侵略のベルゼブブ
合流
 勇者達が正気に戻ってほしいと頼むフレークとそれに協力するヤマトはその件の勇者達に会うべく街の商店街を歩いていた。
「随分と盛んな街だな。みんな平和を謳歌している様に見えるぜ。」
「・・・魔王を討伐して早数年。今まで災厄は降り注いでいないからな。無理もない。」
「それにしてもさ。俺をバニラ達に会わせて大丈夫なのか?」
 ヤマトは自身を幽閉したバニラ達を危惧していた。
「・・・自分からも事情を話す。ヤンマーも胸を張って伝えるんだ。俺もお前達と同志なんだと。」
「お、おう。そうだよな。俺もお前達と同じ同志だもんな!」
 ボロを出さないように気をつけよう、とヤマトは心の中で気を引き締めていたら、とある商店の商品が目に留まった。
「・・・どうしたヤンマー?」
「あ、いや。この首飾りがちょっと妹に似合いそうだなぁと思ってさ。」
 その首飾りはシンプルな作りになっており、小さな青い宝石がぶら下がっている。
 フレークは少し笑いながらヤマトを茶化した。
「・・・お詫びとして買っていってやれ。」
「そ、それもいいな。は、ははは。」
 しかしヤマトはこの世界の通貨など持っているはずも無く、なんて言い訳をしようか考えた。
「妹に財布を握られていて実は俺、文無しなんだよ。いやー買っていってやりたかったぜー。」
「・・・そうなのか!はははっ!そいつは傑作だ!」
 フレークは何やら上機嫌に自分の財布を取り出し、その首飾りを購入した。そしてヤマトに首飾りを差し出す。
「これは報酬として受け取るがいい。」
「い、いいのかよ?」
「・・・いやなに。自分達も冒険していた頃に財布を握られていてな。自分達とお前はやはり同じ同志だよ。ははは!」
 ヤマトは多少の罪悪感を残してその首飾りを受け取り懐にしまった。こんないい奴をこれから殺さなくてはいけないということを今考えたくない程に。
「ワッフルって名前だったか。お前達の妹分は。」
「・・・ああ。ワッフルともう一人うるさい奴がいたんだよ。ここから少し離れたところにある街で大魔導士をしているシャーベットって女性だ。聞いたことあるか?」
「あ、ああ。お前達は有名だから名前くらいは知っているさ。いくら山育ちの俺でさえな。」
「・・・その二人がいつも無駄遣いするなとか勝手な行動するなとか小煩いったらなかったんだ。」
 フレークは過去の思い出を楽しそうに語った。ヤマトはそれを大人しく聞くことしか出来ずに相槌をうった。
「そのシャーベットもお前達の妹分なのか?」
「・・・どちらかといえば姉貴分だった。いつも冷静に判断して自分達もいつも助けられてばかりだ。それに最初この世界に来た時は彼女の方が強かったしな。」
「あのバニラより強かったとか想像ができないな。それに姉貴分か。」
「・・・この件が片付いたらヤンマーにも紹介しよう。美人だぞ?」
「ほう、詳しく。」
「・・・なんだなんだ。ヤンマーもそういうのが好きなタイプか。シャーベットを見て最初に思うのが露出の高い服装だ。平常心が保てないくらい・・・やばいぞ?」
「まじかよ!ウチの姉貴分にも見習わせてやりたいぜ!!」
「・・・ヤンマーにも姉貴分がいたか!何から何まで自分達と似ているな!ははは!」
 この時ヤマトは口を滑らせた。ドライツェンの存在まで明かす必要が無いことに気づくのが遅かったと会話に夢中になってしまったことを反省した。
「・・・自分は今度シャーベットに告白しようと思っている。」
「はっ!?」
 フレークはいきなりヤマトに自身の恋心を打ち明けた。ヤマトは慣れていないせいかあたふたし始める。
「そ、そんな大事な話を今日会ったばかりの奴に話すかよ!信用しすぎだ!」
「・・・すまんな。だが、どうしてか話しておかないと自分が恥ずかしさに耐えられなかったんだ。だからヤンマーを巻き込むことにした。」
「やめろってそういうのは!」
「・・・いいじゃないか。もう自分達は仲間なんだから。」
「仲間・・・?」
 フレークはヤマトの頭をポンッと叩きそう伝えた。ヤマトは複雑な気持ちで胸が一杯になり、ミレーナやドライツェンのことがふと恋しくなった。
ーあー、これはシスコンまで発症してるな。なにもかも姐さんとミレーナちゃんが悪い。
「・・・どうした?ヤンマー。」
 ヤマトは気持ちを取り直して調査を続ける。
「さっさと片付けて告白しに行けよ?バニラ達に越されたら大変だからな!」
「・・・そうだな。バニラ達ももしかしたらシャーベットのことが好きかも知れないしな。やっぱりヤンマーに話して良かった。」
「後で言ったこと後悔するなよ?」
「・・・そうならないといいな!」
 フレークはヤマトを信頼しきっていた。自分と似た境遇による錯覚からか同じ世界出身だからなのか。しかしヤマトはそれに付け込み情報を引き出す事に躊躇いが生まれてしまっていた。
ー異世界召喚者や転生者の中にもこんないい奴がいるなんて。少し見方を変えなきゃいけないな。
「それにしても一体あいつらはどこにいるってんだよフレーク?」
 「・・・そろそろ着くぞ。いつも自分達は何もする事がない時は修練場で戦いに備えて鍛えている。」
「あーそれはそれは。努力を惜しまない俺強いさん達だこと。」
「・・・これからは自分達がお前を鍛えてやる。覚悟しとけよ?」
 ヤマトはこれ以上答えたくなかった。彼らの結末を知っているからだ。万が一にも彼らがドライツェンに勝つ見込みがあるとは到底思えないと思っている以上、彼らに心を開きすぎて、かえって自分が傷心するわけにはいかないからである。
ーミレーナちゃんもこんな気持ちになったりするのだろうか。少し異世界侵略を甘く見過ぎていたかもしれない。俺だっていつかは誰かをこの手で・・・
 ここに来てようやくヤマトは異世界侵略を現実として受け止めた。今までもそれなりに理解はしていたのだが、改めて自分は侵略者として加担していることを実感する。
「あ、お兄ちゃんだ。」
「えっ?あ、えっ?」
 なにやら聞きなれた声がすると思えば妹のミレーナが見知らぬおじさんと一緒にいるところに鉢合わせたのだった。
「ミ・・・ミレーナちゃん?」
「えっ?なんなのその顔は?変態なの?ロリコンなの?それともわたしのファンなの?」
「全てが当てはまった場合、なんて答えたら?」
「やめて。全て兼ね備えるのはやめて。これ以上自分を変態キャラにするのはやめて。」
「お、おお。ちょっと見ないウチに妹が妹をしている!」
「もうっ!何わけわかんないこと言ってんのお兄ちゃん!」
 ヤマトは単純なことにミレーナと合流したことで先程の悩みが吹き飛んだ。侵略者として調査せねばと自身を鼓舞させる。
「・・・ヤンマー?その子が妹か?」
「お、お嬢ちゃん。お兄ちゃんがみ、見つかってよかったねぇ。」
 フレークと善良なおじさんはお互い連れてきた面々を心配して声を掛けた。
「ミレーナちゃん、ちょっとこっち。」
「ん?なになに?わたしをワーキャーする気?」
 これまでのいきさつを説明する為にヤマトはミレーナを連れ、フレークと善良なおじさんから少し離れて小声で話す。
「いいか?俺は山育ちのヤンマー。妹と草原を徘徊してたら魔族に襲われて俺は妹を逃す為、囮となって妹とはぐれてしまった異世界召喚者。オーケー?」
「ちょっ声小さくてよく聞こえないよ。何だっけ?メンマ?」
「いや、だからさ」
 あまりヒソヒソと話し過ぎると怪しまれると危惧したヤマトはミレーナに後で怒られるかもしれない覚悟をし奇策に出る。
「ああ!俺は妹と久しぶりに会えてこの衝動が抑えられないぃ!!」
「えっ?おわぁっ!?」
 ミレーナを思い切り抱きしめることが奇策だったようだ。ミレーナはあまりにも急なハグに気が動転する。そしてヤマトはミレーナの耳元でこれまでのいきさつを囁こうと試みる。
「ミレーナちゃん。今、精神的に冷静なら抱き返せ。ダメなら3秒後に離れる。」
「・・・・・・。」
「3、2、1・・・くぅっ!」
 ヤマトは抱きしめてからミレーナがテンパる癖がある事を思い出して、こりゃダメだ。後で殴られ損だ、と半ば諦めていたが返事があった。どうやらミレーナは冷静らしい。だが今度はヤマトがミレーナに抱き返されて気が動転してしまった。
「ミレーナちゃん、強烈。なんて言おうか忘れる程、強烈。」
「早く言ってよ。わたしも恥ずかしくて今にもテンパりそうなんだから。」
「オ、オーケーだ。今から言うからお願い。あまり耳元で呼吸しないで。」
「ダメ、わたしも気がおかしくなりそう。」
 二人はタコのように真っ赤になりながらどうにか調査報告をすることに成功した。すぐ様離れてそっぽを向くヤマトとミレーナはお互いモジモジしていて側から見れば少し不思議な光景でもあった。
 一旦気持ちを落ち着かせてヤマトはミレーナにアイコンタクトで意思疎通を図る。
ーじゃ、やるぜ?ミレーナちゃん。
ーフォローは任せて。
 どうやらうまく疎通出来たようだ。二人はフレークのところに歩み寄る。
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