冒険者 カイン・リヴァー

足立韋護

紅焔のクリス

 夕暮れ時、宿舎には冒険者が集まっていた。カインやアベルより遥かに厳つい風体のものや、怪しげな魔導術師など、個性的な面々が揃っていた。受付を終えた冒険者らは一度部屋に案内されるまでロビーで待機することになった。

「アベル、見てみろよ。色々いるぞ」

「ええ。竜殺しのストガ、土の申し子テリアなど有名顔が揃っていますね。特に大きな派閥を作っている紅焔こうえんのクリスは強力な冒険者であると言えますね」

「あのクリスって野郎は、どうにも胡散臭い笑い方をしやがる。気を付けろよ」

 金髪を後ろで束ね、緑色のマントが特徴的なクリスと呼ばれた美男子は、笑顔のまま自らの短剣の手入れをしていた。クリスの周辺には若い男と女、一人の老人が付き添うようにして立っている。それを中心にして複数人の男女が周囲の冒険者に睨みを利かせていた。
 カインはそれを横目に見ながら面白くなさそうにして、ロビーの奥へと進んでいった。

「カイン、あまり見ると厄介ごとに巻き込まれますよ」

「いけすかねぇな。幅利かせやがって」

「こら」

 アベルは、カインの視界を遮るようにして割って入った。しかしながら、アベルの努力虚しくクリスの派閥の一人が、カインを睨みながら大股で近寄ってきた。

「おい、俺らのこと睨んでたろ」

 棍棒を持った坊主頭の男が、アベルをどかしてカインを真上から見下ろしてきた。カインは「あ?」と眉間にシワを寄せて睨み返す。

「なに睨んでんだチビ坊主」

「坊主はてめえだろうがハゲコラ」

「ち、ちょっとカイン!」

 二人が取っ組み合いの喧嘩をしそうになっていると、いつの間にか二人の間にあのクリスが立っていた。手には先ほど手入れしていた短剣を握りしめ、至って穏やかな笑みを浮かべながら、どちらを見るでもなく前方を向いている。

「バルド、行くよ」

「ク、クリスさん、でもこの坊主が!」

「僕が、行くと言ったんだ」

 クリスは淡々とした口調で話しながら、バルドと呼ばれた男に笑顔を向ける。バルドは生唾を飲み込み、冷や汗を流しながら元いた場所へ戻った。
 クリスは体勢も変えず、顔だけをカインへと向けた。

「僕の仲間が迷惑をかけたね、カイン・リヴァー。曰く付きの村からよくここまで」

「お前、なんでそれを……!」

「君のことは、知っているよ。それではね」

 クリスはマントを翻して、元の座っていたソファへと戻って行く。
 あとを追おうとしたカインだったが、形容し難い寒気に襲われ、ぶるりと身を震わせた。不気味な感覚に気分を削がれ、そのままロビーの奥へと進んで行くことにした。

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