侵略のベルゼブブ

わいゑえす

単独調査




「それで?あんた達はどうしてそんなに強いんだよ?」

 ヤマトと召喚者4人は街へ向かう途中、召喚者達の強さの秘密についての暴露話しをしている最中だ。案外、ヤマトに対して召喚者達の警戒心が薄く会話も滞りなく弾んでいるのだった。

「そうですね・・・。まずは僕たちの馴れ初めから話をしましょうか。」

 ヤマトへそう答えた知的な青年の名前は ツイスト というらしい。恐らくこちら側の世界での偽名だろう。

「僕たちはもともとこの世界とは別の世界からやってきたんです。」

「・・・別の世界?なんだそれは?魔界とかそんな感じか?」

 ヤマトは当然、彼らが別の世界出身のことを知っていた。だが、話を知らないフリをして更に情報を引き出すためあえてトボけていたのだ。

「お?ヤンマーは 日本 ってところ知らないのか?」

 「日本?なんだその変な名前は?山育ちだから全然わかんねー。」

 リーダー格の青年、バニラ が知ってて当然のごとく 日本 の名前を出した。
 鼓動が早くなるのを実感しながらヤマトことヤンマーはまたシラを切る。こんなにも簡単に情報が引き出せると思っていなかったため、ヤマトは高揚感が増していった。

「僕たちはその 日本 という世界で学生をしていたんですよ。それで僕たち4人は下校の途中にある光に包まれてしまったんです。」

ー光に包まれた、か。こいつらは多分何でも答える感じっぽいな。少し攻めた質問でもしてみるか。

「光に包まれた?すごいな、まるで神さまの仕業みたいだな!もしくは魔術か何かの類いかも!」

「ヤンマーは鋭いですね。そう、僕たちはこの世界の神 ジャスティ に召喚された異世界召喚者なんですよ。」

「なんだってー!神 ジャスティ様から召喚!?もしかしてあの事件が原因で・・・?」

 またしてもヤマトは確認のために会話を途中で止めた。

 「あん?おいガキ!テメー山育ちのくせにやたら詳しいじゃねぇかよ!?」

 ヤマトはしまったと後悔した。頭脳派だろうツイストが普通に教えてくれる為に他のメンバーは自分を疑わないと誤算したからである。
 ヤマトに突っかかったガラの悪い青年、ソフト はまだヤマトを信用していなかったと見る。

「・・・い、妹が詳しいんだよ!頭が良いんだ俺の妹は。」

「あぁ!?そういや妹はどこいったんだ?」

「ここに来る途中、魔物に襲われて俺は妹を逃がすためにオトリになってな。はぐれちまったんだ。」




 そうヤマトが嘘の言い訳をした途端にリーダー格の青年、バニラが容赦なくヤマトの顔面を殴った。

「がっ!・・・い、いきなり何すんだ!?」

「馬鹿野郎!お前!それでも兄貴か!仲間じゃねえのかよ!!」

「え?」

ー何言ってんだこのバカは。俺の話を聞いてなかったのか?

 続けてバニラが怒り口調で言う。

「俺は仲間を見捨てる奴が大嫌いだ!!お前は妹を見捨てやがった!許さねぇ!」

 ヤマトは作戦を忘れて嘘の反論してしまう。

「だから俺がオトリになったって言ったろ!?妹とは街で落ち合う約束をしたんだ!安否の確認だって取れてる!お前に俺たちの何がわかっててそこまで言う必要があるんだよ!」


 するとバニラは更にヤマトの顔面を殴った。両頬が赤くなり、チートの鉄拳の痛みに堪えるヤマトは一度自身が言った事を思い返す。

ー・・・何もおかしなことは言っていないはずなのに・・・。

「いってぇ・・・。何が気に食わないんだ?」

「仲間を裏切っただろうが!!」

「バニラ、一旦落ち着きましょう。」

 興奮気味のバニラを制止したツイストはヤマトを真剣な眼差しで見ると一度溜息をつき、そして口を開いた。

「ヤンマー。君とは友好な関係になれると思っていたのですが・・・。どうやら僕の見込み違いだったようですね。仲間を見捨てるなんてあまりに非人道的です。」

「あんたまでそんな事いいだすのかよ!まるで話しにならないじゃねぇか!」

 更にはソフトまでツイストの言葉に乗る。

「おいガキ!テメー舐めた口きいてんじゃねえよ!この悪党が!殺されてんかよ?」



 もはやヤマトの脳内は沸騰寸前までいっていた。4人の言い分に訳がわからない苛立ちと両頬の痛みでこのままやり合う気すら起きていた。

ーぐうう。お、落ち着け俺。こいつらに挑んだって間違いなく負けるのはわかっているんだ。ここは大人しく引き下がるしかないか。

「・・・わかった。お前らとはここまででいい。俺は妹を探しに行く。一人じゃ妹も心配だしな。でも助けてくれた事には感謝している。ありがとうな。」

 ヤマトは一度体制を整えるために4人の召喚者とは離れてドライツェンと合流するべきだと判断した。もしかしたら自分の言い分が何か悪かったもしれない。だからドライツェンに相談をしたかったのだ。

「またな。」

 そう別れの言葉を告げてヤマトは離れようとした。その時またしてもバニラが突っかかった。

「まちやがれ!お前それが助けてやったオレたちに対する礼儀なのか!?」

「・・・は?」

「ヤンマー。君は恩を仇で返すと言うのですか?・・・フッまさに悪魔の所業ですよまったく。」

「テメーは筋すら通せねえのか!!もう限界だ!ちっとは話しの通じる奴かと思っていたがバニラ!このガキは 悪党 だ!やっちまおう!!」

 ー・・・だめだこいつら。姐さん、ミレーナちゃん、短い付き合いだったけど楽しかったぜ。



「うるっせぇ!!!バカかよテメーら!!こんなにも言葉が通じねえバカは初めて見た!!いいぜ!?殺すんならさっさとしやがれバカ!!バカが!!!!テメーらにはバカって言葉がよく似合うぜ!!バカ御一行様ぁ!!!!!??」

 そう言ったのも束の間、ヤマトの意識が途絶えた。








「おー!なかなか良い街じゃないか。これはレアアイテムに期待出来そう!」

 一方ドライツェンとミレーナは一足先に街に到着していた。ドライツェンは街の活気に期待を膨らませ、あたりをキョロキョロしている。またミレーナに至っては自身の粗相をまだ引きずっており、もの凄く静かに俯いていた。

「はっはっは!坊やはもう来ているのかなぁ。居たらレアアイテム探しを手伝って貰いたいんだけどなぁ。」

 するとドライツェンは何か見つけたのか路地に出ているアイテム屋に駆け寄った。

「やぁやぁおじさま。この店で一番のレアアイテムはどれなんだい?」

「おう?なんだ大層な騎士様かと思ったら女騎士様だったのか!ここは騎士様のような立派なお方の眼鏡に敵う商品は置いてないよ!」

「はっはっは!いいんだよ!店主の一番のお気に入りの商品で!」

「変わった騎士様だな!ウチの店じゃこれが限界だ!笑うなよ?」

 店の店主はそう言いながら丸い盾をドライツェンに見せた。その盾は特に装飾はなくシンプルな作りになっており、駆け出しの冒険者がなけなしの財産で買うようなそんな盾だった。

「・・・ふむ。大きすぎず小さすぎず、初心者にもってこいのいい盾じゃないか。店主、あんたのとこは良い商品置いているよ!」

「騎士様にそう言われちゃウチの店も繁盛するかもしれねえな!どうだい?騎士様も何か買っちゃくれねえか!?」

「そうだねぇ、あたしは使う訳じゃないんだけど、坊やにはピッタリの商品があるかもしれないねぇ。」

「坊やってのは騎士様の弟子かなにかかい?」

「弟子じゃないよ!あたしのコレクションさ」

「ん?コレクション?」

「それより店主!伝説のアイテムや武器ってのはどこにあるんだ?」

 店主はドライツェンに話題を変えられ、あまり触れない方がいいのかと目の前の騎士の新たな質問にのることにした。

「伝説のアイテムか。やっぱり騎士様くらいになるとそういったアイテムが気になるよなあ?」

「はっはっは!まぁね。」

「これはあまり大きな声では言えないんだが・・・」



 ドライツェンと店主がこそこそと話をしているのをただ見ていたミレーナはふと、兄が心配になり兄のことを思っていた。

ーお兄ちゃん・・・あぁ、なんか姐さんと一緒にいるよりお兄ちゃんと居た時の方が気が楽でいいなぁ。

 ミレーナは長い前髪をいじりながら考え事にふけり始めた。まだまだドライツェンは戻って来ないだろうし、何より怖いからむしろ一人になって安堵していたくらいだ。あれからドライツェンはミレーナをまるで相手にせず、返事すら生返事の状態でミレーナにとってそれは辛い状況とも言えた。


ー姐さんは侵略が始まると普段は優しいのにいきなり冷たくなっちゃうから嫌い。笑ってるのに言葉にトゲがあると言うか、ドライな性格とも言えるのか・・・。お兄ちゃんにはまだ優しい対応をする癖にわたしにはいつも厳しいとかやっぱりお兄ちゃんを気に入っているんだろうなぁ。


 ミレーナはもはや周りが見えなくなる程に考え事に集中し始めた。

ーしかもお兄ちゃんには武器をプレゼントしたのにわたしなんかまだ何ももらったことないじゃん。あのナガトさんも確か剣を貰ったのを自慢してたよなぁ。というか姐さんはただの男好きなだけに見えてきた。


 「あぶねーなお嬢ちゃん!気をつけな!」

「わっ!すみません!」

 ある通行人がミレーナに注意を促し、ようやくミレーナは我に帰った。考え事に集中しすぎたと反省し、ドライツェンの姿を探した。
 のだが、ドライツェンの姿が見えない。辺りを見回してみるがどこにも鎧を纏った盗賊が見当たらないミレーナにはある予感がよぎった。

ー姐さん・・・見失っちゃった。死んだなわたし。お兄ちゃんとは短い兄妹だったなぁ。

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