侵略のベルゼブブ
レール
 シシカバは逃げた。侵略者、アルフレッドの手に落ちたく無いために逃げた。全力で街を走り、故郷に身を隠して後々は大人しくして生きて行こうと思った。
「捕まえた!」
「!?」
 どこからか声が聞こえた瞬間にシシカバは転倒した。かなりの速さで走っていたせいか、転倒した際に慣性のせいで長い距離を転げた。
ー見つかった・・・!どうすればい・・・
「あぁああぁぁあぁぁああああぁっ!!」
 シシカバは下半身に激痛が走ったのを実感する。下半身を見てみると両足とも無くなっていた。今ではおびただしい量の血が噴き出ている。
「痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛いぃ!!」
 この悲鳴が更にシシカバを苦しめる羽目になる。
「がぁぁああぁああぁぁあぁぁああああぁっ!!!」
 痛いと言葉にしてしまったが為に痛みが都合よく倍増したのだ。そのあまりの激痛にシシカバはのたうち回る。頭を掻き毟り、地面を強く叩く。
 アルフレッドはご満悦だった。いつになく最高の表情をしているシシカバに興奮した。そしてしばらく傍観しようとその場に立ち尽くす。
「あぁあっ!!あっ!!あぁああぁ!!」
「治れって言ってみたらどうだろう?」
 アルフレッドはシシカバに案を出した。決してシシカバを助けたい為の一言でなく、もう一度鬼ごっこをしたいが為の一言だ。
 シシカバは相手の思う壺だと知りながらなお、激痛から解放されたいが為に壺にはまる。
「なおれぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
 するとシシカバの両足は元に戻った。激痛から解放され安堵したのも束の間、
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 今度は右腕が無くなっていた。アルフレッドはシシカバの右腕を持って遊んでいる。嫌な笑みを浮かべながらシシカバを見ている。
「なおれっなおれっ」
 またしても右腕は元に戻った。今度はアルフレッドは何もして来ない。
「どうしたんだい?ほら、早く逃げないと次は腹わたを引きずり出すよ?」
「ひ、ひぃっ!」
 シシカバは再度逃げた。涙を流しながら必死にアルフレッドから離れようとした。そこであることを思い付く。
ーそうだ!人混みに紛れれば!
 「おれは速い!」
 シシカバは冷静に言葉を使った。ハイスピードになって走り続けた。風よりも速く走って目的地である人混みを探す。
ーいける!これなら逃げ切れる!
 シシカバは希望が見え始めると先程とはうってかわって思考が回転し始める。さらに願掛けともとれる言葉を唱える。
「おれは逃げ切れる!奴から逃げ切ってやるぞ!」
ー 人混みなら、王城へと続く大通りが一番多いはずだ。
 だが、逃げる最中にシシカバはある違和感を覚える。アルフレッドの追撃は逃げ切ると言う言葉が効果を発揮しているものとして、違和感というのは先程から人が全くいないということだった。確かに徴兵時の適性検査からは騒動に次ぐ騒動で多少は兵士や平民が避難したりさせたりをして少なくなっているのはわかるのだが、それにしても人っ子一人居なかった。
 そしてシシカバは大通りに到着し、その違和感をはっきりと理解してしまう。もはやシシカバは絶望するしか無いほどの光景を目の当たりにする。
「なんだよこれ・・・なんだよこれは!」
 死体の山がそこにはあった。大臣、騎士、兵士、魔導師、平民、老人、女、子供、ペット皆全てが一つにまとめられ、山となっていた。
 その死体の山の山頂にはシシカバが現在もっとも恐れる人物が立っている。
「やぁ。シシカバ君発見。」
「あ・・・あぁ・・・」
 シシカバは逃げ出すために振り返り全力疾走し・・・・・・出来なかった。
 全身が恐怖で震え、動くことすらままならい状態だった。常人なら、死体を見ればその場で卒倒するだろう。だが、シシカバは更に上をいく死体の山を見たのだ。その、あまりに酷い光景を見てしまえば動けなくなるのも無理はないだろう。
「君にプレゼントをあげようか。」
「がっ・・・ゴフッ!!」
 シシカバの身体の中心に大きく風穴が空いた。何が起きたのかすら全くわからない。一ついえるのはシシカバの胸部辺りに王冠が刺さっていることくらいだ。
「ア・・・アンタレス・・・11世ま・・・で・・・?」
「あの王もなかなか良い表情だったよ。命乞いをする様は滑稽だったなぁ。」
 アルフレッドはミレーナと大通りで合流する前にどうやら虐殺をしていたみたいだ。恐らく騎士 バーグに命令を下した直後にアンタレス11世は殺されたのだろう。
 そうこうしている内に、シシカバは言葉の能力で身体が元に戻ってしまった。いっそのこともう死にたかったと自分の言葉、能力を呪った。
「ふふっ君をここまで誘導するのは面白かったよ。表情はコロコロ変わるし痛みのリアクションは一級品だ。」
 もう無理だった。何もかもがアルフレッドの無限の憶測を走るだけになってしまったシシカバはいよいよ精神が壊れた。
「・・・・・・ぅ」
「何か言ったのかい?よく聞こえないなぁ。」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
 シシカバは遂にヤケを起こし無防備にアルフレッドへ向かって特攻した。半ば諦めながら無謀に向かっていってしまった。
「雷撃魔法!!!」
「ベルゼ式魔導術、プラズマ。」
 両方は魔法を撃ち合った。だが、結果は明白だ。アルフレッドの放った ベルゼ式魔導術 は対神、対チート、虐殺に特化した魔術であり、シシカバが放つ雷撃魔法はいとも簡単に掻き消された。
 バチッと発光したとともにシシカバは黒焦げになった。
 そしてまた、元の姿に戻る。
 だが復活したシシカバには策があった。せめてアルフレッドに一矢報いたかったが為に態勢をとる。そして唱える。
「ベルゼ式魔導術、プラズマ!」
 しかし、何も起こらなかった。
 アルフレッドは笑いながら答える。
「なかなかの発想じゃないか。僕の魔術を言葉にするなんてさ。でもね、ベルゼ式魔導術は過去一度だって真似された事は無いそうだよ。」
「・・・もうさっさと殺せ。」
「駄目だよ。君には ナノカカン の再現をさせてもらうのだから。簡単には殺さないに決まっているじゃないか。」
 アルフレッドが察するより早く、シシカバは壊れた表情で天に向かって叫んだ。
「おれをころせよ!コンビニエンス!!」
 
 すると天から1柱の神が颯爽と出現し、シシカバの前に姿を惜しげも無く表す。
「汝、我が世界に不服があると申すか?」
「こんなチート野郎にどう勝てばいいんだよ!もう嫌だ!さっさと殺してくれよ!」
「汝、我が世界に不服があると申すか?」
 「早くしろよっ!!」
「汝、我が世界に不服があると申すか?」
 アルフレッドは魔導術を撃つ態勢に入りながらシシカバへ答える。
「神は傲慢な奴なんだよシシカバ君。神の問いに君が答えない限り会話が進まない頑固者さ。」
 そしてシシカバ、神コンビニエンス諸共を穿つ魔法をアルフレッドは放った。
「ベルゼ式魔導術、羽音!!!」
 
 アルフレッドが魔法を放つと、どこからか愉快な音楽が聞こえてくる。テーマパークのパレードの様な、愉快な音楽だ。
「がぁぁあぁぁぁぁぁっ!!!?」
「!!!!!!!!??」
 だがシシカバと神コンビニエンスの様子がどこかおかしい。愉快な音楽が流れているはずなのに両方共が耳を塞ぎのたうち回っている。
「なんなんだ!!?この虫の羽音は!?頭が・・・割れ・・・」
「お、ヲヲオヲオオォォヲ!!!」
 神コンビニエンスは泡のように消えた。あっさりと消えてしまった。シシカバは全身の穴という穴から血が噴き出している。
 そして音楽が止み、アルフレッドはあまりにも静かになってしまった街を歩く。シシカバが横たわる場所まで歩く。
「ぅ・・・ぅぅ・・・」
「まったく、君は神を呼ぶのが早すぎる。まだ、能力の使い方次第では僕に一矢くらい報えたかも知れないのに。」
「・・・おれ・・・死ぬのか・・・?」
「そうだろうね。神コンビニエンスが消えた今、君はただの人間に過ぎない。復活することもないだろう。僕の興味も失った。さぁ、睡る時間だ。目をゆっくり閉じて次の生を待つんだ。」
「・・・死に・・・たく・・・な・・・」
 シシカバは二度と動くことは無かった。アルフレッドは通信機を懐から取り出してそれを耳に当てる。
「侵略は終了した。ヤマト君とミレーナを連れて帰還する」
 一方、取り残されたヤマトとミレーナは入浴の際に一番最初に洗う場所について、論じていた。
「お兄ちゃんやめて。最初にお尻から洗うのはやめて。なんか汚いからやめて。」
「なんかつい手が行ってしまうんだよなぁ。まぁ妹が言うことだし?お尻から洗うのはやめておくか。」
「よろしい!」
「で、ミレーナちゃんはどこから洗うんだ?」
「セクハラきもっ」
「えっ?」
「いくらなんでもそれは聞いちゃダメでしょ。わたし、こう見えて女の子だから。」
「無限の憶測、発動!」
「なっ?お兄ちゃんはまさか無限の憶測の使い手だというのだろうか?」
「んんんんん?見える、見えるぞぉ!?妹の入浴する姿が鮮明に見える!!」
「一体どこから洗っているんだ!お兄ちゃんの妹は?胸?頭?まさかお尻!?」
「わき。」
「あーはいはい。妄想おつかれ。」
「君たち、僕の無限の憶測をそう使うのはやめておきなさい。」
「アルフレッドさん!?」
「アルフレッドさん!」
「声を揃えて言わないでくれないか。まったく君たち二人は放っておくと漫才が始まるなんて流石に僕も予想外だったよ。」
「終わったんですか?」
「あぁ。作戦終了だ。さぁ、二人共ベルゼブブ卿の元へ帰ろうか。」
「了解!」
「了解です!」
「ところでミレーナ、君の髪はなかなか綺麗じゃないか。やっぱりトリートメントしているのかい?」
「わかります?わたし、結構髪の手入れには力を入れてまして入浴の際には・・・」
「髪から洗うと。」
「髪は女性にとって大事ですからね。」
「だってさ、ヤマトお兄さん?」
「・・・アルフレッド師匠!!」
「やられた!まさかここにも無限の憶測の使い手がいるとは!!」
「ははっ君たち面白いね。」
 アルフレッドは純粋に笑った。背後で繰り広げられる会話を聞きながらアルフレッドは心地よさを感じた。
 
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