私は聖女になります性女(娼婦)にはなりません
059★朝から、砂糖に蜂蜜をかけたような新婚さん……には、なれませんでした
元の世界に居た頃と違って、車や電車の音、家庭から溢れる音が無い静かな朝に、騎士達の鍛錬の音が響く。
〔……ぅん? あっ…っと…なんの音?〕
それは、清々しい目覚めを誘うというよりは、何の音がしているのかわからなくて、エリカは混乱したまま目が覚める。
まだ、意識が少しぼーっとしているエリカは、自分の状況に小首を無意識にこてんと傾げて、なんとはなしに天井?を見る。
〔えぇ~とぉ……見たコト無い天井?
って、ここはどこ? …はっ…じゃなかった
そうだ、エリカってば《召喚》されたんだっけ
なんか半日の間に、色々とありすぎて………
認識力が、絶賛低下中ね
……なんて、ふざけている場合じゃないわね
はぁ~…全部、夢じゃなかったんだぁ~……
まるで、出来の悪いラノベのような
ご都合主義の展開だったから…………
簡単に魔法も使えたし……じゃないって
ダメだ、意識が逃げちゃうわ〕
そう思って、エリカは現実逃避しかかる意識に、現状を認識させようと、見慣れない天幕の天井?を無意識見詰める。
が、まだ、意識はハッキリしていないので、ぼぇ~としていた。
〔はぁ~…やっぱり、これって天幕よね
聖女候補として《召喚》されて………
《魔力》枯渇や衰弱した人を助けて……
魔法騎士団が、まだ戦闘………〕
そう今までのことを追想しているところに、サーチをかけていたアルファードが天幕の中へと慌てて入って来る。
〔ふわぁ~…何度見ても、アルってば…
美少年よねぇ~……キラキラ度が凄い〕
「おはよう、エリカ…今日も良い天気だよ」
目が覚めたエリカに、声をかけたのは、やっぱりアルファードだった。
〔…っ…じゃなくて…近いっ…近いっ…
上からそんな風に覗き込まないでぇぇ~……
アルゥゥ~……無邪気な表情で……ぁう~…
キラキラで目眩しそう……じゃないわ〕
銀髪に紫紺の瞳の美少年が、自分を覗き込んでいる図は、エリカに多大な精神的負荷を与える。
そんなエリカの精神状態を知らないアルファードは、全開の笑顔で話しかけてくる。
「クスクス…おはよう、エリカ
お風呂の用意は出来ているよ
まだ、ちょっとぼぉ~っとしているようだね
すっきりと目覚める為に…………
朝から、お風呂にはいるんだろう?」
それが当然のように言うアルファードに、エリカはコクッと頷く。
「あっうん…入りたい…じゃなくて
おはよう…アル……」
ちょっと恥ずかしそうに挨拶したエリカに、アルファードは無意識に蕩けるような微笑みを浮かべていた。
〔だぁぁぁ~……美少年の微笑みぃ~……
眼福だけど…威力……あるわぁ~……
あぁ~アルの笑顔ってクラクラする〕
エリカの意識がぱっちりと目覚めたと判断したアルファードは、少しエリカから離れる。
やっと、上半身を起こせるスペースを得たエリカは、いそいそと起き上がる。
そんなエリカに、アルファードは当然のように着替えを差し出す。
「俺の騎士服とエリカ用の新しい下着と
あとは、バスタオルな」
ソレを、疑問も無く何の気なく受け取り、エリカは小首を無意識に傾げる。
「ありがとう、アル
もしかして、騎士様達と鍛錬したいたの?」
〔うっ…だぁぁ~…エリカ…可愛すぎだ……
何の含みも無い瞳がたまらない……じゃない
しっかりしろ、アルファード…何時も通りだ
落ち着け俺、不審な行動はエリカに疑われる
無邪気な、エリカでいて欲しいんだから
警戒心を持つような行動は控えるんだ〕
アルファードは、エリカの愛らしい仕草に、内心クラクラしながらも、外見上は平素と同じように取り繕って言う。
「ああ…ある程度鍛錬に付き合ったから…
俺は上がりにしたんだ
それで、先に風呂に入ったんだ
勿論、ギデオンとレギオン達も入ったから
次は、エリカの番だよ」
さらりと言うアルファードに、エリカは他の人は?と聞く。
「オスカーさんやマクルーファさん達は?」
その問いに、アルファードはエリカの眠る天幕に入る前のことを、ちょっと思い出しながら言う。
「んぅ~と……マクルーファは……
まだ、鍛錬に付き合っているけど
オスカーは、鍛錬を終えて
風呂に入った頃だな」
アルファードの言葉に、エリカは頷いて言う。
「そうなの…じゃ…お風呂に入ります」
朝からお風呂に、嬉しそうにそう言うエリカに、アルファードが優しい口調で言う。
「風呂から上がったら、お茶にしよう
水分補給は大切だから」
「うん」
お兄ちゃんなアルに着替え一式を渡されたエリカは、入浴の為に別の天幕にトテトテと向かった。
その後を、ゆったりと付いて行くアルファードだった。
アルファードにとってエリカは、大切な愛しい姫だったから…………。
完全に一目惚れだったのだ。
自分より小さくて、それでいて大人な部分と頼りない少女の部分を持つエリカは、まさに好みの女性だったから…………。
《魔力》でも釣り合いが取れる、聖女のエリカは理想の結婚相手だったのだ。
いずれ、どう足掻いても、皇帝に成るとわかっているアルファードは、自分の隣りに立てる、本当の意味で愛せる皇妃を求めていた。
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