のぶなが! 【だんます!! After Story】

慈桜

第5話

 
 じゃあいきなり質問するけど、10万円支払って土下座したことある?

 あまりないよね、俺はあるよ。

 しかも、まさに、いま、土下座中だかんね。

「孕ませたわけでもあるまいに」

「いやいや、朝まで抱き倒して10万円と土下座で許してあげるって言ってる女神の優しさわかんないの?!」

「土下座がオプションなのが不思議」

「風俗じゃないよ?!」

 もうね、吹っ切ったんだよ。
 アレからホテルに戻ってさ、ヒカルちゃんロスと冒険者ヒカルちゃん復活のダブルパンチで感情がぐちゃぐちゃで一頻り泣いた後にさ、ヤケ酒だってノリでテキーラ祭りに勤しんだわけ。

 マドカちゃんもご察しの通りに頭がゆるいじゃない? 18歳の未成年なのにパリピもビックリってぐらいガンガン飲んじゃうわけよ。
 JKボブの黒髪清楚系を演じながらにも、とんだアバズレなわけでしてね。

『うらぁ!! 変態ちょんまげぇ!」

 てな具合で酔っ払ったら本性剥き出しって言うかなんて言うか、俺ってば冒険者用の酒じゃないと酔えないわけでして、確信犯的にやっつけたりました。

 生まれてきてすいませんでした。

 んで、起きたら10万円と土下座を強要されて今に至るわけ。
 俺だからいいけど、皆んなは気をつけてね? 10万円って大金だからさ。
 人によっては美人局な気分にもなると思う。

 これyo!pipeに乗せたらBANされそうだな……まぁ、いいや。

「んで、今日はマドカちゃんお散歩立ちんぼするの?」

「その言い方マジでやめて。でも行くよ。夕方からだけど」

「そっか。じゃあ服でも買ったげようか? その制服色々……臭そうだし」

「あんた本当あたまおかしい」

 起きたらお昼で重役出勤してやろうかって思ってけど、これからご近所さんになるかもしれないマドカちゃんのアフターケアは大切だよね。

 お金で解決はしてるけど、実はいい人なんだよって面も演出しておくあざとさを見せちゃいます。

「マドカちゃんってどこ住んでんの?」

「千駄木」

「あれ? 結構お嬢様?」

「全然。高級住宅街の中にあるボロ屋だよ。ほぼ日暮里寄りだし」

「あーね、わかんないけど」

 適当にご機嫌取りの買い物と食事にしけこむワケだが、次の標的をどうしようかと少し悩む。

 ヒカルちゃんを向こうに送ったって事は、きなこちゃんとかダイゴとか暗黒騎士とかメタニウムの面々を送ってあげた方が良いような気もする。

 でも、そうなるときなこちゃん一択なんだけど、きなこちゃんって上野の和菓子屋で働いてて、元々それなりに幸せだったって話なんだよな。

 趣味の和菓子作りに没頭するスーパーアルバイターで、生活はカツカツだけど、なんとかやりくりしてたとかなんとか。

 どっちでもいいよってノリで来そうであるから急いで説得する気も起きないし、それを言うならヒナタさん達の方が急いだ方がいいもんな。
 確か病気で余命宣告されてたはずだし。

「ままならないねぇ」

「なんの話? ねぇ、ちょんまげさん! 串カツ食べたい!」

「昼からちょっとヘビーかなぁ」

 結局昼から串カツ食って吐きそうになりながらに重役出勤乙。

 豚ニィはジャージ姿で汗だくになりながらにPCのセットアップして候。

「なんかめっちゃ綺麗じゃない? 豚ニィその見た目で綺麗好きなの?」

「その見た目ってなんだおい!」

 なんか空気が澄んでる感じが不思議。
 見た目からして巣を作りそうなタイプなのにオフィスはピカピカでござ。

「別に良いけど、こんな時間まで何してたんだよ」

「偽物JKにカツアゲされて貢がされて串カツ食ってた」

「そうか、大変だったな。ザマァとしか思えないが」

「社長! 俺シャチョサン! ザマァだめ! ゆーのー?」

 雇い主になんたる言い様。
 雇い主と言っても金出すだけのお飾りだけど、ノリで始めたと言っても会社は会社。仕事はしてもらわなきゃだよな。
 ツッコミいれてくれるだけで十分なんだが、それではコイツが納得しないだろうし。

「じゃあ、まず仕事だけど、ネット繋がってんの?」

「いや、まだだな。電話回線は繋げたが、工事は明日になるらしい」

「んじゃ、そこのパチ屋でWi-Fi拾ってダンクエやってこい。リストアップしたプレイヤーと仲良くなってオフ会に誘われるまでがミッションだ」

「ゲーム? ふざけてるのか? 他にもっとあるだろ。会社としてやることが!」

「それが何より重要なんだよっ! にゃろめっ!!」

「に、にくー!! 肉つかむなぁ!」

 金銭が発生する人員を抱えた以上は、ただ遊ばせておくわけにもいかない。
 だから仕事として遊ばせておく。
 適当に資産運用でもさせながらにゲームさせようかって思ってたけど、資産運用なんてする必要ないし、金さえ渡してりゃ豚ニィは納得してくれる、はず。知らんけど。

「んで、俺は新潟に出張してくる。多分楽勝でミッションクリアできるから、早めに帰るだろうけど、それまでにレベル上げとけよ」

「はぁ……わかったよ。やればいいんだろやれば」

 窓からお疲れスパイダーマー◯ってノリで抜け出して、出勤途中のマドカちゃんと軽く挨拶。

 今からワテクシ新潟県に向かいまする。

 なんで新潟かって言うと、とある医者夫婦が療養の為に暮らしている海沿いの小さな病院に行く為だよね。

 タクシーで東京駅にGOして、新幹線で新潟にブッ込んで、再びタクシーに乗るだけの簡単なお仕事だけど、マジで移動疲れやばい。

 転移慣れも如何ともし難いな。
 思い描いて次の瞬間到着の楽さにかまけた自分が恨めしい。

「ここか、海猫診療所」

 海猫って鳥だよね? あいつらはガチの猫な気がするんだけど、場所には合ってるから気にしたら負けか。

「たーのーもー!!」

「おー! 信長に! ゃー、何しに来た!」

「キイロさん、猫語になりそうになって無理矢理直したでしょ」

「あはは、たまに出てしまうからね、困ったものだよ」

 白衣のイケメンメガネ。
 これがあの極悪ケットシーのキイロだとはとても思えん。
 データベースが頭にあるから、見て速攻一致するけど、知らなかったら絶対気付かん自信がある。

「ヒナタさんはどんな感じ?」

「最近は落ち着いてるよ。前はだんますに会いに行くって騒いで大変だったけどね」

「あーね。じゃあ単刀直入にキイロさん。ヒナタさんとリアースに戻らない?」

「それは是非とも……と言いたいけど、それには問題があるんだ」

 そう言ってキイロさんが案内してくれた先の病室には、優しそうな女性がベッドに腰掛けながらに外を眺めている。人間の姿だと綺麗な人だけど、俺の視界にはケットシーの姿がガンガン浮かぶ。

「おー、信長にゃにゃん! じゃない! ジェットランドセルじゃなくて、久しぶりね」

「めちゃくちゃ普通に元気じゃない?!」

 パジャマ姿ではあるけど、血行もいいし、余命幾ばくかなんて要素は何処にも見当たらない。
 更に驚愕の事実が判明。
 なんと、この黒髪美人ボテ腹である。

「今回の人生では、ヒナタは不治の病にはなっていないし、ご覧の通りに臨月なんだよ」

「それは、なんて言うか……まじか」

「前はヒナタの寿命が持ちそうになかったから喜んで冒険者になったけど、次はそう言うわけにはいかないんだ」

 ダメじゃん。
 これじゃ、あの暴君ケットシー夫婦は見れないって事か。
 記憶持ちだし説得楽勝だと思って来たのに最悪だこれ。
 何より、ココで断られる事によって、完璧に全員を戻す事が出来なくなったって確定するのが終わってる。

 なんとかならないもんかな。

 でも、無理だよな……。

「じゃあ、とりあえず、しばらく新潟に住んで、お二人の子供が産まれるのを見届けたら戻ります」

「なんか変な感じだね。そんなに畏まってると」

「いやいや、お二方には猫ワンダーZやらラブロフやらで色々迷惑をかけてるしね」

「あはは! 懐かしいね!」

 俺からすりゃ、最近の話なんだけどな……仕方ないよな。
 向こうはガキの頃から人生やり直してるわけだし。

「じゃあ、今日のところは」

「えっ? 折角来たんだから泊まっていけばいいじゃないか」

「いや、お構いなく。また来るんで」

 恥ずかしながらに、あのまま居座る事なんて出来なかった。

 いや、マジか! どうしよ。
 いきなりつまづいた、いや詰んだ?

 子供……子供も連れてくのはダメなのか? ダメだよな、普通に両親ケットシーでしたっておかしいもんな?! あるぇ、どうしよ。

 ケットシー夫婦無しで? いや、それはリアースじゃないだろ。
 あの何しでかすかわからない夫婦がいる緊張感が必要だろ。
 危険と裏腹にマロンちゃんが癒しのゴールデンラインが無いとかアウト。

 マロンちゃん? そうだマロンちゃんだよ。

 マロンちゃんがケットシーの姿で会いに来たら、少しは考えも変わるかもしれない。
 でも、マロンちゃんに会おうと思ったら中国に行かなきゃだめか……。

 てか会ったところで変わらないよな、今から子供が産まれるって言ってる時点で詰んでるんだよ。
 しかも町医者な時点で経済的にも余裕あるわけだし、子供引き連れて猫になる理由もない。

 でも何もしないより……とりあえず転移、いや、転移したらバレるよな。だんます殴りてぇ。

「あーあーあー!! めんどくせぇぇぇ!!」

 100%ピキーンだわ。
 ???%ぶっこんじゃう。

 脳味噌フル回転来ちゃったわこれ。

 ダッシュで遠海夫妻の診療所に戻ります。

 ガシャーンと開けてリベンジマッチだよね。

「おらぁ! クソ猫どもぉ!! 出てこぉい!」

「こ、こ、殺すぞちょんまげがぁ!! ガラス割れてるにゃねーか!!」

 さぁ、ここからが本番だ。


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