冒険者 カイン・リヴァー
古の時計
翌日、ゼルギウスの家の振り子時計がやかましく鳴り響いた。時刻は八時。普段であれば、この音で起床するところであったが、ゼルギウスはわずかな眠気に身を任せて、もう一度眠りについた。
再び起床したところでゼルギウスは青ざめた。時刻は九時を回る三分前。やはり遅刻はしたくないと、ゼルギウスは急ぎ身支度済ませた。家を出るころには、振り子時計が鳴り響いていた。既に九時。家から時計塔まではどれだけ急いでも五分はかかる。遅刻は確定していたが、それでもゼルギウスは強く願った。
「や、やっぱり無理だ。時間に遅れるなんて! 間に合ってくれ!」
無我夢中で街中を走るゼルギウスの視界が、一瞬揺らいだ。その瞬間だけ家にあるものとは違う、古い振り子時計が見えた気がした。時間を気にするあまり、気でもおかしくなったのかとも思ったが、今は急ぐことだけを考えたかった。
額に汗をにじませながら時計塔へ辿り着くと、既にカインとアベルが待っていたが、なにか困惑した様子だった。
「ゼルギウス、遅刻しないと意味ないだろ。何やってんだ?」
「へ?」
ゼルギウスが時計塔を見上げると、時刻は九時ちょうどであった。事実であれば、五分以上はかかる道のりを、わずか一分で走破したことになる。
「い、いや、僕は遅刻をしたよ! 家を出たのが九時だったんだ」
「では、どちらかの時計がズレていたのかもしれませんね」
「と、時計合わせは毎日しているはずなんだよ。そ、そ、そんなはずは……」
「変な魔武具も、使ってねえよな。おかしな話だ」
一同の疑問は解けないままであったが、カインはこれから学校に特別講師として呼ばれているらしく、ゼルギウスとはその場で別れた。アベルがうなだれるゼルギウスの横に立った。
「カインはいま、ホープの計らいで初めて学校に呼ばれているんです」
「学校に……?」
「カインはああ見えても、物覚えが非常に悪い男なんです。文字は毎晩練習しないと定着しないし、新しく出会った人の名前と特徴を家で何度も暗唱しているんですよ。だから実はできないことだらけなんです。ホープはそれを知って……」
ゼルギウスは口を開いて、意外そうにアベルを見上げた。
「ゼルギウスのことも、実はすごいことだって昨日褒めてました。自分もそう思います。その力は、貴重です」
「そっか。少し楽になった気がする、ありがとう」
二人のもとへ装飾を手に持った職人のような風体の男が歩いてきた。
「悪いな。王様が帰ってくるもんで時計塔も飾りづけしなくちゃならん。ちと退いてくれ」
「アベル、ぼ、僕は店番もあるから帰るよ。今日は、てて、手伝ってくれてありがとう」
ゼルギウスは幾分か晴れた心を胸に、親の代から継がれる店へと足を運んだ。店の通りまで来ると、自分の店の前に小さな人だかりができていた。皆近所の住民で、ゼルギウスに良くしてくれている人々だった。彼らはゼルギウスを見つけると、哀れみの目を向けながら何かを話している。
人の輪をかき分けて入っていくと、店のガラスが割られ、内装は酷く荒らされていた。
再び起床したところでゼルギウスは青ざめた。時刻は九時を回る三分前。やはり遅刻はしたくないと、ゼルギウスは急ぎ身支度済ませた。家を出るころには、振り子時計が鳴り響いていた。既に九時。家から時計塔まではどれだけ急いでも五分はかかる。遅刻は確定していたが、それでもゼルギウスは強く願った。
「や、やっぱり無理だ。時間に遅れるなんて! 間に合ってくれ!」
無我夢中で街中を走るゼルギウスの視界が、一瞬揺らいだ。その瞬間だけ家にあるものとは違う、古い振り子時計が見えた気がした。時間を気にするあまり、気でもおかしくなったのかとも思ったが、今は急ぐことだけを考えたかった。
額に汗をにじませながら時計塔へ辿り着くと、既にカインとアベルが待っていたが、なにか困惑した様子だった。
「ゼルギウス、遅刻しないと意味ないだろ。何やってんだ?」
「へ?」
ゼルギウスが時計塔を見上げると、時刻は九時ちょうどであった。事実であれば、五分以上はかかる道のりを、わずか一分で走破したことになる。
「い、いや、僕は遅刻をしたよ! 家を出たのが九時だったんだ」
「では、どちらかの時計がズレていたのかもしれませんね」
「と、時計合わせは毎日しているはずなんだよ。そ、そ、そんなはずは……」
「変な魔武具も、使ってねえよな。おかしな話だ」
一同の疑問は解けないままであったが、カインはこれから学校に特別講師として呼ばれているらしく、ゼルギウスとはその場で別れた。アベルがうなだれるゼルギウスの横に立った。
「カインはいま、ホープの計らいで初めて学校に呼ばれているんです」
「学校に……?」
「カインはああ見えても、物覚えが非常に悪い男なんです。文字は毎晩練習しないと定着しないし、新しく出会った人の名前と特徴を家で何度も暗唱しているんですよ。だから実はできないことだらけなんです。ホープはそれを知って……」
ゼルギウスは口を開いて、意外そうにアベルを見上げた。
「ゼルギウスのことも、実はすごいことだって昨日褒めてました。自分もそう思います。その力は、貴重です」
「そっか。少し楽になった気がする、ありがとう」
二人のもとへ装飾を手に持った職人のような風体の男が歩いてきた。
「悪いな。王様が帰ってくるもんで時計塔も飾りづけしなくちゃならん。ちと退いてくれ」
「アベル、ぼ、僕は店番もあるから帰るよ。今日は、てて、手伝ってくれてありがとう」
ゼルギウスは幾分か晴れた心を胸に、親の代から継がれる店へと足を運んだ。店の通りまで来ると、自分の店の前に小さな人だかりができていた。皆近所の住民で、ゼルギウスに良くしてくれている人々だった。彼らはゼルギウスを見つけると、哀れみの目を向けながら何かを話している。
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