侵略のベルゼブブ
仲間
「う・・・あ。ここ・・・は?」
 ヤマトが意識を取り戻し、目を開くとそこは見慣れない牢獄のような場所であった。身体の自由は効かず四肢を拘束されて椅子に貼り付けられている。全身はかなりの打撲や切り傷があり、ズキズキと鼓動のたびに痛みが襲う。
ーあいつら・・・俺をボコボコにして監禁かよ。少なくとも勇者がすることじゃねえな。
「・・・。」
「お、おっ?お前は・・・!」
 ヤマトを見張る様に大人しく静観する4人の召喚者の1人、寡黙な巨漢 フレーク が腕組みをしこちらを見ていた。
「はっ!随分と手荒な勇者様だなぁ?え?」
 目の前の巨漢の男に文句を言いだすヤマトは身体をジタバタさせて拘束を解こうとするが上手くいかなかった。
「・・・仲間がすまなかった。」
「喋るんかい。てっきり無視され続けるかと思ったじゃねーか。」
「・・・昔はあんな奴らじゃ無かったんだ。」
「さてはお前饒舌だな?」
「・・・あいつらの昔話、聞いてくれるか?」
「えっ?嫌だ。」
「・・・あれはそう。この世界に降り立つ時のことだ。」
「続けるんかい。」
 フレークは自分達のこの世界での馴れ初めを語り出した。ヤマトは願っても無い状況なのだが先ほどの件もあり、あまり聞く耳を持つ気がなかった。
「・・・気がつくと自分達は武器を片手にこの世界にいたんだ。」
「あー?」
「・・・正直胸が踊ったよ。自分達はこの世界の勇者に選ばれたのだとな。」
「へー。」
「・・・最初はみんなまっとうに魔王討伐の為に死力を尽くした。弱きを助け、悪を挫く、自分達の世界にあるマンガやアニメに出てくる憧れの正義のヒーローを目指して。」
「マンガ?なんのマンガだよ?」
「・・・ああ。マンガと言ってもわからないよな。すまん。マンガというのは書籍の物語のことだ。それに登場する主人公を真似ては現実のヒーローになれると信じて演じていたんだ。」
 ヤマトは何のマンガかを聞いたのだがフレークは言葉を履き違えたのか、マンガという物の説明をしてしまった。いっそ、このままヤマト自身も同じ世界出身と明かしてしまえと思っていたのだが。
「・・・そして魔王を討伐した後、ある日を境に正義のヒーロー達はおかしくなってしまったんだ。」
「どうに?」
「・・・自分達のパーティーにはもう一人仲間がいたんだ。名前は ワッフル とても可憐な少女だった。」
「その口ぶりからするとその少女は死んだのか。一体どうして?」
 ここでようやくヤマトは話しに興味を持ち始めた。この男から全てを聞き出してやるとヤル気が湧いてきた。
「・・・悪漢にズタボロにされたあげく殺された。バニラがそれを見つけたんだが犯人は逃走。顔もはっきりとは見ていないそうだ。」
「あぁ。なんとなく察しはついた。ついたんだがその少女も強かったんじゃなかったのか?」
「・・・あの子はただの優しい道案内役さ。自分達が来るなと言うのに子犬のようについてくる。自分達4人はその子を妹の様に愛していた。」
「なるほどな。だからバニラは妹とはぐれた俺にあんなに怒ったのか。あいつだけじゃない、みんなか。」
「・・・そんなところだ。だがお前の言い分は間違えてはいなかった。少し妹という言葉に敏感なんだよ。」
「だからって俺を監禁するのはおかしいと思うんだが?」
「・・・バニラ達はもはや何が正義で何が悪かを見失っている。なあ、ヤンマーと言ったか。自分と協力してあいつらを助けるのに協力してくれないか?」
「は?どうして俺が助けなくちゃいけないんだよ。」
「・・・じゃあ取引といこう。助ける代わりに拘束を解いてやる。これならどうだ?」
 ヤマトはフレークの取り引きに応じるつもりは皆無だった。いや、助けるつもりなどなかった。しかし現状を打破する為にあえて協力することに名乗り出た。
「あんたの正義も大概だな。わかったよ。協力する。」
「・・・感謝する。」
 こうしてヤマトは拘束が解かれた。一度身体をグイッと伸ばし、拘束されていた緊張を解いた。そしてある疑問をフレークにぶつけた。
「でもなんで俺なんだ?勇者様なら他に強力な味方だっているだろ?」
「・・・何というか、お前からは自分達が居た世界と同じ雰囲気がある風に見えてな。どこか懐かしくて信用したくなってしまう。」
「ああ、時代的にも一緒だからな。まぁ、住んでる都道府県は全然違うが。」
 フレークはそう言われると一瞬身体が硬直し、今なんて言ったのかをもう一度脳内で再生して心を落ち着かせた。
「・・・自分の聞き間違いならすまんのだが、今なんて言った?」
「んあ?俺はお前達と同じ世界出身なんだ実は。今はヤンマーとしてこの世界にいるわけ。」
 その衝撃的な告白にフレークは一度息を飲み、そして何か納得した表情になった。
「・・・そうだったのか。やはり自分達以外にもこの世界に来ていた人間は居たんだな。お互い本名は伏せよう。なんだか目が覚めてしまいそうだからな。」
 するとフレークはヤマトに歩みより肩を掴んでじっくりとヤマトを見据えた。
「・・・改めて謝罪する。すまなかったな同胞よ。しかしそうなら早く言ってくれれば良かったじゃないか。」
「俺は妹を守らなくちゃならないから。もしあんた達が敵だったらと考えるとなかなか言い出せなかった。」
「・・・同胞が敵?そうか、では危うく自分達は同胞の敵になるところだった訳か。妹を守る勇者よ、歓迎する。」
 フレークはヤマトに手を差し伸べた。心なしか表情も緩んでいる。
「よろしくな!」
 二人は固く手を結んだ。ヤマトの企みも知らないで。
「はぁ、挙げ句の果てに迷子なんて。」
 迷子になってしまったミレーナは兄と姐を探し、街をひたすら練り歩いていた。もはや焦りはなく、むしろ開き直ってマイペースに探していた。勝手にいなくなった姐と音信不通の兄なんて知るものかと、探す身にもなれとさえ思っている。
「結構賑わっている街だなぁ。」
 ミレーナはおもむろに呟いた。自身が幼い頃に暮した世界の街より大きいなと周囲を見渡しては感想を述べた。
ーこの建造物、道行く人々から察するに魔法特化の国かなぁ。多分、召喚者は勇者とか魔術士とかの類いの可能性が高い。まだ科学特化の世界は行ったことがないけど、恐らくこんな感じの世界じゃないんだろうなぁ。
「んー?ん?んん?あの人・・・!」
 目を凝らして辺りを見ていると何やら見たことがある人物が裏路地の入り口に立っていた。それはミレーナが前異世界侵略時に調査の為に色仕掛けをし、異世界転生者 シシカバ をおびき出す囮役として使った
ー悪漢のおじさんだ!この世界にも存在していたなんて!
 ミレーナは悪い虫が疼く。またこの世界でも悪漢のおじさんに活躍してもらおうと。
 そして悪漢のおじさんに近寄り泣きそうな表情で声をかける。
「うぅ・・・おじちゃぁん・・・うぅ。」
「ど、どうしたんだいお嬢ちゃん?」
「・・・お兄ちゃんがいないのぉ。」
「そ、それは大変だ。お、おじさんがい、一緒に探してあげよう。」
 ーああ。この世界でもおじさんはわたしに協力してくれるなんて。やっぱりまだまだわたしの王女だった時の風格が残っているとでもいうのかしら。
 にやけそうな口元を必死に抑えてミレーナは悪漢のおじさんを上手く利用するつもりだ。目的としてはヤマトを探すことだろう。やはり、その世界の住人に協力してもらった方が効率が良いというのをミレーナは理解していた。そして先ほどのミスを忘れて調子に乗った。
「そ、それでお兄ちゃんとはどこでは、はぐれたんだい?」
「わかんないのぉ!」
 悪漢のおじさんはどうすればいいかわからずオロオロしている。ただ、あまり下心は無いように見える。
ーんん?この世界だとおじさんは悪い人じゃなさそう?前の世界ならすぐに裏路地に連れて行ったはずなのに。やっぱり世界が変わるだけで人柄も変わるものなんだなぁ。
 ミレーナは悪漢のおじさんでなくこの世界では善良なおじさんと呼ぶことにした。
「こ、困ったな。おじさんじゃお兄ちゃんを見つけられないかもしれない。お、お嬢ちゃん、これから勇者様のところに君を預けるけどそれで良いかい?」
ー願ってもないチャンス!!
「うん。勇者様のところに連れてってぇ。」
ーこれでお兄ちゃんと合流出来る!それなら姐さんも怒ったりはしないでしょ。わたし、天才!
ーふーん。あたしがいなくてもまだ行動するだけの気力は残っていたか。まあ?あたしが色々教えた訳だし、動けて当然っちゃ当然なんだけどさ。
 ミレーナの機転が利き始めた瞬間である。だが、だかしかし、遠くからドライツェンはミレーナの様子を見守っていたのだった。一度離れてミレーナがどう行動するか試していたのである。
「さてと、お姫ちゃんはまた坊やと合流するみたいだし、あたしはレアアイテムでも探しに行こうかねぇ。さっきの店主の話じゃ、ここからそう遠くない街に伝説の杖があるらしいし。」
 そしてドライツェンはあらゆる武装を取り出した。ドライツェンの周囲には数々の剣や槍、銃などが円を書くように浮いている。
 その中から一つの武器を選ぶとその武器を軽やかに振り回した。
「はっはっは!今回はこれでも使おう!対象の僕ちゃん達はこの街にいるから、これから行く街は全て皆殺しにしちゃって構わないものねぇ。」
 ドライツェンは鎧越しだが間違いなく悪い笑顔をしていた。自らの欲望の為に一つの街を手にかけるというのを知りながら。
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