冒険者 カイン・リヴァー

足立韋護

奇策のカイン

 クリス一派の戦力は、他の冒険者を圧倒するほどに大きかった。個々の戦闘スキルはもちろん、連携、状況判断、どれを取っても文句のつけようがない。当然ながら、マーマンらもなすすべなく片付けられていった。
 相変わらずクリスは笑みを含んだ表情で皆を見つめている。不意に、クリスは短剣を持つ腕を振り上げた。海からマーマンが急襲をかけてきていたが、クリスは目にも留まらない速度でそれを切り伏せて見せた。マーマンは首を真っ二つに切断されていたが、クリスは足を一切動かしている様子はなかった。

「なんつう剣さばきだよ」

「褒めてくれるのかい。光栄だね」

 クリスは顔だけをこちらに向けた。

「……いちいち不気味なんだよそれ」

 やがてマーマンとの戦闘が終わったが、活躍していた冒険者の大半がクリスの仲間達であった。しかし高波が鎮まることはなく、むしろその激しさを増し、渦潮までもが現れ始めた。気づけば空は暗いやぼったい雲に包まれおり、しまいには雨が降り始めた。

「雨が降ってきましたね、状況は悪化するばかりですか」

「そうでもねえぞアベル」

 カインが指差した方向には、大きな島が見え始めていた。

「あれが……」

「ルーダ島だろうな」

 船は荒波に揉まれながらもルーダ島へと近づいていた。そんな矢先、船は大きく左右に揺れた。

「今度はなんなんだ!」

 カインが悪態をつくと船の底から甲板にかけて、長い何かが突き破って飛び出してきた。歴戦の冒険者らもさすがに驚きを隠せていない様子であった。よく見てみると、それは烏賊いかの足に似たものであった。足先の平たい部分には吸盤がいくつかついていた。その足は振りかぶるようにしなってから、猛烈な勢いでマストを叩き折った。
 カインはちらとルーダ島への距離を確認した。島の姿ははっきり見える程度。
 船底から浸水しているのか、甲板は徐々に海面へと近づきつつあった。

 もう二本の足が甲板を突き破って飛び出してきた。船は大きく揺れ、完全に冒険者らは混乱状態に陥っていた。一方でクリスは仲間内の一人に何かをぼそりと呟いたところで、荒波の中、あろうことか海へと飛び込んでいった。
 カインは甲板にあったタルの上に乗った。

「冒険者に船員に船長、よく聞け! この船はいずれにしろ沈む! 俺に考えがある」

ーーカインは分厚く長い木板を手に持ち、甲板の端に立っていた。その横にアベルが杖を構えた状態で立っている。

 冒険者らは各々浮きになりそうなものを手に携え、カインの周りに集まっていた。

「あんなチビの言うこと信じていいのか」

「バカ言え、大斧のカインだぞ。怪力で有名だろうが」

 好き勝手に噂話をする冒険者をよそに、カインは手招きをした。大柄の男、竜殺しのストガと呼ばれていた男がいの一番に前に出てきた。

「小僧、信じるぞ」

「任せろい」

 カインは木板を両手で持ち直し、アベルへと目配せをすると思い切り木板を振り上げた。それと同時か、少し先にアベルが詠唱を始める。

「風の気、その流体を顕現せよ」

 アベルが杖を振りかざすと突風とも言うべき風が、ストガを下からさらに押し上げていった。ストガは長距離を飛翔してから、島近くの海へと落下した。少ししてから、海面からストガが手を振っていた。カインが講じた奇策とは、己の怪力で人を投げ飛ばす人力カタパルトであった。

 それを見た皆はカインへと殺到した。カインはそれを律義に、しかし確実に一人ずつ投げ飛ばしていく。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品