私は聖女になります性女(娼婦)にはなりません

ブラックベリィ

076★どうしたって、甘い雰囲気になってしまうんです


 「姫君、アルファード様
  ちょっとよろしいですか?」

 そう改まった口調で言うので、エリカとアルファードは何だろうと、疑問符付きの表情でオスカーへと顔を向ける。

 「なんだ?」

 「…?…?」

 自分に意識が向いたのを確認し、オスカーは確認するように、まず、エリカへと言う。

 「姫君、姫君は、昨日は馬で速駆けしても
  疲れていませんでしたよね?」

 そう言われて、エリカはコクンと頷いて言う。

 「そう言えば、全然疲れていなかったわ」

 オスカーにそう答えてから、エリカはちょっと自嘲する。

 〔そうよねぇ…昨日大丈夫だったから……
  油断していたわ………

  きっと、翌日にクル疲労だったのね……
  乗馬って、意外と疲れるモノだって知ったわ

  まぁ…単なる乗馬じゃなくて、甲冑着てだから
  余計に疲れたのかな?〕

 微妙な表情のエリカに、オスカーは確認するように言う。

 「昨日は、ご自分で、身体強化魔法を
  掛けていましたよね」

 オスカーの確認に、エリカは考えることなく頷く。

 「うん、自分とシルファードにかけたよ
  前が見えないと走るのに困るから………
  先頭走るなら必要だと思って………」

 そのセリフで、アルファードはオスカーが何を言いたいかを理解して、あっちゃーという表情で言う。

 「ああ…理解わかった

  今日は、俺が身体強化魔法を掛けたから……
  《魔力》が足りなかったんだな

  それで、エリカが疲労したってコトだな」

 自己完結で納得したアルファードに、エリカは小首を傾げて聞く。

 「えっ…どうして?」

 〔うっ…そんな仕草も可愛いぞ…エリカ…
  誰にも見せたくないくらい…愛らしい人だ

  あのおぞましい女どもと同じ生き物には
  到底、見えないくらい可憐だ

  じゃない、今回の疲労は全に俺の落ち度だ
  素直にエリカに謝ろう

  あうぅ~…体力が俺達より遥かに低い
  エリカに可哀想なことをしてしまった〕

 少しだるそうにしつつも、アルファードの謝罪の意味が理解できなかったエリカは、頭をウニウニとさせる。
 そんな無自覚の愛らしい仕草に、くらくらしながらも、アルファード自分の落ち度を素直に告白する。

 「エリカ、俺の身体強化魔法の基準は
  騎士達なんだ

  百歩譲っても下働きの男達なんだ
  そのことを、すっかり失念していた

  だから、エリカみたいなか弱い女性に
  どの程度の魔法をかければイイか
  判らなかったんだ

  すまないエリカ…こんなに疲労させて……」

 〔うわぁ~…アルの姿にクラクラするわぁ~
  うつむいてしょんぼり姿で謝る美少年なんて
  眼福だわぁ~…いや、本当に眼福

  エリカの疲労なんて、些細なことなのに
  優しくて素直で、美少年で、とても強い
  そんなアルにくらくらしちゃうわぁ~…

  ……じゃなくて、平気って言ってあげないと
  絶対に、アルは優しいから気にする

  ぽっちゃりのエリカでも、お兄ちゃんや
  パパみたいに、真っ直ぐに見てくれる
  思いやりのある優しい人だもの〕

 「ううん、アルは悪くないよ
  私の勘違いもあるもの………

  アルが、美少年で騎士様達より細身だから
  私とそこまで体力の差があるとは
  思わなかったコトが悪かったんだと思うの…

  バカだよね…アルは、魔法騎士団の団長で
  何度も魔物討伐に出ている騎士なのに………

  これは…私のミスです

  今度からは…自分で身体強化の魔法を
  掛けるようにしますから……

  オスカーさんも、アルを怒らないでね
  気付かなかったエリカが悪いんだから……」

 そう謙虚に言って、自分を庇ってくれるエリカに、アルファードは心の奥底からじんわりとした暖かさを伴なった愛しさを感じる。

 「すまない、俺が魔法を掛け損ねたから……」

 なおも重ねて謝るアルファードに、エリカはにっこりと笑って言う。

 「そんなに気にしないで、アル
  誰にでも、失敗なんてモノはあるんだから
  それに、次に失敗しなきゃイイんだから…ね」

 エリカの笑顔に見とれたアルファードは、少し頬を染めながら頷く。

 「あっああそうだな」

 甘ぁ~い雰囲気を醸し出したそこに、冷水をぶっ掛けるように、オスカーが溜め息混じりに来訪者の存在を告げるのだった。




「私は聖女になります性女(娼婦)にはなりません」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く