命集めの乱闘〈コスモコレクトロワイアル〉

風宮 詩音

第8話 やりすぎな舞台と人形の心

「んじゃ、そろそろ行きますか〜。ほらほら早く行かないと先越されちゃうよ。」
高校の夏服。あとはベルトで体に固定するポーチ。少女が身につけているのはそれだけのようだった。


「待って…。あと少し…。」
先ほどの少女とは明らかに違うところが多い。背は小さく、声はのんびりした感じ。リュックサックに風呂敷やらなんやら、いろいろなものを詰め込んでいた。


「そんなに一体何を持っていくつもり?」
背が高い方の少女はまるでお母さんのようだった。


「備えあれば憂いなし…!もしかしたら必要かもしれない…。」
背が小さい方の少女はお出かけに心弾ませる子どものようだった。リュックサックのファスナーに引っかかった風呂敷をもう1人の少女が取ってあげているところを見れば本当の親子みたいだった。ただし2人が身につけているのはエプロンと子供服でもスカートのスーツと園児服でもない。制服、それも高校の、さらにこの島でも五本の指に入る超名門校のものだった。


この島は異能力者や魔法使い、その他武器を操るものなど様々な学生がいる。その高校、私立星桜高校しりつほしざくらこうこうにも。もちろんこの学校も星守会が運営している。星守会が運営する学校は全て私立。星島が作られる前、最初の学校である星守学園はただの私立の初等部から高等部までの学校だった。が、教え子たちは皆、超エリートに育った。そこの教育がよっぽどよかったのかもともとそういう性格なのか、はたまた脅されたのかはわからないが卒業生の9割が学園に多額の寄付をしているのだ。そこから徐々に勢力を拡大していき島を作る許可を得られるほどにまでなった。国も認めざるおえない教育力と財力。星守会初代会長、星守 忠信ただのぶは一般人の中で最も国への影響力がある人間だろう。大量の生徒を教えながらも国の援助をほとんど受けていない、全て自身と少数精鋭で組織された星守会だけで運営している、それがこの島の学校が全て私立の理由だ。


※※※


全く結局予定より10分ほど遅れてしまった。
「それじゃあ行きますかっ。空」
空と呼ばれた少j……幼女(?)はリュックサックをしっかり背負っている。


「おーー。安全運転でね。咲。」
咲と呼ばれた背の高めな少女は親指を立てている。


「んじゃ。」と咲が手を横に出す。その手と手のひらを合わせるように空も手を出し、お互いの指を絡ませる。


「行きますかー!ロシア!」


※※※


………へリは墜落しているわ、なんか変な形の飛行物体いるわ、もがき苦しんでる人間いるわ、ロボットが結晶集めているわでなんかもう色々追いついてなかった。咲の力によって普通の飛行機なら7時間ほどかかるところ約4時間で着いた。というか体力の消耗が激しい。そんな疲れた体にこの惨状。しかも地面には熱くて近づけない。つまり咲はこのまま空中で待機していないといけないのだ。なんなんですかここは地面がまるで火山だよ地獄ですか文字通りの地獄ですか!?と1人ブツブツと文句を言っている咲の事なんか気にする様子もなく、空は結晶を取りに行く。


「結晶があれば…あんなこともこんなことも…グヘヘへへ。」
熱のせいでおかしくなったと思いたいが、残念ながら咲はもともとこんな性格なのである。何か問題起こしそうと思った君は勘が冴えている…のかもしれない。そんな1人茶番をしている咲をほったらかしてゆっくり降下(これも咲の力)していった空は間もなく地面に足がつくようだった。全く暑がる様子も無く。


「ほほう。あの熱…本物じゃないね。見た目を暑そうにして……あとはきっと感覚に直接干渉するような何かで''暑い,,と思わせている感じかなー。んで地面に倒れたら皮膚を焼く術式が発動…と。なかなか手の込んだ舞台フィールドだねー。この環境だと人間は絶対に近づけないねー。」
咲は真下の地面を歩きながら結晶を探している小さな女の子を見る。


※※※


魔核マコア人形ドール。知っている人はこの界隈でも少数。簡単に言えば人造の体と魔術をもとにした核という名の思考回路こころを持つ人形。限りなく人間に近く、限りなく生物に遠い存在。体内は人間とほとんど同じ構造だが使用しなくても生きていける。動くのに必要なのは魔力だけ。この人形たちを人間が入れないような場所での作業用に研究する人もいれば、殺戮の限りをつくす軍隊を作ろうと研究する人もいる。ただいづれも目標は目的を達成できる機能のある人形を作ること。一見ただの女子高生な彼女の目的はそのあと。人間と一緒に生活していくことでどのように進化していくのか、はたまた進化はしないのか。そんな彼女に作られてもうすぐ2年。昔の自分のことはよく覚えていないが、日記やあの人の研究データを見る限りこの2年で心や感情なんかがわかってきた気がする。ただの人形だって人間になれる。あの人はそれがわかっていたのかもしれない。たとえ研究のためだとしても彼女は本当の人間の友達のように接してくれた。彼女が貸してくれたパソコンのおかげで  “人間の友達への接し方,,  もわかった。私はあの人の人形になれてよかった。だからこそ恩はしっかり返さなくてはならない。人形にはこんな暑さ効かない。あの人のために働き、恩を返す。


17歳の天才研究者  彩霧さやぎり さきのために。この私。彩霧さやぎり そらは。

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