侵略のベルゼブブ
エンカウント
「はぁっはぁっ・・・か・・・勝ったぞぉ!」
「もう疲れた。わたし達も魔導術くらい覚えておいた方がいいかも。」
 巨大な竜との戦闘を勝利に収めたヤマトとミレーナは横たわる竜を背景に勝利のポーズなどを取り、通信端末で写真を撮ってはドライツェンに送りつけたのだった。そして二人は今後の戦闘についてを思案した方がいいと意見を投げ合っていた。
「やっぱり男は拳で闘うのが一番いいと思うぜ。ミレーナちゃんもそうだろ?」
「いやいや、わたしは乙女だから。拳とかそんな野蛮じゃないから。やっぱり魔導術とかそっち系だから。」
「でもこの竜はさ、この世界だとどれくらいの強さになるのかなぁ。」
「さぁ?でもわたし達が倒せるくらいだし中堅レベルがいいところでしょ。」
「そうだよな。さすがにこの竜が実は伝説級とかそんなのだったらこの世界は俺たちだけで充分になるもんな。」
「たしかにドラゴンは伝説級のモンスターだけれど、わたしの世界じゃ最強だったけどやっぱり各異世界によってピンキリじらないかなぁ。あ、姐さんから返事が届いたみたい。」
「姐さんならきっと俺たちを褒めてくれるだろう。何せ俺たちは竜をやっつけたんだからな。」
 二人は半ば期待を膨らませ、ドライツェンからの返事を読んだ。」
「道草食ってないでさっさと街をさがしな。って書いてある・・・」
「お、おぉう・・・厳しいな姐さん。」
「あと、その鱗全部剥ぎ取って来てって書いてあった。」
「おいおいおい、姐さんも鬼だな。こんなでかい竜の鱗を全部剥がしていたらベルゼブブ卿が大量に爆誕するほど時間がかかるじゃないか。」
「語尾にハートマークがついてたよ。」
「・・・俺に不可能があると思うか?ミレーナちゃんよ。さ、剥がすぜ。」
「・・・ウソだよ。」
「はっ!可愛い妹め。あとでお兄ちゃんがワーキャーしてやろう。」
 ミレーナは素朴な疑問があった。ヤマトはどうしてこうもドライツェンの事になると従順な態度を見せたりするのだろうか。まだ出会ってそんなに同じ時間は過ごしていないはずなのに、という疑問だ。単にドライツェンの人柄が気に入っている以外にも何か別の感情があるのではないかとミレーナは思い切ってヤマトに単刀直入に聞いてみることにした。
「お兄ちゃんは姐さんが好きなの?」
「・・・はぁっ!?」
 これはミレーナにはどう受け止めたらいい反応か曖昧だった。驚いているような、心外のような、はたまた図星のような、とにかく曖昧な表情をしているのは間違いなかった。
「・・・ミレーナちゃんが妹だから言うけど・・・」
 会話をさらに掘り下げようと目論んでいたミレーナだが、どうやら兄は意を決して打ち明けてくれるみたいだ。
「・・・姐さんが可愛いのは間違いない。あの禍々しい鎧の中から美人なお姉さんが出てくるのならそこまででもないだろう。だが!蓋を開けてみれば、ぱっと見数歳年上の可愛い系お姉さんじゃないか。俺はそのギャップがまるで雷が落ちたかというくらい衝撃的だった。しかもいつも怒った眉毛してるんだぜ?あれで怒ってないんだぜ?優しいんだぜ?だから俺は姐さんを崇拝することにしたんだ。アイドルみたいに。」
「・・・そこはもうちょっと頑張ってよ。」
「どういうことだ?」
「いやぁ、最初から諦めすぎでしょ。まだチャンスとかあるかもしれないよ?」
「ミレーナちゃん、ミレーナちゃんは下賎な民から好意を寄せられたらどうなんだ?元お姫様なんだろ?」
「はっ!いっぺん生まれ直しをして出直して来なって感じ。
「それと一緒だ。姐さんとは見えてる世界が違い過ぎると思う。神すら殺せる人なんだぜ?しかも大人で・・・何才かは知らんが。」
「ああはいはい。わたしの兄はヘタレだわ。やる前から諦めてるヘタレ兄貴だったわ。」
「ミレーナちゃん冷たいな。流石にヘコむぞ。」
 ミレーナはヘコむヤマトにある仕草を試してみようと考えた。このヘタレに有効かもしれないと前から考えていたある仕草だ。
「でもわたしはお兄ちゃんの味方だからね!」
 そう言いながら身体を接近させ顔を近づけて精一杯可愛いだろうという表情をし、健気でややツンデレ妹を演じてみたのだ。
「あ・・・えっ?お・・・おう!俺はミレーナちゃんのような妹がいて良かった良かった。」
 ヤマトは先程とはうってかわって水を得た魚のように元気を取り戻した。若干照れながら。そしてミレーナは思惑通りだと思い
ーちょろい。この兄ちょろいぞ。これでわたしは兄の弱みを握った。さぁこれからはわたしの手のひらの上で戯れがいい。
 兄妹の優位序列が入れ替わたことを心の中で告げた。
「どうしたんだミレーナちゃん?そんなにやけて」
「ふっふっふ。ふーふっふっふ。可愛い兄め。」
「えっ?」
「わたし、さっきの闘いで疲れちゃったの。お兄ちゃんおぶってってぇ。」
「俺に任せろ!」
ーはい、簡単。
 こうして再度、街の捜索に二人は出発した。
が、やはり平坦で広大な草原が続く一方だった。
 さすがにヤマトはミレーナをおぶっているせいでか、疲れの愚痴をこぼし始めた。
「ミレーナちゃん、そろそろ降りないか?お兄ちゃん疲れちゃったよ。」
「えー?・・・あ、姐さんからメールだ。」
「なんて!?」
「返事くらい返せだって・・・?」
「どゆこと?」
「どゆこと?」
 二人はドライツェンからのメールの意味がわからなかった。
 ただ思い当たる節はあった。さっきのメールには街をさがしなと書いてあった。まさか、それに返事をしろと言うことかもしれないと二人は思った。
「姐さん・・・ヒマかよ。」
「なんて返事する?」
「んー、しりとりしよう!うんこ!」
「はぁ、なんで男の人ってそういうのが好きなんだろ。送信。」
「もはや、本能と言っても過言ではないな。」
「返事来た。殺す。だってよー。」
「スルー!」
「まだやるの?これ、怒ってるんじゃない?送信。」
「あ、そういう意味かよ!死んだな俺。」
「本気で思ってないでしょ。あ、返事来た。」
「返事早くないか?」
「・・・ルールだって。本当にヒマなんだね。」
「ル返しか。ならばループ。」
「プールだって。」
「大人気ねえ・・・姐さん大人気ねえよ。ルンバ!」
「バトル、ルンバって何?って聞いてるよ。」
 ヤマトはドライツェンのルの連鎖に白旗を上げざるを得なかった。そしてドライツェンの大人気無さを見て、これは相当な負けず嫌いな人だとさえ思った。
「姐さんが100年早いって。」
「はっ!しりとりのルのループくらい誰でも出来るっての。俺は姐さんを立てる為にあえて負けてあげたのだ。あえて!!」
「おー悔しそうだね?泣きそうだね?咽び泣くのかね?」
「メールが良くないんだきっと。うん、きっとそうだ!ミレーナちゃん通信機を貸してくれ。俺の通信機はまだ姐さんの連絡先が入ってないんだ。」
「いいけど、どうするの?」
「通話でケリをつけてやる!姐さんも俺を坊やと甘く見たことを後悔させてやるってんだ!次は本気でやってやんよって話だ!姐さんが許しを乞う姿が目に浮かぶぜ。」
「これは・・・お兄ちゃんがマジになったということかな。果たして勢いだけで姐さんに勝てるかなぁ。」
 ヤマトはものすごい勢いでドライツェンに通話の発信をした。今にも鼻から鼻水が吹き出よう勢いで応答を待った。
「よっ!坊やかい?どうだい調子は?負けて悔しくてあたしに連絡したんだろ?ん?」
「いや、ははっ!何を言っているのか俺は分かりかねるよ姐さん。悔しい?俺が?俺はただ姐さんが元気か知りたくて連絡しただけだから。」
「はっはっは!元気元気!坊やの声が聞こえたら元気になった!さすがあたしのコレクションだ。坊やに早く会いたいなっ」
「ふっ、姐さん今に待ってな。あと数時間後には会えるはずだから。街とかもう見つけたようなものだから。」
「おお!じゃぁ坊やと合流するためにあたしは準備しておこうか。」
「プレゼントでも用意して待ってるぜ。」
「オッケー、じゃ見つけたら連絡頂戴!」
「またな。」
 
 ここで通話が切れた。ヤマトは背後におぶさる少女からの熱い視線に震えた。
「またな。って何言ってんの?街とかどこにあんの?プレゼントってどう手に入れんの?」
「くっ・・・また姐さんにやられた・・・か・・・。」
「勝手に自滅しただけじゃん。」
「いや、姐さんの声がいつにも増して可愛いかった。あれを食らっちまったら俺はどうすることも出来ない。だめだ・・・勝てるわけない・・・!姐さんに完全に踊らされてる・・・!」
「でもお兄ちゃんの顔、ものすごいにやけてたよ?」
「あぁ・・・踊らされるのも悪くないと思ってしまってな。」
「ちょっろ!」
「・・・認めよう。俺は・・・ちょろい。」
「でもこれでお兄ちゃんは死にものぐるいで街を探さないとだね。」
「・・・ミレーナちゃん・・・助けて下さい。なんでもしますから・・・」
「じゃ、あと5分で街を見つけてよ。」
「・・・鬼畜妹・・・半端ない・・・!」
 ヤマトはミレーナに見放され、八方塞がりとなってしまった。
 何か見つからないかと周囲を見渡すと1匹のハエが飛んでいるのをヤマトは発見する。
「ああ!ベルゼブブ卿!どうかこの哀れな俺に導きを!」
「は?お兄ちゃん真似するなし。」
「・・・次第には泣くぞ!?いいのかミレーナちゃん?いいのか!?」
 その飛んでいたハエを見ると遠くから土煙を上げて何かが近いてくるのを二人は確認した。
「また・・・竜が来たってのか・・・」
「いや、待ってお兄ちゃん。あれ、何かの軍団に見えるけど」
 そして二人は近いてくる何かが何か確認すると絶望感に襲われた。
「魔族の軍団かよ・・・」
「さすがに逃げよう。気づかれない内に」
「おっしゃぁぁぁっ!!来いよおおおおおおおおおおおっ!!!」
「なんでそうなるのぉぉぉっ!!?」
 ヤマトは今回もやり合うつもりだ。ここまで来るとさすがに無謀である。
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