冒険者 カイン・リヴァー
時の支配者
ゼルギウスは茫然とながらも店の残骸を踏み越えながら、店の中へと入っていった。周囲にいた人だかりは当事者が戻ったと知ると、次第に去っていった。ゼルギウスは気が付いた。店のカウンター下に隠していた金庫がこじ開けられていたのだ。
「け、権利書が……!」
金庫には土地とこの店の所有権を証明する書物が入っていたが、こじ開けられた金庫には何も入っていはいなかった。ゼルギウスは膝から崩れ落ち、地面を殴りつけた。うめき声をあげ、力なく拳をほどいた。
権利書を奪われることは、今は亡き両親が遺してくれた土地と店、そして思い出の数々をむざむざ手放してしまったことに等しかった。
その時、ゼルギウスの視界が不自然に揺らいだ。涙のせいではない。気が付けば、周囲は真昼間だというのに暗黒に包まれていた。目の前にあったはずのカウンターも、魔導書を並べていた棚もなく、ただただ暗黒に飲み込まれている。
ゼルギウスが振り返ると、そこには見上げるほど巨大な振り子時計が鎮座していた。
「な、なっ……!?」
その振り子時計は轟音を鳴らしながら、一刻一刻を刻んでいた。振り子の上には円形の時計がついており、人がそこまで登れるよう階段が設置されていた。その状況を受け入れられなかったが、出口も行き先も見つからないため、ひとまずその階段を上がっていくことにした。
階段を上がりきると、時計の秒針が勢いよくゼルギウスの目の前を通り過ぎていく。
ふと、遠い記憶に残る言葉を思い出した。
「世界の、時…………」
ゼルギウスは時計の時針に触れようとしたが、目に見えぬ力ではじかれてしまった。ムキになったゼルギウスは時計に手を向け、自らの魔力で覆った。時計の内部隅々に至るまで魔力を行き渡らせる。
「魔導の応用で……!」
魔力に動的な作用をさせ、時計内部の歯車を魔力だけで操り始めた。ゼルギウスは、秒針、分針、時針がどの歯車によって、どんな仕組みで時を刻んでいるのか理解していた。加えて、幼少から魔導書に囲まれ、魔導に関する知識の深さを持ち合わせていた。だからこそ、時計に触れられずとも、中身が見えずとも、魔力制御だけで時計を操作することができたのであった。
ゼルギウスは時針を数回ほど左回転させた。
「や、や、やった! やればできるじゃないか」
ゼルギウスが魔力制御をやめると、時計は今まで通り時を刻み始めた。
再びゼルギウスの視界が揺らいだと思えば、周囲の景色は店の中へと戻っていた。しかし先ほどとは打って変わって、店の中は荒らされておらず、確かに奪われたはずの権利書が金庫の中に戻ってきていた。
急いで家の中の振り子時計を見てみると、午前九時を回るところであった。
それはゼルギウスが巨大な振り子時計の時針を戻した通りの時刻だった。
様々思考を巡らせたが、気がついた頃には体が地に伏せていた。糸が切れたように倒れ込んでいたようだ。
「か、体に力が……。使いすぎた」
魔力の過剰消費によるものであると自覚した。体の力が抜け、しばらく意識が飛ぶ。そんな症状が出るとされている。ゼルギウスは薄れゆく意識の中、目の前に誰かが立っていることに気が付く。
「その力、正しきことに使え」
男はその身に纏う黒衣を翻して去っていった。ゼルギウスはその記憶を最後に、意識を失った。
番外編 時の章 終
「け、権利書が……!」
金庫には土地とこの店の所有権を証明する書物が入っていたが、こじ開けられた金庫には何も入っていはいなかった。ゼルギウスは膝から崩れ落ち、地面を殴りつけた。うめき声をあげ、力なく拳をほどいた。
権利書を奪われることは、今は亡き両親が遺してくれた土地と店、そして思い出の数々をむざむざ手放してしまったことに等しかった。
その時、ゼルギウスの視界が不自然に揺らいだ。涙のせいではない。気が付けば、周囲は真昼間だというのに暗黒に包まれていた。目の前にあったはずのカウンターも、魔導書を並べていた棚もなく、ただただ暗黒に飲み込まれている。
ゼルギウスが振り返ると、そこには見上げるほど巨大な振り子時計が鎮座していた。
「な、なっ……!?」
その振り子時計は轟音を鳴らしながら、一刻一刻を刻んでいた。振り子の上には円形の時計がついており、人がそこまで登れるよう階段が設置されていた。その状況を受け入れられなかったが、出口も行き先も見つからないため、ひとまずその階段を上がっていくことにした。
階段を上がりきると、時計の秒針が勢いよくゼルギウスの目の前を通り過ぎていく。
ふと、遠い記憶に残る言葉を思い出した。
「世界の、時…………」
ゼルギウスは時計の時針に触れようとしたが、目に見えぬ力ではじかれてしまった。ムキになったゼルギウスは時計に手を向け、自らの魔力で覆った。時計の内部隅々に至るまで魔力を行き渡らせる。
「魔導の応用で……!」
魔力に動的な作用をさせ、時計内部の歯車を魔力だけで操り始めた。ゼルギウスは、秒針、分針、時針がどの歯車によって、どんな仕組みで時を刻んでいるのか理解していた。加えて、幼少から魔導書に囲まれ、魔導に関する知識の深さを持ち合わせていた。だからこそ、時計に触れられずとも、中身が見えずとも、魔力制御だけで時計を操作することができたのであった。
ゼルギウスは時針を数回ほど左回転させた。
「や、や、やった! やればできるじゃないか」
ゼルギウスが魔力制御をやめると、時計は今まで通り時を刻み始めた。
再びゼルギウスの視界が揺らいだと思えば、周囲の景色は店の中へと戻っていた。しかし先ほどとは打って変わって、店の中は荒らされておらず、確かに奪われたはずの権利書が金庫の中に戻ってきていた。
急いで家の中の振り子時計を見てみると、午前九時を回るところであった。
それはゼルギウスが巨大な振り子時計の時針を戻した通りの時刻だった。
様々思考を巡らせたが、気がついた頃には体が地に伏せていた。糸が切れたように倒れ込んでいたようだ。
「か、体に力が……。使いすぎた」
魔力の過剰消費によるものであると自覚した。体の力が抜け、しばらく意識が飛ぶ。そんな症状が出るとされている。ゼルギウスは薄れゆく意識の中、目の前に誰かが立っていることに気が付く。
「その力、正しきことに使え」
男はその身に纏う黒衣を翻して去っていった。ゼルギウスはその記憶を最後に、意識を失った。
番外編 時の章 終
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