侵略のベルゼブブ

わいゑえす

間違えた正義


「・・・妹のミレーナか。自分は勇者の一人、フレークだ。君もこちら側に来た人間か?」

 フレークがミレーナに自己紹介をし、また異世界召喚者として同胞なのか確認をとる。
 ヤマトはミレーナに上手く言ってね、と目で訴えかけた。

「はい!わたしはお兄ちゃんの実の妹で今はミレーナとしてこの世界にいます。」

「・・・なるほど。では妹ミレーナよ君を歓迎する。」

「お願いしますっ。先輩っ!」

 ミレーナは可愛らしくフレークに挨拶した。フレークは若干照れつつ頭を描く。

「・・・よく出来た妹じゃないかヤンマー?」

「あぁ。妹じゃなければ今頃、俺は変質者としてミレーナちゃんを誘拐して好きなだけ欲しいものを買い与えていた。破産しなくて良かったぜ。」

「そうなのお兄ちゃん?じゃ、わたし妹やめる。」

「ミレーナちゃんが妹をやめたらただの生意気なガキに戻るだけだ。やめておけ。」

「・・・矛盾してないかヤンマー?」

「そ、そしたらお、おじさんが面倒をみ、見てあげるよ。」

「おわっ!おっさんかよ!」

 ヤマトは第4者の声を聞き仰天した。このおっさんまだいたのかと。フレークもまた同じことを思い善良なおじさんに問い掛ける。

「・・・ミレーナを助けたこと、感謝する。あなたも忙しいだろう?後はこちらで引き取るからもう帰ってもいいんだぞ?」

「い、嫌だ。お、おじさんは勇者様に話さなきゃならないことがあ、あるんだ。」

 しかし善良なおじさんは素直に帰らなかった。なんでもフレークを含む勇者達に話しがあるそうだ。フレークが伝言として話しを聞こうとしたが善良なおじさんは全員に自分の口で伝えたいと望んだ。

「・・・そこまで言うのなら席を設けよう。ヤンマー、ミレーナ、行くぞ。」

 ヤマトとミレーナは大人しくついて行く。その後ろから善良なおじさんはブツブツ独り言を言いながらついてくる。

「お兄ちゃん?」

「なんだ?」

 ミレーナが小声でヤマトを呼んだ。二人はフレークから少し距離をとって小声で話す。

「あのおじさんね、前異世界にいた悪漢のおじさんなの。」

「えっ?ミレーナちゃん何もされてないよな?」

「さっき兄には変なことされたけどね。どうやらこの世界だと善良なおじさんみたいなの。並行世界の同一人物みたいなものかなぁ。」

「並行世界って言えば もし が枝分かれしてるから可能性としては高いと思うぜ。ロリコンに目覚めない世界だって普通にあるだろ。」

「そうだよね。でも、あのおじさんがこれから勇者達に話すことをわたしはさっき聞いちゃったんだよね。」

 ミレーナが言いたかったことは別に善良なおじさんという存在の考察ではなく、これから話す重大なことだった。

「あのおじさんは ワッフル って子が殺された時の・・・」





「お前はぁっ!!どうしてここにいる!?」

 突如叫び声が聞こえたと同時にヤマトの目の前まで勇者バニラが斬りかかってきた。

「バニラっ!!」

 だがフレークが間一髪バニラを止める。ヤマトは全く反応出来ず、首元まで剣が来ていたのに気づいたのはその数秒後であった。

「お・・・う・・・えっ?」

「お、お兄ちゃん!!」

 興奮しているバニラを抑えるためフレークはバニラにのしかかる。また、後ろからツイストとソフトも駆けつける。

「フレーク!どうしてこいつを解放した!!?」

 抑えつけられてもなお興奮の冷めないバニラはフレークに怒鳴りつける。

「聞けっバニラ!!ヤンマーは敵じゃないし悪者でも無い!!」

 これにはツイストもフレークの言葉に追求する。

「どういうことですか?場合によってはフレーク、あなたもタダではすみませんよ?」

「・・・お前達も驚くぞ?いいか?ヤンマーは自分達と同じ同志だったんだ!」

 「なっ?」
「あ!?」
「おっ!?」

 バニラとツイストは動きが止まった。ここに来てようやくヤマトはヘタリ込む。

「それは本当なんですかフレーク?」

「このガキに騙されてんじゃねーのか?あ?」

「・・・それは本人に聞けばわかる!ヤンマー!自分の仲間に教えてやれ。」

 ヤマトは一呼吸置き、そして3人の勇者に事情を話す。

「ふぅ。実はフレークが言った通り、俺はお前達と同じ世界から妹のミレーナと一緒に来たんだ。」

 しかしツイストとソフトは話しを鵜呑みにせず、ヤマトにいくつか質問する気だ。

「にわかに信じられませんね。では我々と同じ世界から来た証拠を見せてもらいましょうか?」

「もし違ってたらテメーもそのチビガキも虚偽の罪で牢獄にぶち込むかんな?あ?」

 ミレーナは心配そうにヤマトを見る。ヤマトはその視線に片目を瞑り答える。任せろと。

「証拠か。それじゃお前達が一発で信じるだろう証拠を言ってやる。」

 バニラは何も言わず、ただヤマトを睨み間違いを言った瞬間に斬りつける気満々だった。

「お前達の名前さ、あの少年誌にあった氷結戦士 アイスマン のキャラクター達だろ?」

 ヤマトは自信を持ってそう答えた。勇者達はその答えにしばらくの沈黙が流れる。ミレーナに至ってはなんのことやらさっぱりだった。

「・・・ヤンマー。それは何よりの証拠じゃないか。」

「マジかよ。流石にこの世界の人間じゃ アイスマン は知らねーよな。」

「仲間が・・・オレたち以外にも仲間がこの世界にいたんだ!」

「僕たちはなんて過ちを・・・ヤンマー、すまなかった・・・。」 
 
 どうやら信じてもらえたようだ。ヤマトは内心またイチャモンでもつけられるのではないかと内心ヒヤヒヤしていた。そしてまた痛い所を突かれないように今の内に手をうった。

「いや、俺も最初からあんた達に打ち明けとけば良かった。はは・・・妹を守らなきゃって頑張りすぎて仲間を信じる事を忘れていたみたいだ。バニラ、みんなも仲間を信じなきゃいけないって事を思いださせてくれてありがとう。」

 少しオーバーに言い過ぎたかとヤマトは様子を見る。しかしバニラを筆頭に勇者達は気が晴れた様にヤマトを見ていた。
 そして信用を勝ち取るため、また後でミレーナに殴られる様な行動をとる。

「ちょっ?お兄ちゃん!」

「俺たち兄妹をよろしく!」

 ミレーナの肩を自分の方へ抱き寄せ勇者様に挨拶したのだった。

「ああ!オレたちは仲間だ!!」

 バニラは満面の笑みを浮かべてヤマトとミレーナを受け入れた。ツイストとソフトも歓迎する表情をしている。

「なんつーか、悪かったなヤンマー。もとはといやぁ変に突っかかったおれが悪かった様なもんだしな?」

「僕も洞察力には自信があったのですが、まだまだだったようです。」

 ヤマトは笑顔を返した。ソフトもツイストもまたヤマトの笑顔という返答に安心したのか笑顔を見せる。
 しかしヤマトは牢獄に入れたこと。自分をボコボコにした事を根に持っていた。

ーこいつら・・・同じ世界出身ってだけで手の平を返しやがって。どうしたら同じ世界出身イコール仲間なのかまったく意味がわからん。


 するとフレークがもう一人紹介したい人がいると言った。ヤマトとミレーナは善良なおじさんを呼びに行く。

「おいおっさん。あんたの出番だぜ?」

「お、おう。に、兄ちゃんありがとう。」

「おじさん!きっと話せばあの人たちはわかってくれるよ!だから自信持っていこ?」

「お、お嬢ちゃん。おじさんはお、お嬢ちゃんと出会えて良かったよ。お、おかげこうして勇者様に話しをするゆ、勇気が湧いたんだ。」

 ミレーナはそう言われるとニコッと笑って返した。どうやら本当にこのおじさんは悪漢ではなさそうだとヤマトは確信する。

「そうだ!おっさんにはまだお礼を言ってなかった!妹が世話になったんだよな。ありがとうございます。」

「て、照れるなぁ。に、兄ちゃんももう妹から目をは、離しちゃダメだぞ?」

 ヤマトは心からお礼を言った。この善良なおじさんをしばらく観察してみたが、これと言った下心をミレーナに抱いている訳でも無くきっと本心で助けようとしただろうと思っていたのだった。

 そして善良なおじさんは勇者達の下へ歩み寄って行った。ヤマトとミレーナは善良なおじさんの後ろ姿を見守りながら今後の調査をどうするか作戦会議を軽くしようと思っていた矢先


 目を疑う光景が二人の視界に入り込んできた。

「あ・・・あ・・・・・・れ?」

 善良なおじさんの背中から剣が突き出ていて血が吹き出ている。

「ワッフルの仇だ!!死ねぇぇぇぇぇっ!!」

 バニラが剣を突き刺した犯人のようだ。これにはフレークやツイスト、ソフトも驚きバニラを止めようと駆け寄る。

「バニラ!!」

「いきなりどうしちまったんだバニラ!?ああ?」

「仇・・・まさかこの中年がワッフルを・・・?」

 バニラはおぞましい程に歪んだような怒りを3人にぶつけた。

「そうだ!!こいつが!!ワッフルを滅茶苦茶にした犯人だ!!!」

 そう告げられ3人の勇者は現実を受け入れるのに時間がかかった。
 

 ミレーナは善良なおじさんを助けようと駆け寄ろうとするがヤマトは前に立ち、それを止めた。

「おじさん!!おじさん!!」

「ダメだミレーナちゃん!!」

「どうして!?おじさんは犯人じゃ」

 ヤマトはマズイと思いミレーナの口を塞ぐ。そして小声でミレーナを説得する。

「ミレーナちゃんが言いたいことはわかってる。でも今ここでおっさん助けに行ったらミレーナちゃんも俺も犯人の仲間として殺される。あのバニラって奴はちょっとおかしい奴なんだ。」

 ミレーナは塞がれた口をこじ開けようと必死にもがく。ヤマトはわかってくれと無理に口を塞ぎ続けた。

「まだおっさんだって死んではいない。きっとフレークがバニラを止めておっさんを助ける。あの中で唯一の常識人はあいつだからな。」

 そう説得したがミレーナは余計にもがいた。むしろあれを見ろと訴えかけてくる。ヤマトはどうしたと振り返るとそこには勇者達の姿は無かった。




「死ねぇぇぇぇぇ!死ねぇぇぇぇぇ!」

「お前が!お前がぁぁっ!!」

「うおぉぉぉっ!!」

「テメぇぇぇぇぇっ!!」

 4人の異世界召喚者が善良なおじさんを寄ってたかって嬲り殺しにする光景がヤマトの目に焼き付けられた。


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