侵略のベルゼブブ

わいゑえす

侵略開始! 接触


 目的地であったアンタレス城に到着したヤマトとミレーナは、城の城門広場に集った徴兵制度の参加人数を見て肩を透かした。侵略せずともこの国はいつか滅びてしまうだろう、愛国主義者は少ないのではないかと心配になるくらい、徴兵参加者が少なかったのである。
 
ミレーナの調べでは、王都アンタレスの総人口は1700万人程らしいのだが、目視観測したかぎり500人を下回る人数しかいなかったのである。それでも参加者達の表情は決して暗い表情ではなく、むしろヤル気に満ち溢れた表情だったので、ある意味心配の種は払拭された。
二人の侵略者は参加者達が全て見渡せるよう、参加者達の群れから離れた隅の方でターゲットである転生者を発見すべく辺りを見渡していた。

 「まだ来てはいないみたいですね。」

ミレーナは参加者達を見渡し終え、ヤマトにそう言った。

「その転生者っていうのはそもそも参加するのか?」

「言ったでしょう?既に接触済みだって。彼はなんの疑いもなく私と接してくれました。正直なところもう少し警戒してほしかったです。」
 
まだ集合時間には余裕がありヤマトとミレーナは周辺を見張りつつ、暇つぶしをかねて会話を続けた。

「一体どんな接触方法を使ったんだ?ミレーナちゃんは」

「簡単ですよ?わざと悪漢のおじさんに私を襲わせて私は誰かに助けを求めるフリをしながら街中をあてもなく走りまわっただけです。そうするとどうでしょう?異世界転生者がのこのこ助けに来てくれるんですよ。いやはや、人様の善意は捨てたものではないですよね。」

「あの蝿が書いた 異世界調査-唾液録- の3ページ目に書いてあったやつの応用か。たしか、神に圧倒的強さを与えられた転生者や召喚者は 正義という悪に堕ちる 的な文章だったはず。」

「それですね。下手にチート能力を持ってしまったからか、自分の強さを試してみたくなるんですかねー。転生者は颯爽と現れてなにやらカッコいい台詞を言って、悪漢のおじさんは相応の台詞を言いながら両腕で転生者に掴みかかった訳ですよ。」

「それで?」

「悪漢のおじさんは両腕をへし折られ、腹部に強い掌底を浴びせられて盛大に唾液を撒き散らしながら膝をついて咽び泣いてしまったんです。」

「まじかよ。悪漢のおじさんが可哀想すぎるじゃないか。」

 ヤマトの返答を聞いたミレーナの瞳が徐々に光っていく。

「ヤマトさんとは気が合いそうですね。私も流石にそこまでする必要性は無いと思いましたよ。悪漢のおじさん、ンゴォ!って悲痛な叫び方するものだから、いくら私でも目を覆いたくなりました。」

 まだまだ集合時間には余裕があるのでヤマトとミレーナは、何故か悪漢のおじさんを弁護しつつ、会話を掘り下げた。


「もしやと思いましたけど、ヤマトさんは異世界転生者や召喚者が嫌いなのでは?」

「嫌いだね。心底嫌いだ。中でもなんの努力もしてないのに異世界を渡った途端、その異世界の中で最強とかいうぶっ飛んだ奴が一番嫌いだ。」

「あー、同感ですねー。私もそういう奴とは何度か接触しましたけど、ろくでもない奴の方が圧倒的に多かったです。」

 ヤマトとミレーナは意気投合して会話を弾ませた。自分たちが気にいらない転生者や召喚者の特徴を言っては同感の嵐だった。

集合時間はまもなくだ。

「いやー、ヤマトさんとはいいパートナーになれそうですね。」

「そうだな。まさか同じ考えを持ったヤツに出会えるとは思わなかったぜ」

「しかしヤマトさんはどうして転生者や召喚者を知っているんです?」

「それはだなぁ、俺の元いた世界の書籍に沢山書かれていてだな。」

「なるほど。文献に沢山載る程ヤマトさんの世界は被害にあっていたんですね。」

「お?おう。そうなんだよ。迷惑な話だよまったく。」

 ヤマトはミレーナが言った 被害 について疑問を残したが、会話の盛り上がりを切りたくない為、疑問を横に流した。
するとミレーナは突然ヤマトを真剣な眼差しで見つめ口を開く。

「・・私は異世界転生者に世界を滅ぼされました。」

「・・・えっ?」

 ヤマトはミレーナの突然の告白に動揺を隠せなかった。ヤマトの知るところ、異世界転生者や召喚者がその異世界を滅ぼした話を聞いたことがなかったからだ。
ヤマトの知る異世界転生者や召喚者は架空の存在であったため、ミレーナの告白に妙なリアルさを感じて思考が停止してしまったのだ。

 「滅ぼされたってどういう・・・」

ヤマトが言いかけたその時、カーンカーンと集合時間の鐘が鳴った。
 二人はハッと我に帰り、周囲を見渡した。端から端までターゲットを見落とさぬ様、念入りに見渡した。

「転生者・・・来てる?」

さすがにミレーナは焦り始め

「・・・あれ?こんなはずでは無いのですが・・・」





 「今日!諸君らが集まってくれた事で我が国は一層・・・!」

 王城を背後になにやら偉そうな騎士が演説をしている。その騎士の隣では、王アンタレス11世が髭をさすりながら今回集まった参加者達を怪訝そうな態度で見ていた。
 やはり、参加者が少ないことに納得がいかないのだろう。また、アンタレス11世の周りには数人の大臣、胡散臭い格好をした魔法使い、幾千もの戦場を駆けたであろう騎士達が、やはり納得がいかない面持ちで整列していた。


参加者その他に溶け込んだヤマトとミレーナは、そんな下らない演説を耳にも入れず、辺りをキョロキョロしては、焦燥の最中に立っていた。
というか、ヤマトはターゲットの顔すら知らなかった。

 「ミレーナちゃん、今まで侵略調査してきてこんなケースはあったんだろ?そう言ってお願いだから!」
ヤマトはテンパっていた。

「わ・・・私はこ・・こう見えて侵略調査の成績はいい方だったんですよ?優秀ですよ?ミスなんかしたことなんてないですよ?」

ミレーナは冷静になろうと努力の最中だった。そして思い付くがごとく

「まさか・・さっきの私たちの異世界転生者うざいって話を聞かれた・・・とか?」

二人は目を見開き顔を合わせた。

 「ち・・ちなみになんだがミレーナちゃん。作戦が失敗した時ってどうなるんだ?」

ミレーナの顔がみるみる青ざめていき、小さく震えだし始めた。

「・・・・あの潜宙艦の中に一部屋だけ入ってはいけない部屋があるんです。」

「な・・なにそれ?」

ミレーナは今にも泣きそうな表情で話した。

「ヤマトさんも研修中に聞いたとは思うんですが・・  キサラギ  エンジュ   って知ってますか?」

「あ、あぁ。確かアルフレッドさんよりやばい侵略実行部隊の1人だよな。キサラギ エンジュって。」

「なにがやばいか、知ってますか?」

ヤマトは唾を呑みこんだ。

「・・・それは彼女の  呪い   にあります。」

  ミレーナは語った。キサラギ  エンジュ  について語った。演説をそっちのけて、ターゲットを捜査しないで、語った。

「最も神に嫌われた巫女、キサラギ  エンジュ  は知能を持った生物からは到底考えられない様な、残酷な死を遂げ果てた 怨霊   です。その怨みは世界内に存在するだけで 呪い を伝播させ、死に至らしめます。」

 「ど、どんな風に呪うんだ?」

「・・わかりません。ですが私の師匠である侵略実行部隊の一人、ドライツェン  からはこう言われてます。」

エンジュの存在を認めてはいけない。

エンジュの声を聞いてはいけない。

エンジュの姿を見てはいけない。

エンジュの眼を見てはいけない。

エンジュの眼を開かせてはいけない。

エンジュに愛されてはいけない。

  
  ヤマトは冷や汗が垂れた。若干足が嗤っている。
 ミレーナもまた、自分で喋ったはずなのに表情は恐怖で満ちていた。

「し・・失敗すると、そのキサラギ  エンジュが居るであろう部屋に閉じ込められます。」

「生きて帰ったヤツは・・?」

「私が知るところ・・誰一人帰って来た試しがありません。」


 ヤマトはいよいよテンパっている状態から見事昇格し、パニクってしまった。

 「だぁぁぁっ!探すっきゃねぇ!この世の全てを掘り返して?!」

「ヤマトさん、もしダメだった時の為に、先に謝っておきます。ダメな先輩ですみません。」

 ミレーナは半ば、諦めムードを漂わせている。

 「バレなきゃいいんだろバレなきゃ?!」

「は、はは。ベルゼブブ卿ってああ見えて慈悲深さは結構深いですからね。情状酌量ありで エンジュの部屋 に1時間位続けるくらいで済むかもしれません。まぁ1時間も持った人、いないらしいですけど」

 ヤマトは固まってしまった。そして見透しているであろう、蝿の神へむかって叫んだ。

「あぁ!あのでかい瞳に 酢  を浴びるようにぶっかけてやりたいっ!!!」












「あのー、徴兵制度が実施される場所ってここっすか?」

 突如聞こえた、聞き覚えのある声をミレーナは聞き逃さなかった。

「なんだ貴様!集合時刻はとうに過ぎているぞ!」

 演説をしていたなにやら偉そうな騎士がその 遅刻してきた男 に対し怒号を浴びせた。アンタレス11世をはじめ、その場にいる全員が 遅刻してきた男 に注目した。

 「ヤ、やま、お兄ちゃんお兄ちゃん!あの人だよ!」

 ミレーナはヤマトお兄ちゃんを引っ張った。

「うぇっ?う・・え?・・・・・・っ!
あいつか。悪漢のおじさんから妹を救ってくれたヤツは。」

「わたし、あのお兄ちゃんに お礼 が言いたい!」

「了解、妹よ。ちょっと 挨拶 して来よう。」

 先程まで精神の浮き沈みを繰り返していたヤマトとミレーナは 遅刻してきた男 に駆け寄った。

 が何故か 遅刻して来た男 はアンタレス11世の元へと歩いていった。

 





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