侵略のベルゼブブ

わいゑえす

侵略準備


「ミレーナ、只今戻りました。」

 ブリッジルームの出入り口の扉が開くとともに、現異世界を調査している ミレーナ と呼ばれる少女が部屋へ歩を進めた。前髪がやや長い為か、少し暗い表情に見えてしまうのは気のせいだろう。12才くらいだろうか、小柄な体格でまだ大人の女性としての成長は始まってはいないようだ。

「ミレーナよ、早速調査結果を聞こうではないか」

 ベルゼブブ卿は結果を求めた。すでに周りの隊員はミレーナを注目している。場の空気が張り詰めているのが伝わる。

「・・・報告の前に一つだけ質問をさせて下さい。」

「許そう。なんでも聞きたまえ。」

「彼はもしかして新人・・・ですか?」

 ミレーナは大和 ヤマトを見つめベルゼブブ卿に質問を投げた。ヤマトは間抜けな表情で自分を指差した。

「あぁ、この少年は異世界転生者や異世界召喚者の故郷である世界から拉致してきた学生だ。」

「ミレーナが調査に出てすぐに僕たちはヤマト君の世界に赴いてね。適当な若者を調達してきたんだよ。」

 アルフレッドは優しくミレーナに答えた。ミレーナは訝しげな表情でさらに質問を続けた。

「はぁ、あの世界ですか。ではあの世界の出身ということはあまり戦闘力はなさそうですね。侵略研修はかなり易しめな研修だったのですか?」

「ミレーナよ、私は神だ。神が生物に不平等を与えると思うか?」


「うっ!失言でしたベルゼブブ卿。しかし私には彼が、あの世界出身の彼がとても侵略研修を耐えきれるとは思えなくて。」

「それを可能とする男がそこに立っているではないか。」

 少女は理解したと同時にアルフレッドへと視線を送り、頭を下げた。アルフレッドならどんな脆弱な生物でも侵略者ベルゼブブ卿の眼鏡に合う調査隊員を育てることが出来る。神すら超える 異能力 を持っていることを察する事が出来なかった自分を恥じた。

 侵略実行部隊の一人 アルフレッドの 異能力 

   無限の憶測 は

あらゆる選択を脳内で実行し、その中で最善の選択をするというものだ。一種の未来予測とでも言うのだろう。恐らく大和 ヤマトの侵略研修では、その異能力が多く発動していたであろう。

「重ねての失言、大変申し訳ありませんでした。」

「かまわん。君はまだまだ成長途中だ。アルフレッドもミレーナを許してくれるな?」

アルフレッドは笑みを浮かべながら

「もちろんだよ。だけどそうだね。ミレーナに僕から頼みごとがあるんだけど、聞いてくれるかい?」

 ミレーナは小首を傾げながらアルフレッドの頼みごとを聞くことにした。

「あぁ。報告の時におっしゃっていた伝えたいことですか?」

 アルフレッドは一度ベルゼブブ卿へ目をやり、また、ベルゼブブ卿は彼が何を頼むのか察した。

「次の調査からは大和 ヤマトがミレーナのパートナーになる。異論はないね?」

「・・・なんとなく予想してましたよ。」

 ミレーナは薄々勘付いていたからか、頼みごとはすんなりと受け入れられた。また、大和 ヤマトも会話の流れからある程度推測した為か、おとなしくミレーナのパートナーになることを承諾したのであった。

「なるほどな。アルフレッドはここまでを想定していたのだな。ミレーナに日本から来た少年か。なかなかの組み合わせじゃないか。・・・さて、話がだいぶ逸れてしまったがそろそろ話を最初に戻そうではないか。」

ベルゼブブ卿が椅子から身を乗り出しミレーナへ調査報告を催促した。

「はっ!それでは報告します。」

 ミレーナは現異世界での文化、歴史、住まう生物、魔法の有無、侵略における脅威の存在についてを淡々と報告した。

報告はこうだ。

建造物は主に石材、木材を使用。電気は無し。
科学的要素は皆無。

昔から剣や魔法を主軸とした戦いをする。

生物は人類に一般的な動物、例えば犬や猫のような。

また王国の存在は多数あるが現在は一つの国が世界を牛耳っている。

そして侵略における脅威は特になし



大和 ヤマトを除く他メンバーはそれを慣れた表情で黙って耳を傾けていた。かくいうヤマトは話半分しか理解が出来ていなかった。

 そしてミレーナの報告が終わりを迎え、ベルゼブブ卿が何かを納得すると椅子に深くもたれかかり、ミレーナに問いかける。

「報告はわかった。私の出る幕でもなさそうだ。ところで、ミレーナよ。転生者、召喚者の存在は確認出来ているのであろうな?」

 ミレーナは即答で

「既に接触済みですよ。今回は転生者ですね。」

「ほほう、ふむ。よくやった!」


 ベルゼブブ卿が少女へ賞賛を送ると、少女は少し照れていた。アルフレッドもまた、少女に小さく親指を立てた。

「では今回の作戦を説明する。各員、我に耳を傾けよ!」


 アルフレッド、ミレーナ、ヤマト、オペレーターの四人はその場で背筋を整えベルゼブブ卿の命令を待った。

「ミレーナ、ヤマト両二名は現異世界に到着とともに、異世界転生者へ速やかに接触し対象の背後に存在するであろう 異世界神
を調査、そして 異世界神 の真名をこのベルゼブブに報告せよ!アルフレッド、君は私の指示があるまで待機だ!いいな?」

「了解です!」

「了解!」

「了解だ。」

「今回は少年にとってはデビュー戦でもある!さぁ、異世界を侵略せよ!!」
ベルゼブブ卿の威厳ある言葉とは裏腹に唾がよく飛ぶ。

そして更にベルゼブブ卿は口を開いた。

「では私はトイレへ出向いて手を洗ってくる」

 ベルゼブブ卿はそそくさと席を立ち、トイレへと向かった。残ったメンバーは沈黙を貫くしかできなかった。










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