侵略のベルゼブブ
無限の憶測
「おれが弱い・・・だと?」
 シシカバは弱者と呼ばれた事に腹を立てた。シシカバの背後に立つ中年の男にあっさりと言われた事に腹を立てた。自分の体に傷一つつけられない分際でと腹を立てた。
「ははっ。何に腹を立てているんだい?己の弱さかい?それともその醜く歪んだ君の顔にかい?」
「このやろ・・・」
 シシカバが何か言いかけた途端、何かの強い衝撃で顔面から倒れ、地べたにキスをした。シャチホコのような態勢になってしまい、側から見ればそれはそれは滑稽である。
「ぐっ!」
 「おやぁ?鼻血かいシシカバ君。みっともないなぁ、未来の英雄が鼻血とはね。」
 シシカバは直ぐにでも起き上がりアルフレッドの鼻に一発入れたかった。入れたいがために起き上がろうとしたその時
 アルフレッドの右足は高く振り上げられ、振り下ろされた。
 激しい轟音と共に、シシカバの背中が地面にめり込む。全身が軋む。
「お・・・ごぉぉっ!?ゴホッ!!」
 シシカバはアルフレッドに強く踏まれ、鼻から血をたらし、口からは血を噴射した。
「・・・ダサいね。あまりに惨めだよ君は」
「がっ!?ゴホッゴホッ!!」
 アルフレッドはさらにシシカバを踏む力を強める。右足に右肘を置き、左手は力なくぶら下げ、シシカバをゴミを見るような目で見下ろした。
「このまま君を踏み潰そうか。思いのほか君の身体は柔いんだね。あんな動きができるのに防御はまるで赤子じゃないか。」
 シシカバは潰されたくないがため咄嗟に言葉を唱える。
「お、おれの身体は世界中の誰より屈強なん・・・だ。」
 そう唱えるとシシカバはみるみる身体が屈強なものへと変化する。めり込んだ足を跳ね返し、強気な表情でシシカバは立ち上がる。
「どうだ!?おれはつよ・・・っ!!?」
 シシカバはアルフレッドに屈強になったことを誇り伝えようとしたのだがアルフレッドは話しを聞かずに拳をシシカバの顔面へ打ち込む。
「なんだい?さっきから神に特別与えられた能力の自慢ばかりして。」
 さらに続けて同じ箇所へ拳を2回打ち込む。
「しかし神ってのは抜け目がない。君に破格な異能力を与えるのに、知能だけは異能力を与えないとはね。」
 「そ、そんなことおれが言葉にすればいくらでも良くなる!この能力を手にした奴なら誰だってそんなこと思い付く!!」
「じゃぁ、やってごらんよ?」
「言われなくてもやってやる!おれは誰よりも頭がいい!」
 シシカバに知能が宿る。鈍っていた思考は透き通り、脳内を駆け巡る。心なしか、落ち着いた表情に見えるのは気のせいだろうか。
「あぁ。おれ、わかった。わかっちまうんだ色々と。確かにさっきまでのおれはバ・・・・・・がぁぁぁぁぁぁっ!!?」
 アルフレッドは格段、シシカバの話しなど聞く気は無かった。シシカバが喋っているスキに持っていたナイフで彼の左小指を切り落とした。激痛に悶えたシシカバは地面に四つ這いの形で悶える。
「あのさぁ、君は殺し合いにおいて一体何を勘違いしているんだい?君の知っている殺し合いは相手が君のくだらない、いや本当にくだらない話を聞いてから殺し合いが始まるとでも言うのかい?」
 アルフレッドはシシカバが無抵抗状態であることをいいことに更に言葉で責める。
「というか、頭が良いって一体何が良くなったんだい?漠然としすぎだと思うよ。難しい公式が解けるようになったのかい?謎かけが解けるようになったのかい?知らない言語の解読ができるようになったのかい?」
 そしてアルフレッドは 無限の憶測 を発動させる。
 シシカバの過去に何億通りもの質問をし、一番嫌な反応をした答えを選択する。
「・・・よほど君には学が無かったんだね。あぁ、サトシ君にも学生時代があったんだね。同級生に変な自己顕示欲が強すぎて嫌われているじゃないか。しかも当時の君はまるでそれに気付かない。ははっ!これは傑作だ。英雄の悲しい歴史を見てしまったよ。」
 シシカバは生前の一番嫌な記憶が蘇り、それを掘り起こさせたアルフレッドに無我夢中で襲いかかる。
「やめろぉぉぉぉぉぉっ!!!!」
 アルフレッドに掴みかかろうと右手を出す。その口を閉じろと右手を出す。
 しかしシシカバはアルフレッドを捕らえることが出来ない。アルフレッドの動きは先程の闘いとは断然の桁違いに速い。もはや消えていると言っても過言ではないだろう。
「しかも転生して来たら・・・なんだいその性格設定は?君のような自己顕示欲が強い人間に昼行灯はできっこないよ。でもまぁ、元の酷い性格よりはマシかもね。」
「あぁああぁっ!!黙れ!黙れよっ!!」
 シシカバはどうやってもアルフレッドが開く口を閉じることが出来ない。まるで予知をしているのではないかと思える程に的確にシシカバの攻撃を避ける。
 そして小指を切断されたことによる多量の出血でシシカバは頭の回転が鈍くなっていく。捕まえられないことで、どんどん自分のコンプレックスを暴かれていき、遂には涙を流し、鼻水を垂らし、涎は出しっ放しになり、表情はもうシワくちゃだ。
「なんで・・・お前・・ぐずっ・・・おでどごどば・・・ぎかな・・・いんだ・・えぐっ・・・!」
「ふふっまるで駄々を捏ねる子供じゃないか。君、今すごく酷い顔だよ。」
 シシカバはひどく咽び泣いた。赤子の時よりも泣いた。もはや精神的に限界まで来ている。
 アルフレッドはそのひどく咽び泣いたシシカバを見ては、嫌な笑みを浮かべる。その表情が見たかったと言わんばかりの嫌な笑みだ。
 「もう、いいか。さよならだシシカバ君」
「えっ・・・!?」
 首元から生温かい液体が流れているのをシシカバは感じた。身体の半身が真っ赤に染まっている。鋭利な刃物で動脈を切られたようだ。
 シシカバは首に手をやりながら倒れた。涙を流し、鼻水を垂らし、涎は出しっ放しになりながら静かに倒れた。
「はぁっ・・・はぁっ・・・はっ」
 もはやシシカバは風前の灯火だ。あと数分でその命も尽きるだろう。
ー嫌だ。まだ死にたくない!死にたくないよ。せっかく生まれ直して自分でもやっていけるような世界に来れたのに!
「さぁ、君の最期の言葉を聞こう。僕はそこまで惨忍な奴じゃない。転生者、シシカバの最期を見届ける義務が僕にはある。」
 アルフレッドは虫の息となったシシカバにそっと近づきシシカバの口元に耳をやる。
「・・・・・・死にたくない・・・。」
 シシカバは命からがら最期の言葉を発した。そして全身から力が抜け、動かなくなった。
 アルフレッドはまた嫌な笑みをこの上なく浮かべて
「ふふっ・・・ははははっ!その言葉が聞きたかった!!!!」
 途端に、シシカバは意識を吹き返す。自分でもなぜ生きているのかを理解できていない。小指は元に戻り、首からは血が一滴も出ていないではないか。
ーおれ、死んだはず・・・どうして。
 アルフレッドはひどく笑い、答えを教えてあげた。
「あはっあはははははははっ!死にたくないって言葉が君の異能力で実現されたんだろう!僕は君に言ったはずだよ!騎士 バーグよりも酷い殺し方をするってさぁ!?」
 シシカバは中途半端に頭が良くなったことで理解してしまった。全身から血の気が引き、みるみる青ざめていく。
「ま・・・まさか、今まで全部計算して動いていた・・・?」
「ふふふ。きっと今の君は世界中の誰よりも死なない身体になってしまったようだ。しかも屈強で。あぁ、君は僕にとっては英雄だよ!」
 アルフレッドは先程の闘いで 無限の憶測 を使い、ここまで誘導していたというのだ。身体を強化させ、頭脳を良くし、生命力を強くさせた。
 一体どうしてアルフレッドはそこまでシシカバを誘導させたかと言うと
「これで君を何度も何度も殺せる。僕は元、殺人鬼だ。学者でイかれた殺人鬼なんだよ。極限の痛みに伴う表情を知りたくて僕のいた世界の人間全て殺した殺人鬼。」
「ひっ・・・!」
 シシカバは後退りをし、今にも逃げようとしている。これから始まる殺人の当事者から一刻も早く逃げだそうとしている。
「さぁ、証明してくれ。極限の痛みの先にある表情を・・・!!」
「うわぁ!うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 シシカバは逃げ出した。一目散に逃げ出した。助けを乞いながら全力で走り出した。
「いいね!楽しくなって来たじゃないか!僕ももう、出し惜しみ無しで行こう!」
 アルフレッドは全身を研ぎ澄まして
   無限の憶測   発動
 更にアルフレッドは魔法を唱える
「ベルゼ式魔導術、ギア」
 
アルフレッドは音無く消えた。シシカバを追って消えるような速度で消えた。
 一方、取り残されたヤマトとミレーナはアルフレッドの惨忍な部分を見ては考察していた。
「アルフレッドさんって普段あんなに優しいのにすごい豹変ぶりだと思わないか?ミレーナちゃん。」
「・・・わたしはここに戻って来る前にベルゼブブ卿からアルフレッドさんの 侵略論 を聞いたから、さほど驚かなかったよ。」
「アルフレッドさんの 侵略論 か。一体なんだろ。」
「僕の侵略は 極限の痛みを見るまで世界全てを殺すこと だって。」
「イかれた仲間って本人かよ。そういえば俺が侵略研修の時に、アルフレッドさんと死ぬ模擬戦をやったんだけどさぁ」
「お兄ちゃんやめて。自分の弱者アピールはやめて。ズタボロにされた話しをするのはやめて。」
「いや、アルフレッドさんが楽しそうだったって話をしようと思ったんだけど。」
「慰みものにされたお兄ちゃん、可哀想に。」
「でも、あの無限の憶測って怖いな。まさか自分の過去まで憶測から正解を導き出すことが出来るなんてさ」
「自分の恥ずかしい過去とか声に出されたくは無いよね。」
「ミレーナちゃんはあるのか?恥ずかしい過去とか。」
「ノーコメント。そういうのは先に話すのがスジでしょ。」
「知りたいか?俺の恥ずかしい過去を」
「あ、別に無理に話さなくていいよ?」
「実は俺ってば・・・」
「話すんかい。」
「ロリコンに目覚めた可能性を捨てきれなくて・・・」
「止まらないんかい、ってはぁ・・・ここにもロリコンがいたとは」
「ミレーナちゃんを初めて見た時にそれを自覚したんだ。今はロリコンを自覚するかしないかで葛藤している。こんなこと、誰にも言えない。」
「それ、むしろわたしの魅力に惹かれたって言った方がまだ聞こえはいいと思う。」
 ヤマトとミレーナはロリコンの定義についての話で忙しいようだ。
 
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