冒険者 カイン・リヴァー

足立韋護

鍛錬と眼差し

 第二章 【無作法冒険者と無名の城】

 ホープが学校へ向かう前、酒場の掃除をしていると、外から風切り音が幾度となく聞こえてきた。音は酒場とカイン、アベルの住む家の間から入ることができる、塀に囲まれた僅かな広場からであった。ホープが窓から覗くと、筋肉浮き上がる上半身を露わにしたカインが、魔斧ドラードを幾度も一文字に振り下ろしていた。自生していた雑草は振り下ろした箇所だけが、風圧のあまりはげてしまっていた。

「今日もやってる」

 そう呟きなかまらホープが眺めていると、上階から、ホープの父ローグが欠伸あくびをしながら下りてきた。ホープの視線を追うようにして窓の外を見ると、感心したようにため息をつく。

「毎朝毎朝、偉いもんだ。あんなちっこい体で、あんなでかい斧を」

「アベルさんから聞いた話だと、夜には文字の練習をしてるらしいの。ぐちゃぐちゃな文字らしいのだけど、毎日、色んな鍛錬を欠かさないなんてすごい」

「学がないのか。戦争孤児かなんかだろう。今度、カインを学校に誘ってみたらどうだ」

「でも、十歳前後の子が通う幼年学校よ? 文字の習得のためとはいえ、さすがに失礼じゃないかしら」

「護身術の特別講師とか適当な理由つければいいだろう。カインとお近づきになれちまうのは、父親としてはいい気はしないがな!」

 ホープは顔を赤らめながら、ローグの肩を叩いた。



────カインは朝の鍛錬を終わらせると、自宅で汗を軽く流してから、文献に埋もれて眠っているアベルを叩き起こし、街へと出かけた。

 街は巨大な円形で作られており、その中央より北側に城が位置していた。グラントの巨大さと治める王がいることから一国として称するものもいれば、アーティア全土の南に位置するグラント含む一帯の街を一国と称する者もいた。
 カインは街の、東側の比較的古民家が多い区域へ行くと、アベルが寝癖を直しながら納得したように頷いた。

「ゼルギウスのところへ行くんですね」

「ああ、この前の遺跡での戦いで、魔導が活躍したからな。またお前が使える便利なもんがないか探してみるんだよ。それに最近ゼルギウスも酒場に来ないんで様子見だ」

 アベルが「なるほど」と返している間に、一軒の古い二階建ての家へ辿り着いた。中へ入ると書物が並べられた棚が視界いっぱいに入ってきた。雑然と積み上げられた書物の中から、隙間を縫って出てきたのは、眼鏡の青年、ゼルギウス・リンデルマンであった。

「あ、カ、カインにアベル! よ、よく来てくれたね!」

「よっ、景気はどうだ。今日は客で来たんだが、今大丈夫か?」

「もちろん。なな、なんでもどうぞ」

 ゼルギウスは眼鏡をくいと上げつつ、カインとアベルへ笑いかけた。

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