侵略のベルゼブブ

わいゑえす

エンジュの部屋


「ここが・・・エンジュの部屋?」

 ヤマトは本能でここはマズイと告げていた。扉にあと一歩でも近づけば呪われるとさえ思った。たった1枚の隔たりを経て、呪われた部屋がそこにあると考えると身震いが止まらない。

「お・・・お兄ちゃん・・・。」

 ミレーナもまた、エンジュの部屋の圧倒的威圧感に気圧されたようだった。ヤマトの袖を掴み震えていた。

 「はっはっは!怖いかい坊や?」

「なぁ兄妹!!もし 頭の無い犬 が見えちまったら直ぐに言えよ!!?」

「頭の無い犬・・・?」

「それが見えたら呪い末期だ。それで頭の無い犬はエンジュへの案内犬さ。それから四角い枠の仕切りを潜ると目の前にキサラギ エンジュが立っている。おー怖っ。」

 「姐さんとモツニスはキサラギ エンジュに会ったことはあるんすか?」

 ドライツェンとモツニスは声を揃えて答える。

「あるさ。」
「おうとも!!」

「まだ異世界侵略を本格的にしてない頃にたまたまエンジュの世界に漂着してね。まだベルゼブブ卿をはじめ、今の侵略実行部隊の面々しか居なかった頃の話しだ。」

「ふん!!流石の俺様もあの世界にはびびったぜ!!」

「あぁ、あたしもびびったさ。何にびびったか、坊やはわかる?」

「・・・やっぱり呪い関係が妥当っすか?」

「概ね正解。その世界の全てが呪われていたのさ。」

「エンジュが人類全てを呪い殺しちまって残されていたのは廃墟だけよ!!」

 モツニスとドライツェンは更に続けて語る。

「かく言うあたし等も呪われてさ。もはや成すすべが無かったねぇ。」

「あん時はベルゼブブ卿もマジ気合い入れてエンジュを抑えたもんよ!!」

「アルフレッドなんかは逆に笑ってたけどね。ジジイはあの時も揺るがない意志を発揮してたけど。」

「ドライツェン、お前さんはあの後しおらしくなってたな!!」

「あんたもしばらくは声小さかったんじゃ無かった?」

 ヤマトは二人の体験談を真剣に聞いた。一体何の呪いが作用するのか興味が尽きなかった。

「エンジュに呪われるとどう呪われるんだ?」

「はっはっは!坊やじゃ多分耐えられないだろうね。簡単に言えば7日間殺され続けるって感じがわかりやすいかい?」

「いやいや!!7日間に死ねない激痛のフルコースってとこだろ!!」

「死ねないっていうより死んでもおかしくないのに何故か死なないし痛いがベスト?」

「俺様たちはそれを ナノカカン って呼んでるぜ!!」

「・・・なんか聞いてるだけでゾッとしますね。わたし、部屋に入れられなくてよかった。」

「さぁさぁ!こんな辛気臭いとこいつまでも長居してないで坊やの歓迎会でもしようじゃないか。」

「ドライツェン!!気が効くじゃねぇか!!俺様も丁度腹減っちまっててよぉ!!」

「なんか嬉しいっす。歓迎されているようで。」

3人と1頭はエンジュの部屋を後にした。これ以上ここに居てもなんの得もない。そうドライツェンは判断して気を利かせたのだ。

「・・・ん?なんだ?」

 ヤマトは何故か振り返りエンジュの部屋の扉を凝視してしまった。

「どうしたんだ坊や?まだ見たりないのかい?」

「えっ?あ、いや何かの足音が聞こえたような・・・」

 ヤマトは更に扉を凝視する。何かの違和感があった時こそ、人はその違和感を確かめようとしてしまう。ヤマトもそれが働いたのだろう。

「あれは・・・女の子が座ってこっちを見てる・・・?いや、向いている!!」

「坊や!!!!それ以上見るな!!」

「こっち見ろや!!兄弟!!」

「お兄ちゃん!!!」

 ヤマトはもはや動く事が出来なくなっていた。厳密に言えば動けなくされていた。
 



 足元に何かが触れた感覚をヤマトは感じた。ヤマトは心臓が強く鼓動し始める。息を呑みつつ恐る恐る足元へ目をやると






頭の無い犬が居た。

「あ・・・犬・・・」

 頭の無い犬を認識した直後、ヤマトは扉に物凄い勢いで引っ張られた。

「あがっ!!?」

「坊や!!!」
「兄弟!!!」

 ドライツェンとモツニスがヤマトを抑えようと試みるが逆方向へ吹き飛ばされる。そしてヤマトは扉へ打ち付けられた。

「あぐっ!!」

ーか、体が動かねぇ!?
 
扉にうつ伏せの形で打ち付けられたヤマトは目を開いてみると
 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」



 エンジュが扉一枚の隔たりを経て立っているのが見えた。距離にして10センチ以内程の距離だろう。

「・・・・・・・・・・・・・!」

「えっ!?なんか喋ってる!!喋ってる!!!」

「坊や!!それ以上認識するな!!!」

「そんなこと言われたってどうすればいいんすかぁぁぁっ!?」

 



「知恵書 第2章 7節、汝は心地よい唄を聴き眠る」

 どこからかベルゼブブ卿の声が聞こえた。するとヤマトは赤児のように静かに眠りにつき、呪いは消えた。

「やれやれ、お前達エンジュの部屋は遊び半分で近づくな。私が居なかったら少年は今頃ナノカカン送りだったぞ?」

 どうやらミレーナが慌ててベルゼブブ卿を呼びに行っていたらしい。その時のミレーナの表情は最高だったと後にアルフレッドは言っていたそうだ。





それから数時間後

「ほわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 ヤマトは目を覚ました。どうやら異常は無いようだ。だがヤマトの身体は汗にまみれている。

「お兄ちゃん!良かった目が覚めた!!」

「坊や、はぁー。まったく、どうして認識してしまったのさ!」

「大丈夫か兄弟!?どこも異常ないか!!?」

「えっ・・・・・・?えっ・・・?」

 ヤマトは気が動転して状況がつかめて居なかった。先程まで恐怖を体感して目を覚ましたらベッドの上だ。動転していても無理はないだろう。


「そうか、ベルゼブブ卿が俺を助けてくれたのか。」

「後でお礼しなくちゃね、お兄ちゃん。」

「しかし坊や、あんたあの時エンジュの姿が見えたのかい?」

 ヤマトは嫌だが記憶を掘り起こした。自分自身も何があったか状況を整理したかったからというのもあったからだ。

「なんていうか、考えれば考える程より鮮明に見えて来たっていうのが一番しっくりきますね。」

「もしかしてあんた妄想力高いのかい?」

「あ、高い!お兄ちゃんは高すぎるくらい高いですよだってロリコンですよ姐さん。」

「えっ?ロリ・・・はぁー・・・はっはっは!」

「姐さんやめてくれ。何も言わないのはやめてくれ。まるでドン引きした表情をするのはやめてくれ・・・。」

「おいおい!!いつドライツェンはそんな表情したんた!?鎧でわかんないだろうが!!」

「いえ!俺は姐さんの髪が黄色で割と幼い容姿までを妄想を終わらせている!」

「お、おー・・・割と当たっているところが怖い、お兄ちゃんの妄想力半端ないよ」

「ふっやはり。俺すごっ!」

「あぁ、あたしの予定じゃ将来は綺麗系なタイプになると思ってたんだ。なのに見てくれは良くて18歳くらい・・・これは喜ぶべきなのかい坊や?」

「俺はアリですね!!」

「はっはっは!坊やとは仲良くなれそうで良かった良かった。」

 

 ドライツェンとモツニスは部屋を後にした。歓迎会はまた後日に変更になってしまった。さすがにあのトラブルからの歓迎会じゃ興も冷めるだろうとの事だ。

 そしてヤマトとミレーナは就寝につくようだ。二人は兄妹になってしまったというのもあって同室で生活をしていた。兄妹だから色々と大丈夫だろうとベルゼブブ卿が配慮したのだ。兄妹だから。

「いやぁ、今日は本当に怖かった。お兄ちゃんはあぁなっちゃうし姐さんや豚さんもあんな真剣な声出すし」

「ふっ俺はもう大丈夫だな。しかも当事者だぞ俺は。」

「案外メンタル強いよねお兄ちゃんって。」

「ミレーナちゃん怖いんだろう?なんなら俺が添い寝をしてあげよう。」

「お兄ちゃんやめて。何かにつけてセクハラはやめて。隣に誰かいるとむしろ眠れないからやめて。」

「あーはいはい。おやすみ。」

「おやすみ。」

 ヤマトはさっきまで寝ていたせいかあまり眠くはなかった。ふと、今日の出来事を振り返りジジイがやばかったとか、姐さんはいい人とか簡単な振り返りをしていた。

ーそういえばあの時・・・エンジュは何を言ってたんだろう。

 思い出さなきゃいいのにヤマトは思い出してしまった。しかもより鮮明に記憶が蘇ってしまう。

ーなんとかかんとか・・・ない?違うか、確か あなたに・・・なんとかあれだったな。

 ヤマトは更に深く考え込み、答えを思い出してしまった。そして思い出すと共に全身に鳥肌が立つ。


ーアナタニノロイアレ・・・。


「ミ、ミレーナちゃん!!!!」

「おわっ!何?どうしたの?」

「やばい!やばい!思い出しちまった!」

「えっ?何を?」

「俺!あいつにアナタニノロイアレって言われたんだ!!」

「ちょ・・・やめてよ!わたしだって怖いの我慢していたんだからぁ!!」

 それからというもののヤマトは様子がおかしくなった。ちょっとした物音で発狂してしまう状態にまでなったそうな。

「い・・・一応姐さんのとこ行こ?」

「どうしよう!どうしよう!どうしよう!」

 身体が震えて視点は疎らになったヤマトを見てミレーナは更に怖いと感じた。未遂になったとはいえこれだけのあとヅメを残したキサラギ エンジュが同じ艦の中に居るというだけでミレーナは恐怖を抱いた。

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