前のように受け入れてたけど結構な違いだった。とまあそんなこんなで蒼太は人間を捨てた代わりに運良く悪魔族になれたのだ(完全ランダム)。…と、脳内前回までのあらすじ説明はこのくらいにして、朝食を食べるとしよう。


「いただきまーs 」
「ブーー」
唐突な昔の家の玄関のベルのような音


「すぐあぁ!」
ベルにびっくりして盛大に舌を噛んでしまった。
「あぁー!あ、あぁー!」
ウインナーを噛み切るつもりで噛んだのは舌。痛すぎてだらしない声がでる。


「ええい!うるさいうるさい!客なんだから静かにしとれい!」
怒ってるつもりなのかもしれないけど見た目と声が幼いせいで全く怖くない。むしろめっちゃかわいい。


(…はッ、お、俺はロリコンなんかじゃないぞ!断じて。)


とまあそんなことを考えていたらお客さんと何か話していたリーシャさんが戻ってきた。あれ…ちょっと待てよ、毎日の朝稽古は家の前でやってるから何度か探したことはあるけど。
「この家ってベルあったんですか!?」
ベルは一度も見かけたことがない。


「そりゃもちろん。家なんだからあるぞ。まあ少し見つけにくいけどな。…と、今のはお隣さんじゃ。まあ隣って言ってもこの路地を出て隣じゃがな。んでいつも宅配便はお隣さん宛に届くようにしているから持ってきてくれるんじゃ。」


驚愕の新事実3連続。ベルがあったことも驚いたがそれ以上に…
「き、近所付き合いあったんですか!?あと宅配便使うんですか!?」


「近所付き合いと言ってもあの人くらいじゃがな。あと魔術師だって現代のもんくらい使うわ。現にお主テレビを見ていたじゃろう。」


あ、そういえば。この家魔術師の家っていう割には現代の道具が結構多い。てかこれどうやって買ってるんだろう。


(あれ待てよ、前に一度リーシャさんの部屋を廊下から見たときパソコンのようなものがあった気が……)


「……と、そうじゃそうじゃ。これお主宛の荷物じゃぞ。」


…はい?荷物をもらう宛なんてない…。というか蒼太のこと自体知っているのはリーシャさんだけだろう。人間を捨てたときに蒼太のことを知っている人間から蒼太に関する記憶は消えたらしいし、蒼太も関わっていた人間の記憶は1人を除いてない。今蒼太の中にある人間の記憶はリーシャさんとテレビで見た人。あとは人間を捨てるとき1人分だけ引き継いだ記憶。幼馴染 千里せんり未来みくのものだけ。


「一体なんの荷物ですか?」
渡された大きくて分厚い封筒を見る。裏側には蒼太の名前。表側には……


「し、私立星嵐学園……!」
これは、蒼太が人間を捨てる前に通っていた学校の名前。


「夏休み明けから学校じゃからな。復習はしとけよ〜」
・ ・ ・。


「は、はいーー!え、なんで悪魔の俺が入学できてるんですか!?てか戸籍とかそういうのないんですけど!」


「まあいろいろな。じゃが、1つ言うなら手段を選んだ覚えはない。」
幼い顔でのドヤ顔。ああ、またかわいいと思ってしまった。てか絶対この人魔術か魔術薬マナメディ使ったわ。ちなみにメディってのはリーシャさんが昔いたところの言葉で薬という意味らしい。まあ簡単に言えば催眠薬とか元気が出る栄養ドリンクとかそんなのの強化版だ。


(きっと心を操ったかウトウトした状態にして押し切ったんだろうな〜。この幼女怖っ。)


と、リーシャさんが封筒を開け中の小さな紙を取り出し読み上げた。


「これは、先月脱獄犯が学園に侵入したときに1人死者を出してしまった悲劇と後悔とそこからの教訓を忘れないために星嵐学園が書き上げた普段からの備え、今回みたいに凶悪犯が侵入した時の対応から超巨大生物、宇宙からの攻撃、大型災害にまで対応した本です。だとよ。」


なんで最後で手抜いたんだよ、あと少し頑張れよ。と思わずツッコミを入れてしまった。ま、まあ一応読んでおこう。


「んで他には何が入っているんですか?」
封筒は分厚い歴史の教科書の二倍くらいある。あと何冊か他にも本が入っているはず。でも教科書類は全部取ってあるし…一体なんなんだろう。


「これだけじゃ。」


「はい?」


「だから、この本1冊だけじゃ。」


……1冊…。しかしすぐには声を上げず1回冷静に考えてみる。


(ま、まあ超巨大生物の襲来とか宇宙からの侵略者の事まで書いてあるんだから当然か。それが本当に必要かは知らないが。)


蒼太はその本「悲劇の備え」といういかにも学校の本なタイトルの本をテーブルの上に置き、ほとんど冷めてしまった朝食を食べるのだった。



「あぁぁぁ!わしの、わしのスクランブルエッグの絶妙なチーズの溶け具合がぁぁぁ。固まっているぅぅぅぅ!チーズあれで最後だったのに!」


ん?チーズ?チーズ入ってたんだ。特に気にもせず、蒼太はスクランブルエッグを口に運ぶ。


「おぉぉ!固まってても美味しいですよ!」
その声でリーシャさんもスクランブルエッグを口に運ぶ。


「お、おお本当じゃ。これは新しい発見!これは1番美味しい溶け具合を探さなくてはなぁ。」


とまあ今日も平和な朝が始まるのであった。

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