のぶなが! 【だんます!! After Story】
第6話
とりあえず点滴ぶら下げるヤツでキイロさんにガッチガチに殴られてから話し合いはスタートだ。
「まず、納得がいかない。俺はヒナタさんとキイロさんに戻って欲しい」
「そう言われてもね、ヒナタも身重だし、はいそうですかとは行かないよ」
「それは聞いた。それでも、二人には戻って欲しい。せめて条件とかを提示して欲しい。一度は二人が選んだ人生なんだから最初から選択肢として消すのは無しにしてもらいたい」
そこでヒナタさんが花瓶をぶん投げてくれます。怪我はしないけど顔面びちょびちょです。
今にも産まれそうな体で無茶しないで欲しい。
「それなら、あの時お腹にいた子を返せ。こっちが簡単に決めたなんてお前に言う資格は無い」
おっと急展開。ヒナタさんが妊娠していたなんて話は聞いた事がないが、いつもベタベタしてる仲良し夫婦であるから、それが本当だとしても驚かない。
「いや、ヒナタ。アレは調べてもいないし、かもしれないってだけの話だよ」
「でもずっと強くなってた。何もしてないのに力が湧き続けてた。アレは妊娠してたとしか思えない」
「でもそれは私も感じていたよ? 確かにヒナタの方が種族特性にキレが増してたような気はするけど」
うん。コレはアレだな、コアちゃんがラディアルを送りまくってたヤツだと思う。
多分間違いない。
盗技を使うヒナタさんと閃技を使うキイロさんなら、心臓をぶっこぬける盗技のヒナタさんを強化するのはセオリー中のセオリー。
種族特性はレベル云々に帰依しないと言っても、紙装甲を抜かれたら元も子もないから、守りを重点に高めたのだろう。
俺ならそうするって事は、多分コアちゃんもそうする。
だが、妊娠が本当だとしたら、絶好のチャンスだ。
「ちょっとキイロさん、ペン貸してくんない?」
んじゃま、お勉強の時間だ。
まずは世界式を横からぶっ叩いて矛盾を作る。
賢者タイムの圏論の話じゃないけど、世界式を抽象的に捉えて綻びを作るんだ。
一見完璧なように見えるそれは、完璧であるからして、穴があるはず。
まず確定要素。
閻魔じーじがサプライズ発言でだんますを驚かせようとして、ヤムラの横入り参加にぶったまげてザマァの展開、つまり簡単に言うとヤムラがENMAとなるのは確定時間線帰結点Aとして、いまこの現時点が確定時間線帰結点A'とする。
つまり、どんなシナリオであろうと、確定時間線帰結点を通過するならば、多少の改変をしても現在の時間線に繋がる。
B・C・Dの世界線を作っても、放物線を描きながらにAからA'に繋げれば、世界式の矛盾は消せる。
つまり何が言いたいのか、それは理論的に世界を壊さずにタイムリープに近い状況を作り出すのは可能だということだ。
だが問題がある。
それは帰結点Aを通過する為には俺が必要不可欠な存在になってしまっている点、それと時のルーンはいじれても、そこまで完璧ではないので、狙った時間に飛べないかもしれない、その二点だ。
こんな事なら俺を複製して保存しておくべきだった。
理論は完璧でも、不確定要素が多すぎて実行に移せない。
「ちょ、ちょいちょい。何書いてんのそれ。壁紙が、壁紙が文字まみれだよ? 聞いてんのか信長!」
「え、あ、ああ、ごめん。廊下も使っていい?」
ヒナタさんがカチキレてるけど、今はそれどころじゃない。
何か必ず突破口があるはずだ。
俺が無理でも、俺に近い存在。
レイセン? いや、違う。
同じ宮司だというだけで繋がりが希薄すぎる。
俺の死体を使う……無理だな、敵を害して死ぬだけの思考の俺をどうする事もできない。
「メイ……ファー、そうかメイファーだ! あいつは俺のルーンをコピーしてる。全く同じ時のルーンを使ってる!!」
「おーい、お前これどうすんだよ。壁紙弁償しろよー」
よし、よしよし、道筋が見えてきた。
まずは閻魔の夢幻に閉ざされていたメイファーに憑依する。
ヒナタ、キイロ、そして恐らくマロンもセットになるだろう三匹の代わりにヤムラに喰わせる人材の用意する。
この二つを最優先事項として動く。
「じゃあお二方、必ずリアースに戻りたくなるように、私が宮司としての責務を果たしましょう」
「全然似合わないね、そのキャラ」
「ね。本当自分で言ってて顔熱くなってくる」
理論は完璧、後は実行あるのみ。
世界式展開したらラビリがぶっ飛んでくるだろうけど、既に完成してるんだから世界を渡ってくるより早く、完成させちゃうよ。
「見つけたぞ」
「アレ? ラビリお兄ちゃん?」
「なんだそれは。メイファーの真似でもしてるつもりか?」
「え? えぇ? えぇぇぇ?!」
さて、そろそろメイファーが病室の鏡で自分を見て発狂してる頃だろうとは思うが、俺の体と中身のメイファーはラビリが側にいれば心配ないだろうから放置。
なんとか過去の夢幻に潜り込むことに成功したわけだが、困った事になった。
なんかヤムラとレイセンとコアちゃんが一家団欒ムードで停止空間の中で和気藹々と過ごしてる件。
意識こそはあれど、ここまで完璧に止まってると動きもできん。
俺の本体なら余裕だろうけど、メイファーの体だと何にもできまへん。
気がつくとウサギが俺の頬をゲジゲジと足蹴にしてた。
「ん……あれ、寝てた」
「すげぇな。体感0コンマの世界でよく寝れたな」
やっば、寝てた。なんも考えてなかった。どうしよ、メイファーってどんな感じだったっけ? ずっと眠たい感じだよな。
「ちょっとだけはわかるよ。時間がとまってから、ちょっとだけわかってたもん」
ひとりでできるもん! ねむたいんだもん!
「そっか。でも、なんでお前って時のルーン使えるんだろうな」
うわぁ、なんか小学生ぐらいのウサギが俺に前脚伸ばしてくるんですけど。
なんか調べようとしてるのかな? 
そのギュルンギュルンした変な目は全力でやめてくださいって、思ってた矢先に視界が飛んだ。
気配を感じた方に振り向くと、翼を広げた金髪碧眼の幼女が俺の首根っこを掴んだままにあっかんべーをしている。
コアちゃん救世主、マジ天使。
「お忘れ物かな?」
「物じゃないよー! もうレイセンは向こうに帰っていいからねっ!」
はい拉致られました、ありがとうございますっ。
ぶっちゃけここから、あまり余裕はない。
まずは大急ぎでケットシー達の身代わりを探さなきゃならんのだが、コアちゃんに拉致られてると動けないよね。
「ねぇ、なんでここにいるの?」
「さすがのコアちゃんも予想外って感じ?」
「うん。気付いてから慌てて回収した。メイファーに成りすましてまで何してるの?」
「話せば長いのね。でも、時間はないわけ。だから後で合流ってことでっ、つ、あいったぁぁ!!」
いつも通りに転移しようとしたら目ん玉に槍を突っ込まれたような魔素吸収が起きてのたうちまわる結果なう。
メイファーってこんな痛みに普通に耐えてんの? ドエムどころの騒ぎじゃない。
「それは【喰】って魔眼だよ。ルーンはなんでも食べちゃえるんだけど、本来は吸魔眼から時間をかけて吸収痛に慣れて行くから、イキナリ全力でいけばそうなるよ」
「俺ちゃん、本体のハイスペックを改めて痛感」
まさにorzだよね。
大変申し訳ない話だけど、背に腹は変えられないからね。
「コアちゃん、ちょっと補助してくんない?」
「いいよ? あなたがここにメイファーとして存在している理由を話してくれるなら、ね」
「交渉成立。順を追って話して行くから、とりあえずここから出してくんない?」
「いいけど、メイファーの体で戦うなら、痛みには慣れておかないとキツイよっ」
「うん、ヒシヒシと感じてる」
いざとなれば頑張るよ。
ただ予想外に激痛だったからもがいてるだけ。
今は何よりケットシーの代わりに喰われてくれる人選だけど、普通の冒険者よりは権能持ちの方が好ましい。
権能持ちなら松岡君とか龍王みたいな感じで、夢を媒介に行き来できるから、後々の説得もしやすい。
だが、モモカとハクメイはダメだ。
さすがに守護者と庭師を失っては世界バランスが崩壊するから、御誂え向きなのは葬儀屋か罪喰い。
一気に3人もってなるとキツイから、やっぱりマロンは後回しでヒナタとキイロの2名に絞るかな……。
てなわけでコアちゃんと転移。
したら、めちゃくちゃ御都合主義で葬儀屋二人揃ってる場所に飛んできたんですけどこれ。
「よし、お前ら。俺の野望の為に死んでくれ」
メイファーちゃん全開。
敵は死ぬ!
…………………。
結果? 聞きたい?
燃え尽きたよ、真っ白にな。
「なんなんだい! いきなり襲い掛かってきて」
「キレる十代ってのは怖いもんだねぇ」
「大丈夫か、メイファー。立てるか?」
いや、土台無理な話だよな。
グランアースの宮司と葬儀屋二人とか無理ゲーすぎるだろ。
メイファー極めたとしても無理だわ。
加減しながら20本の鎖でたっこたこに殴られて、所々周りに気付かれないようにレイセンが時間止めて往復ビンタしまくってくる地獄。
ただただダメージ蓄積しただけです、本当にありがとうございました。
始まりの街で魔王の群れに遭遇した気分でした。クソゲーかよ。
つまり標的は罪喰いに絞られるわけだけど、あいつら四人で纏まって行動してるだろうし、ダンジョンバトル中で冒険者権能発動でくるだろうから、油断させて近寄って転移で拉致ってからケットシーも拉致る方向性で行きます。
マジで急がなきゃ時間ない。
「コアちゃん、罪喰いのとこ送って」
「いいけど、約束わすれてない?」
「ちゃんと話す。全部話すけど本当時間ないの。マジで」
すまんな、罪喰いの諸先輩方。
祝勝会のバベルでのみ活躍した栄光は消え去るけど、ちゃんと迎えに行くから待ってて。
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