私は聖女になります性女(娼婦)にはなりません

ブラックベリィ

053★ホットケーキはまだですよ


 エリカとアルファード達が、バカップルもどきの食事をしていると、肉を焼く匂いに、何故か甘ったるい匂いがまとわりつく。
 その匂いに首を傾げたエリカは、周りを見回した。

 そして、お好み焼きも焼肉も焼かないで、せっせとホットケーキを焼いている神官達と魔法使い達の姿に…………。
 何故、主食を食べずにデザートを食べているんだ?とエリカとアルファード達は顔を見合わせる。
 そんな神官や魔法使い達を見たエリカは、ついアルファードに聞いてしまう。

 「ねぇ…アル……こっちって
  ご飯の後に、デザートじゃないの?」

 素朴な質問という感じで聞くエリカに、アルファードも不可解そうな表情で答える。

 「ご飯の後にデザートって
  寵愛の聖女様の頃から
  食事のマナーとして確立しているぞ」

 アルファードの答えを聞きながらも、エリカはせっせと手を動かし、お好み焼きを焼きながら、肉も器用に焼いて行く。
 それを食べ易いように切って、ハシでひょいっとアルファードの口に運びつつ、エリカはチラリと神官や魔法使い達の様子を見ながら言う。
 勿論、エリカが差し出したお好み焼きと肉は、その間もアルファードの口の中に次々と消えていく。

 「でも、騎士様達が、せっせと
  焼肉とお好み焼きを焼いて食べている側で

  神官様達や魔法使い様達が
  バクバクと恐ろしい勢いで

  チョコレート入りのホットケーキを
  食べているけど………」

 エリカの差し出したお好み焼きや焼いた肉をきちんと咀嚼し、味わったのち飲み込んだアルファードは、確かにという表情で頷いて言う。
 その間のエリカとアルファードの極自然な行動(給餌?)は、まるで相思相愛の熟年夫婦のようだった。
 が、本人達はいたって無自覚である。

 「ああ…なんで…チョコレート入りの
  ホットケーキだけを食べているんだ?

  他にも…魔果入りや、何も入っていない
  そのままのもあるのに?」

 論点がズレているアルファードの言葉に、エリカも不思議そうな表情で相槌をう打つ。

 「うん、変だね」

 そう言いながら、エリカは次のお好み焼きと肉をセッセと焼いている。
 天幕の中でのやり取りで、アルファードが食べることに疲れているらしいことを無自覚に口にしていたので、たっぷりと食べてもらおうと思ってのことだった。
 そんな中、アルファードも流石に気付く。 

 「ぅん? んん?」

 「アル…どうかしたの?」

 エリカの言葉に、身を乗り出すようにして、マジマジと見ていたアルファードは、首を振りながら言う。

 「神官達も魔法使い達も
  近くのテーブルにある

  まだ、手を付けていない
  ホットケーキのネタを、こそこそと盗んで
  【魔倉庫】に入れている」

 アルファードの言葉に、エリカは驚いて呟く。

 「えっ…まさか」

 そう言うエリカをよそに、アルファードは側で静かに、だが、しっかりと自分の分を食べているオスカーに向かって言う。

 「オスカー見ていたな」

 アルファードの確認に、オスカーも先刻から気になっていたので素直に頷く。

 「はい、いったい何を考えて
  あのようなことをやっているんだか」

 そのオスカーと言葉に、やはり側で自分の分を焼いて食べていたギデオンが言う。

 「兄上、デザート用には、チョコレートが
  入っているからではないですか?」

 ギデオンの言葉に、現在、砂糖が思うように入手できないので、それもあるかと思いつつ、アルファードはその行為(ちゃっかり盗む)を非難する。
 統括するものとして、士気が下がる行為は看過できないのだ。

 「確かに、チョコレートが入っているが…
  それを騎士達の分を盗むのは………」

 憤りが混じるアルファードの言葉に、やはり側で食べていたマクルーファがボソボソと言う。

 「たぶん、魔法師団本部や
  神聖魔法師団本部に残って居る者達に

  お土産にしたいというところでしょう
  なまじ…【魔倉庫】に余裕があるから……

  『お前達だけで食べたズルイ』

  と、言われたく無いというところだろう」

 マクルーファの見解も、それらしく聞こえるのだが、それで背負うリスクを考えると、アルファードには不可解に感じられた。

 「いや、そんなコトで
  食い物の恨みをガッツリと根に持つ
  騎士達のホットケーキを盗むのは…

  それこそ、かなり無謀だと思うが…
  ギデオン…レギオン…盗られたら

  後で色々と嫌がらせしたり…
  取立てたりするよな?」

 アルファードの言葉に、2人は声をハモらせて答える。

 「「勿論です…許しませんよ
  貴重なチョコレート入りの
  甘いホットケーキなんですから」」

 断固とした意思が込められた答えに、アルファードはひとつ大きく溜め息を吐いて、オスカーへと話しを振る。

 「オスカー…ヤツラの処理はどうする?」

 問われたオスカーは、淡々とホットケーキのネタへと移り、いそいそと焼き焼きしながら答える。
 誰だって、デザートは好きなのだ。
 ソレに甘いチョコレートが入っているならなおさら……。

 「盗まれている者達が、相手をどうするか
  決める権利があると思います」

 そう、淡々と言い放ったオスカーは、ふっくらほこほこに焼きあがったホットケーキをサクサクっと切って、ひょいと口に入れ、その味を堪能する。
 それはそれは、幸せそうに…………。





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