侵略のベルゼブブ
侵略開始! 適性検査
 王都アンタレスで開催される徴兵制度に参加した侵略者、ヤマトとミレーナ。そして異世界転生者にしてアンタレス11世に 未来の英雄 として期待が寄せられる少年 シシカバ。
 現在、能力適性検査がすでに開始されており、身体検査、体力測定、が既に終了していた。残る検査は 魔力検査と学力検査だ。また、能力適性検査終了時に上位の成績4名は戦闘適性検査、つまり模擬戦が追加される。
 ヤマトとシシカバは現段階で上位4位に入っていた。ミレーナは転生者をじっくり観察するため、ある程度手を抜いた検査内容で様子を見た。
「次は魔力検査かー。僕はあまり魔法は得意じゃないんだよなぁ。お前はどうだ?シシカバ。」
 ヤマトは転生者に質問を投げた。これまでの検査でヤマトは幾度となくシシカバに質問をし続けていた。まったく相手にされてはいなかったが、それでも折れずに質問を続けたのだが。
「さぁね。」
 相変わらずの素っ気ない返答にヤマトはいい加減苛立ちを募らせ始めた。
 検査が始まってからヤマトとミレーナは今後の展開をどうしていくかを打ち合わせていなかった為、実質アドリブで転生者から情報を引き出さなくてはならなかった。
 ヤマトの質問に素っ気ない態度しかとらないシシカバを背後から観察していたミレーナは見兼ねて駆け寄り、シシカバの腕を抱くように掴んだ。
「シシカバお兄ちゃんはきっとすごい魔力を持ってるよねー?」
「あ、あぁ。多少だが魔力の素質はあるっておれの住んでた村の魔術師が言ってはいたな」
「すごーい!」
 魔力は高め、とミレーナは情報を引き出した。
 背後からしばらく観察していたミレーナは転生者に対してある程度、性格の把握を終わらせていた。転生者が多少の自信があると言った場合、間違いなく破格の能力をもっているとミレーナは見抜いていたのだ。
ーヤマトさんには犠牲になってもらいましょう。通じればいいんですけど。
 ミレーナは無垢な表情で
「・・・でも、ヤマトお兄ちゃんも記憶をなくす前はすっごく強かったんだよ!」
「えっ?」
 ヤマトはそうだったの?と今にも言いたげな表情だ。
「じゃぁ模擬戦が楽しみだな」
 異世界転生者は対抗心が芽生え始めた。
 
  ミレーナの狙いはそこであった。現在の段階でヤマトとシシカバは上位4位に入っている。ヤマトはもともと、転生者に対し少なからず対抗心を燃やしていたのはわかっていた。
 「それじゃぁ、あいつは倒せないなぁ。」
とヤマトが言っていたのをミレーナは覚えていたのだ。おそらく、ヤマト単体で接触を図っていた場合には間違いなく転生者に戦闘を仕掛けていただろう。
 それを見越してミレーナは、ヤマトとシシカバを上位4位に食い込ませ戦闘適性検査で戦闘、能力の情報を引き出させてやろうと目論んでいたのだ。
  ーさて、この転生者は私に少なからず好意を抱いているのはわかってます。そして変わった自己顕示欲を持っている。彼をヤマトさんと敵対させる為にもう少し嫉妬心でも煽りましょうか。
 ミレーナはシシカバの腕から離れ、ヤマトに思い切り抱きついた。
「お兄ちゃんもがんばって!」
 この上ない満面の笑顔でミレーナはヤマトを激励した。
 ヤマトは演技ではないこの上ないドヤ顔を転生者へ向けた。
 転生者はそれを見せつけられ、この上ない眼光で
「・・・助けるといった件なんだけどさ・・・」
 ミレーナはやり過ぎたか、と肝を冷やした。
 が、事態は思わぬ方向へ進む。
「お前の後ろに、魔族の力を感じているのは気のせいか?」
 転生者はヤマトを指差しそう言った。
ヤマトとミレーナは固まった。
 あまりにも予想外の発言にミレーナはどう対応するか思考を張り巡らせた。
ー魔族?!この世界に魔族は存在しないはず。それどころかモンスターだって存在しない。そんな事言って一体何になるっていうの?
シシカバは周りに聞こえるように、さらに発言を続けた。
「お前を見た時から変だと思っていたんだ。妹を騙してわざと俺に接触したんだろ!」
「あ?何言ってんだお前。」
 ヤマトは反抗してしまった。先程まで相手にされていなかったことが余程気に入らなかったのか、ヤマトの口は閉じることがなかった。
「仮に、俺が魔族だっていうんなら証拠とかあんの?なにバカ言ってんだお前。」
「おれにはわかるんだよ。魔族の力が」
「ふ、二人とも落ち着いて!」
 ミレーナは二人を制止しようと試みたが止まる事はなかった。
それどころか、
「魔族だって?」
「やっぱり、怪しかったもんなあいつ」
「妹を騙すなんて人のやることじゃない」
「あの悪い目つき。魔族に違いない」
「騎士団に報告しなくちゃ」
 と周囲の参加者達がザワつき始めた。ミレーナはみるみる青ざめていったが、状況を整理しようと自身を落ち着かせ周囲を見渡した。
ー転生者が言葉を発した途端、周囲は魔族の存在を認め始めた?普通なら魔族の存在を否定するはずなんですが・・・
 確かに、世界内に存在しえない者のことを肯定すれば否定をされる方のが多い。例えば大和 ヤマトのいた世界ならば、宇宙人や未来人の存在を話したところで、大半が笑うだろう。
ーこれも、神の加護・・・主人公補正ですか。
 そう、転生者の目論みは自分の発言が何故かその通りになるということを把握した上での発言だったのだ。そのおかげで現在、ヤマトは魔族として認識され始めたのだった。
 ミレーナは喧騒の中一度深く息を吸って吐いた。そして
「ヤマトさん!ここは引きましょう!」
 そうミレーナは叫ぶとヤマトの首根っこを掴み転生者から離れた。ヤマトは首根っこを掴まれたのが思いのほか苦しかったのか、ぐえっと間抜けな声を出した。
「待てっ!ミレーナ!君は騙されている!」
 ミレーナとヤマトは転生者の言葉に耳を貸さずにその場から逃走した。
ーまさかあの転生者があんなに 神の加護 が強いとは
 ヤマトとミレーナは転生者の手から逃れるため、王都内のとある廃屋に身を隠していた。
 ヤマトは現在、魔族の疑いで指名手配中であり、また追手の数はどんどん増していくばかりだ。
「ミレーナちゃん、ごめんな。俺があそこで楯突かなければ・・・」
 ヤマトはミレーナに小声で謝罪した。ミレーナは謝罪に対し、とくにヤマトを責める気はなかった。
「ヤマトさんが楯突かなかったとしても、わたし達がどれだけ上手く会話を仕掛けてもいずれこういう結果になります。だから気にしなくて大丈夫ですよ。」
「ミレーナちゃん・・・」
「うわっ情けない顔。そんな顔されたってわたしは慰めませんよ?罵りますよ?むしろ相手にしませんよ?」
 ミレーナはヤマトを元気づけるため、わざとからかった。
 
「それに、まだ作戦が失敗したわけではありません。」
 
「まだプランがあるっていうのかよ。すげーなミレーナちゃんは」
  ヤマトは改めてミレーナを評価した。しかしミレーナは策があると言う割に、あまり乗り気な表情ではなかった。
「・・・わたし達、侵略調査部隊は主に調査が仕事です。侵略実行部隊のようなイかれた戦闘力はありません。もしわたし達が転生者に戦闘を仕掛ければ間違いなく敗北します。それでもターゲットから情報を引き出すにはどうすればいいか、ヤマトさんも少しは考えてみてください。」
 ミレーナはベルゼブブ卿に相談とか言ったらぶっ飛ばす、といつになく真剣な表情だ。
 ヤマトはミレーナの真剣な表情に応えるべく思考を張り巡らせた。だが
ー俺は最初からこのプランしか考えていなかったからなぁ
 ヤマトは答えた。
 「俺が転生者と闘う。そして情報を引き出す。」
 ミレーナは複雑な表情でヤマトの答えを肯定した。そして少しの訂正をした。
「わたしも闘いますよ」
「いや、ミレーナちゃんは固唾を飲んで見守ってくれればいい。」
「はい?ヤマトさん一人とか秒殺されますよ?」
「待て待て。俺にいい考えがあるんだよ。」
 ミレーナは一先ずヤマトの考えを聞くことにした。あまり期待をせずに聞くことにした。
「俺が奴と闘うだろ?そしてミレーナちゃんは奴を観察する。そして能力を引き出して判明次第逃走だ。」
  ミレーナは冷めた視線をヤマトに送った。少し異世界転生者を甘く見過ぎなのではないかと。
「・・・いいですか?ヤマトさん。」
 「いたぞ!!魔族とその妹だ!!」
 二人の侵略者は見つかってしまった。どうやら王都の兵士に囲まれているらしい。ヤマトとミレーナは咄嗟に臨戦体制に入る。
「他に何かいい案がないならさ、俺がやられないよう応援でもしてくれよ。ミレーナちゃん」
 この状況では他の作戦を考える程の時間は無かった。
「・・・わかりました。どうか無理しないで!」
 ヤマトは拳を握りしめて飛び出した。
「さぁやるか!!」
「頑張って下さい!」
また、ミレーナは退路先、そして潜伏し対象を観察する為に動いた。
 
 
 
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